7話 白虎の守護者
「君が修平君だね!」
「えっと、誰……?」
「僕は白虎!君の司る四神の一柱さ!」
「白虎?四神?」
「説明は彼に任せるよ!僕から説明するのも苦手だし!」
「彼って……?」
「まあすぐにわかるさ!じゃあ、またね修平君!」
「あ……、うぅ……。」
「んぅ……。」
ディセントはジパングの西端、白虎の祠、空手着にスニーカーという、ジパングに似つかわしくない服装の青年、河伯修平は目を覚ます。
「ここは……?」
体を起こしながら、周囲を見渡す、確かウォルフと名乗る黒人に話しかけられ、そして光に包まれて意識を失ったはずだ、と。
「やぁ、ようやくお目覚めかね?」
「あ、貴方は……?」
「俺はウォルフ、さっき会っただろう?」
「えっと、ここ、どこですか……?」
きょろきょろと周りを見ながら、扱く真っ当な疑問を口にする修平。「
突然知らない場所に飛ばされて、目を覚ましたら古い祠なのだから、その反応は無理はないだろう。
「ここはディセントのジパング、その西端にある祠だ。君は戦争の為に連れてこられたのさ。」
「ディセント?ジパング?戦争?」
「君はおじいさんから何も聴いていないのか?」
「おじいちゃんから……?」
疑問だらけの修平、何一つ理解できていないという風だ。
ウォルフは苦笑いしながら、修平のすぐ近くに座り、修平にも座る様促す。
「まあ落ち着いて聞きたまえ、煙草でも吸うか?君は千年前にこの世界で起きた大戦争を納めた人間の、その末裔だ。君がいた世界のその裏側、この世界で再び戦争が起きようとしている。」
「は、はぃ?」
「まあ最後まで聞きたまえ。そこでだ、君ら聖獣の守り手は戦争を納めるべく代々力を継承してきた、そしてその力が今必要とされているのだよ。」
座りながら話を聴いて混乱する修平だったが、しかし一つの答えに行きつく、それは、出会ったことがあるとある人物を思い出したからだ。
「えっと……。要するに、俺にはあのディンアストレフさんみたいな力があるってことですか?」
「君は竜神王サンを知っていたのか、ならば話は早い。」
「竜神王?えっと、ディンアストレフさんには一回だけ会った事があって、凄い強い人だった覚えがあるんですけど……。魔物と戦ってて、魔法も使えて……。俺にもそれが出来るってことですか?」
「省略すればそういう事になる、彼には遠く及ばないだろうがね。」
それを聴き、凄い!と目を輝かせる修平、それを見て、ウォルフはやれやれという感じで話を進める。
「力を持つってことは責任や痛み、恐怖が伴う。それをわからずに戦われても、こちらとしては困るんだがね?」
「え?あ、はい……。」
「力を持つという事は、責任があり、痛みがあり、恐怖がなければならない。まあこれは、俺の持論なんだがね。修平君、君が力を持つに値するかどうかを見定めている暇はどうやらないらしい、からして、それらを持ってもらわねば困るのだよ。」
訳が分からないという風な修平に対し、やれやれと首を振るウォルフ。
空手を幼い頃からやってきた修平だが、そんなことを祖父や父から教えられたことはない、だから、何を言っているのかが理解できない。
力には責任があり、痛みがあり、恐怖がある、それはウォルフの持論であって、空手家としては別段持つ必要のない心構え、とも言えるだろう。
そして、戦場にいる為には、必要不可欠な心構えだろう、とも。
「まあそのあたりは自然と覚えていくだろう、今はそれよりも大切な事がある。」
「えっと、それってなんです?」
「とりあえず、君達にこの世界の命運が託されていると言う事だ。君達が敗北すれば、世界が滅びる。勿論、君が守りたくてたまらない妹さんもだ。」
「……!」
生唾を飲み込む修平、元居た世界でも、1年前に世界が危機に瀕したことがある。
それは魔物が爆発的に発生し、世界を破壊しようとした為だとニュースではやっていた、それを、ディン率いる討伐者一行が倒した、とも。
「君達のいた世界でも1年ほど前に、世界が存亡の危機に瀕したと竜神王サンから聴いている。それと同じことがここで起きようとしていて、それを君達が止めなければならない。理解したかね?」
