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聖獣達の鎮魂歌~Requiem~  作者: 悠介
弐章 修行の日々 そして

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2話 修行開始

「蓮、そろそろ寝ないとだ。」

「うん!」

 修平がやってきたその日の晩、蓮は、興奮して寝れないようだった清華が来た日もそうだったが、そわそわとして落ち着かない。

「仲間かぁ……、えへへ。」

「楽しみか?」

「えへへ。だって、初めての友達だもん!」

「そうかそうか、でも今日はもう寝る時間だぞ?」

 初めてできた友達、というのは清華と修平の事だろう、共に戦う仲間というのは、友と言える存在なのかもしれない、蓮は、それが楽しくて仕方がない様子だ。

「夜更かしは体に悪いぞ?」

「でも寝れないんだもん……。お兄ちゃん、お歌唄ってよ!」

「わかったよ。さ、こっちおいで。」

 ディンが蓮をベッドに誘うと、蓮はすっぽりとディンの腕の中に納まる。

「さて、今日は何を歌おうか。」

「あのね!あれがいい!」

「あれか、そうだなぁ。」

 蓮がせがむのは、蓮が寝付けない時にディンがいつも歌う歌だ。

「―――。」

「えへへ……。」

 ディンが歌いだすと、すぐに眠くなってくる、子守歌のように優しく歌うディン、蓮はその歌声に耳を傾けていると、そのうちすやすやと寝息を立て始めた。

「まったく……。」

 それを愛おしそうに見つめるディン、今がずっと続けばいいのに、このまま蓮が戦いの場に出なくていい未来があってくれれば良いのに、そう考えながらディンも眠りについた。


 翌朝、目を覚ましたディンと蓮は、食堂で朝食を食べていた。

「このパン、おいしい!」

「そうだなぁ。外園さん手作りだってんだから、あの人凄いよな。」

「え!?これ手作りなの!?」

「朝早くに起きて焼いてたよ、手伝うかって聞いたら一人の方が楽だって。」

「へー!」

 フランスパンのようなバゲットに、麓の村で畜産されている山羊ののバターと、外園お手製のジャムを塗って食べる二人、食う機関としてまったりとした時間が、場を和やかにする。

「あらディン君に蓮君、おはよう。」

「やあリリエルさんに清華ちゃん、おはよう。」

「あ、おはよー!」

「おはようございます。」

 そこにやってきたのはリリエルと清華だった、朝食を食べたらすぐに修行に入ると、そうリリエルから伝えられていた為、早めの朝食をと起きてきた所だ。

「今日はパンなのね。」

「外園さんお手製だよ、美味しい。」

「そう、頂こうかしら。清華さん、いいわね?」

「はい。」

 そういうと二人は席に座り、籠に入れられたバゲットに手を伸ばすと、リリエルはそのまま、清華はジャムをつけて食べ始めた。

「そういえば清華さんはどの守護者なの?」

「私ですか?私は、青龍の使いですよ。」

「じゃあ、東の守護者だ!」

 きらきらとした目線を清華に向ける蓮、そんな蓮の目線に清華は若干戸惑いつつ、にっこりと微笑む。

「蓮君はこの世界の守護神の力を借りているのですよね?」

「うん!デインさんの力を借りてるんだ!」

 守護神デイン、それがどんな存在かは清華にはわからないが、恐らく青龍などと同じようなものだろうと考える、どうして蓮がこの世界の神に選ばれたのか、逆に何故こんなにも幼い子供を選び、力を与えたのかと。

