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聖獣達の鎮魂歌~Requiem~  作者: 悠介
肆章 紛争に巻き込まれて

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11話 復讐を終えて

 夜が明け朝が来た、一行はレジスタンスのすぐ近くまで接近しており、後はリリエルが単独行動をする事になった。

 ディン達は近くで待機し、リリエルがレジスタンスのリーダーを始末したら、動く手筈だ。

「じゃリリエルさん、気を付けて。」

「えぇ、わかったわ。」

 街の建物の影に消えたリリエル、もうその気配は誰も感じ取れない、ディンの探知魔法にも引っかからない、それがリリエルの気配を消す錬度と能力だ、暗殺にはぴったりな、お誂え向きな能力と言えるだろう。

「行っちまったな、ダイジョブなのか?」

「リリエルさんは強いからな、大丈夫だろ。」

 消えてしまったリリエルを、見えなくなったリリエルを眼で追いかけていたセレンが、不安げな声を上げる。

 リリエルとあまり親しかった記憶はないが、仲間である事に変わりはない、だから心配なのだろう。

「リリエルちゃんは強い、セレンが心配する様な事にはならんさ。」

「そりゃあいつはつえぇけど……。でも、一人にさせて良かったのか?」

「リリエルちゃんは元々一人で戦ってきた、だから俺達が行っても邪魔なだけさ。」

「そう、なんかなぁ……。」

 セレンがこんな風な口調になるのは珍しいな、とウォルフは思うが、そういえばディンが何か言っていた様な気がすると思い出す。

 ……ルベは意外と内向的なんだよ、だからあんまりいじめないでくれよ?……

 それは、心細さではないのだろう、ただ単純に、リリエルを心配して内向きな面を見せているのだろう、と考えられる。

「信じてやれ、俺達に出来るのはそれだけだぞ。」

「そっか……。」

 ここで心配するという事は、ある意味リリエルの能力を侮っている事にもなる。

 だからではないが、ウォルフやディンはさして心配をしていないし、外園は少し心配という気持ちを秘めている程度だ。

 この中では最年少になるセレンが不安がるのは、ある意味当たり前とも言えるかもしれないが、それは、セレンの戦闘能力のなさに起因する、杞憂だとウォルフは考えていた。

「それよかセレン、お前さんの体はどうなってるんだ?普通の人間と違う様な、そんな風に見えるが?」

「俺の体?ウォルフ、よくわかったな……。俺、鉱石で体が出来てるんだよ。」

「Way?鉱石?って事は何か?お前さんの体は石で出来てるってのか?」

「俺、テトラマ体で生まれてきたらしいんだよ。それで親父が、鉱石で体作ったって昔聞いた。」

 ウォルフが、気分転換にと話題を振る、セレンはそういえば言っていなかったか、という顔をしながら左腕のツナギを捲り上げ、右手で左腕を掴む、そして力を加えると、ポロっと左腕が取れた。

「oh……、こいつはクールだな。」

「断面、赤い鉱石だろ?親父が言ってたのは、特殊な鉱石を使ってるって事くらいだけど、まあつまり俺は人間の内臓と石の体で出来てんだよ。」

「鉱石の体……、魔力で動いているのでしょうか?」

 ウォルフとセレンが話している所に、外園がやってきて興味深げにセレンの腕の断面を見る、セレンはあまりじろじろ見られるのは恥ずかしいらしく、腕をくっつけると捲り上げた袖を戻す、外園は今まで例のないセレンの体に、興味がわいた様子だ。

