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聖獣達の鎮魂歌~Requiem~  作者: 悠介
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9話 蓮と修平の回復

「ふあぁ……。」

 朝が来た、竜太が目を覚ますと、俊平と大地の姿が見えず、清華がまだ寝ていた。

「あれ、大地さん達どこ行ったんだろ……?」

 探知魔法を寝ぼけ頭で使うと、どうやらすぐ近くにいる、というよりも、建物の中にはいるようだ。

「ご飯かな?」

 先に朝食を取りに行ったのだろうと考え、浴衣からウィンドブレーカーに着替え始める竜太は、浴衣を脱ぎアンダーシャツを着る。

「ふぅ……。竜太君、おはようございます。」

「あ、清華さん……!おはよう、ございます……。」

 アンダーシャツを着ているとは言え、肌着にズボンという姿を見られてしまった、そんな経験を異性としてこなかった竜太の顔が、ポッと赤くなる。

「竜太君はよく鍛えているんですね、素晴らしいです。」

「あ、えっと……。ありがとう、ございます……。」

 伊達に今までも魔物と戦ってきたわけでは無い、竜太は筋肉がとても発達していた。

 タイトなアンダーシャツから、腹筋が割れているのが見え、そして腕も太い、とても十三歳とは思えない、完成された肉体とでも言えば良いだろうか、昨日大地の半裸を見た清華にとっては、もうそれくらいでは動じないとでも言えば良いのだろう。

「私も着替えがしたいので、先に食堂に行って頂いてもいいですか?」

「は、はい……。」

 ウィンドブレーカーの上を着ると、竜太は顔を赤くしたままそそくさと部屋を出ていく。

「さて……。」

 浴衣を脱ぎ、着替え始める清華、旅に出始める前よりも少し発達した筋肉質な体が、露わになっていく、そして肌着の上に稽古着を着て、袴を履き、帯を締め、胴を着ける。

「これでいいですね。」

 髪を軽く手櫛で整え、うなじの所で結ぶ、いつもの清華の姿になり、刀を腰に差すと朝食をと食堂へと向かった。


「皆さん、おはようございます。」

「お、起きてきた。」

「……、おはよう……。」

 清華が朝食を食べに食堂に降りると、もう食事を終えていた修平と大地に、朝食を食べている竜太がいた。

 厨房から給仕の人間が清華に朝食を出し、清華はそれを食べながらこれからの事を話し始めた。

「蓮君と修平さんを迎えに行ったら、もうそのままマグナへ向かう形になりますかね?」

「それなんですけど、昨日父ちゃんと会いまして、一旦ドラグニートに向かう事になりそうです。」

「神様の戦争止めなきゃならねぇんじゃねぇのか?他の国行ってる余裕あんのか?」

「それが……、今のままじゃ戦力不足と言われました……。」

 ばつが悪そうに語る竜太、その表情は少し険しい、確かに実力不足なのは正しいが、ここにいる三人がそれを納得するかどうか。

「俺達弱いって事か?あんだけ修行して、マグナに送る予定だったってのに?」

「そういう、事になりますね……。」

「なんだよそれ……。俺達だけで戦えとか言っといて、それで実力不足とか……。」

「しかし俊平さん、確かに魔物相手にこの状態では神々には勝てません。」

 俊平は納得がいかず、清華は納得している様子だった、大地は何も言わないが、様子から見るに現状を把握していそうだ。

「俊平さん、私達が死んでしまったらそこで終わりなんですよ?万全を期して挑むべきでは?」

「じゃあ清華、てめぇは弱いって言われてハイそうですかって納得できんのか!?送り出す、とか言われてよ!そんでやっぱ実力不足だ、なんて言われて納得できんのか!?」

「悔しいですが、それが現実です……。今のまま行っても、殺されてしまうのが関の山でしょう?」

「……、ふざけんなよ……。俺だって頑張ってやってきたのによ……!どいつもこいつも……!」

 苛立ちを抑えられず、腕を組み舌打ちをする俊平、何故そこまで苛立っているのか、それは俊平の過去に起因する事だった。

 努力して父の後を継ごうとしていたけれど、出来損ないと言われていた日々、そんな日々と、今この瞬間が重なっているのだろう。

「俊平さん、貴方は死にたいのですか?」

「んなわけねぇだろ!でもむかつくんだよ……!」

「感情論で動いていたら、死んでしまうだけです。今私達はこの世界の命運を預かっているんです、冷静になってください。」

「ちっ……、良い子ちゃんの優等生には俺の気持ちなんざわかんねぇだろうよ…。」

 苛立ちからか、言葉を選ばない俊平、俊平からしたら、若き師範代という清華の立場は、優等生に見えるだろう、自分を劣等生だと考えているから、尚更そう思ってしまうのだろう。

