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聖獣達の鎮魂歌~Requiem~  作者: 悠介
弐章 修行の日々 そして

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7話 旅の始まり

「よし、出発だ。」

 外園邸玄関前に全員が揃い、ディンが音頭を取る、全員旅支度はばっちりといった風で、各々気合を入れる。

 外園は屋敷の扉に鍵を掛け、長旅だなと考えながらポケットにしまう。

 すると、屋敷自体に結界が掛かったのか、それは知っている者以外に関しては認識不可能、な状態になる。

「港町まではどうやって行くの?」

「馬車を用意してもらってるから、それで移動しようと思ってるよ。」

 蓮の疑問に答えるディン、各陣営は徒歩では無い事にホッとしているようだった。

 徒歩や馬だった場合、どれ位の時間が掛かって、どれ位の労力を要するか、と想像するとげんなりしてしまう、と感じていた。

「じゃあ出発しようか。」

「うん!」

 ディンと蓮が先頭を歩き、その後ろを各陣営が続く。

「みんなで旅するの、楽しそう!」

「そうだな、旅ってのは色々見れるから楽しいぞ?」

 とても、これから神を討ちに行くとは思えない空気、そんな空気がディンと蓮の間には流れている。

「あれで俺らん中で一番つえぇってんだからホントよ……。」

「まあそういうなよ、蓮だって半年頑張ってきたんだ。」

「たった半年ってのがまたよ……。」

 その後ろを歩く、セレンと俊平、俊平がぼやくと、セレンは苦笑いで答える。

「わくわくしますね!」

「hahaha!お前さんのそういう所、嫌いじゃないぞ!」

 その横を修平とウォルフが歩く、修平は初めての船旅にわくわくしている様子で、ウォルフはそんな修平に笑いかける。

 この二人の間にも、これから神殺しをしに行くような空気は流れていない。

 神を鎮める、という役割を持っているとは思えない、神を咎めに行くとは決して思っていない、そんな感覚が修平の中にはあった。

「……。」

「緊張してるのね、まあ当然かしら。」

 そんな二組の後ろを歩く、リリエルと清華、清華の表情は険しく、緊張している空気が感じられる。

 それは、ある意味正しい反応だろう、何せ、今から自分達は神話に残っている神々と戦いに行くのだから。

「竜太よ……。」

「はい、なんでしょう?」

「神とは、恐ろしいのだろうか……?」

「そう、ですね。」

 実際自分もその神に分類されるが、しかし他の神には会った事も見た事もない、だから憶測でしか言えないが、きっと恐ろしいのだろう。

 戦争を起こしているのだから、優しいとはとてもではないが思えない。

 事実、マグナの神の使者、と呼ばれる人間達は、大地達が訪れた最初の村を壊滅させていた、そして修平と清華の訪れた村を滅ぼそうとしていた。

「お兄ちゃん、楽しいね!」

「そうか、それは良かったよ。」

 そんな聖獣の守り手達の心情など素知らぬ顔で、歩きながら蓮は笑う、初めての大人数での旅、そもそもが初めての旅、それは楽しくて、わくわくしてたまらないといった感じだ。

 先頭を歩きながら、蓮は時々くるりと後ろを振り返り、仲間達を見やる。

「みんなは楽しくないのかな?」

「そんなことないと思うぞ?ただ、緊張してるだけさ。」

「そっか!」

 ディンに言われた事をそのまま受けいれる蓮、また前を向くとルンルン気分で歩く、今は山の五合目を歩いており、まだ麓まではかかりそうだ。

「そういえば、みんなは送り終わったらどこいるの?」

「元居た所に帰るんだよ、それぞれがいた場所に。」

「それって僕達がいた世界?」

「さあ、な。」

 誤魔化すディン、流石にこれは言えないという風だ。

 蓮はえーっと頬を膨らませるが、まあ今に始まったことじゃないと気を取り直し、歩みを進めた。


「さて、ついた。」

「馬車ってこれぇ?」

「そうだよ、これに乗って港町まで行くんだ。」

 麓に着いた一行は、待っていた馬車の近くまで歩みを進める。

「おぉ!外園さんじゃないか!あんたも旅に出るのかい?」

「えぇまぁ、彼らに同行する事になりまして。」

 御者と顔見知りなのか、外園が声を出す。

 御者はあまり山から降りてこない外園を、物珍しそうに見つめる。

 と言っても、御者と会わないというだけで、二週間に一度は麓の村には出てくる、村の人々は、外園がいてもざわつかない、外園と関わり慣れている、と言うのもあって、別段騒ぐ事もなかった。

