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聖獣達の鎮魂歌~Requiem~  作者: 悠介
壱章 冒険の始まり

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11話 全滅した村を離れて

 夜になった、歩いて移動していた二人は、その辺に落ちていた葉っぱや折れた枝などを使い火を起こし、休憩していた。

「……。」

「大地さん、休んでくださいね?疲れたでしょうし。」

「……、感謝する。」

 何か語るでもなく、パチパチと弾ける炎を見る二人、二人とも、昼間見た惨状を思い出していた。

「……。」

 大地は、初めてあんな場面に出くわしたショックが大きかった、その場ではうまく感じられなかった感情が、後になってからやってきた様だ。

 死屍累々の村、そんな場所に突然訪れたのだ、それはショックだろう。

 自分が戦場へ駆り出されたと言う事は、重々承知していた、だがしかし、いきなりあんな場面に出くわすとは思いもつかなかった。

 焼死体の数々とあの匂いが、まだ目に映り鼻に残っている様だった。

「……。」

 竜太は竜太で、昼間の惨状を思い出していた、あれほどでは無いにしても、魔物によって人が死んだのは見たことはある。

 父であるディンが一度死んだ所も、見たことがあるのだから、耐性はあるはずだと言いたいが、拭いきれない、悲しさのようなものがある。

「……、儂は先に寝させてもらうが……。」

「はい、おやすみなさい。」

「……、すまないな……。」

 先にギブアップしたのは、大地だった、眠気というよりも考え疲れたのか、座ったまま眠りにつく。


「父ちゃん、いいんじゃない?」

 少し時間が経って、竜太が呟くと、光がその場にこぼれて、そこに現れるディン。

「父ちゃん、あの村は……。」

「全滅、だろ?」

「知ってた、の?」

「竜太達が到着する3日前に、な。」

「知ってて……、放って置いたの……!?」

 声が震える竜太、骸達を弔う事もせず、放って置いていたのか、と。

「……、そうだ。」

「なんで!父ちゃんなら止められたでしょ!?」

「言ったろう?これは本来俺達が介入するべき戦争じゃない、だから必要以上の干渉は出来ないって。」

「だからって……!何の罪もない人達が殺されるのを、許していいの!?」

 竜太なら必ずそういうと、ディンにはわかっていた、だから憎まれ役になる必要がある事も、そのうえで理解させないといけないこともわかっていた。

「……。竜太、お前は優しい。だけどその優しさが、場合によっては世界を滅ぼすことになる。」

「それは……!」

「竜太の気持ちはわかるよ、でもやっちゃいけないものはやっちゃいけない。それが守れなきゃ、何も守れないんだ。」

「……。」

 わかっている、竜神の掟は、いやというほどわかっている、しかし、竜太の心はそれを是と出来ない、竜太の優しさが、それを良しとしてくれない。

「どうにも、出来なかったの……?」

「あぁ、あの人達はどう足掻いてもマグナの襲撃で滅んでただろう。クロノスの介入がなくても、だ。」

「っ……。」

「仕方がないんだよ、世界を守るためには。」

 どうしてそう割り切れるのか。

 竜太が昔から、と言ってもディンと過ごしたのは一年半程度だが、ずっと思っていた事だ、どうしてそんなさっぱりと割り切れてしまうのか、と。

 元居た世界では警察と連携し重罪人を捕えたりしていたのに、何故。

「父ちゃんは……。」

「なんだ?」

「何とも、思わないの……?」

「……、何も思わないわけじゃあない。でも、それが掟だ。」

 涙目になりながら問う竜太。

 守らなければならない掟なのはわかっているが、納得出来ない、乳飲み子を抱え焼け死んでいた母と思しき死体を見て、何も思わないわけがない。

「父ちゃんは……!」

「あの人達の為にも、この戦争を一刻も早く止めなきゃならない。これ以上犠牲を出さない為にも、この子らが戦える様にならなきゃならない。違うか?」

「……、でも……。」

「自分が何を守りたいのか思い出せ、自分が何のために戦ってきたのかを思い出せ。お前は誰の為にここに来た?」

 そう言われてしまうと、何も言い返せない。

 父であるディンのその言葉は、すべて正しい、自分は弟や友を守る為に戦ってきた、今回もその為にここにいる、だから言い返せない。

「……。」

「全てを守ろうとする心は大切だ、でも出来ない時のこともちゃんと考えないといけない。」

「うん……。」

 ディンは父として、後継者を育てる者として、あえて無慈悲な現実を突きつける。

「竜太は俺の後継者だ、もしもの事があったら……。」

「跡を継がなきゃいけない、んだよね……。」

「そうだ。竜太にしか出来ない事だ、だから今から覚えておかないといけないことが沢山ある。」

「うん……。」

 ディンはそれだけ言うと消えてしまい、竜太は一人残される。

「……。」

「……、竜太よ……。」

「だ、大地さん!?起きてたんですか!?」

「……、あれがお主の父か……?」

 一人で考えてたら、大地が声を掛けてきた、竜太の大声で途中から起きていたが、話に口を挟むのも野暮だと思い黙っていたのだろう。

「……、目を瞑っていたから容姿は見えなかったが……、声からしてずいぶんと若いのだな……。」

「そう、ですね。父ちゃん、見た目だけなら十五歳くらいですし……。」

「……、お主と違い非情なのだな、お主の父は……。」

「そんなことは……。父ちゃんは本当に守りたいものの為にしか動かない、それをわきまえてるっていうか……。」

 顔に翳りを見せる竜太。

 ディンが正しく、自分が間違っている、それをわかっているから、ディンを悪くは言えない。

 いつだってそうだ、ディンは自分の守りたいものをしっかりとわかっていて、その為だけに力を振るう。

 自分はそう出来ているのだろうか?そう問われると、そうと言い切れない。

「……、お主は優しい。それは、かけがえの無い物だと思うぞ。」

「ありがとう、ございます……。」

「……、では、儂は寝るとする……。」

 それだけ言うと、再び寝息を立て始める大地。

 大地なりの精一杯の気遣い、心遣いだろう、同世代の人間とほとんど関わった事はなかったが、父親が色々な人間に色々な助言をしてきたのを、見ていたからこそかけられる言葉だ。