「若き師範代だかなんだか知らねぇけどよ、俺はてめぇと違って出来も頭も悪いんだよ……!」

「……。私が好きで、師範代になったと思っていますか?」

「あん?」

 俊平の言葉に、苛立ちの意味をなんとなく察した清華、その言葉の刃に苛立ちを感じなかったわけでは無かったが、しかし今は怒りを表に出す気にはならなかった。

「私は、鈴ヶ峰家に生まれた者の女性として、華道を志すつもりでした。母がそうであったように、母の様に。しかし、母は私が五歳の時に亡くなりました、病死です。跡継ぎのいなかった鈴ヶ峰家は、私を師範代にするしかなかったのです。したかった、なりたかったではなく、そうする他血族を絶やさずに道場を続ける手段が無かったのですよ。分家の人間は継ぐ気が無かった、跡を継げるのは私だけでした。」

「だから、なんだよ。」

「私だって好きで師範代になったわけではありません。父の厳しい指導に耐え、己の欲と憧れを滅し、やってきたのです。才能に恵まれた訳ではありません、努力してきたのです。貴方は、自分には才能が無いと諦め、止めただけではありませんか。誰に才能が無いと言われようが、努力を続ければ結果は変わったはずです。」

「……、それと今の状況に繋がりでもあんのかよ……。」

 清華は背中をぴしっと伸ばし、真っ直ぐに俊平の目を見ながら語る、俊平は話の意図がいまいち見えず戸惑っていて、大地と竜太は黙って聞いていた。

「今貴方がしようとしているのは、ただの自殺未遂だと言っているんです。己の我や我儘、自己中心的な被害妄想で、世界までも滅亡の危機に晒しています。それが、貴方にとって正解なら止める事はしません、ただ、貴方にも夢はあるのでしょう?」

「……。」

「私だって悔しいです、実力不足と言われてしまって。しかし相手は神、私達に実力不足と言ったディンさんもまた神なのです。私達よりもずっと長い時を生きて、色々なものを見てきた方なんです。そのディンさんが実力不足だと私達を判断した、それは受け入れなければなりません。」

「……、儂も、悔しい……。しかし……、このままでは、負けるだけだ……。」

 清華が一通り話した所で、大地が口を挟む、大地も悔しいとは感じていた、仮にも修行を重ねてきたのだから。

 しかし、事実として蓮と修平は毒に侵され、自分達はどう足掻いても実力が足りていない、今マグナに行き神と戦えば、確実に自分達は負ける、だから、冷静にならなければならない。

「……。わあったよ……、俺が悪かった。昔言われてた事思い出して、イラついた。でも、そんなこと言ってる場合じゃねぇんだよな……。」

 二人に諭されたからか、少し冷静になる俊平。

 冷静になってみると、ディンの言葉は至極正しい、今マグナに行っても、返り討ちが関の山だろうと考えられる。

 それほどに、まだ自分達は未熟で弱いのだ。

「これ食ったらさっさと二人迎えに行こうぜ、時間はねぇことに変わりはねぇんだ。」

「そうですね、急ぎましょう。」

「この街の南に港町があるそうです、そこに急ぎましょう。」

 三人のやりとりを聞いて、ホッとする竜太、俊平が一人で先走ってマグナに向かおうとしたら、そしてそれを止められずに俊平が死んでしまったら、どうしようかと考えていたからだ。

