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聖獣達の鎮魂歌~Requiem~  作者: 悠介
壱章 冒険の始まり

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8話 死と向き合う事

 その日の晩、宿へと場所を移した修平とウォルフは、風呂に入り部屋へと入った。

 五右衛門風呂、と呼ばれる古い形式の風呂だった為、修平はまるで歴史博物館に来た様だ、という感想を持ち、火傷をしない様にと慎重に風呂に入った。

「修平君よ、先ほどから暗い顔をしているが、どうしたかね?」

 ウォルフがお気に入りのジェリーカールヘアを整え、眼鏡を掛けながら問う。

「いや、何でもないんです。ただ、少し昔を思い出して……。」

「そういえば君はご両親の死に立ち会ったんだったな、それを思い出したのかね?」

「何で知ってるんです……?」

「指南する相手の情報は集めておくのだよ、でなければ後々支障が出るからな。」

 煙草に火を点け、ゆっくりと吸いながらウォルフは笑う、それはウォルフにとっては、当たり前のことだからだ。

 指南役として、相手の歴史、ヒストリーを知っておく事、それは元々いた世界でも、英雄のルーキーを育てるのには必要な事だ、とウォルフは認識していた。

「まあ人生生きていればそういった経験をする事もあるさ、君はそれが少し早かっただけのことだ。」

「ウォルフさんも、そういう経験をしたことがあるんですか?」

「さあ、な。」

「……。俺、怖いんです。人が死ぬのを見るのが、人が死ぬ所に立ち会うのが。だから、戦います……。」

 修平は布団に入り、眠たげに語る。

「今はそれで良い、戦う理由など後付けで良いのだよ。」

「そう、なんですか……。」

 もう少し話をしていたい、というよりも吐き出したいと思う修平だったが眠気にはかなわず、そう一言だけ言うと、眠りについてしまった。


「竜神王サンよ、そろそろいいんじゃないか?」

「そうだな。」

 修平が眠りについて少し後、宿の外にいたウォルフが誰かに語り掛ける。

 すると光が零れ、、ディンが現れた。

「彼は戦えるのか?人間相手ならばまだしも、魔物や神を相手に。」

「まあ、戦うしかないって覚悟するさ。この子はそういう子だよ。」

「成る程、竜神王サンはそこを汲んで彼を戦いの場に出すわけだな。」

「まあ、そうなるかな。どういう子であれ戦わなきゃならない事に変わりはないんだけどね。」

 ディンも煙草に火を点け、深く吸い込む。

「敵の正体は掴めたのかね?」

「いや、まだ掴めない。奴さん中々に用心深いと見える、今回は苦戦しそうだよ。」

「成る程、竜神王サンともあろうお方でもわからない事があるという事だな?」

「そういう事だ、だからこんな回りくどい方法取んなきゃいけない。」

 皮肉めいた口調のウォルフと、やれやれといった感じのディン、回りくどいやり方、というのはわざわざ指南役を集め戦いの場に出すことだろう。

「だが竜神王サンよ、今のままではこの子らでは勝てないのではないか?」

「本来なら、の話だけど、滅びの予言を外園さんがしてた位だ、滅んでいた世界なんだろうな。あの子達は戦場で死んでしまい、世界は闇に包まれる、それが元来のこの世界の未来だったんだろう。」

「それがどうしてこうなってしまったんだ?核心の所をまだ聴いていないが。」

「異形の神、クロノスの影響が出ている、だから俺が出張る必要が出てきた、そして、そのクロノスを完全消滅させたい俺がいる、だからウォルフさん達指南役が必要だった、って事だ。」

