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聖獣達の鎮魂歌~Requiem~  作者: 悠介
肆章 紛争に巻き込まれて

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3話 ディンVSリリエル

「……、ん……?」

 ディンは気が付くと、陸橋の太い鉄製のアーチの上に立っていた。

「……?」

 直前まで、飛眼という魔法を使い竜太達の方を観察しながら、熱帯森を散策していたはずだ。

 竜太達はどうやらソーラレスの西端の街に辿り着いた様で、本井という男と話していた。

それがどうしたことか、一瞬目の前が暗くなったと思ったらそこに立っている。

「転移の類なのはわかるんだけど、はてさて……。」

 あたりをぐるりと見回すと、陸橋から五十メートル程進んだところに大型のショッピングモールがあり、下には線路とすぐ近くに駅がある、駅からモールまでは歩道橋で繋がっていて、その駅の客の出入りに貢献しているようだった。

「誰がこんな事したかな?」

 しかし、誰もいない。

 人の気配もせず、そもそも生き物の気配がしない、私怨、しかしここまで出来る人物がいるだろうか。

 左手を顎に添えながら、ディンは一つの答えにたどり着いた。


「やっぱ君か、リリエルさん。」

「ええ、気づかれていたかしら?」

「いや、転移した後に気づいたくらいだからね、中々不意打ちだったよ。」

「意外ね。あれくらいの事なら気づいて余裕ぶるものだと思っていたのだけれど。」

「買いかぶりだよ。」

 空からでも降ってきたのか、着地するようにその場に現れるリリエル、ディンをこの空間に送り込んだのは彼女のようで、警戒心を隠そうとせずに殺意が見え隠れする細長で青紫色の瞳を向ける。

「なんで俺だけこの世界に運んだか……。あの時の事とエド達の事かな?」

「ええ、貴方に受けた屈辱、今ここでお返しするわ。それに、エドモンド達を転移で外国に運ぶこともできたでしょう?」

「まあ、出来るには出来るけど……。それをしたら、俺のことがばれる可能性がゼロではないだろう?それにまったく、あの時は悪か……。」

 ディンが首を振りながら声をあげた刹那、穏やかな丸みのある翡翠と琥珀の瞳に、腰を落としこちらに飛ぼうとしているリリエルが写り、消えた。

「っと。」

「……!」

 音速程の跳躍で接近し、ディンに右脚での膝蹴りを放つリリエル、そして、それを左手で拳を作り防ぐディン。

 リリエルの一挙手一投足が見えていたディンに対し、防がれた事に驚くリリエル、しかし、一瞬で持ち直すと、流れるように左脚でハイキックを繰り出した。

「危ないなぁ。」

「まだまだよ!」

 それを肘手前までしかない右腕で防ぐと、リリエルは防がれた左脚を軸にし更に右脚でディンの首元を狙う、流石に防げる速度ではないと感じたディンは、身体を後ろに投げ回避、そのままバク転で距離を取る。

 鉄のアーチの幅は約三十センチ、こんなところでバランスをとり、格闘戦を繰り広げる二人。

「いきなり危ないな。」

「……。流石ディン君、これくらいじゃダメね。」

「だから、あの時は悪かったって。なんでそんなこだわるんだ?」

「私は暗殺者よ?あの一撃をいとも容易く防がれて、何も思わずに終わると思っているの?」

 見え隠れしていた殺意を前面に見せディンを睨むリリエル、灰銀色で肩までかかる美しいセミロングの髪の毛をさらりと流す姿は、怪しくも美しいといった言葉が似合う。

「そう言われても困るっちゃ困るんだけどな。」

「いいから付き合って。貴方とは戦わなければならないの。」

 一方のディンは戦う気はなく、眉毛を垂れ困ったといった顔をし、赤茶髪の尖った短髪をくしゃくしゃと掻いて、どうしたものかと思案する。

「うーん。まあ、仕方ないか。付き合うよ。」

「……。」

「それじゃ、こっちから、行くぞ。」

 宣言と共に身体をふり、勢いをつけてリリエルに向かい走り出す、そしてリリエルから二mの所まで来ると、文字通り、消えた。

 その瞬間、リリエルは後ろに振り返り、ディンの正拳を避けていた、彼女には、ディンが好みで結んでいる襟足が揺らいでいるのが映っていた、そして、ディンの身体が切る風の流れから、攻撃してくる方向を感覚で把握し、防いだのだ。