「外園さんは?」

「さあな、パン作ってから部屋で紅茶飲んでるんじゃないか?」

「そう。」

 世間話の様な会話をしている、蓮と清華をよそに、そっけない態度のリリエルと、至って普通な態度のディンの二人は、これからどうするべきかを思案する。

「とりあえずは他の守護者が揃うまでに、清華さんを育てれば良いのよね?」

「そうなるな。特に竜太と大地君は到着まで時間がかかるだろうから、まあ気長にやってくれ。」

「そんな余裕があるといいのだけれど。」

 今の清華の実力を、神々と戦えるレベルまで持っていけ。

 そう言われている気がするリリエルは、のんびりやっている暇なんて全くないと考える、それほど今の清華は弱いという認識をしている。

 一か月道中で修行もしたが、しかしまだまだ全く足りていない、神とはそれだけ強いものなのだ、と。

「あ!リリエルさん怖い顔してる―!」

「……、そんな事無いわよ?」

「僕はにこにこしてるリリエさんが好きだよ!」

「ありがとうね、蓮君。」

 気が付けば眉間に皺を寄せていたリリエルは、蓮に言われそれを隠し微笑む。

「……。」

 清華は驚く、あのリリエルがこんな風に笑うことがあるなんて、と。

 敵だと蓮と同い年くらいの少年でさえ殺していたのに、味方となるとこうも変わるのかと。

「清華さん、食べ終わったら行くわよ。」

 そしてそれをすぐに引っ込め、いつもの無表情で清華を急かす。

 その変化の差、容赦のなさと優しさ、甘さともとれるだろう違いに、清華はついていけていない。

「は、はい。」

 慌ててパンを詰め込む清華はお茶で飲み込むと、立ち上がる。

「じゃあ行きましょうか。」

「修行の時間なの?」

「そうよ、蓮君。」

「僕達も後で行くね!」

 リリエルは待ってるわと笑い、清華と共に姿を消した、ディンと蓮はのんびりと朝食を楽しみ続ける。


「やあ竜神王サンに蓮君、おはよう。」

「お、二人ともおはよう。」

「蓮君、おはよう。」

「修平さん!おはよ!」

 次にやってきたのはウォルフと修平、修平は寝ぼけ眼で、まだ寝足りないという感じだ。

「おぉ、今日の朝飯はパンか。」

「美味しそうですね!」

「おいしいよ!」

 もう四切れ目に突入している蓮が、嬉しそうに笑う、今までが今までだった蓮にとっては、毎日のご飯ですら嬉しい出来事だ。

 テーブルマナー、については大体を覚えている、ナイフとフォーク、スプーンと箸を使える蓮だが、今日に限っては、パン食な朝食な為、手で食べている。

 ついているソーセージと葉野菜のスープは、スプーンを使って具を食べていた。

「あ、美味しい。」

「これは外園君お手製か?」

「だよ、朝早くからこねてた。」

「ほほう、それはまた。」

 二人はバターとジャムをつけ、バゲットを頬張る、ディンはもう食事は終わりだと、紅茶を飲んでいた。

「このパンの小麦粉とかって、何処で調達してるんですか?」

「ん?そうだな。外園さんはこの国の人じゃない、他の国から個人で輸入してるんだよ。」

「輸入?って言う事は、そう言う国があるって事ですよね?」

 今まで立ち寄った村などでは稲作、つまり米が主流だった、畜産をしている村はあったが、小麦を育てている村はなかった、パンが出された事も無かった、だから米粉パンという考えも無くはなかったが、しかし小麦粉の味がする、そこから修平は純粋な疑問を抱いた。

「他の国って、戦争してるんじゃないんですか?」

「んー、戦争してるのはほとんどマグナって国だけだ。他の国はある程度安定してたり、そうじゃなかったりする。」

「そうなんだ……。」

 ここジパングとマグナ以外にも国があるのか、と修平は認知する。

「どんな国があるんですか?」

「そうだなぁ。ここから一番近くだと、ドラグニートっていう国だな。竜が治めてる、平和な国だよ。」

「竜?って映画とかに出てくるドラゴンですか?あでも、ディンさんは竜神って言われてる人なんだから、竜がいてもおかしくはない?んですかね?」

「そうなるな。」

 へー、とパンを頬張りながら驚く修平、魔物がいて神がいるのだから、竜くらい居てもおかしくはないだろう、やはり、存在していると言う事に驚く、ここが所謂異世界、漫画やアニメで出てくるような世界だ、という認識は出来ていたが、しかし、実感がまだ湧いていない、修平は、まだこれが夢だと半分程度は考えていた、起きたら自分の部屋で、ウォルフも誰もかもがいなくて、異世界と言うのは夢の中での話なのだ、と半分程度はそう思っていた。