「魔力なんかな……、俺もよくわかってねぇんだ。」

「ディンさんは何かご存じなのでは無いですか?セレンさんを旅に加えようと仰ったのはディンさんですが。」

「うん、俺?セレンの体の事か。推測だけど、鉱石自体の魔力にセレンの持ってる魔力が呼応、それで動いてるんじゃないか?」

 ディンは知っている様な、知らない様な、そんな曖昧な答えを出す。

 セレン本人も仕組みはよく理解していない様で、そうなると答えはこの場の誰にもわからない。

 セレンの父親なら何か知っているだろうが、生憎とセレンの家族は行方不明だ、明確な答えを持つ者は、この場にはいない。

「俺の事はどうでもいいからよ、リリエルがダイジョブか心配しろよな……。」

「さっきも言ったろう?リリエルちゃんなら心配無いさ。」

「……。」

 ウォルフはそう言うが、セレンは心配な様子だ。

 リリエルは強い、それはわかっているが、セレンにとっても初めて出来た仲間だ、心配しないでいろという方が難しいのだろう。


「近い……。」

 単独行動をしていたリリエルは、レジスタンスと革命軍が衝突したのを、空気で感じていた。

 街の影に溶け込み、気配を消しながら、衝突している空気の方向へと足音を立てずに走る。

「エド……。」

 復讐、それをエドモンドは望まないだろう、しかし、リリエルという人間は復讐者、クロノスという存在に復讐する為に生き、この世界にやってきた、それがレジスタンスのリーダーという存在に、少し置き換わっただけの事だ。

「……。」

 戦いはすぐ近くで起きている、戦闘音が爆発や銃声でわかる、早くしなければ、レジスタンスのリーダーが殺されてしまうかもしれない。

 自分自身で復讐を果たす、それだけは譲れないリリエルは、急いで爆発音の方へと走った。


「行けー!臆せず戦えー!」

「レジスタンスを殲滅しろ!」

 レジスタンス十五人と、革命軍五十人との戦いの火ぶたが、切って落とされていた、レジスタンスはマスケット銃と魔法、革命軍はブロードソードと魔法を使い、戦いに挑む。

 魔法が飛び交う中、革命軍は数の有利を武器にレジスタンスへと進んでいく。

「うわぁ!」

「ぐは!」

 途中、マスケット銃に撃たれ離脱する隊員もいるが、そもそもマスケット銃は単発式の銃だ、数人がやられても、それを壁にして次弾装填の隙に接近出来てしまう。

「リーダー!数が多すぎます!」

「何とかしろ!ここでやられてしまったらお終いだぞ!」

「撤退を!」

「容認出来ぬ!」

 革命軍の魔法に当たり、レジスタンスのメンバーが少しずつ倒れていく、メンバーの一人が撤退をと叫ぶが、リーダーはそれを是としない。

 マスケット銃に次弾を装填し、革命軍の隊員へと放った。

「貴方、やっぱり馬鹿なのね。」

「誰だ!?」

「昨日見た顔すら忘れたのかしら?それとも覚えるつもりがなかったとか?まあいいわ、何にしろ間に合ったもの。」

 革命軍が迫る中、街の影からひらりと現れた一つの影、それはレジスタンスのリーダーに語り掛け、そして振り向くと消えている。

「まさか、また我々に手を貸そうと!?」

「違うわ、貴方を殺しに来たのよ。」

「な、なんだと……!?」

 リーダーの後方から声が聞こえ、殺すという言葉にリーダーが振り向く、しかし、そこには誰もいない。

「エドを殺したのは貴方だもの、殺されても仕方がないわよね?」

「なんだ……、がっ……!」

 また後方から声がしたと思ったら、下腹部に強烈な痛みが走る、リーダーが痛みの走った所を見ると、青紫色の刃が体を貫いていた。

「貴方にはとっておきの毒を用意しておいたわ、じっくり味わうのね。」

「が……、は……!」

 妖刀アコニート、それはトリカブトの様な毒を持つが、その毒はリリエルの意思によって、ある程度作用や成分を変える事が出来る。

「ぐあぁぁあ!?」

 リーダーの体に激痛が走る、地面に倒れ、体中を走るその激痛に、ここが戦場である事を忘れたかのようにのたうち回り、叫ぶ。

「他の人達は、そうね。エドも助けたがっていたし、その意思を尊重しようかしら。」

 リリエルはリーダーの方を向いて、毒が正常に浸透している事を確認する、そして、今度は革命軍の方に向き直り、毒の配合を変えて突撃した。

「私…が……!こんな、ところ……、で……!」

 残されたリーダーは、薄れゆく意識の中、激痛に飲み込まれる様に体を震わせ、そして死んだ。


「貴方達、私の気が変わらない内に他の仲間の元に行くのね。」

「ば、化け物……!」

 数分のうちに、革命軍五十人を殲滅したリリエル、残されたレジスタンスのメンバーは十人程で、リリエルを恐れ怯えた眼をしながら、逃げる様に去って行った。

「……。」

 復讐を遂げた、目の前で死んでいる男を見て、それを実感するリリエル。

「……。」

 リリエルは、復讐を果たせば解放されると思っていた、まだクロノスを打倒はしていないが、エドモンド達に対し感じていた悲しみは、この男を殺す事で少しでも晴れると思っていた。