「まだまだ。」

「いえ、今度はこっちから行かせてもらうわ。」

「まったく、血気盛んだな。」

 左に避けた身体をそのまま振り子のように使い、右足で強烈なハイキックを見舞う、ディンは防ぐまもなく、リリエルの蹴りを喰らってしまった、しかしそのままやられるわけもなく反発せずに力に従いダメージを減らし、そのままアーチの端を掴みぐるりと一回転して足場に戻った。

 リリエルは蹴りがいなされた事を認識すると、そのまま一回転してから後ろに飛び下がる。

「なかなかどうして、強いもんだね。」

「……。その言い方だとまだ余裕があるみたいね。」

「流石に、ね。」

「まだ力も開放していないでしょう?」

「いや、一段階は開放してるよ。」

 あくまで穏やかなディンの口調に、苛立ちを覚える、格闘戦では埓が開かないと判断、太もものホルスターに手を伸ばした。

「出してくる?」

「当たり前でしょう?貴方も武器を出したらいかが?」

「あんまり使いたくはないんだけどな、それ使われちゃ仕方ない、か。」

 スリットから出したのは、刀の柄、刀身がなければ、鍔もないそれを、リリエルは右手で握ると、目をつむり瞑想をする、するとどういう原理か、柄から紫色のオーラが溢れ、刀身へと姿を変えた。

「妖刀アコニート、か。」

 一方ディンはそれらしいものを持っていない、パーカーやズボンのポケットに何かを入れているわけでもなく、そこに手を入れようともしない。

 ゆらりと左腕を上げ、手のひらを目の前にかざす、すると手のひらの前が光を発し、形を成していく、収束した光を掴むようにすると、鍔に黄色の宝玉が填ったバスターソードへと姿を変えた。

「竜神王剣竜の誇り、ね。それは闇だけを切り裂く刃ではなかったの?」

「人間、というより生物誰しも闇を持ち得るものだからな。それに、出さなきゃ失礼だろう?」

「……、能力開放はしなくてもいいのかしら?」

「忘れてた、今からするよ。」

 ディンはおどけて見せた後、発したか発さないか程度の声量で三段階開放と呟いた。

 するとディンが纏う気が大きくなり、威圧感が段違いなほどに増す、五段階中三段階とはいえ、流石に元が元なだけあって凄まじい量の力が解放されている。


「それじゃ、始めようか。」

 掛け声とともに残像を残して消える二人、刹那、爆風と共に鈍い音が響いた。

 爆風の中心点にいたのは、妖刀を両手に持って横に構え攻撃を防ぐリリエルと、片手で思いきり袈裟に斬りかかったディン。

 リリエルが上手くディンの剣を右に流し、刃が離れたと同時に横一文字に斬りかかる。

「おっと。」

「……、上手く避けたわね。」

「そっちこそ、よくそんな細い身体で俺の剣受けられるな。」

 流された瞬間に手を斜めに引っ張るようにに振りかぶり、リリエルの攻撃を受け止め後ろに飛び下がるディン、防がれるとわかっていたリリエルは、声を発しながらもディンに向かい走った。

「おっと、それは喰らわないよ。」

「どう、かしら?」

 ……羽ばたく彗星……

「……!」

 リリエルの攻撃範囲外に上手く逃げたつもりのディンに対し彼女が放った追撃、それは、刃にしている闘気を斬撃と同時に飛ばす技、羽ばたく彗星だった。

 音速の速さで飛来する斬撃に、ディンは思わず横っ飛びに避け、そのままアーチから落下していく。

「逃がさない!」

「……、清風。」

 それを見逃すリリエルではない、自由落下で落ちていくディンに向かい、ちょうど当たる場所を目測で判断し二段目の斬撃を飛ばした。

 しかし、放つ瞬間を見逃さなかったディンは風の魔力を身にまとい、身体を後ろに逃がして回避、そのまま地面に着地した、その後を斬撃が歩道橋を抉り割った、その程度には威力のある技だと、崩れ落ちる瓦礫が物語る。