「……。」

 しかしその言葉で竜太は悩む。

 その優しさが場合によっては世界を滅ぼすことになる、という言葉が刺さる。

「……、寝よう。」

 今はそれを悩んでも仕方がない、そう思った竜太は、その場で眠りについた。


「……。」

 目が覚めた、日がさし、朝である事がわかる。

「……。」

 竜太の方を見やると、まだ寝ている様だった。

「……。」

 座ったまま寝たからか、体が少し硬くなっている、大地はほぐすように体を動かし、立ち上がる。

 周囲を見渡すと、夜には見えなかったが谷を進んでいるようだった、その証拠に、ではないが両端を崖が覆い、中心を小さな川が流れている。

「……。」

 昨日竜太に渡された六尺棒を持ち、竜太から少し離れた水辺へと向かって、川の水で顔を洗い、さっぱりさせる。

「……、ふむ……。」

 六尺棒を構え、振ってみる。

 普段ならば重たいと感じそうなそれを、軽々と振るう、恐らく竜太の言っていた四神の勾玉のおかげだろう。

 普段以上の力を発揮できる事を確認すると、日課の演舞を舞い始めた。


「ふあぁ……。」

 その頃、竜太も目を覚ました、なかなか寝付けなかったが、しかしゆっくりと寝られた様子だ。

「あれ、大地さん?」

 そしてすぐに気づく、大地がいない事に、探知する事を忘れて、きょろきょろと辺りを見回すが、いない。

「大地さーん!」

 先に行ってしまったんだろうか?いや、それはないはずだ、そう考え、共鳴探知を発動する竜太。

「あ、いた。」

 少し離れたところに、人間の波動を感じる、恐らくそれが大地の物だろうと、竜太はそちらへと歩いて行った。


「あ、大地さーん!」

「……、竜太か……。」

「びっくりしましたよ?起きたらいないんですもん。」

「……、いや、騒がしいかと思ってな……。」

 竜太が大地のもとに行くと、丁度大地は僧衣を脱ぎ水浴びをしている所だった。

 棒振りでかいた汗を、流したかったのだろう。

「大地さん、おっきいですよねぇ。」

「……、そうか?」

「はい、身長もそうですけど、体幹が凄いですよ。」

 大地の体は、少しごつごつしているという表現が正しい筋肉質な体だ、普通の人間の十七歳にしては、だいぶ発達している方だろう。

 それに高身長、糸目とあいまって見た目は厳つい。

「……、見たところお主も中々だと思うが……。」

「僕なんてまだまだですよ、父ちゃんなんてもっと凄いですし。」

 普通に父親の話題を振ってくる、昨日の晩のことがあった後だが、別段あとくされはなさそうだ、と少なくとも、大地にはそう見える。

「……、今服を着る……。」

「ゆっくりでいいですよ。あ、これタオル使ってください。」

 そういうと竜太は転移と呟き、手元にタオルを出現させる。

「……、有難い……。」

 驚きつつ、それを受け取る大地、見慣れない魔法というものに触れつつ、体を拭き僧衣を身に纏う。

「……、袈裟は、邪魔だな……。」

「捨てちゃうんです?」

「……、戦うのには無用なものだ……。」

 それに自分は好きで僧になったわけでもない、と大地は袈裟を外す。

 それを川に投げると、袈裟は川の流れに乗って何処かへと消えてしまった。

「じゃあ、行きましょう。」

「……、うむ……。」

 流れていく袈裟を眺めていた二人だったが、竜太の一言で足を南へ向けていった。


「……。」

「……?どうした、竜太よ……?」

「魔物、ですね。」

「……、魔物……?」

 暫く歩いて、だいぶ谷を進んだ時、竜太が足を止めて、そう口にした。

「はい、この近く魔物の気配がします。」

「……。」

「戦いましょう。近隣の村の人達を守る事にもなりますし、大地さんにも慣れてもらわないと。」

