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聖獣達の鎮魂歌~Requiem~  作者: 悠介
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10話 ソーラレスを離れて

 パチパチと焚火の爆ぜる音が聞こえてくるそんな夜、川沿いを歩いていた一行は、夜の帳が降りた所で休憩していた。

「港街までどれくらいだろう?」

「さあな、取り合えず腹減ったからこれ食おうぜ。」

「それもそうだね。」

 竜太が転移で取り出した釣竿を使って釣った魚を焚火で焼き、それを六人で焚火を囲み食べ始める。

 朝から歩いていて、昼食を抜いていた一行の腹に、魚の旨味が沁みる。

「これ、なんて魚なんだろう?」

「うーん、鮭に近い味だけど、ちょっと違うね。」

 蓮は初めて食べるその味を不思議がりながら、こういった仲間と過ごす時間を楽しんでいた。

 五人はそれをなんとなく察していたり理解していたりするから、あまり水を差す様な事は言わない。

「みんなでこうするの、なんだか懐かしいなぁ。」

「そうだな、こんなことすんの小学ん時以来だぜ。」

「私もこういった事をするのは久しぶりですね、お魚をこういう風に食べるのは初めてです。」

「……。」

 大地にとっては何回か経験した、他の面々からしたら小中学校の林間学校以来の出来事、その認識のずれに、大地は少しだけ悲しい気持ちになる。

「林間学校って、みんなで遊ぶの?僕行ってないからわかんないや。」

「そうだねぇ。皆で泊って仲良く遊んだり、お化け屋敷したりしたなぁ。」

 思えば遠いところまで来てしまったものだ、と竜太は懐かしむ、あの頃の自分はまだ何も知らず、戦いにも身を置いていなかったなと、自らの使命も、魔物も竜神という存在も知らなかった、母や友も沢山いた、中学に入るまでは、平凡な人間だったな、と。

「っと今は懐かしんでる場合じゃなかった……。これ食べたら休みましょう、明日朝からまた移動ですから。」

「そうだね、寝るのちょっと大変そうだけど、ゆっくり休もう。」

「そういえば修平さん、背中の傷の方は平気ですか?まだ痛むのではないですか?」

「大丈夫だよ?ちょっと痛むけど、そこまで酷くもないし。」

 座ったまま寝るという経験を初めてする蓮に修平、清華と俊平、四人にとっては、上手く寝れるかどうかという話ではあったが、まあそこは何とかなるだろうと竜太は考えていた、自分はあまり寝ずに索敵をしておこう、と頭の片隅で考える。

「ふう、美味かった。川魚釣って食べるんなんてホント久々だったわ。」

「……、そうだな……。」

「さ、寝よう。明日も早いし。」

「そうですね。」

 四人は欠伸をすると、石に座ったまま目を瞑り眠ろうとする、大地は慣れているからかすぐに眠りに落ち、他の三人も徐々にまどろみの中へと沈んていった。

「ねぇ竜太君、竜太君はお兄ちゃんの子守唄って知ってる?」

「子守唄?それがどうかしたの?」

「僕がね、眠れない時によく歌ってくれてたの。竜太君は知ってるのかなぁって。」

「うーん……、覚えがないなぁ。」

 まだ寝付けなかった蓮が、竜太にふと話を振る、それはディンが蓮に歌っていた子守唄の話で、どうやら竜太は知らない様子だ。

「竜太君なら知ってると思ったんだけどなぁ……?」

「ごめんね、わかんないや。蓮君も寝なよ、もう遅いんだし。」

「そうだね、おやすみ竜太君……。」

 蓮は欠伸をすると、ゆっくりと眠りに落ちていった。

 竜太は一人、焚火を眺めながらボーっと考え事をしていた、これからドラグニートに向かう、そこでディン達と合流する、安心出来るな、まだまだ自分には誰かを導くなんて早かったんだ、と。