「まったく危ないねぇ。」

「……、流石はディン君ね。」

 着地して息を付く間もなく、三段目の斬撃が飛来し、横っ飛びでそれを避けるディン、斬撃を追うようにして、衝撃で抉れた場所にリリエルは音を立てず着地した、そして静かに立ち上がると、ディンの方に向いて言葉を投げる。

「私の音速の斬撃を避けるなんて、並大抵では出来ないはずよ。それをいとも簡単になんて、やっぱり貴方は強いわ。」

「そんなことないよ、避けれたのはたまたまだ。」

「それは謙遜?それとも嫌味?どちらにしろ、不愉快だわ。」

 ……水面鏡の星空……

 眉間に深くシワを寄せたリリエルは、瞬時にディンの懐に近づき、刀を振る、ディンは一撃を防ごうとしたが、すぐにそれが失敗だと気づかされた。

 斬撃が軽い、それに気づいた時には、二撃目が振り下ろされる。

「おいおい、困ったね。」

 水面鏡の星空は、一撃に力を込めた技ではない、踊るようなステップで敵を幻惑しながら次々と攻撃を加える、素早さ重視の技だ。

 攻防においては万能と言っても、パワー型に寄っているディンにとって、この技程受けにくいものもない。

「さあ、どうするのかしら?」

「どうするって、どうするよ。」

「……!」

 受けた斬撃が五十を超えたあたり、ディンは傷を負う覚悟で剣を振りかぶり、思いきり妖刀にぶつけた。

 リリエルはその威力を流す為に、技を止め後ろに吹き飛ぶしかなかった、両者の距離二十メートル、すぐに体勢を立て直したリリエルは、ディンを睨む。

「……、やっぱりこういう場所は苦手だわ。」

「……?」

「悪いけど、私の得意な場所でやらせてもらうわね。」

「あ……、早いなあの人。」

 リリエルはディンに宣言すると共に走り出し、あっという間にショッピングモールへと消えていった。

「はぁ。帰りたいけど、また後でなんか言われるのも嫌だしな。」

 ディンは仕方ないとため息をつき、リリエルを追ってモールへと走った。


 十分後、リリエルを追ったはいいものの広いショッピングモールの中では中々見つかることが出来ず、警戒しつつ彷徨うディン。

 リリエルの気配を感知しようと感覚を研ぎ澄ますが、相手は暗殺家業に身を置く、気配を消すすべは当たり前如く心得ているようで、察するどころか検討もつかない。

「まったく……、こりゃ強襲仕掛けられるやつだな。」

 ディンはため息をつきながら、どうするべきかと思案する、外界の戦士達の中でも随一の素早さを誇るリリエルに強襲をかけられては、流石のディンも対応しきれない、それをわかっているからこそ、どうにかして目の前に出てこさせるにはどうすればいいかと思考は回る。

「……。プライド、か。」

 なにかを思いつき笑ったかと思うと、音が響きやすい場所を探すべくあたりを見回す。

「お、あそこいいかも。」

 目的の場所はすぐに見つかったようで、ディンは警戒を緩めずその地点まで移動した。

 幸いにも彼女はその間にはいなかったようで、何事もなく済む、ディンは思いきり息を吸い込み、リリエルを誘い出す作戦を実行した。


「……。」

 ところ変わって数並ぶアパレルの内の1つの中、女性用のおしゃれ着を販売しているのであろう店の奥で、リリエルは待っていた。

 ディンの立てる足音から距離を図りつつ、強襲を仕掛けようと妖刀を構える。

「……止まった?」

 ふと、ディンの足音が聞こえなくなる、直前の音からして、距離は約十メートル程度と推測する。

「……。」

 仕掛けるべきか待つべきか、大体の位置は把握しているものの、もしもディンがカウンターを仕掛けるべく構えていれば、返り討ちにあう可能性が高い。

 しかし、彼はそういった事をするタイプだろうか、自身と大きく違う性質の、同格ないし格上の相手であると考えている為、迂闊に動けない。

「やっぱり、彼は苦手だわ……。」

 リリエルは小さく呟く、幼い頃を除けば社会の闇で生き続けた彼女からすると、紆余曲折あろうと暖かい場所に生きるディンは正反対の人間であり、眩しすぎる。

 自身の闇を否定されるような、幼い日々を無理やり掘り起こされるような感覚、その感覚を嫌だと認識はしていなかったリリエルだが、良い感情でもない、良い感覚でもない、と、己を呪う様に意識をしていた。