「魔物とは違うんですか?」

「あぁ。魔物と違って知性がある、ちゃんと統治してる奴らだよ。」

 パンを噛み締めながら、成る程と頷く修平。

「あ!そういえばウォルフさんの子供って何歳くらいなの?」

「さぁ?君よりは大きいが、何歳だろうな?」

「教えてよー!」

「hahaha!」

 そんな二人をよそに、蓮が頬をパンで膨らませながら聞くが、ウォルフは答える気はないらしい、笑って誤魔化しパンを頬張る。

「所で蓮よ、修行の方は順調かね?」

「むー……。うん、ちょっとずつ強くなれてるよ!」

 話題をそらされた事に不服そうにむくれるが、まあいいかと答える蓮。

「それは良かった、お前さんは強くならなけりゃならないからな。」

「もちろん!」

 五切れ目を食べ始めながら蓮は笑う、ウォルフはそれにつられる様に笑い、二人の笑い声が食堂に響く。

「なんだか楽しそうだな、何の話してたんだ?」

「えっとね、僕強くなれたよねって話!」

「そうだなぁ、蓮は本当に強くなった。」

 えへへと笑う蓮と、その連の頭を撫でるディン、そんな蓮を見ていて、修平はやはり蓮が親殺しだとは思えなかった。

 それほどに純粋に見え、ディンやウォルフ、リリエルと仲がいい、そして、自分達にも純粋な目を向けている。

「……。」

「修平さん、どうしたの?僕のお顔なんかついてる?」

「ん?何でもないよ。蓮君はみんなと仲良しなんだね。」

「うん!みんな仲良くしてくれてるの!お兄ちゃんが一番だけどね!」

 無邪気に笑う蓮、修平はそれを、嬉しそうに見つめる、何があったにせよ、今こうして幸せであれる事が喜ばしい、と。

「ん?お兄ちゃんってディンさんの事?」

「うん!」

「お兄ちゃんって呼んでるんだ、いいなぁ。」

 兄という存在に少し憧れのある修平は、半年という短い期間で、兄弟のようになれる二人に少し憧れを持つ。

 憧れ、と言ってもディンを兄として認識したいか、と問われると話は別なのだが、蓮は一人っ子だと報道で言っていた、両親が殺害され、一人息子である蓮は行方知れずになってしまった、それがセスティアでの報道だった。

 それが、一か月もたたない内に騒がれなくなり、そもそもが離島という立地もあり、取材される事もなく、蓮に対する島民達の仕打ちが暴かれる事もなく、そして蓮は現在ここにいた。

「えへへ、いいでしょ!」

「いいな、羨ましいよ。」

「えへへ。」

 嬉しそうに笑う蓮、蓮にとっても、兄という存在はとても憧れがあったのだろう、だからディンを兄として慕っている、初めて会ったとき、蓮がお願いをした、お兄ちゃんと呼んでも良いか?という問いに対する答えが違ったら、また違う現在があったのだろう

