2話 レジスタンスを追放されて
「よぉみんな!戻ったぜ!」
「誰だ!?……、エドか……。」
「おう、オヤジ!面白れぇ奴連れてきたぞ!」
地下の扉を開けると、そこには数十人の男女が居た、年齢はぱっと見下は七歳程度、上は三十代といった風貌をしていて、皆警戒して、ピリピリとした空気が伝わってくる。
「誰だ、その人達は……?」
「こいつら?南の森見張ってたら現れてさ、ジパングから来たんだってよ!」
「ジパング……?ジパングの人間はそんな服装はしてなかったはずだが……?」
「え!?」
エドモンドにオヤジと言われた、三十代前半と思しき無精ひげを蓄えた男が、ディン達を見て言う、ジパングの人間の服装とはかけ離れた一行の、その服装を見て警戒している様だった。
「マジかよ!?オマエら、嘘ついてたのかよ!?」
「洋服は港街で買ったんだよ、ドラグニートと交流があるから、こういう服も売ってるんだ。」
「ドラグ、ニート……?って、確かこれよこしてくれてるとこか?」
エドモンドはマスケット銃を眺めながら、疑問符を浮かべる、ディンはそれを聞いて、ドラグニートで銃を製造しているのは、灼竜ヴォルガロの管轄地域だけのはずだったが、と考える、だとしたら、そこから製造方法が漏れたのが妥当だろうか、と。
「本当かね?我々には、至極当たり前の様に信用ならないんだが。」
「本当の事ですよ、貴方はエドのお父さんですね?」
「あぁ、このバカ息子の父親だ。はぁ、ご客人、貴方方はどうやら革命軍の仲間ではなさそうだが、どうしてこの地にいるんだ?」
「転移という魔法は知っていますか?俺達はそれに乗せられてこの地に踏み入ったんです。」
まずはディンが父親と話をする、セレンは状況を把握できていないし、リリエルは何か考え事をしているし、ウォルフや外園はディンが話をするのが早いと感じていたからだ。
誰も口を出そうとはせず、静かにエドモンドの父親が考える時間が流れる。
「転移……。確か、そんな古代魔法があったと言う御伽噺があった様な……。」
「ドラグニートの八竜が、その転移を使えるんです。俺達はそれに乗せられてこの国に来た、不自然な話ではないでしょう?」
「……、何故ドラグニートを守護する竜が貴方達を?やはり、納得は行きませんな。」
信用ならないという風なエドモンドの父と、少し困り顔のディン、傍から見れば、ハッタリが通用しなくて困っている様にも見えてしまうだろう、そんな様子が、地下にいる集団の警戒心を高めてしまう。
「ドラグニートの竜達とは、ちょっとした縁があるんですよ。その縁があって、ここに来たんです。」
「仮にその話が本当だとして、何の為にこの国へ?」
「この国の調査に。何年も国のトップと連絡が取れなかったので、現地調査を依頼されたんです。」
「貴方方はジパングから来たと仰られていたが?」
あくまでも信用が出来ないというエドモンドの父と、何とかこの場を収めようと嘘をつくディン、セレンは自分が口を出したらぼろが出そうだと口を出さず、他三人も相変わらずの様子だ。
この世界の事を外園に次いで知っているのはディンだ、そのディンがこの話を通せないなら外園が出るしかないが、どうやらそういうつもりもないらしい。
「ジパングにも現地調査に赴いてました、聖獣の守り手達が現れたという事で。それから、転移でこの国へと。」
「聖獣の守り手……?また御伽噺か。」
「それが本当何ですよ、お父さん。いま世界は、マグナの神々によって滅ぼうとしている。それをドラグニートの竜達が感知して、俺達に各地に行くようにと言われたんです。」
本来は逆の立場である竜達とディンだが、この場を収める為にと嘘をつく、ディンはエドモンドの父の心を読みながら、慎重に言葉を選び、信用されるよう話を作っていくがしかし、何を話しても信用される事はなさそうだと、ディンは心を読み考える。
本来の紛争中のレジスタンスなら当たり前の事だ、逆にエドモンドがすんなり自分達の事を信頼した事の方が驚かれる。
「はっきりと言いましょうご客人、私達は貴方方を信用する事は出来ない。」
「……、でしょうね。」
「早速で悪いが、ここから出て行って頂きたい。我々には、どこの誰ともわからぬ人間をかくまうだけの余裕は無いのでね。」
「おいオヤジ!こいつら放り出すのか!?」
説得を諦め出ていこうとした時、黙っていたエドモンドが口を開く、ディン達の事を信じ切っている訳ではないが、それでも放り出すというのには賛同出来ない様子だ。
「こいつら、革命軍に見つかったら殺されるかもしんねぇんだぞ!?」