「それで、今回の旅のお供は大勢いるんだな!」

「そうですねぇ、私と彼らを港町までお願いしますよ。」

「また長旅か?お前さんも旅が好きだねぇ。」

 ささっと馬車に乗る外園と、竜太を除いた指南役達。

「竜太はそっちの方が気楽だろうから、そっちに一緒に乗りな。」

「うん。」

 馬車は二台あり、もう片方に聖獣の守り手達と蓮、竜太が乗る。

「では、お願いします。」

「あいよ!まかしとき!」

 御者が手綱を振るい、馬が走り出した。

 旅立ち、別れ、それらを内包した旅が、今始まったのだ。


「竜太君は旅とかしたことあるの?」

「ううん、これが初めてだよ?」

「じゃあ、僕と一緒だ!」

 聖獣の守り手達の馬車にて、竜太と蓮は楽し気に会話をしていた。

 年の近い二人は仲が良く、蓮にとってはディンを除き一番心を開いているのは竜太だろう、だからなのか、二人は良く喋るし、よく遊ぶ。

 互いに、幼い頃から遊ぶ事をあまり許されなかったというのも、共通点かもしれない。

「竜太、だっけ。あんたはディンと関係あんのか?」

「僕と父ちゃんは同じ竜神なんですよ、見た目は全然違うけど。」

「じゃあ、君も戦ってたって事?」

「そうですよ、僕もずっと父ちゃんと一緒に戦ってきました。ただ、こう異世界に連れてこられるのは初めてですけど。」

 へーっと同時に唸る俊平と修平、大地はもうあらましは聞いていたから何か聞こうとはしない。

「まってください、見た目が全く違うのは何故なのですか?」

「父ちゃんは竜神と人間のハーフ、僕は竜神と人間の魂が一つになってるから、違うんですよ。」

「……?」

「まあ、似てないけど親子って事です。血は繋がってませんけど、魂で繋がってるんです。」

 理解出来ないだろうな、と竜太は苦笑いしながら話す、自分も最初は理解出来なかった、生みの親という認識程度のものだったから。

 だから、理解するのには時間がかかるだろうと、そう考える。

 実際、竜太自身も魂が親子、という認識しか出来ていない、リュート・ライラ・アストレフと呼ばれる竜神が自分と融合している事、という認識ではなかった、人間と竜神の魂を一つにした存在、と言っても、元となった竜神がいて、という認識は出来ていなかった。

「そういえばお兄ちゃんは最後までいるって言ってたけど、竜太君は帰っちゃうの?」

「ううん、僕も最後までいるよ。それが竜神の役目だし、父ちゃんの事見て勉強しなきゃだし。」

「そっか!」

 嬉しそうな蓮、竜太と最後まで一緒に居られるというのが余程嬉しいようだ。

「みんなは帰っちゃうからなぁ……。」

「寂しい?」

「うん……、せっかく会えたのに……。」

 今度はしゅんとする蓮、聖獣の守り手達はそれを見て考える。

 自分達もこの戦いが終わったら帰る、しかし蓮はどうなるのか?肉親を殺しここにやってきた蓮に、帰るべき場所はあるのか?それとも、この世界で生きていくことになるのか、と。

