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聖獣達の鎮魂歌~Requiem~  作者: 悠介
壱章 冒険の始まり

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12話 黒色のオーガ

 その日の晩、谷の終わりが見えずに焦っていた二人だったが、一日歩きどおしだった為休憩を兼ねて火を起こした。

「はぁ……。」

「……。」

 だいぶ疲れた二人は、焚火の火を見ながらボーっとしている、そこそこの距離を進んだはずだが、しかし終わりが見えない事も、疲れを加速させる。

 こんな調子ではいつ外園邸に着くか、転移を使ってしまった方が早いんじゃないだろうか、竜太は、そんな焦燥感にかられる。

「……。」

 そんな竜太をよそに、うとうとしている大地、一日中歩きどおしというのは、初めての経験だから疲れたと言うのが正解だろう、火を見ていると、うつらうつらと眠くなってくる。

「大地さん、休んでくださいね?」

「……、助かる……。」

 川で取り、焚火で焼いていた小さな魚を食べ終えると、大地は魚を初めて食べる、精進料理以外のお食事を初めてする、という事を忘れ、スースーと寝息を立て始めた。

「……。」

 竜太は、それを見て微笑む、寺で育ち外界との接触がなかったという前情報から、どんな難物がやってくるかと思ったら、意外とそうでもなかった、そんな感想が思い浮かぶ。

 少しコミュニケーションを取るのが難しい、普通の十七歳の高校生じゃないか、年上と言っても、自分とあまり変わらないじゃないか、と。

「僕も寝よう……。」

 竜太はそう呟くと、その場で座りながら眠りについた。


「……。」

「ふぉふぉふぉ!再びまみえたのぅ!」

「……、お主は……。」

「玄武じゃよ!もう忘れたのかぇ?」

「……。」

 気が付くと、黄色のふわふわとした空間にいた大地、目の前には巨大な亀に蛇のしっぽを持った何かが居て、それが喋っている様だ。

 玄武と名乗ったそれは、大地を見て笑う。

「まあ良いわ。お主、自分が何のためにここにおるかは理解しておるかぇ?」

「……、理解しておるつもりだ……。」

「ふぉふぉふぉ!それはよい心がけじゃ!他の守り手達は何も知らぬようじゃからのぅ!」

「……、他の守り手……?」

 伝えられていた伝承は、自分の先祖が戦場に赴き戦争を鎮めたという事、そして自分がいた世界に隠居し、次の戦争の際にその子孫が駆り出される、という事だけだ。

 他に戦士がいたという話も、他に戦士がいるという話も聞いたことがない。

「そうじゃ。他に三人の聖獣の守り手、それに守護神の使いおるぞ。ふぉふぉふぉ!」

「……、守護神……?」

「この世界ディセントの守護神、デインじゃよ。ワシより長生きじゃがワシより若く見えるから不思議じゃのぅ!」

「……。」

 情報を整理しようとする大地、四神、というよりも玄武の言い伝えは昔から聞かされてきたが、他の事は言い伝えにはなかった、だから、整理しなければならない。

 とりあえずの所、自分以外にも戦士がいて、それが四人いると言う事、一人は世界の守護神という存在の使いである事、それだけは理解出来た。

「それでのぅ!守護神の使いというのがまた難物でのぅ!あれだけの闇を抱えた童がいるとは思わなんだ!」

「……、闇……?」

「魔物の元とでも言えば良いかのぅ?本来ならば一定量の闇を抱えると魔物が生まれるはずなんじゃが、はてさて何故やらあの童はそれがない。どういうことかのぅ?」

 魔物の元、それを人間が備えていると言う事がまず驚きだが、その魔物を生み出しかねない子供が守護神の使いだと言う事にも驚く大地。

「……、守護神の使いというのは、魔物なのか……?」

「魔物ではない、魔物を生み出すだけの闇を抱えた童という訳じゃよ。哀れな童じゃ、じゃから守護神は力を与えたのかも知れんがのぅ!ふぉふぉふぉ!」

「……。」

 闇、というのが具体的になにを示しているのかがわからないが、恐らく悪いものなのだろう。

 それは人間に付随するもの、人間が持ち得るものだという事は理解出来た、業の様な物だろうか?と大地は考える。

「さあ、ワシはまだ喋り足りないがのぅ!そろそろお目覚めの時間のようじゃぞ!」

「……。」

「そうじゃ、お主に魔法の使い方を教えておくかのぅ!」

「……、魔法……?」

 竜太が言っていた、確か仏の神通力に通ずる人ならざる力の事だっただろうか、玄武が尻尾をぐるりと回し、大地の周りを囲う。

 すると、何か暖かい物が大地の中に流れ込んでくる。

「まあ使い方はそのうちわかるじゃろうて!ではまたまみえようぞ!ふぉふぉふぉ!」

「……。」

 眠気に似た感覚が急に襲ってきて、大地は眠くなる、瞳を閉じると、抗えないその眠気によって大地は意識を手放した。


「大地さん!大地さん!」

「……、竜太……?」

「大地さん起きて!敵です!」

 竜太の声で目が覚める大地、竜太は切羽詰まった声で怒鳴っており、ガキンと何かがぶつかる音がする、大地は日の眩しさにやられながら目を開けると。

「てやぁ!」

「ギャアアァァア!」