「眠い……。」

 うたた寝くらいはしてもいいだろうか、と竜太は目を瞑る、睡魔がゆっくりとやってきて、竜太は眠りについた。


「やれやれ、魔物除けの結界もないのにのんきだな。」

 皆が眠りについた頃、焚火の横に光が零れ、ディンが現れる。

「これ魔物が出てきたら大変だったぞ?というか来てるぞ?」

 ディンが探知波動を展開すると、周囲には百体程の魔物が確認出来た。

それらは少し遠い所にいて、こちらに向かってきている様だった。

「さて、少しサービスだ。」

 ディンはそちらの方へと転移で跳び、魔物の群れの中心に現れる。

「……、成る程そういう事か。」

 餓鬼達はディンに気付き、一斉に襲い掛かって来る、ディンはそんな餓鬼の攻撃を避けながら、疑問を確信へと変えていく。

「竜神王剣、竜の誇り。」

 次々に繰り出される攻撃を避けながら、ディンは自身の剣を出す。

『限定封印、第一段階開放。全てを喰らう雷よ……。』

 雷を帯電させ魔物がいる端まで跳び、魔物がいる範囲を見定める。

『雷咆斬。』

 丁度魔物の群れが入りきる範囲に、雷の魔法剣を放つディン、蓮の使うそれとは比べ物にならない、まさに雷が横一線に流れ魔物を焼き尽くす。

 一瞬の輝きと雷の余波が残り、焼き残された餓鬼の残骸だけが取り残される。

「……。」

 ディンはそれを見て何かを確信すると、転移を使いその場から消えた。


「父ちゃん……?」

 うたた寝をしていた竜太は、微かにディンの気配を感じ、目を覚ます。

「こっちの方から……。」

 ディンの気配がした方へ歩き出し、すぐにディンの気配が消えたことに気付く。

「あれ……?」

 気配は消えたが取り合えず、とそちらの方へと向かう竜太は、十分程歩くと、何故ディンの気配がしたのかがわかった。

「これ……。」

 死屍累々、餓鬼の屍が霧散していた、こんな事をするのも、こんな事が出来るのも、ごく一部の存在だけだろう、ディンが来て餓鬼の群れを倒した、と自然にそう考えられる。

「来てくれたんだ……。」

 嬉しい様な、悔しい様な、そんな感情が芽生える。

 助けに来てくれてホッとしたのと、自分達ではこの数はさばききれないだろうと思われた事だ。

 竜太自身、これくらいの量の餓鬼なら対処は出来るがしかし、皆を導けという言葉から、一人で戦うという選択肢を持てなかっただろう。

「……。」

 一人で戦えば良いだけだったはずなのに、ディンにはそれは出来ないだろうと判断された、確かに竜太自身、餓鬼が襲い掛かってきた事に気付いたら、皆を起こしていただろう。

 判断力が足りない、皆の力量から戦える相手を選べない、ディンに、そう言われた気がしてしまった。

「仕方ないか……。」

 トボトボと来た道を戻る竜太、その足取りは考え事からか重たい、パチパチと火の爆ぜる音が聞こえてきた頃には、少し時間が経っていた。

「皆さん……。」

 皆、すやすやと寝息を立てて寝ている、起こさない様にと、静かに移動する竜太。

「竜太か……?」

「だ、大地さん……。」

「目が覚めたのだが、お主がおらぬものでな……。少し気になっていたのだが、何かあったか……?」

「実は……。」

 竜太は語る、餓鬼が大量に現れそして、ディンが一人それを打ち倒したことを、まだ少し暗い表情をしていただろうか、焚火の光に竜太の顔は翳りを見せる。

「お主の父は強い………。しかし、お主の様に優しくはないのだな……。」

「そんなことは無いんです、僕達兄弟とかにはすっごく優しくしてくれるし、守ってくれるし……。」

「しかし……。それでは、お主が成長する機会を、奪っているのではないか……?」

 大地は、父が檀家にそうしていたように、諭す様に話をする、竜太の心が少しでも軽くなればいい、何か力になりたい、そう思って、父の真似事ではないが、大地なりの意見として、諭す。