 しかし、どうした事だろうか。

「私は……。」

 苦しい

 埋まらない喪失感、何処からか現れる虚無感、満たされるはずだったのに、満たされない。

「どうして……。」

 エドモンドは、父であるリーダーを守りたいと願っていた、ベアトとレジナも、、またその願いを持っていた。

 リリエルは、それを自らの手で殺した、後悔などない、自らの意思に従う事に疑念などない、はずなのに。

「……。」

 曇天の天気の中、立ち尽くすリリエル、考えていた結果と違うその答えに、押しつぶされそうになる。

 もしもエドモンド達がこの場に居てくれたら、もしも生きていてくれていたら。

そう思わずにいられなかった。

「……。」

 何かを思い出したかの様に、トレンチコートのポケットに手を入れ、そこに入ってる物を取り出す、手のひらには三つの琥珀色の宝玉があり、それをディンは魂の欠片と言っていた。

「エド……。」

 雨は降らない、リリエルの気持ちを代弁してはくれない、リリエルは三つの宝玉を握りしめ、ただただエドモンド達の死を悼んだ。


「なぁディン……。」

「リリエルさんなら無事だよ、戦闘も無事終わって、復讐も遂げたと思う。」

「そっか……、良かった……。」

 雨が振りそうな天気の中、そろそろリリエルと合流するかと四人は動いていた。

 セレンが不安げに声を出すと、心を読んだディンが答えを出す、セレンはホッとした様なため息をつき、表情の強張りを緩める。

「リリエルちゃんは復讐を果たした、ひとまず気持ちが落ち着くといいんだがな。」

「どうだろうな。復讐なんて、何も残りやしないんだ。ウォルフさん、それくらいはわかってるだろう?」

「俺は英雄だからな、復讐とは無縁だ。」

 移動しながら、煙草に火を点けるウォルフ、ラッキーストライクの煙を吸い込み、深く呼吸をして吐き出す。

「それもそうか、外園さんも一服するか?」

「そうですねぇ、リリエルさんは無事との事ですし、少し休憩させてもらいましょう。」

 ディンもエコーに火を点け吸い込み、外園はローブのポケットからパイプを取り出し、葉を詰めて火を点けた。

 歩きながら吸うのも苦ではないが、外園とディンが考えている通りなら、リリエルには時間が必要だろう、と。

「早くリリエルと合流しなくていいのかよ?」

「まあ慌てるなよセレン、リリエルさんが無事なのは確かなんだ。」

「そっか……。」

 セレンは煙草は嗜まない為、手持ち無沙汰、しかし、ディン達の空気に従い少し休憩にと道路端の花壇に座る。

 あたりを見回すと、一昨日泊まった街よりは荒廃していないが、やはり人の気配はない、確かエドモンドが、住民は首都に避難してると言っていただろうか?と思い出す。

「しかしディンさん、本当に良かったのですか?リリエルさんを1人で向かわせて。」

「外園も心配してたんか?」

「セレンさんとは、少し違う心配ですがね。」

「どういう事だ?」

 外園がパイプの煙を燻らせながらディンに問うと、セレンがその言葉に反応する、違う心配、と言われわからなくなったセレンは、ディンの方を向く。

「リリエルさんも理解しなきゃならない事だからな。それは、リリエルさん自身が体験して、整理するしかないんだよ。」

「貴方の助言、今の彼女であれば聞き入れたのでは?」

「復讐に関してはまだ聞いてもらえないな、それがあの人の生きる意味だから。」

「どー言うことだ?リリエルの事、心配してんか?」

 ディンと外園の会話に、入ってこれないセレン、セレンも復讐などとは無縁であり、あまり広い世界では生きてこなかった、だから、ディン達の言葉の真意が理解出来ない。

 ウォルフは2人の言いたい事は理解していたが、特別何かを語るつもりもなさそうだ。

「苦悩をさせてしまう事に、心は痛みませんか?ディンさんはお優しい、本当なら止めたかったのでは?」

「……、止められるものなら止めたかったよ。でも、今のリリエルさんを納得させられる様な言葉を、俺は知らない。リリエルさん自身が、経験してそれを実感するしかないんだ。」