「お兄ちゃんはね!凄いんだよ!」

「そうなの?」

「うん!僕の何倍も何十倍も強いの!僕の使える技も、すっごい強いの!」

「へー、それは凄いね。」

 キラキラとした目をして語る蓮と、それをうんうんと聞いている修平、ウォルフとディンは、それを微笑ましげに見ている。

「さあ修平君、我々も修行に出向くぞ。」

「はい!」

「じゃあ修平さん!後でね!」

「うん、後でね。」

 修平は急いでパンを飲み込むと、ウォルフと二人出ていく、蓮は六切れ目のバゲットに手を出し、まったりと朝食の時間が過ぎていった。


「清華さん、修行なんだけれど。そろそろ実戦と行くわよ。」

「実戦、ですか?」

「えぇ。貴女は刀を使いなさい。」

「……。」

 外園邸の庭、丁寧に整地された平地で修行を開始しようとしていた二人。

 今までの修行は基礎的なもの、身体面に関する事だった、それが今回から白刃を使う修行に変わる、その現実、その事実に清華は生唾を飲み込む。

「どうせ貴女の攻撃は私には当たらないわ、安心して白刃を振るいなさい。」

「……、はい。」

 そこまで言われては出さざるを得ない、清華はプライドを刺激された、なめられていると感じ、、鯉口を切り日本刀を取り出すと、正眼に構え強く柄を握る。

「まずは剣道の概念を捨てる事ね、面、胴、籠手、突きだけではこの先やっていけないわ。」

「では、どのように?」

「例えば袈裟、逆袈裟切りね。」

 リリエルは清華の後ろに立ち、後ろから包み込むように清華の手を握る。

「……!」

「何を緊張してるのかしら、こうよ。」

 女性に抱き着かれる形になり、ほんのりと顔を赤くしている清華をよそに、リリエルは清華の腕ごと日本刀を動かし、ゆっくり袈裟に振るう、そしてそのまま切り返し、日本刀を逆袈裟に振るう。

「これを覚えているだけでもだいぶ変わるわ。」

「……、はい。」

「それを踏まえて、私に攻撃してみなさい。」

「……。」

 リリエルは清華の後ろから離れ、目の前に移動する、別段武器を用意する訳でもなく、構えようともしない。

「どうしたの?早くかかってきなさい。」

「……、私は人を切るのが恐ろしいのです……。」

「だから言ってるでしょう?私には当たらないって。」

「しかし……。」

 躊躇う、確かに自分の腕前では、リリエルには敵わないだろう、当てられる事はあったとしても、倒す事も殺す事も出来ないだろう、一か月の基礎鍛錬の中でさえ、細身なリリエルに敵わなかった清華が、リリエルに勝てるというのは、傲慢な虚言でしかない。

 しかし、万が一にでも当ててしまったら、そう考えてしまうと、恐ろしくなってしまう、もしも自分が人間を傷つけてしまったら、もしも万が一、指南役で仲間であるリリエルを傷つけてしまったら、と。

「こないのなら、私から行くわよ?」

「……!」

「早く構えなさい、悠長に待つ時間はないの。」

 そういいながら、リリエルがゆっくりと近づいてくる、それは普通に歩く速度だったが、清華にはそれが恐ろしい何かに見えてしまう、相手は殺しを平然とする相手、自分もその対象になってしまうのではないか、用済みだと殺されてしまうのではないか、と。

「や、やあぁぁぁ!」

 その恐怖を打ち払う様に叫び、リリエルに向け突撃した、その距離十メートル。

 あっという間に距離が縮まり、清華の間合いに入る。

「面っ!」

 思い切り振りかぶり、面に振り下ろす、

「だからそれじゃダメだって言ってるでしょう?」

 しかし、すっとリリエルが軸をずらし、簡単に避けてしまう。

「さっき話した袈裟切りをしてみなさい。」

「……!えぇい!」

 振り下ろした刀を切り返し、逆袈裟に切り上げる。

「その調子かしらね、次々に技を覚えて繰り出しなさい。型にはまっていたら貴女、いつまでも勝てないわよ。」

「……!」

 そういわれても、身に沁み込んだ型は中々離れてはくれない、清華は面、胴、籠手、突きを主体とした連撃をリリエルに繰り出すが、当たらない、ひらりはらりと躱されてしまう、それはリリエルの宣言通り、全くと言っていいほど当たらない。