「それがなんだ?ここには余裕がない、それはお前もわかっている事だろう?」
「だからって放り出すことないだろ!?せめてこの国出るまで護衛するとかさ!」
エドモンドは取り乱した様に声を荒げ、父親は至って冷静という感じだ。
ディンがエドモンドの心を読むと、どうやら以前にも同じ様なやり取りがあった様子で、一般人を匿った所をおいだし、その一般人が革命軍に殺されてしまった様だった。
「何のためのレジスタンスなんだよ!?この国取り戻して平和にする為だろ!?」
「そうだ、だからどこの誰ともわからない人間を匿う理由はない。」
「平和な国に戻すのがレジスタンスじゃねぇのかよ…。平和になったって、人が居なきゃ意味ねぇだろ!?」
「私達の平和の為、だ。どこの誰かもわからない人間の平和の為ではない。」
心を読んでいてわかる、父親の方はレジスタンスのメンバーさえ無事であれば、他はどうなっても構わないと考えている事、それが、エドモンドとの間に軋轢を産んでいる様だ。
エドモンドの方は、国全体の平和を願っていると言う事も、よくわかる。
認識としてはエドモンドの方が正解なのだろう、自分達が勝ったとしても、紛争が終わったとしても、それに住まう人々がいなければ意味はない、レジスタンスだけが生き残っても、国の運営など出来ないだろう、と少なくともディンは、エドモンドが正しいと感じていた。
「ふざけんなよオヤジ!この前の人達だってそうだ!レジナとベアトが助けた人達追い出して!」
「あの人達はレジスタンスではなかっただろう?ここに居るのはおかしい事だ。」
「そうじゃねぇだろ!今回こいつらは別の国の人だったとして、あの人達はこの国の人達だったろ!助けるべきじゃねぇのか!?この国元に戻したら一緒に生活する人達だろ!?」
「確かにそうだ、しかし今はレジスタンス以外の人間に構っている場合ではない。」
憤るエドモンド、その怒りはやはり、父親とのレジスタンスという認識のずれから来ている様だ。
父親にとってはレジスタンスの人間さえ無事であれば良いという、エドモンドにとっては国全体の人間が無事であってほしいというずれ、そのずれが、何度か問題になっているのが伺える。
それだけレジスタンスが大きい組織である事も考えられるが、果たしてその人間だけで国を再建出来ると思っているのか?とディンは親子の話を聞きながら疑問符を浮かべる。
「エド、この前も話したが。今度こういう事を起こしたらお前は追放すると、そう言ったはずだが?」
「それは……、でもよぉ!」
「レジナとベアトも同じ考えなら出て行ってくれ、私達にはそんな馬鹿をレジスタンスに入れている余裕はない。」
ぴりぴりとした空気が、親子の間に流れる、父親の方は本気の様で、他のレジスタンスの面々もうんうんと頷いている、ただ、二人程それに賛同していない様子が見え、どうやらその二人がレジナとベアトの様だ。
「なんで……、俺はただ……!」
「出ていけ、この愚か者。もう私はお前を息子だとは思わん、どこにでもいけ。」
「そんな……。」
「レジナとベアトも出ていけ、親のいないお前達をレジスタンスに加えてやったというのに、恩を仇で返すなど言語道断だ。」
はっきりと言い切るエドモンドの父親と、がっくりと肩を落とすエドモンドと、
集団の中に居辛そうにしている二人の少年少女。
決別、それを理解出来る程度の頭は持ち合わせている様だ。
「今すぐに出ていけ。ご客人、そういう話なので、貴方方も出て行ってくれ。」
「……、俺は責任取って出ていくからよ……。ベアトとレジナは許してくれよ……。」
「駄目だ。くだらん考えの持ち主なんぞ、ここに置いておくわけにはいかない。」
「本気かよ……!あの時ベアトとレジナ助けた時、家族になろうって言ってたじゃねぇかよ!」
父親は本気の様だ、周りもそれに同調していて、ベアトとレジナ、二人の少年少女が腕を引っ張られ、エドモンドの方へ追いやられる。
どうあがいても覆らないだろう、とディンは父親の心を読み取り感じた、この男は、本気で自分の息子と二人を追放しようとしている、と。
「こんなにも愚かだと知っていたら引き取っていなかった、それだけの事をしたのだ。」
「……、そうかよ……。」
「銃は置いて行ってもらうぞ、それは我々レジスタンスの所有物だ。」
「わかったよ……。」
エドモンドも父親が本気である事を悟り、諦めたような声を漏らす、マスケット銃を肩から下ろし、父親に向かい投げると、ディン達の方を向いた。
「ごめん……、俺のせいで……。」