 そういうと竜太は、両手を目の前に翳す、すると竜太の両手から光が零れ、短い棒のような形になった。

「……、それは……?」

「トンファーっていうんですよ、僕の武器です。」

 それは腕程の長さの棒で、手の部分に持ち手があった。

 大地は初めて見るその武器だったが、竜太はある程度は使える様だ、くるくると両手のそれを回し、感触を確かめている。

「大地さん、来ますよ!」

「……、わかった……!」

 竜太がそういうとほぼ同時に、野太い叫び声が複数聞こえてきて、谷の上の森の木々がざわめく。

 大地は六尺棒を構え、襲撃に備える。

 ガサッ!という音と共に、複数の影が大地と竜太を囲む。

「……、奴らが、魔物……!」

「はい、多分オーガ種か何かだと思います。」

「……。」

 ドシンと大きな音を立て、人間の1、5倍程の大きさの緑色の肌をした魔物が、煙と共に降り立つ、その数は十体程で、大地と竜太を囲んでいる。

「行きましょう!」

「……、うむ……!」

 初めて魔物と対峙し、恐怖心がなかったわけではない。

 自分よりも大きい存在、狂暴であろうそのむき出しの牙、腕程ある棍棒、それが怖くない訳がない、だがしかし。

「……。」

 不思議と落ち着いている自分がいる、と大地は感じる、それは勾玉の力なのか、それとも竜太という心強い味方がいるからなのか、それはわからなかったが、冷静でいられる自分に大地は驚く。

「行きます!」

「……、うむ……!」

 竜太が掛け声とともに、オーガの一匹に突撃した。

「ギャアァァァ!」

 振り下ろされる棍棒、普通の人間では、追いきれない速度だ。

 しかし、それを竜太は左手のトンファーで軽々と受け止め、いなす。

「せやぁ!」

 そして右手のトンファーを思いきり突き出し、オーガの腹に刺す。

「ギイャャャ!」

 悲鳴を上げるオーガ、深々とトンファーを突きさされた部分から霧散して消えてしまう。

「まだまだ!」

 オーガが霧散したのとほぼ同時に、竜太は次のオーガへと攻撃を繰り出す、左手のトンファーを回転させ、腕の部分を思い切り顔に強打したのだ。

「ギイィィ!」

 吹き飛びながら霧散するオーガ。

「大地さん!」

「……!」

 竜太は大地にも攻撃をする様にと大声を上げる、大地はその声にハッとさせられ、六尺棒を構えなおし、目の前のオーガに向け走ると、六尺棒を振りかぶる大地。

「ふん……!」

 右から左へと振りぬき、オーガの腹に殴打を喰らわせると、ゴキっという音が鳴り、オーガの脊椎がへし折れる感覚を大地は感じる。

「ギャアァァァ!?」

「その調子です!」

「わかった……!」

 殴られたオーガ霧散する。

「せい……!」

 頭の上でぐるぐると六尺棒を振り回し、次のオーガへ真向竹割を繰り出す大地。

 オーガの頭がひしゃげ、悲鳴とと共に霧散した。

「僕も、負けてらんない!」

 竜太はそれを見て、攻撃のテンポを上げていく。

「どりゃあぁ!」

 次々とトンファーを振るい、あっという間に八体のオーガを倒した。

「ふぅ。」

「……、やはりお主は、強いのだな……。」

「大地さんだって、初めてで二体も倒せるなんて凄いですよ!」

 呼吸一つ乱さない竜太と、若干呼吸が乱れている大地、その実力の差を思い知らされる、のと場数の違いを知る。

「……、そう、なのか……?」

「はい、僕なんて最初一体倒すのも大変でしたから!」

 竜太の言葉が誠か嘘かはわからないが、その言葉は大地の気分を高揚させる。

「……、それは、良かった……。」

「じゃあ、行きましょう。先はまだまだ長いです。」

「……、わかった……。」

 二人は武器を納めると、旅の続きにと歩き始めた。


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