「例えばそうね、撫で切りなんていうのも覚えた方がいいかしら。」

 そういってリリエルが手刀を繰り出し、清華の胴防具を撫でる様に攻撃を繰り出す。

 もちろんそれは手刀なのだから、威力こそなかったが、清華は確かにそこを切られたという感触を持った。

「こう、ですか!」

 それを真似して、リリエルの腹めがけて横に薙ぐ清華、それは避けられてしまったが、しかし攻撃方法を覚えた、という意味合いでは意味があったのだろう。

「それでいいわ。」

 リリエルの言葉が耳に入ってくる、これを連撃の中に組み込めばいい、清華はそう理解する。

 腹だけではだめだ、足や腕も狙わなければ、そう考え、必死にそれを実行しようと、なで切り、横一文字切りを繰り返す。

「貴女、馬鹿の一つ覚えしか出来ないの?」

 しかし、それにこだわってしまっていた為かリリエルから喝が飛んでくる。

「……!」

 言われてハッとなり、連撃を切り替えようとする清華。

 面、胴、籠手、突き、袈裟、逆袈裟、薙ぎと必死に連撃を加える。

「そうよ、それでいいの。」

 それをひらひらと躱しながら、リリエルは考える、まだまだ未熟だが、しかしそれで良いと。

 この調子で技を覚えていけば、この世界の敵相手程度なら戦っていける可能性がある、と。


「oh、やってるな。」

「えっと、清華さんとリリエルさんでしたっけ?」

「そうだな、彼女らの邪魔にならないように我々も修行をするぞ。」

「はい。」

 そんなところに現れたウォルフと修平、平地は四十メートル平米程ある為、二人に配慮しても修行は出来そうだ。

「では修平君、始めようか。お前さんは徒手空拳を主体として戦う、俺もそれに倣おうか。」

「いいんですか?ウォルフさんって銃使うんですよね?」

「徒手空拳も使えない訳じゃない、お前さんレベルの相手なら出来る。」

「えっと……、なら遠慮なく……。」

 そういってグローブを装備し、構える修平ウォルフも構えると、二人の間に緊張感が走る、と言ってもウォルフは緊張のきの字もしていないだろう、修行だから、まだ銃を使う段階ではないから、修平が自分よりもだいぶん弱い事を知っているから、そう言った理由で、ウォルフは気を抜いていた。

 たとえそれが、修平の得意分野である格闘術、であったとしても、河伯流という、ある意味ウォルフにとっては新鮮な格闘術だったとしても、それをさばけない様では、英雄なぞ務まらない、と。

「行きます!」

 先に動いたのは修平だ、ダッシュでウォルフの元に突撃すると、腰に右腕を溜め思い切り振り抜く。

「甘いな。」

 しかしウォルフはそれを軽くいなす、体の軸をずらして、修平の腕を掴み引っ張る。

「うわぁ!」

 引っ張られた勢いでコケる修平。

「いてて……。」

 すぐに起き上がり、次の攻撃を繰り出す、次は足を大きく上げ、かかと落としを放った。

「お前さんの攻撃は一直線だな、まるでお前さん自身のようだ。」

 それを軽く躱し、少し距離を取るウォルフ、中々筋は良いが、しかしまだまだ銃を出すほどだとは感じない、それだけウォルフが英雄として完成されている、というのもあるのだろうが、修平がそれだけ未熟という話にもなってくるだろう。

 異世界の存在に通用するだけの力、という鍛錬方法を取ってきたわけではなかった修平だったが、対人戦である空手道をずっと修錬し続けて来た、それでもウォルフという老兵には一発たりとも当たったりしない。

「くっそぉ!」

 悔しそうな修平、彼もまた、今までは基礎的な部分の修行しかしてこなかった為、ウォルフと戦うのは初めてだ、だから、知っている限りでは普段銃を使うウォルフに、自分の攻撃が躱されるのが悔しい。