「俺達は別に大丈夫だよ、君達はこれから行く当てがあるかい?」
「……。」
「早く出ていけ、ここがばれてしまっては何もかもがお終いだ。」
エドモンドの父親を中心に、レジスタンスの面々が出て行けとコールをする、ディン達はここにいるのは刺激するだけだと判断し、取り合えずとエドモンド達を外に出る様にと促す。
「オヤジ……。」
「私に子供は居ない、何処にでも消えろ。」
「……。」
エドモンドが地下の扉を出ていく、それに続いて二人の少年少女が出ていき、ディン達もそれに従う様に外に出ていった。
エドモンドの父親は、それを忌々しい物でも見るかのような眼で見送っていった。
「俺達、どうすれば……。」
「エドは悪くないよ。あたし達、ずっとみんなが幸せになれる様にって頑張ってきたはずなのに……。」
地下を出て少し戻り、熱帯林の中、暫く沈黙していたエドモンドが口を開くと、少女の方がそれを庇う。
「レジナ……。」
「僕もそう思う、叔父さん達は間違ってる。」
「ベアト……。」
レジナという少女と、ベアトという少年の二人が、エドモンドを慰める様な言葉をかける、ディン達はひとまず落ち着くまではそっとしておこうと、すぐ近くでしかし待機していた。
「でも、これからどうすれば……。」
「……。レジスタンスは抜けさせられたでしょ?なら、外国に行ってみようよ!」
「それは妙案だ、僕も賛成かな。」
「って言っても、どうやって行けば…。港街はあいつらが居るわけだし……。」
ベアトが、そう言われた時にハッとディン達の方を見る、そして何か期待している様な顔で、近づいてくる。
「ねぇお兄さん達、お兄さん達は外国から来たのよね?」
「えっと、君はレジナちゃんだったかな?そうだよ、俺達は外国から来たんだ。」
「あたし達を外国に連れて行ってくれない?あたし達、この紛争が終わったら外国行きたいって思ってたの!」
ぼろぼろの白シャツにチノパン、ぼさぼさの髪の毛に荒れた肌、何か月と体を洗っていないであろう体臭、そんなレジナを外国に連れ出すと言う事は、奴隷を買って連れてきたと思われてしまいそうなものだ。
しかし、その黄緑色の瞳は、本気でありそうな事を考えさせられる。
「転移、っていう魔法があるんでしょ?それって、移動出来るのよね?あたし達を外国まで、連れて行ってくれないかしら!」
「僕からもお願いしたい、もうこの国にはうんざりなんだ。」
同じくボロボロの白シャツにチノパン、坊主に藍色の瞳のベアトもディン達の方に寄ってきて、声をかける。
「……。申し訳ないんだけど、転移は俺達が使えるわけじゃないんだ。ドラグニートっていう国を治めてる竜が使えて、俺達はそれを利用しただけなんだ。」
「ディン君?貴方何を……」
「だから、君達を連れ出す事は出来ないんだよ。」
「……。」
ディンと二人の会話にリリエルが入ろうとするが、ディンはそれを遮る、竜神の掟、聖獣の守り手達にさえ言っていない事すらあるのだ、それを、おいそれとその世界に属する子供に話す訳にはいかない。
「そんなぁ……。」
「ただ、ノースディアンに連れていく事なら出来るよ。この国の上だし、確か地続きだったはずだしね。」
「ノース、ディアン?」
「この国の北にある、平和な国ですよ。人間しか住んではいけないのですが、皆さんなら問題ないでしょう。」
ノースディアンというワードに?を浮かべていたレジナに、外園が横から出てきて説明をする、外園はジパングに渡る前長旅をしていて、どうやら立ち寄った事があるような様子だ。
「北国なので、とにもかくにも寒いですね。しかし、人間達が平和な国を建国し、維持しているという事でした。私は妖精ですので、短期滞在しか許されませんでしたが。」
「そんな国があるの!?」
「えぇ。私の記憶に間違いがなく、情勢が変わっていなければですが、皆さんも安心して暮らせるのではないでしょうか?」
「ほんとに!?」
目を輝かせて驚くレジナと、何か納得いった様な様子のベアト、二人はエドモンドの方へと走り寄り、嬉しそうに笑う。
「ねえエド、今の聞いてた!?ノースディアンっていう国が、平和なんだって!」
「ノースディアン……?」
「この国の北にあるんだって!あたし達、そこに行こうよ!」
「でも、オヤジ達は……。」
ウキウキ顔のレジナに対し、浮かない顔のエドモンドは、どうやら、父親と決別しなければならなくなった事で、やはりというべきか悩んでいる様だ。
勘当された事は理解出来たが、置いていくというのも悲しい、そんな葛藤の中に居る、そういった印象だ。