「二人とも、良くなっていると良いですね。」

「そうだな……。」

「親父さんからなんか聞いてねぇのか?そこら辺の事とか。」

「うーん……。……、ドラグニートに来るようにとしか……。」

 竜太は一瞬、天野の事や餓鬼の事についていうか悩む、しかし今知る事ではないだろう、とそれは言わなかった。

「じゃ、さっさと行こうぜ。」

「はい、行きましょう。」

「……、うむ……。」

 話がまとまると、急いで朝食をかき込む竜太と清華、早々に食事を終え、宿を出ていった。


「ん……、朝……?」

「起きたか、調子はどうだ?」

「えっと……、天野さん……?俺、毒にやられたんじゃ……。」

「解毒したんだよ、間に合ってよかったじゃないか。」

 天野の住処にて、目を覚ました修平、毒に侵されていたからか、昨日の晩解毒薬を飲まされた事がうろ覚えの様だ。

「解毒……、痛って……!?」

「背中の傷は残ってる、まだ完全にふさがってない。傷用の軟膏は塗っておいたが、痛むだろうさ。」

「そ、そうなんですか……。」

 起き上がろうとすると、背中に痛みが走る、そういえば背中を斬られたか、と昨日の戦闘を思い出す修平。

 ゆっくりと、傷が痛まない様にと体を起こす。

 と言っても、対した痛みではない、初めて経験した類の痛みだから、という理由で過剰反応をしてしまっただけだ、と自己完結をする。

「蓮君も解毒出来たんですか?」

「あぁ、二人分足りたからね。」

「良かったぁ。」

 周りを見れば、隣で蓮が寝ていた、呼吸は落ち着いていて、解毒出来たと言う事で安心だ。

「みんなは?」

「宿に泊まってもらっているよ、もうすぐ迎えに来るんじゃないか?」

「そうだったんですか……、ってお金俺が持ってたのに大丈夫だったのかな?」

「君の服を脱がせる時に懐に入っていたからね、それを渡したよ。」

 そういえば、と自分の体を見ると、空手着の上は脱がされ包帯が巻いてあった、空手着の懐にずた袋を入れていたから、まあ見つかるかと修平は考える、それを竜太か誰かに渡してくれたのだろう、でなければ、四人は一文無しだったのだから、と。

「ふあぁ……。」

「あ、蓮君おはよう。大丈夫?」

「修平さんおはよ!もう大丈夫だよ!」

 そこに蓮が起きて、にっこりと笑いながら修平に挨拶をする、毒は完全に解毒されたのであろう、腕に包帯が巻いてある以外は何ともなさそうだ。

「蓮君と言ったか、君の方は傷も少しずつ治ってきてるみたいだな、良い回復力だ。」

「そうなの?」

「常人の回復力じゃない、何か特別な力が君の中にはあるみたいに見えるな。」

「デインさんの力だ!」

 特別な力、と聞いてパッと出てくる単語がデイン、蓮の中にはデインの力が流れている、それによって傷の回復が早くなっているのだろう、と。

「デイン?この世界の守護神と君は何か関係があるのかい?」

「うん!僕はデインさんの力を借りて戦ってるんだ!」

「ほほう、彼の守護神が人の子に力を与えるとは……。」

 天野は蓮の言葉を聞き、興味深そうな反応を見せる、デインについて何か知っている様で、何故蓮に力を与えているのかを見ている様だった。

「君はデイン神に会った事があるのかい?」

「ううん、お兄ちゃんが教えてくれたんだ!デインさんが力を貸してくれて、そのおかげでお兄ちゃんと会えたんだって!」

「お兄ちゃん?それはどんな人なんだい?」

「ディンお兄ちゃんっていうの!竜神王っていう、凄い人なんだよ!」

 竜神王、という言葉を聞き、天野は考えこむ素振りを見せる、何か知っているのだろうか?と横で見ていた修平はそう感じる。

 まあディンはこの世界も守っているとは言っていたから、知っていてもおかしくはないか、と考える。

 天野が伝承に詳しい人間だった場合、竜神王の伝承を聞いた事があってもおかしくはないのだろう、と。

「竜神王か……。」

「どうかしたの?」

「いや、何でもないんだ。さあ、皆が来る前に準備をしておくんだ。」

「はーい!」

 天野はそういうと外に行ってしまい、蓮と修平二人きりになる、修平は脱がされていた道着を着て、蓮は立ち上がり背中と腰に剣を背負う。

「そういえば聞いてなかったけど、その剣って蓮君使えるの?」

「え?これね、デインさんの剣なんだって。お兄ちゃんが、いつか使える日が来るよって言ってたの。」

「へー、じゃあ元々はデインさんが使ってたんだね?」

「そうなんじゃないかなぁ?」

 良く見ると、修平にはかっこいいと思える様な形をしている剣だ、鍔の少し先の部分には紅い宝玉が填まっていて、鞘の手元には金色の竜が炎を噴いている細工がされている。

 蓮の膝下程までの長さがあるから、中々使うのは大変そうではあるが、ディンがいつか使えると言ったからには使える日が来るのだろう、そう考えられる。

「修平さん、背中斬られたの?服に穴空いてるよ?」

「あの魔物にやられてね、でも少し痛いだけだから大丈夫だよ。」

「そっかぁ。でもあの魔物、なんだったんだろう?」

 人間に似ていた魔物に、疑問を浮かべる蓮、あの場では戦えたからまだよかったものの、これから先人間相手に戦えるかと言われると不安が残る。

 しかし、ディン曰くマグナに到着したら、人間とも戦わなければならない事になるという話だ。

「なんだったんだろうね、俺もわかんないや。」

「でも、倒せたから良かったね!」

「そうだね。」

 修平は本能的な何かで、あれは人間なのではないかと考えていたが、蓮にそれをいうのも少し違うかと黙っていた、結局の所、マグナに着いたら人間と戦う事になる、ならば今のうちに覚悟を決めておいた方が良い、と。