 まあウォルフは自分が呼んだわけではないが、とディンは心の内で呟く。

 正直、ディンもこのウォルフという人物がよくわかっていない、この年輪の世界群の住人ではない事、どうやら自分達に協力的である事、それくらいしかわかっていない。

 それと、どうやら年輪の世界群以外にも世界というのは存在している、と言う事だ。

「まあ俺の事を詮索するのは構わないが、それよりもするべきことがあるんじゃないかね?」

「ん?何のことだ?」

「まあいい。任務を遂行して報酬を受け取る、いつもの事だ。」

「まあ、ほどほどに頼むよ。」

 腹の中を読まれたような気がしたディンはとぼけるが、ウォルフはさして深く考えての発言でもなかったようだ、それよりも、と気にすることがあるらしい。

「子供達に土産話をするのが楽しみだ、今回はいつもの役割とは違うからな。」

「ウォルフさんの子供、どんななんだか。」

「君の息子よりは平和だと思うが?」

「それもそうか、じゃ俺はこの辺で。」

 そういうとディンは、その場から消えた。

「まったく、わからん男だよ君は。」

 やれやれとウォルフは首を振り、煙草の火を消して宿に戻り、自身も眠りについた。


 次の日の朝、先に目が覚めたウォルフは、馬の調達に出かけていた。

「あ、御使い様だ!」

「おやおや、君は?」

「馬の番をしている修って言います!昨日はありがとうございました!」

 十歳前後の少年が、話しかけてきた。

「いやいや、当然の事をしたまでだよ。」

「かっこよかったですよ!」

「hahaha!そうかそうか。」

 少年の頭を撫で、笑うウォルフ、その姿はまさに父親といった感じだ。

「馬を二頭程使いたいのだが、いるかね?」

「はい!すぐに用意できますよ!」

「では、宜しく頼む。」

 少年、修はバタバタと走ってその場を離れていき、ウォルフは一人になる。

「まったく、若いとはいいものだな。」

 煙草を口にくわえ、火を点け、修平が起きるまで何をしようかと考えながら、村の中を散歩する。

 ここは畜産がメインの農村らしく、家畜と思しき牛や豚が囲いの中に飼われている。

 少し外れた所に行けば田んぼがあり、稲作もされているのが伺える。

「平和な村だな。」

 ウォルフは煙草を吸いながら、そんな平和な村を散策する。

 つい先日戦争に巻き込まれたとはとても思えないほど、平和な村、村人達は稲作や畜産に精を出し、朝早くから働いている。

 それが、彼らにとって当たり前の日常だから、戦争という非日常を体験した後だとしても、それは変わらないらしい。

「やれやれだ。」

 散歩をしながら、村人達の視線を感じるウォルフ。

 ただでさえ麻布の服が主流のジパングで、空色のダッフルコートに迷彩のカーゴパンツという異質な服装、それについで御使いの連れと言う事。

 好奇の視線にさらされるのも、無理はないだろう。

「さて、そろそろ起きたか。」

 十分に散歩を楽しんだウォルフは、修平を迎えに行くべく宿へと戻った。


「やあ修平君、お目覚めかね?」

「あ、ウォルフさんおはようございます。」

 ウォルフが宿に着くと、修平は丁度着替えをしていた。

 浴衣から空手着に着替えていて、これがしっくりくるといった感じだ。

「中々筋肉質だな、君は。」

「まあ、鍛えてましたから。」

 修平の体の所々には火傷の跡があり、見ると痛々しい、事故にあった時の物だろうか、顔にもあるが体の方にもちらほらある。

 そしてその体は幼少から空手をやっていただけあり筋肉質で、無駄がない。

「着替え終わったら出発だ、長旅になるぞ。」

「はい。」

 キュッと黒い帯を締め、白いスニーカーを履く修平、これで準備万端、という風だ。

「では、行こうか。」

「はい。あの、ウォルフさん……。」

「なんだね?」

「俺、戦えますかね……。」

 不安げな修平、昨日の今日で、何か不安になったことがあるのだろうか。

「戦えるかどうかではない、戦うしかないのだよ。」

「そう、ですよね……。」

 不安げな表情をしたまま、修平は宿の部屋を出ていく。

「そう、戦うしかないのだよ。」

 ウォルフは、我が子を見やるような表情でそれを見つめ、後を追った。


「うわぁ!」

「はっはっは!馬に乗るのは楽しいかね?」

「楽しい!というか!大変!です!」

 馬が跳ねると一緒に、声が跳ねる修平、ウォルフはそれが楽しくてたまらない様子だ。

 初めての乗馬で、それなりの速度を出しているのだから、修平の反応は至って正しいのだが、それが愉快でたまらない様だ。

「すぐに慣れてくるさ、何も心配はいらない。」

「そうだと!いいん!ですけど!」

 楽し気なウォルフと、精一杯な修平、そんな対照的な二人だったが、ふとウォルフが真顔になる。

「……、魔物だな?」

「どうか!しましたか!?」