「……。私もそうです、彼女を止める術を持っていなかった。彼女の将来を憂いながら、彼女の心情を知りながら、止める術はない。そうですね、確かにディンさんの仰る通りですね。」

 ディンはいつも、悩んでいると煙草を深く吸い込む癖がある、それを外園達の前で見せた事はなかったが、癖でそうしてしまう、ディンなりに悩んでいる、その証拠の様な物だ。

「竜神王サンよ、あんたはリリエルちゃんの将来を案じてたな?なら、体を張ってでも止めるべきじゃなかったのか?」

「リリエルさんが本気になったら、俺もある程度本気を出さなきゃならない。そうしたら、リリエルさんの命の保証も出来ない。負けるって事は無いんだろうけどさ、それでも避けたいんだよ。」

「そうか、そういう話ならこうするしか選択肢は無かったって事だな。」

「……、そうだな。さて、そろそろ移動しようか。」

 煙草を吸い終え、歩き出すディン、リリエルの心境を考え、どう声をかければいいのかと悩みながら、先頭を歩く、三人は、そんなディンの背中を見ながら、後ろを歩いた。


 夜になった、リリエルは思ったより距離を移動していた様で、ゆっくりと進んでいた四人はやっとリリエルの近くまで来ていた。

 雲が分厚く空を覆い、月明りは期待出来ない暗闇の中進んでいく、幸いにも大通りを進めばリリエルの元に辿り着く、迷う事もない。

「リリエルさん、終わったか?」

「……、ディン君。」

 先頭を歩いていたディンが、リリエルを見つけ声をかける、リリエルは何かを握りしめたまま、リーダーの死体のすぐ近くに立っていた。

「えぇ、復讐は果たしたわ。この男に私は復讐した、私の為に、エド達の為に。」

「でも、満たされなかった。そうだろう?」

「……。復讐を果たせば、私は満足すると思ったの。でも、そんな事無かったわ。」

 寂しく、空しいだけだった。

 普段ならそんな事は言わない、感情にベールを掛けて取り繕うであろうリリエル、しかし今は、それを出来ない心情の様だった。

 暗闇の中、寂しそうな、寂しさに飲み込まれそうな眼をしていた、ディンはそれが見えていて、しかしそれに触れようとはしなかった。

「私は復讐者。私の人生を狂わせたクロノスに、復讐する者。それは今でも変わらないわ、でも……。」

「それはエド達の願いとは違った、からではないでしょうか?エド達は父親である彼の生存を望んだ、しかし貴女はそれを自らの復讐心の為に切り捨てた。リリエルさん、貴女は誰かの願いを叶えたいと思う心が、何処かにあったのではないでしょうか?」

「外園さん……。」

 ディンが口を開こうとした所に、外園が口を開く、エドモンド達の事を何か思う訳ではあまりないが、一年間仲間として接してきたリリエルに対しては思う事がある、そんな顔をしている。

 べっ甲の眼鏡に付いた埃をローブの袖で拭い、掛け直して一呼吸置き、言葉を続ける。

「貴女は私達を仲間だと思い始めているのではないか、と昨日話をさせて頂きました。それはエド達も同じ、いえそれ以上の感情を抱いていた。だから、その彼らの願いを果たせなかった、それを悔やんでいる。だから、空虚になってしまっているのではないのでしょうか?」

「……。」

「外園さん……。まあいいか、俺は向こう行ってくる、ちょっと気になる事があるから。」

 外園がここまで話すのはあまり見た事がないディン達は、驚きながら話を聞いていた、しかしディンは何か思う所があるのか、あまり口を挟まずに転移を発動、蓮達の所へと行ってしまう。