「……。なん、とか……。」
「宜しい、では君に一つ贈り物をしよう。」
「なんです?」
ウォルフはおもむろに、コートのポケットに手を入れた、そして取り出したのは、白い手袋のような物だった。
「グローブだ、君は徒手空拳で戦うのだから丁度いいだろう。」
「あ、ありがとう、ございます。でも俺、普段使ってないですよ……?」
「それには特別な魔力が籠められている、君の力を引き出すのに一役買うはずだ。」
「魔力?」
またわからない単語が出てきた、魔力という聴きなれない単語に修平は首を傾げ、頭に?を浮かべる。
「魔力とは、魔法の源のようなものだ。時機、君にも理解出来る日が来るだろう。」
「わかり、ました……。」
そういわれて、素直にグローブを手に着ける修平。
何か特別な変化を感じる事はなかったが、魔力という物がわからないのだから当たり前だろうと考える。
「さぁ、行こうかね。」
「行くって、何処へです?」
「このジパングの中央、外園君という精霊の住む屋敷だ。そこに集合し、敵の本拠地に乗り込む手筈になっている。」
「あの、敵って、何者なんです……?」
扱く真っ当な疑問、敵が何かわからないのでは、戦う事は出来ない。
「オリュンポスの神々、と言えば伝わるかね?」
「オリュンポス……?ゼウスとかハーデスとかが出てくる神話の!?」
「そのオリュンポスで正しい、この世界にはそれらの神が実在しているのだよ。」
「えぇ!?」
魔法や魔物が存在するのだから、神が存在していても不思議はないが、その神と戦えというのだから、驚くのも無理はないだろう。
「オリュンポスの神々が戦争をし、それが世界に広がりつつある。だから君達はそれを鎮め、打ち倒さなければならない。」
「そ、そんな事……!出来るんですか……!?」
「出来る出来ないではない、やるしかない。やらなければこの世界も君達のいた世界も、全ての世界も終わりだからな。」
「……。」
選択肢は無いという事実を、思い知らされる。
世界が終わってしまえば自分はもちろん、妹も死んでしまうだろう、それは嫌だ、なんとしてでも守ると決めたのだから。
「……、やります……!」
「それで良い、では行こうか。」
ウォルフはそういうと立ち上がり、祠を出ていった。
「……、俺が、守るんだ……。」
修平は独り言を呟くと、その後に続いた。
「み、御使い様が現れたぞ!」
「何事だね?」
「み、御使い様!マグナの神の使いを名乗る者達より襲撃を受けております!どうかご助力を!」
修平とウォルフが祠からすぐ近くの村にたどり着くと、そこはまさに戦場だった。
というよりも、現地民であろう麻の服を着た村人達が、黒いローブを羽織り杖を持っている集団に襲撃されていた、というのが正しいだろうか。
戦う準備も出来ていない村人達が、杖から放たれる魔法により黒焦げに焼かれ、本から発せられる光線に当たりバタリと倒れていく。
「修平君、君はどうするかね?」
「ど、どうするって!?」
いきなりの惨状に驚いている修平と、至って冷静なウォルフ。
「ここの村民達は我々を出迎える役目を持った村民だ、対してあのローブの集団は君の敵である神に使わされたであろう殺戮者達だ。」
「……!」
「我々の手で殺戮者達を追い払うか、放って置くか。どうするかね?」
「た、助けないと……!」
正義感の強い修平に、選択肢はなかった、慌てて敵と村人達の間に入ろうとして、ウォルフに止められる。
「まぁ待ちたまえ、そのまま突っ込んでも殺されるだけだぞ?」
修平はまだ何の力も持たない一般人、いくら空手が強くとも魔法相手に勝てる訳がない。
そう判断したウォルフは、あまり美学としては使わないが、と一言呟く。
「俺が先手を打つ、修平君は後からついてきたまえ。」
「は、はい!」
ウォルフは不敵に笑うと、走り出す。
「殺せぇ!」
青色のローブを着た男がウォルフを指さし、集団は一斉に魔法を放つ、しかし、ダッフルコートを着ているとは思えない身のこなしで、ウォルフはそれを弾き飛ばしていく、炎や光の玉や氷礫を、蹴りや手刀で薙ぎ払う。