「……。大地さんは優しいですね、でも大丈夫ですよ?」

「そうか……?儂には、そうは見えぬが……。」

「父ちゃんを超えようなんて、大仰な事考えてもししかたありませんから。」

 超えられない壁、それが竜太の中にはあるようだ、大地はそれを認識すると、どう言葉を続ければいいかわからなくなる、父の事を超えられない壁と思ったことがない為、中々共感出来ないのだ。

「……。寝ましょう、大地さん。明日はまた移動です。」

「そう、だな……。」

 この件に関してはこれでお終い、と竜太が寝るように言う。

 大地はいつもの竜太と少し様子が違う事に戸惑いながら、しかしそれには従った方が良いだろうと考え、また眠りにつく。

「……。」

 いつかは超えたい、そう願ったこともある、しかし、それは叶わぬ願いだともわかっている。

 自分は竜神と人間の間の存在、ディンは完全な竜神の、しかも王なのだから、超えたくとも、超えられない。

「寝ないでおかないと……。」

 今度はうたた寝をしないようにしよう、ディンに心配されない様にと。

 超えたいと思っていた時期の事を思い出すと、少し懐かしさを感じる、しかし、ディンもある程度は実力がついてきたから、今回連れてきたのではないか、と考えながら、夜は更けていった。


「ふあぁ……。」

「あ、蓮君おはよう。」

「竜太君、おはよ!」

 蓮が朝目覚めると、まだ皆寝ていた、竜太は焚火を絶やさず燃やしながら起きていて、蓮が起きた事に気付くと挨拶をする、蓮は固まった体をほぐす様に動かしながら、周囲を見渡す。

「昨日、お兄ちゃん来なかった?」

「え?なんで?」

「うーん、お兄ちゃんの技の気配?がしたんだけど……。気のせいだったのかなぁ。」

 蓮は寝ぼけていたのだろうか、ディンの放った技の気配を感じ取っていたようだ、竜太はそれに驚きつつ、蓮に説明をした。

「じゃあ、お兄ちゃんが助けてくれたんだ!」

「そうなるかな?父ちゃんが何とかしてくれたみたい。」

「後でありがとうって言わないとね!」

 こういう時、蓮は純粋だからある意味助かっているのかもしれない、捻くれないというか、自分が弱いという考えに至らない。

 ただ単純に、ディンが助けてくれたという事実に感謝している。

「早くお兄ちゃんに会いたいなぁ……。」

「楽しみ?」

「うん!また修行してもらうんだ!」

 強くなりたい、その為にはディンと修行をしたい、蓮の単純明快とでも言えばいいのだろうか、そういった思考が読み取れる。

「ふあ……。」

「あ、修平さんおはよ!」

「んー、おはよう、蓮君。」

 二人で話していたところに、修平が目を覚ます、ふああと欠伸をし、体をほぐす。

「座って寝るなんて初めてだったけど、意外と寝れたなぁ。」

「背中の傷は大丈夫ですか?」

「え?うん、もう痛みもそんなにないよ。」

 温暖な気候であるソーラレスだからか、空手着の背中が破れている事もそこまで気にはならない、少し涼しい風が吹けば、そういえば背中が破れていたなと感じるくらいだ。

 この国は温暖な気候だ、とは竜太は聞いていた、雨こそ降る事はあるが、気温としては平均値から大きく動く事が無い、穏やかに昼と夜の間で気温が違うだけで、一年間を通してあまり気温の差が無いのだ、とディンが何時だったか教えてくれた事を思い出す。

「ん……。皆さん、おはようございます。」

「ふあぁ……、結構寝れたな。」

 次に清華が起きて、その声に俊平が目を覚ます。二人とも体が固まっている様で、肩や腰を動かし体をほぐす。

 そんなことをしているうちに、大地も目を覚まし体をほぐしていた。

「さあ、移動しましょう。」

「そうですね、急ぎましょう。」

 焚火の火を消すと、竜太と蓮が先頭に立って歩き始める一行、竜太は探知をしながら進むが、魔物の気配は感じられない。

 急ぎではあるが、安全に移動が出来そうだな、と竜太は一人ホッとした、探知に引っ掛からない魔物だとしたら意味はないが、魔物として探知するのではなく、人間として探知する事によって、餓鬼を探知出来るかもしれない、と。