「さあ、みんなが迎えに来るまでに準備済ませちゃお。」

「うん!」

 蓮と修平は身支度を整えると、天野の住処を出た。


「おーい!蓮くーん!」

「あ!竜太君!」

「蓮君、もう毒は大丈夫そうだね!」

「うん!」

 天野の住処を出ると、丁度竜太達四人が迎えに来た所だった。

 竜太が蓮の元に駆け寄ると、二人はハグをして喜び合う、四人はその姿を見て、もう蓮は大丈夫そうだなと判断出来た。

「修平、ダイジョブか?」

「うん、迷惑かけてごめんね。」

「迷惑じゃねぇよ、仲間だろ?」

 申し訳なさそうな修平に対し、少し恥ずかしそうに答える俊平、二人は握手をし、互いの無事を確認する。

「では行きましょう。と、天野さんはどちらへ?」

「俺はここだよ、お嬢ちゃん。治療費は結構だ、急ぎの用なら行くと良い。」

「え?治療費いらないんですか?」

 天野が木陰からひょっこりと現れ告げると竜太が驚く、ずた袋から幾ばくかのお金を出そうと、そう考えていたからだ。

「君達は聖獣の守護者だという話を聞いたからね、それに蓮君は守護神デインの力を使う事も。何が起きているのかは定かじゃないが、この世界の危機なんだろう?」

「え、えぇ、まあ。」

「ならば金はいらない、早く行くと良い。」

「あの、ありがとうございます。」

 天野は訳知り顔で金銭がいらない事を告げ、竜太は何かを察しそれに甘んじる、天野は破門された人間ではない、というディンの言葉を思い出し、それらを結びつける。

 考えるのが少し苦手な竜太でも、わかる程度にはディンと天野はヒントを残していた。

「じゃあ、僕達行きます。ありがとうございました。」

「あぁ、頼んだよ。」

「はい。皆さん、行きましょう。」

「天野さん!ありがとー!」

 竜太が先頭に立って、立ち去る六人、南へと向かう一行を、天野は心配そうとも取れる表情で見送っていった。


「この後はマグナに向かうんだよね?」

「いえ、ディンさんから言伝があったようでして、ドラグニートという国に行くことになるそうです。」

「なんで?」

「……。私達は、まだまだ未熟だと。このままでは勝てないと、竜太君はそう言われたそうです。」

 川沿いに南へと向かう最中、修平が疑問を口にする、それに対し清華が少し悔しそうに答えると、修平は少し顔を歪ませた。

「俺達、弱いんだ……。」

「魔物相手に手こずってる様じゃ、神様にゃ勝てねぇって事らしいぜ。」

「……。仕方ないよね、俺達魔物相手にあんな感じだったんだし……。」

 修平は悔しそうに握り拳を作り、震えさせる、しかし、自分は魔物の毒にやられてしまった身、それに嫌だとは言えなかった。

「それじゃ、またお兄ちゃん達と会えるの?」

「そうだよ、父ちゃん達と合流するんだってさ。」

「やったー!」

 悔しそうにしている四人を他所に、嬉しそうな顔をする蓮は、弱いと言われた事よりも、またディン達と旅が出来る事の方が嬉しい様だ、ルンルン気分で先頭を竜太と歩き、はしゃぐ。

「お兄ちゃん達、今どうしてるのかな?」

「どうしてるんだろう、聞くの忘れちゃったや。」

「元気だと良いなぁ!」

「そうだねぇ。」

 まあディン達なら何処にいても平気だろう、と竜太は一人考えていた、ディン、リリエル、ウォルフ、外園、セレンと精鋭揃いなのだから、自分達と違い困ることもなく、何処かで悠々自適に過ごしているのだろう、と。

「急いで南の港街まで行こう、父ちゃん達待たせるのも悪いし。」

「うん!」

 六人は急ぐ様に南へと歩を進め、港街へと向かった。


「俺達もそろそろドラグニートに向かわないとな。」

「お、どしたんだディン?独り言なんて喋ってよ。」

「蓮達がそろそろドラグニートに向かいそうだからさ、俺達もと思ってな。」

「合流するとか言ってたっけか、あいつら凹んでたんじゃねぇか?」

「俊平君は怒ってたな、清華ちゃん達は悔しがってた。」

「はは、俊平らしいな。っとまた戦闘か?」

「ここは紛争地域だからな、いつ戦闘が起きてもおかしくないさ。」

「止めなくてもいいんか?世界守んのが仕事なんだろ?」

「……。戦争自体は人々の営みだ、俺達竜神の関与する事じゃ無いんだ。」

「そうなんか。」

「そうなんだよ、リリエルさんには申し訳ないけど、移動するか。」

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