「帰ったら、何がしたい?」

「僕、帰る所ないから……。」

 修平がそれを口にすると、蓮は暗い顔をする、やはり帰る場所がないのか、と修平も暗い気持ちになってしまう。

「父ちゃん、蓮を家に迎えるかって言ってたよ?僕達と一緒に暮らす事になるんじゃない?」

「ほんとぉ!?」

 そんな所に竜太が口を挟む、ディンから伝えられていた為、てっきり蓮自身にも言っているのかと思っていたから、それに驚く。

 蓮は蓮で、自分がディンや竜太と一緒に暮らせるかもしれないという事を知り、目を大きく見開いている。

「良かったわね、蓮君。」

「うん!」

 清華が笑いかけると、にっこりと笑う蓮、心底嬉しそうな顔に、思わず心がほっこりとする一行、一瞬緊張が少し和らぎ、安心感を得る。

「蓮、てめぇは一番つえぇんだから頑張れよ?」

「俊平君、そうやって蓮君に押し付けようとしてない?」

「そんなことねーよ!ただ、事実だろ?」

 修行に明け暮れていた為、ろくに交流もなかった聖獣の守り手達だったが、少しは交流を持っていた。

 特に俊平と修平は、互いにコミュニケーション能力が高いからかすぐに打ち解けた。

「……。」

「ほら、大地君もなんか言ってやってよ!」

「……。」

 一方の大地はというと、あまりコミュニケーション能力が高くないからか、まだ打ち解けられていない。

 竜太と話す時は少し流暢になるが、しかし他の人間とあまり話そうとはしなかった。

「俊平さん、貴方そのような心構えでやっていけるのですか?」

「かーっ!委員長さんは真面目過ぎやしねぇか?」

 そして清華、清華は、蓮に対しては柔和な態度を取っているが、基本おちゃらけている俊平には当たりが強い。

 修平に対してもそこまで柔和な態度を取ることもなく、大地に関しては喋ったこともほとんどない、こんな仲間でやっていけるんだろうか?と竜太は一瞬不安を覚えてしまう。

「竜太君、そういえば竜太君ってお兄ちゃん以外に家族居るの?」

「うん、双子のお兄ちゃんが一人と、お兄ちゃんが一人、弟が四人いるよ。」

「へー!僕より年上?」

「えーっと、一番上のお兄ちゃんが大地さん達と一緒で、僕と血の繋がってる弟が蓮君の一個上で、下から二番目と三番目がまだ十歳、一番下はまだ七歳だよ。」

 蓮はそんな大人数の中に自分が加わわれるのかと、わくわくする。

 家族が増える、しかも大好きなディンと一緒に、とても魅力的な話だ、わくわくを通り越してドキドキする。

「どんな人たちなの?」

「そうだなぁ……。」

 蓮に竜太が兄弟の説明をして、蓮が一回一回驚く、その姿を見て、聖獣の守り手達はなごむのであった。


「ディン君、マグナに直接乗り込んだところで彼ら、勝てるのかしら?」

「さあ、な。でも勝ってもらわないと困る。」

「そうね、貴方からしたらそうでしょうね。」

 一方の指南役達の馬車。

 黙っていたリリエルが、口を開いて疑問を漏らす。

「みんなからしても困るよ、ウォルフさん除いて。」

「何故かしら?」

「この世界群の中で、一つの世界の破滅は、全ての世界の破滅を意味するからだ。外園さんは勿論、リリエルさんやセレンの居た世界も滅びる。」

 成る程、だから自分達を招集したのかと、リリエルは一人納得するが、セレンは驚いていた。

「俺達の世界も滅びるって、なんでなんだ?」

「それは先代の竜神王しか知らない、そういう仕組みにしたのは先代だ。俺もなんでかは聞かされてないし、聞く時間もなかったからな。」

「なる、程……。」

 それ以上答えるつもりはなそうなディンと、驚きで声が出なくなってしまっているセレン。

「だから私達も急ぐ必要がある、とディンさんは仰られていましたねぇ。」

「そ、そういう事。これはみんなに関わりがある事だから、みんな頑張ってもらわんと困るわけだ。」

 ただ、相変わらずウォルフがこれに加担する理由はわからないが、とディンは腹の内で考える。

 まあ、今の所は敵対せず友好的だから、様子を見るかと。

「ん?何か心配事かね?竜神王サンよ。」

「いや、あっちの馬車の方はギスギスしてねえかなって思ってな。」

「成る程、若者達の心配という訳か。」

 ウォルフにそれを勘ぐられてはいけない、最悪戦わなければならない相手なのだから。

 ディンはとぼける様に笑い、もう一台の馬車を見やった。


 半月後、道中特に何か起きることもなく、港町にたどり着く一行。

 ディンがまず馬車から降りると、蓮が隣の馬車から飛び降りてきた。

「海の匂いする!」

「そうだなぁ。」

 蓮にとって海の匂いというのは懐かしく、忌まわしくもある記憶だ。

 いじめられていた、虐待されていた日々の中で、嗅いでいた匂いだから。

 しかし、なぜかその日々を懐かしんでいる自分もいる、不思議だ、と蓮は心の内で呟く。

「ここが、港街?」

「ずいぶんと文明が進んでいるのね、ここだけ。」

 清華やリリエル達は、港町と言ってもまだ文明が未発達な所だろうと考えていたから、驚く。

 街には蒸気機関車が走っており、何処か近代的な煉瓦の建築が立ち並んでいた。