「もう終わりか?」

「まだまだです!」

 次々に攻撃を繰り出し、そして躱される、修平はここまで強い相手と戦うのは初めて、と半ばわくわくしていた。

 こんなにも強い人間が居て、自分はその人間に指南をしてもらっている、つまり、自分はもっと強くなれる、河伯流の歴代師範代や長を超えて、もっと強くなって、妹を守れる。

「てやぁ!」

 攻撃を繰り出しながら、わくわくしている自分、もっと強くなって妹を守る、その感情だけが、修平を突き動かしていた。

「しかしまぁ、直線的な攻撃しか出来ないんだなお前さんは。こうグルーヴィじゃない。」

「わぁ!?」

 そんな事を考えていたら、攻撃が単調になってしまっていた、ウォルフに指摘され、今度はこちらからとウォルフが攻撃を仕掛ける。

 それは修平にはさばききれない速度の攻撃で、三回目の攻撃で腕を掴まれ投げ飛ばされてしまう。

「ってて……。」

「戦闘中に雑念を入れるのは死を意味する、覚えておくといい。」

「す、すみません……。」

 尻もちをつきながら謝る修平、ウォルフにはお見通しだったようだ。

「まあ今は修行だ、少しの雑念くらいは良い。だが、実戦ではそうはいかないぞ?」

「はい……。」

「では続きだ。」

「はい!」

 修平は立ち上がり、ウォルフに懸命に攻撃を繰り出す、それらを全て軽くいなすウォルフだったが、修平の基礎能力の向上は確認出来たと笑った。


「お、みんなよくやってんなぁ。」

「僕達も修行!」

「そうだな。」

 修行、というよりも遊ばれているだけのように見えたディンと、修行している二人に自分も燃える蓮がやってきた。

 蓮は二組の邪魔にならない所に陣取ると、剣を二本取り出す。

「いっくよぉ!」

「こいこい。」

 そしてその二本の剣の柄をくっつけ捻ると、剣が合体し両刃剣となり、蓮はその中心に当たる柄を両手で握る。

「お兄ちゃん、今日こそ当てるからね!」

「おう、その調子だ。」

 蓮は勢いよく跳躍すると、ディンに向かい剣を振り下ろす。

「よっと。」

 それを躱すディン、しかしそれは蓮の想定内だった。

「えやぁ!」

 振り下ろしたのと反対側の刃でディンの腹を狙うが、ディンはそれを読んでいた様で後ろに軽く跳び、躱す。

「まだまだぁ!」

 そこから連撃を繰り出す蓮、両刃剣を右へ左へ上へ下へと振るい、清華や修平よりも洗練された動きで攻撃をする。

「いい調子だ。」

 ディンはそれを躱しながら、蓮を応援する、にこにこと笑いながら、余裕たっぷりといった様子で、攻撃を躱し続ける。

「凄い……。」

「俺より早い……!」

 気が付けば自分達の修行の手を止め、蓮とディンの修行を眺めていた清華と修平。

 清華は自分よりも多彩な攻撃方法に、修平はそのスピードに驚いていた、ディンが躱しているのがおかしく見える程、蓮の攻撃スピードは早かった、受け止めているのならまだわかるが、全て躱すとは、と清華は特に衝撃を受けていた。

『雷咆斬!』

 蓮が一瞬動きを止め、雷の魔力を両刃剣に溜める、そして体ごと剣を回転させ、ディンに向かい雷を放出した。

『限定封印、第一段階開放。』

 それを魔力を発現させ、手で受け止めるディン。

「やったー!」

 それを見て、蓮はなぜか喜んでみせた、攻撃を止められたはずなのに喜んでいる蓮を見て、不思議がる清華と修平。

「開放させたもんね!」

「蓮の雷咆斬も威力が上がってきたからな。」

 それは、ディンの固有能力に起因する喜びだった。

 ディンの能力は段階開放式で、全部で五段階ある、今までの雷咆斬は能力開放すらせず受け止めていたが、今日の一撃は流石に能力開放をしなければ防げない、という判断をディンはした、それが、蓮には嬉しくてたまらない様子だ。

「よし、今日はここまで。」

「はーい!お兄ちゃん、僕頑張ったでしょ?」

「そうだな、頑張ったな。」

 蓮がディンのもとに駆け寄り、ディンは蓮の頭を撫でる、蓮は嬉しそうに笑い、両刃剣を元の二本の剣に戻して、鞘にしまう。

「なんなんですか、あれは……。」

「あれは蓮君の得意技、雷咆斬よ。雷の魔力を圧縮して放つ、単純だけど強力な技ね。」

「あれは……。」

 雷そのものを放出したのではないか、と感じてしまう、それほどの速度、目に追えない速度の光の塊がディンに向け放出された様に見えた。

「凄い……。」

「お前さんにはあれは出来ないだろうな。」

 修平も同じようなものだった。

 目に追えない速度の攻撃と、それを易々と受け止めるディン、何が起きたかわからなかった、という感じだ。

「次は第二段階開放が目標だな。」

「頑張る!」

 そんな二人をよそに、嬉しそうに笑うディンと蓮だった。


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