「叔父さんはああ言ったら聞かない人だ。僕達が先に行って、平和な国があると伝えるのはどうだろう?」
「ベアト……。でも、その間にあいつらにやられちまったら……。」
「叔父さん達だって伊達に五年間もレジスタンスをしてる訳じゃないんだ、それに向こうには武器もある、大丈夫さ。」
「……。」
エドモンドは葛藤していて、眉間にしわを寄せている、絶縁を言い渡されたとは言え、父親やレジスタンスの面々を置いていくというのが嫌な様子。
そんな中、ディンは一度向こうの様子を見てくると言い何処かへ行き、リリエルも何処かへ行ってしまう、残されたウォルフに外園とセレンの三人は、エドモンド達のやり取りを見守る。
「叔父さんは頑固な人だ、説得するにもそれなりの材料が必要だよ。」
「あたしはもう、戦争しなくていいってだけでも良いんだけどね。」
「……。そう、だよな……。戦争、しなくても良い所があるんだよな……!」
二人の言葉に、徐々に傾き始めるエドモンド、元々紛争自体に反対だったエドモンドは、心のどこかでここに居たくないと考えていた、だからなのか、ノースディアンに行こうという提案に心が揺らぐ、勘当されたとはいえ家族を置いていきたくないという感情と、もう紛争に加担したくないという感情の間に、揺れ動かされる。
「ノースディアン、そこが平和なら……。」
「平和だって話だよ!そこのお兄さんが言ってた!」
「可能性に賭けてみる価値は、あるんじゃないか?」
二人の説得に、徐々に心が揺れ動くエドモンド、もしもノースディアンが平和で、そこに皆で移動出来るのなら、争う必要もなくなる、だから、もしかしたら父親との関係も修復出来るかもしれない、そんな考えが、エドモンドの中に湧き上がってくる。
「……、行こう!ノースディアン行って、オヤジ達を説得しよう!」
「そうだよ!それがいいよ!」
「その通りだ、それでいいと思うよ。」
覚悟を決めた、というよりは感情に流された様子のエドモンド、しかし、これからの方針が決まったというのは喜ばしい事だ。
「なあ!俺達をノースディアンに連れてってくれよ!」
「ディンさんが良いと言ったのなら、私達が是か非かを考える事もありませんね。おや?リリエルさんとディンさんはどちらに行かれたんでしょうかねぇ?」
「そういやディン、向こう見てくるとか言ってたぜ。リリエルもどっか行っちまったな。」
「エド、そういう事なので、少しお待ちください。」
決まったなら一刻でも早く行きたいという顔をしているエドモンドを、外園が少しどうどうと落ち着かせる、エドモンドやレジナ、ベアトは早く移動したくてうずうずしている様だったが、肝心のディンがいないとどうしようもない、セレンがきょろきょろと周りを見回すが、そのあたりには二人は見受けられなかった。
「oh!二人なら今、何処かに行っているな。まあ待っていれば帰って来るだろう。」
「どこかって、どこ?」
「まあ、少し離れた場所で話でもしてるんだろう。しばし、待ちの時間だ。」
ウォルフは訳知り顔で窘め、にやりと笑っている、どうやら二人がどこに行ったか、何をしているのか想像がついているといった様子だ。
しかし、それをベアトやレジナに話す訳にはいかない、というディンの考えを尊重している様だ。
「早く行きたいなぁ……。ノースディアンって、どんな国なんだろう?」
「先ほどもお話した通り、人間が統治している国ですね。国の中でも北には先住民が、南には移民が住んでいます。グリーンフィールズという都市が、中心として動いているというお話ですね。皆さんは移民という扱いになると思いますので、南の方に住まう事になるかと。」
「先住民と移民は、関係が悪いのかな?南北に分かれているという事は、そこで争いが……。」
「その心配はないですよ。ノースディアンは軍や戦力を持たない国ですから、争いというよりは分別をつけて暮らしていると言った方が正しいでしょう。」
疑問を呈するレジナとベアトに、外園が丁寧に答えていく、エドモンドもその話を聞いて、わくわくし始めているようだ。
平和な国で父親と仲直りをし、レジスタンスのメンバーも争わなくていい、そんな国があるのなら早く教えてほしかった、最初から争いたくなかった、そんな感情だろう。
「とりあえずディン達が戻ってきたら移動って事になんのか?」
「そうなるだろう、準備だけは済ませておこう……、といっても何があるわけでもない。俺達はただ待っていればいいだけだ。」
ウォルフは不敵に笑いながら、ほかの面々は各々の感情に沿った顔をしながら、二人を待つことになった。