「ここですかね?」

「港だー!」

 それから数時間後の昼頃、街に着いた一行は、船の姿を見て港町だと判断した。

街並み自体は西端地区とあまり変わらなかったが、遠目に見て船が見える。

「今からでも船出てるかな?」

「どうでしょう、聞いて見ましょうか。」

 街に入ると、やはり周りは僧衣ばかり、船はジパングで見た物より少し小型で、しかし蒸気船である様だ。

 ソーラレスから出る人というの自体が珍しいのだろうと考えられるが、遠めに見てもこれでドラグニートまで行けるのかが少し不安を感じる、世界地図を確認すると、軸の世界で言えば小規模な太平洋を横断する様な物なのだから。

「あの、今日って船出ますか?」

「はい、今日の便は最終便が残っていますよ。」

 街の入り口に立っていた、門番の様な人物に竜太が話しかけると、丁寧な答えが返ってくる、取り合えず船には乗れそうだとホッとした一行だが、もう一つ問題があった。

「船に乗る料金って、一人どれくらいになりますか?」

「御一人辺り四十シルバーになりますね、六名なので二ゴールド四十シルバーになります。」

「そうですか、足りるかな……。」

 竜太はずた袋の中身を確認し、四ゴールド程とシルバーが少し入っている事を確認する。

「足りそうですね、早く港に行きましょう。」

「またお船乗れるの楽しみだね!」

「そうだね、急ごうか。案内、ありがとうございます。」

 門番に礼を言うと、さっさと港へ向け歩き始める一行、街自体が小規模で、あまり人間もいない様子が伺える。

 あまり栄えてはいない様で、ちらほらと人がいるがあまり活気はなさそうだ。

「人が少ないのは何故でしょう?ジパングの港街は活気がありましたが……。」

「ここから旅立つ人も、ここに来る人も少ないからじゃないですかね?ソーラレス自体あまり他国との交流は無いって話だったような……。」

 実際の所、ソーラレスから他国に行く人間は極端に少ない、仏門の布教の為に旅立つ高僧がいたり、他国の文化を学びに行く学者がいる程度だ。

 逆にソーラレスに来る旅人や学者、他国からの干渉や交流も少ない、鎖国している訳ではなく、交流が少ないだけなのだが、こうして船が出ている事自体、基本的には食料などの輸出入が主だった理由だろう。

「取り合えず船に乗ってドラグニートに向かいましょう、どれくらいかかるかわからないけど……。」

「時間はねぇんだ、急ごうぜ。」

 あっという間に船着き場に着いた一行は、船のすぐ近くに立っていた僧に向け声をかける。

「あの、ドラグニートまで行きたいんですけど、ここからで行けますか?」

「はい、ドラグニート行きの船はこちらです。六名様ですので、二ゴールド四十シルバーになります。」

「はい、これでお願いします。」

「ではこちらへ、出発の時間まであと少しですので、船内でお待ちください。」

 渡り板の方を僧は差し、そちらに行くようにと伝えてくる、一行は渡り板から船に乗り、甲板で出港を待つ、船の出港時間ぎりぎりだった様で、すぐに渡り板が外される。

「船が出るぞー!」

 船頭の声が響き、蒸気機関特有のシューっという音がする、蓮が音の方を見ると、船の後ろの方の煙突から、煙が上がっていた。

 ゆっくりと発進する船は、徐々に徐々に陸から離れていった。


「そろそろあっちも移動開始したかな、俺達も行こうか。」

「……。さようなら、エド、ベアト、レジナ。貴方達の事は、忘れないわ。」

「もういいのか?」

「えぇ、弔いは済ませたわ。私は私に出来る事をする、それはこの世界の狂った戦争を止める為に、清華さんを育てる事よ。」

「……。宝玉、持っていかなくていいのかい?」

「この子達のいた世界はここよ、この子達の生きた証は、私が心に留めておくわ。」

「そっか、リリエルさんがそういうならそれでいいんだ。」

「……。行きましょう、ディン君。」

「そうだな。」

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