 ウォルフは外園を興味深げに見ていて、セレンはここまで口は達者ではないからと黙っていた。

「私はあまり口出しするのは好きではありませんが。リリエルさん、貴女の事になれば、仲間の事となれば別です。私も貴女を仲間だと考えています、だから、苦しんでは欲しくないのです。」

「外園さん……。」

「復讐、それを遂げる事が貴女の生きる意味だと仰った。しかし、こうして復讐をした時、心の内には何が残りましたか?クロノスとこの方では違うかもしれない、しかし本質では一緒なのでは無いでしょうか?」

 静かに、しかし熱をこめて話す外園、普段とは違う、しかしそこにある外園の本質、仲間を大切に思い、言葉で諭すという形を好む外園は、リリエルに厳しくも優しく声をかけ続ける。

「私は復讐者、それは変わらないわ。クロノスを殺すまで、ね。でも……。」

「不必要な復讐をする必要は無い、という事です。例えその者に殺されたとしても、守りたいと願う酔狂な人間もいるのですから。エド達はそうだった、最期まで父を守りたいと願ったのです。」

「私は……。」

「貴女は己の我欲の為に復讐を選択し、そしてそれを実行した。それが悪だとは言えません、エド達を殺したのはこの方なのだから。しかし、それは本当に貴女の中で正しい事だったのでしょうか?」

 厳しい現実、それは今のリリエルに必要な事だと、そう感じていた外園は、あえて非情な現実をリリエルに伝える。

 まだ若いリリエルには、それを知る権利があり、それを知る義務がある、と。

「リリエルちゃん、君はエド達を守りたいと思ってた。それは、エド達の願いを守るって事になるんじゃないか?」

「ウォルフさん……。」

「今からでもいい、何か出来る事はあると思うがな。エド達に報いる為には、何をする?」

「……、わからないわ。もう、何があの子達の為になるのかさえ。私は復讐に生きる者、それ以外わからないのよ。」

 外園が言葉を止めた所で、ウォルフが口を挟んでくる、英雄として幾つもの世界を旅してきたウォルフは、それこそ復讐に燃える者も見てきた、しかし彼らの末路は、どう足掻いても空虚だった。

 ラッキーストライクを咥え、火を点けながらウォルフはそれを思い出す。

「わからないなら、今からでも学べばいい。そうじゃないかね?」

「ウォルフさんの仰る通りです、貴女はこれからも色々な死を目の当たりにするでしょう。その時に、どうするのか。私達が教えられる事は多くはありません、それは貴女自身が学んでいかなければ、経験していかなければならない事なのですから。」

「私は……。」

「今はまだわかんなくてもいいんじゃねぇか?これから先、知ってく事もあるだろうしさ。」

 話を黙って聞いていたセレンが、珍しく口を出す、セレンにとって復讐とは無縁のものだが、経験しなければならない事というのは理解出来る、そして、今リリエルが苦しんでいるという事も、なんとなくだが理解出来る。

 復讐を果たして何故苦しんでいるのかまではわからなかったが、年上として、何か言える事もあるんじゃないか?と考え言葉を口にしたのだ。

「ここにいる皆さんは、貴女の仲間です。貴女がどう思っていたとしても、仲間なのです。ですから、1人で迷わないでください。仲間とは、苦楽を共にする者達、苦楽を分かち合う者達なのですから。」

「……。そう、なのね……。」

 リリエルは思い出す、幼い頃の事を。

 父や母がいて、暖かい家庭があり、友達がいて、皆が仲良く、楽しく暮らしていた、その時感じていた暖かさを、何故か今思い出し、そして感じる。

「……、ありがとう。」

「仲間なのですから、当たり前の事を話したまでですよ。」

「いいえ……。そう、でもお礼は言わせて頂戴。ありがとう。」

 雲が少し晴れ、月明りが差し込む中、リリエルは寂しげに少し微笑んだ。

 それは、心からの言葉なのだろう、暗殺者として、復讐者として、いらない物だと切り捨ててきた感情、それを思い出し、感謝していた。


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