「この付近に魔物がいるようだ。どうだ、ここいらで一発稽古と行こうじゃないか?」

「……、はい……!」

 生唾を飲み込む修平。

 初めて、魔物と戦う事になるのだ、それは緊張するだろう。

「では馬を降りよう、こっちだ。」

「はい……!」

 林道を抜け、鬱葱とした森の中を通る、暫く歩いていると、何か鳥の鳴き声の様な物が聞こえてきた。

「修平君、魔物は見たことがあるんだったな?」

「は、はい。」

「ならばどんな見た目をしているかもわかるだろう、もう少しで到着だ。」

 少し先から光が零れていて、開けた土地があるのがわかる。

 少しの間だが暗い森の中を歩いていた修平は、眩しさに目を細める。

「あれだ。」

「あれは……、人!?」

「あぁ、もう手遅れだがな。」

 光に慣れ、開けた場所に足を踏み入れた修平が見た物、それは。

 二つ首の鳥型の黒い靄を纏った魔物に食われている、死体だった。

 原型をとどめていない、男か女かもわからないその死体を見て、修平は恐怖する。

「次の被害が出る前に倒さなければ、また人が死ぬだろうな。」

「……。」

「さあ修平君、君はここで魔物に打ち勝たなければならない。でなければ、神など勝てる訳がないのだからな。」

「……、はい……!」

 平地に出て、構えを取る修平、右腕を腰に構え左腕を前に出す、基本的な型だ。

「来い!」

 大声をだし、魔物をひきつける、目論み通り魔物が修平に気付き、ピィと鳴き飛翔する。

 よく見ると人と同じ程度の大きさの二つ首の魔物は、修平に狙いを定める。

「ふぅ……。」

 深呼吸をする、目を瞑り、精神を集中させる、羽ばたきの音が止まり、風を切る音が聞こえてくる。

「……。」

 緩慢ともいえる速度で、目を開く。

 風色の瞳に、二つ首が映る、それは、滑空しながらこちらに突進してきていた。

「てやあぁぁぁ!」

 二つ首が突撃する、その刹那、修平は、思い切り右拳を突き出した。

 それは二つ首の顔面の一つに吸い込まれる様に当たり、それをつぶす勢いで振りぬかれた。

 断末魔の声を上げ、修平のすぐ近くに落下する二つ首の魔物、それはひしゃげた顔面をかばう様に翼を動かしながら、最後に霧散した。

「ふぅ……。」

 いつも以上の力が出せた気がする、というよりも、普段ならここまでの力は繰り出せなかったはずだ。

 人間大の何かを一撃で倒す、それは勾玉の力がある故だろう。

「倒せた……!」

「当たり前だろう、勾玉の力はそれだけ強いのだから。」

 ウォルフの見立てでは、勾玉の力によるブーストは常人の数倍にも身体能力を上げる。

 一般人の中でも強い方ではあるが、しかし魔力を発現していない修平が魔物を倒せるのだから、それは正しい見立てだろう、もしかしたら、十倍程度はブーストされているのかもしれないが、と見立てを立てる。

「この勾玉、そんなに凄い物なんですか?」

「そりゃ四神と守護神の力が籠められているんだ、それだけの強さはあるだろうさ。」

「そうなんだ……!」

「しかし、君のセンスもなかなかいいぞ?筋が良い、というべきか。」

 それを聞いて、やったとガッツポーズを取る修平、今まで鍛錬を積んできた甲斐がある、というものだ。

 ウォルフは喜ぶ修平を見て笑い、さてと表情を戻す。

「骸を弔ってやろうではないか、その後旅を再開しよう。」

「はい!」

 初めて魔物を倒した事、ウォルフに褒められた事で若干テンションが高いままの修平。

 二人は死体を森の一本の木の下に土葬し、旅を再開した。


「今日はこの辺で休もうか。」

「はい、はぁ、はぁ。」

 陽が落ちた頃、ウォルフの提案でキャンプをする二人、修平はげっそりとしていて、心底疲れている様子だ。

「だいぶ疲れただろう?これを食べて寝ると良い。」

「ありがとう、ございます……。」

 そういって渡されたのは村人に渡されたおにぎりで、具も何も入っていない質素なおにぎりだったが、修平の腹と身には沁みる。

 がつがつとおにぎりを三つ程平らげ、そのまま麻の敷物の上に寝転がると寝息を立て始めてしまった。

「hahaha!これは無防備な。」

 それを見てウォルフは笑う。

 リリエルと同じく、いやリリエル以上に戦場に身を置いてきたウォルフにとって、修平は可愛いと言える程無防備だ。

 スースーと寝息を立てて眠る姿は、まるで無垢な小学生のようだ。

「あの子達は元気だろうか。」

 その姿を見て、自分の子供の事を思い出す。

 ウォルフが戦争に赴き、その戦果を土産話に持って帰る、そうすると子供達はわくわくしながら、それに聴き入っていた。

 そんな子供達を、修平の寝顔は思い起こさせる。

「またいい土産話が出来そうだ。」

 そういいながらウォルフは笑い、座ったままの状態で眠りについた。

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