「……。」

 ふと遠いなにかを思い出し、気が緩んでしまう、バカバカしいと一蹴するように首を振り、警戒を研ぎ澄ます、どうやらディンは動いていないようだ。

「さて、どうくるのかしら……?」

 雪辱を晴らす為の戦いのはずが、どこかで楽しさを感じる、ディンの次の一手、それによって生じる隙を逃すまいと構える。

 しかし、リリエルの想像を掠める事もなく、ディンは次の行動を選択した。


「おーい!リリエルさーん!君は強襲でも仕掛けなきゃ俺に勝てないのか?」

 ディンは叫んだ、爆音とも言えるその声はモール中に響き、テナントのガラスを震わせる。

「君、本当は強くないんじゃないのー!?」

 誘い出すというただ1つの目的の為に、ディンは声を大にする、実際はそんな事を思っているわけではないのだが、プライドの高い彼女ならきっと出てくるだろうと。

「……。」

 声が店内にも響き、リリエルは一瞬顔をしかめる、そして、子供のいたずらを優しく叱るように微笑んだ。

「やってやろうじゃない。」

 ディンの誘いに乗り、正面から戦う、それがプライドを刺激されてなのか、想定外の行動すぎて面白くなってしまったのか、彼女自身にもそこは判断しかねたが、どうでも良くなっていた。

 戦いが楽しい、ディンと戦う事、暗殺稼業としては抱いてはいけない感情、戦いを楽しむという感情、それが、リリエルを動かした。


「さて、来てくれるかな?」

 ……冷たい恒星……

「やっぱり来てくれたか。氷冠。」

 ガラスが盛大に割れる音が右前からしたと思った瞬間、リリエルが凄まじい速度で迫ってくるのを認識したディン、その技は、剣を首元まで振りかぶり、踏み込みの勢いと共に振り下ろす技のようだ。

 そう判断したディンは剣をコンクリートの床に突き刺すと、一瞬で左手を目の前にかざし、術を発動した。

「……!」

 ディンが術を発動したと同時に彼の周囲を冷気が覆ったのを肌で感じると、技の型を崩し後ろに下がるリリエル、それに一瞬遅れディンの周囲をぐるりと氷が囲い、攻撃を防ぐ形を取った。

「よけられたか。まあ、氷冠は防御用だしな。」

「あの一瞬でここまでの防壁を作るなんて、流石ね。」

「いやいや、リリエルさんこそ凄いよ。なんだいあの速さは。」

「それは賞賛として受け取っておくわ。さて、貴方の誘いには乗ってあげたんだから、今度は私の番ね。」

「あ、まじか。」

 ディンの氷冠が砕けたとほぼ同時、互いに褒め合ったかと思えば、ディンと反対方向に走り出すリリエル、隠れる気はないらしく、追いつけるかどうかの速度でディンを誘う。

 なんとなくその意図を察したディンは、剣を抜いて慌てて追いかけ始める、傍から見れば地獄の鬼ごっこが幕を開けた。


 ……羽ばたく彗星……

「おっと。」

「まだまだ、行くわよ!」

 ディンが動き出してすぐ、軽くジャンプして身体を向け斬撃を飛ばし、そのまま回転して前を向き走る、そして避けたのを声と音で確認し、更に斬撃を飛ばす。

 一方のディンはそれを紙一重で交わし、追いつこうと走るが、元がパワー型である事もあり、スピード型のリリエルにおいつけない。

「もう一回!」

「ちょっと、反則じゃないか?」

「竜神王ともあろうディン君が、私なんかの攻撃に根をあげるつもり?」

「……、言ったな?」

 飛来する斬撃を避けながら笑うディンと、斬撃を飛ばしながら笑うリリエル、どちらかがミスをすれば命を落としかねない死亡遊戯のはずだが、二人は楽しそうに続ける。

 しかし、その死亡遊戯に会場が悲鳴をあげているようだ、リリエルの斬撃が所々柱を貫通して外まで破壊している為か、少しずつ建物が揺れ始めている。

「ほら、このままじゃいつまで経っても終わらないわよ!」

「それもそうだな。それじゃ、終わりにさせてもらうよ。」

 数十回の斬撃を躱した後、ディンは剣を後ろに構えながら足を止めた、そして止まる時の勢いをそのまま乗せ、思いきり剣を振りかぶった。

『雷咆斬』

「……!」

 ディンの斬撃の衝撃が雷となり、モールを両断し始める、閃光とも言える速度の衝撃波を感じたリリエルは、ちょうど目の前に現れた広場に飛び込み、ギリギリのところで攻撃を躱した。