 丁度昨日戦ったオーガと、竜太が交戦している所だった。

 大地は慌てて立ち上がり、六尺棒を握る、周囲を見回すと、昨日よりも断然数が多いオーガに囲まれていた。

「とりゃぁ!」

 それを、竜太は大地を守りながら戦っていた、もう十数体は倒したが、まだまだきりがない。

「……、儂も戦うぞ……。」

 そう言うと竜太の影から出て、構える大地。

「ふん……!」

 寝起きであまり体が動かないが、オーガ程度なら倒せる、それだけ勾玉による力のブーストの上昇量は高く、そして大地自身の自力も高いのだろう。

 一体オーガの体を強打し霧散させると、体も頭も起き始める。

「せい……!」

 振りぬいた六尺棒と共に、体を回転させる、その途中で六尺棒の持ち手の軸を変え、端を持つ、広範囲での回転攻撃に、二体のオーガが巻き込まれ霧散した。

「どりゃぁ!」

 その間に竜太が、十体程のオーガをなぎ倒す、その速度は大地には追いきれず、オーガ達もついていけていない、あっという間に、オーガ達を全滅させる。

「……。」

 呆気に取られる大地、まさかここまでの強さだとは、思いもしなかったという感じだ。

「大地さん、まだ来ますよ!」

「わ、わかった……!」

 探知魔法で魔物を捕捉していた竜太が、大声で気を抜くなと言った、大地が六尺棒を中心に構えなおした時。

「グオォォォォォ!」

 地を揺るがさんと言わんばかりの叫び声が、谷に反響する、ガサガサッと森が揺れ、オーガよりも大きな影が谷にかかる。

「あれは……、ここら辺のボス!」

「……!」

 ドシンと音を立て着地したそれを見やる、それは黒色の肌に人間の三倍程の大きさ、人間大の棍棒を持ったオーガだった。

「大地さん!二人で攻めましょう!」

「……!こ、腰が……!」

 それを見た途端に、大地は腰を抜かしてしまった、ドサっと地面に腰をうち、震えてしまう。

 殺される、本能的な恐怖に駆られてしまう、力が入らない、これでは戦えない。

「くっそ!来い!僕が相手だ!」

 そんな大地を庇うように、竜太が前に立つ、オーガと竜太の距離は、約十メートル。

「グオォォォォ!」

 オーガが叫び、突進してきた、棍棒を振り上げ、それをぶつけようとしてくる。

「させるかぁ!」

 それを、両手のトンファーを使い防ぐ竜太、ズシン、と竜太の足が少し地面にめり込む。

「っく……!」

 押し込まれる、竜太は力を発現しようか一瞬悩んでしまう。

 しかし、その一瞬があだとなってしまった。

「うわぁ!」

 オーガが横から蹴りを入れ、吹き飛ばされる、谷にぶつかる直前で、何とか態勢を立て直し着地するが、勢いで谷の壁に足がめり込む。

「大地さん逃げて!」

「……!」

 めり込んだ足を何とか抜こうとしながら、竜太が叫ぶ。

 大地は動けないままでいた、逃げることも、戦う事も出来ずに。

「グオォォォォォォォォ!」

 黒色のオーガが一際大きな雄たけびを上げ、大地に向け棍棒を振り下ろす。

「大地さん!」

 竜太が力を発現し、蒼玉と翡翠に瞳の色を変えた瞬間。

「……!」

 大地には、その場面がスローで映っていた、脳裏では今まで過ごしてきた時間が再生され、消えていく。

 これが走馬灯という物か、これが死ぬと言う事か、大地がそう、悟ってしまった瞬間。

「ふぉふぉふぉ!ワシが力を貸してやろう!」

「……?」

「こう唱えるのじゃ!」

 勾玉が光り輝き、大地の頭の中にそれは流れ込んで来る、それは身を守る為の術であり、魔法と呼ばれる物だった。

「…… 母なる大地よ、全てを守る盾となれ……!」

 棍棒が大地に直撃する、その刹那。

「大地さん!」

 竜太が叫ぶ声が聞こえる中、大地は静かにそれを唱えた。

『アルドゥダマークリフ……!』

 右手を前に突き出し、ぐっと握りしめ、するとどうした事か、一瞬地面が揺れた。

 と同時に、大地と黒色のオーガの間に土の壁が現れ、オーガの攻撃を防いだ。

 オーガの持つ棍棒が土の壁に阻まれ、そしてその壁が棍棒を飲み込まんとせりあがって行く。

「……。」

 大地は、もう震えていなかった、何故か出来るという自信が胸の内に湧いてきた。

 立ち上がり六尺棒を構える、そして土壁の上まで一瞬で跳躍し、オーガの頭めがけて六尺棒を思い切り振り下ろす。

「ふん……!」

「ギャアァァァァアアァアアアァァア!」

 頭蓋を砕かれ、悲鳴を上げるオーガ、悲鳴を上げながら霧散し、その場には土壁だけが残された。

「はぁ……、はぁ……。」

「大地さん!怪我無いですか!?」

「竜太よ……。儂は、やったぞ……!」

 感動し震える大地、めり込んだ足を引き抜いて駆けつけた竜太に、嬉しそうに語りかける。

「はい!見てました!」

「儂も、戦えるの、だな……!」

 普段なら少し言葉に間を置く大地が、興奮からか普段より早口になる、それほど、今回の勝利というのは自身の中で大きかったのだろう。

「大地さん、凄かったですよ!」

「そうか……!」

 興奮冷めやらぬ大地と、ホッとした様子の竜太、二人は語り合いながら、旅を再開した。



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