 街を歩いている人達の服装も簡素な和服ではなく、洋服だ。

 それも相まって、清華や大地の恰好が逆に浮く、ジパングらしい訳でもないが、和服に近い清華と大地の恰好は、この街では見かけない。

「ここはジパングで唯一他の国と交流がある、だから文明が進んでるんだよ。」

「機関車だ!」

「そうだな、蒸気機関なんかはドラグニートからの輸入だな。蓮、街の様子でも見て回るか?」

「いいの!?」

 蓮は初めて生で見る蒸気機関や、近代的な街並みを見て目を輝かせている。

 今が正午過ぎ、昼を食べてからだと今日の船には間に合わない、そう判断したディンは、蓮を連れて街を探索しようかと提案する。

「みんなそれぞれ、街を見て回るといいよ。宿は一か所しかないから、すぐわかるし。」

「私は先に宿で休ませてもらおうかしら。」

「俺、街見て回りたい!」

「俺も!」

 リリエルやウォルフ達指南役は昼食を取ってから宿へ、聖獣の守り手達とディン、竜太は街を見て回る事になりそうだ。

 ともあれ、まずは昼食だとディンが飯処を探す。

「あれ、ご飯屋さんじゃない?」

「お、良く見つけたな蓮。」

「えへへ、良い匂いしてきたから!」

 街の入口すぐ近くに、飯処と書かれた暖簾を蓮が見つける。

「じゃあ、お邪魔しようか。」

「おー!」

 朝早くから動いていて空腹だった一行は、ぞろぞろと飯処へ入っていった。


「さて、探索と行こうか。」

「機関車乗りたい!」

「お、良いなぁ。」

 昼食を食べ終わり、探索組と休息組に別れた一行は、休憩組を宿まで送り、宿を何部屋か予約してから、探索に出た。

 蓮が機関車に乗りたいと言う事で、まずはと駅にやっていた一行、なんやかんや機関車に乗るのは全員初めてで、各々わくわくしている。

「おう兄ちゃん達、珍しい恰好してんな!機関車乗るかい?」

「あぁ、一周頼む。」

「あいよ!七シルバーになるぜ!」

「ほい、これでいいかな。」

 機関車の乗り場にて、ディンと受付が話をする、ディンはお金をパーカーのポケットから出し、それを受付に渡した。

「一周、楽しんできな!」

 受付の男に言われながら、機関車に乗り込む七人、ポー!っという音と共に、機関車は発進した。


「わぁ!綺麗な海!」

「蓮君は海が好きなの?」

「うん!」

 街並みを抜け、海岸沿いを走る機関車の中で、蓮が目をキラキラさせながら海の景色に見入って、故郷である三宅島で見てきた海とは、だいぶ違うその青い海に心惹かれている、同じく海が近くだった家に住んでいた修平が、一緒になりながら目を輝かせていると、ふと蓮は思い出す。

「昔は、お父さんが海に連れて行ってくれてたんだ……。」

「そうなの?」

「うん、まだ小っちゃい頃だけど……。」

 それは、虐待が始まる前の記憶、まだ三歳くらいだった頃の、かすかに記憶に残っている出来事だ。

 今では考えられないほど、仲が良かった頃に、父親に肩車をしてもらいながら、見た海の事を思い出す。

「……。」

「蓮君……。」

 海を眺め追憶に耽る蓮に、掛ける言葉が見つからない、失ってしまった直接的な原因は蓮自身だとはいえ、しかしそれまでに行われてきた虐待、それを考えると、こうやって思い出に耽る姿を見ると辛い。

「蓮君、お兄さんに肩車してもらったらどう?」

「……、え……?」

「お、それくらいならいくらでもするぞ?」

 そんな蓮の姿を見て、清華は一つ提案をする、丁度機関車が海辺の駅で止まり、次の出発まで三十分程あるとのことだったからだ。

「いいの……?」

「あぁ、するか?」

「うん!」

 浜辺に降り立ち、蓮を肩車するディン、そんなディンの肩に乗せられて、蓮は懐かしい感覚にうっすらと涙を流していた。

「良かったな、蓮。」

「……、うん……!」

 暫くの無言の後俊平が声を掛けると、うっすらと流していた涙を止め、涙声で返事をする蓮。

「これが戦いの旅じゃなかったらなぁ、もっと楽しめてたんだろうけど。」

 少し間延びした声を出す修平、確かにそうだなと皆頷く。

「でも、違ったらみんなと会えなかったよ?」

「それもそうですね?」

 蓮がディンの頭上から声を出し、清華がそれに頷く。

 確かに、戦争という大変なものに関わってしまってはいるが、しかし、それがなければ出会う事もなかっただろうなと。

「僕、みんなに会えてうれしいよ!」

「……、そうか……。」

「僕も。竜神の使命とかいろいろあるけど、皆さんにあえて嬉しいです。」

 竜太と、珍しく大地も笑う、大きな使命を背負ってしまい生まれてきた中で、こういう日常はかけがえの無いものなんだろうな、と。


「さて、戻ろうか。そろそろ機関車が出発する頃だ。」

「はーい!」

 懐かし気に海を見つめていた蓮だったが、名残惜しそうにそれを見つめ、肩車をされたままその場を離れた。

 波のさざめきが砂浜についた足跡を消して、子供達を送り出すように静かに流れていった。

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