「さて、先にお暇させてもらうかね。」

 見事に両断され崩壊し始めるモール、ディンは左側に剣を振るい、剣圧でモールの壁に穴を開けて外に飛び出した。

「これは……。」

 広場に飛び込んだリリエルは、脱出の間を与えられずに崩壊に飲み込まれてしまった。


「やりすぎたか?」

 盛大に崩れていくモールを眺めながら、ディンは苦笑いを浮かべる、やりすぎてリリエルが生き埋めになってしまっていたら救出に向かわないと、などと考えていたが、しかし、それは杞憂のようだった。

「よっと。」

 瓦礫の山から放たれた衝撃波を避け、彼女の無事を確認する、ディンは安堵しつつ、しかしまだ終わっていないんだなと気持ちをしっかりさせた。

「あら、やっぱり当たらないわね。」

 衝撃波の出処とは別、ディンから概ね十五メートル離れた場所に、リリエルは立っていた、音速の衝撃波を放った後、自慢の素早さでそこまで移動したようだ。

「あれ、まだ終わってないのか。」

「そうね、もうちょっとだけお付き合いしてもらおう、かしら!」

 ……群がる星々……

「うおっと。」

 縮地にも見える速度でディンの懐に潜り込み、突きを繰り出す、しかしそれは一突きに全力を込めたものではない、所謂さみだれ突きと言われるもので、次々に突きを繰り出し相手を滅多刺しにする技だ。

「これは凄いな。」

「まだまだよ!」

 突きの数が六十を超えた頃、リリエルは更に速度を上げ攻撃を繰り出す、紙一重で躱し、ギリギリで防いでいるディンの顔に、焦りが生じ始めた。

「これで、終わりよ!」

 ……貪る流星……

 一瞬刀を引いたと思いきや、研ぎ澄まされた中段突きがディンの脇腹へと向かう。

 敵の腹部を貫き、上に切り上げて喉笛を嚙み千切り身体を裂く、リリエルの十八番の技であり、単一での殺傷能力はおそらく一番高い。

「……!」

 妖刀アコニートがディンの脇腹を貫こうとした、その刹那、リリエルの目に信じられない、しかし一度みた光景が広がった。

「……。まったく、ここまでしなきゃとは随分だな。」

 毒の刃を掴まれたのだ、リリエルの妖刀は、トリカブトと同じような毒が含まれている、と言うよりは、妖刀自体が毒で形成されていると言ったほうが正しいのだろうか。

「まさか、またこうやって終わるなんてね。」

 その刃を、ディンは掴んだ、一瞬で剣を消し、更なる力を解放して妖刀を掴み攻撃を止めた。

「いやぁ、今のはやばかったよ。」

 しかし纏っている闘気に対し、ディンの声色は至って穏やかだった、そしてそのまま左手に力を込め、妖刀を形成している気を消し去ってしまった。

「……。私の負けだわ、貴方は本当に強いのね。」

「いやいや、リリエルさんも十分強いよ。俺ここまで力使ったの、久しぶりだ。」

「……。それは褒め言葉として受け取っておくわ。ありがとう、私のわがままに付き合ってくれて。」

「ああ、こっちこそ。今度はお互い全力で、か?」

「そうね、いつかは貴方に勝ってみせるわ。でも、今は満足よ。」

「そっか。それなら良かったよ。」

 互いに微笑み合い、握手を交わす、確かに最初は雪辱を晴らす為の戦いだった、しかし戦いの最中、どこから狂ってしまったのだろうか、二人は、心から楽しんでいた。

「さ、帰りましょう。お腹も空いたしね。」

「そうだなぁ。久々に動いたから腹ペコだ。」

 守護者と暗殺者、光に生きる者と影に生きる者。

 正反対の二人だったが、戦いの中で何かを分かり会えたのだろうか。

 それは、二人にしかわからない事だった。

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