「さあ修平君、出番だ。」
「はい!」
その後ろを、何とかついていく修平は、ウォルフのおかげで魔法にあたる事無く、集団の目の前まで到達した。
「せいやぁ!」
まず一人、走った勢いを拳に乗せ、自分と同じくらいの伸長の男を殴り飛ばす。
「ぐえぇ!?」
顎に吸い込まれた拳、男は奇声を上げ吹き飛び、倒れた。
「まだまだぁ!」
続いて繰り出されたの回し蹴りが、倒れた男のすぐ横にいた少年の首に、吸い込まれる様にクリーンヒットする。
「ひぎゃぁ!?」
倒れる少年、マグナの陣営がざわつき始める。
「まさかっ!これが聖獣の守り手の力だというのかっ!」
青いローブの男が驚愕の声を上げる、まだ何もしていないはずの、何の力も得ていないはずの青年が、ここまで強いとは思わなかったという風だ。
「せやぁ!」
回転蹴りの勢いのままに、反対の脚でハイキックを見舞う修平、二十代と思われる女の魔法使いの頭に思い切り当たり、女は声を上げる事もなく気絶してしまう。
「は、放てぇ!」
青いローブの男が言い放つと、一斉に魔法使い達は魔術を詠唱し始めるがしかし、それは読まれていた。
「甘いねぇ、甘い。そんな隙を見逃す訳がないだろう?」
ウォルフが動いた、詠唱に必要な杖や本を、片端からへし折り、はたき落す、あまりに早く、鮮やかなその動き。
マグナの陣営も修平も、村民達も動きが見切れない。
「さぁ、まだやるかね?」
「て、撤退だぁっ!」
青いローブの男が叫ぶと、マグナ陣営は次々に、慌ててその場から散り散りに去っていった。
「ウォルフさん、強いんですね……!」
「そりゃ、君の指南役として呼ばれたんだから、君より強くなければならないだろう?」
「それも、そっか!」
興奮気味の修平、ウォルフの強さをみたのと、村人達を守れた事に対する高揚感があるのだろう。
「さあ、弔いをするのならしようじゃないか。」
「あ、俺も手伝います……!」
二人は村人達に混じり、亡くなってしまった村人を弔うべく穴を掘り始めた。
土葬を終え、村長の家に通される頃には、昼だったはずが夜の帳が降り始めていた。
「いやはや、御使い様方がいらっしゃってくださらなかったら、今頃どうなっていたことやら……。」
「これくらいの事は当然だ、それで奴らはいつ現れたんだ?」
「御使い様方が現れる、ほんの少し前のこと。突然に表れ、私どもを攻撃し始めたのでございます。」
「成る程、そこに我々が到着した、と。」
「はい。」
囲炉裏の火がぱちぱちと弾ける中、村長とウォルフ、修平の三人は食事を終えた。
「えっと、俺達が来たら何かまずいことがあったってことですか……?」
「それは勿論、マグナの神々からしたら君達守護者は邪魔な存在だ、その存在に手を貸す村は襲撃してもおかしくはないだろう?」
「そっか……。」
昼間に比べ、暗い表情の修平、村人達の弔いを手伝い、死に向かい合ったからだろう。
昔を思い出してしまうような、そんな感傷的な感覚、両親を事故で亡くした、あの時を思い起こさせられる。
「御使い様が現れた際には、これを渡せという言い伝えが。」
「それは……、白虎神の守りか。修平君、君の為の物だ。」
「俺の?」
「あぁ、君のご先祖や白虎神が君の為に遺したものだろう。」
「よくご存じで……、貴方はどのような役回りを持っていらっしゃるので?」
村長が疑問を口にする、修平が白虎の守り手なのならば、伝承にないウォルフは何者なのか、と。
自分達を守ってくれたからには味方なのだろうが、しかしわからない、と。
「俺達は聖獣の守護者の指南役という所だ、道中の稽古と警護を勤めるのさ。」
「成る程、そのような役回りの方が今回はいらっしゃるので。」
「まああまり気にしないでくれたまえ、我々はあくまで指南役だ。」
煙草に火を点け、煙を燻らせながら話を続ける。
ディンの様に言葉に制約がある訳ではないが、それに倣って、というところだろう、言葉数をあえて少なくする。
「我々は彼らが育ち次第お役御免、帰る所へ帰るという、それだけの話だ。」
「ウォルフさん、それ本当ですか……?」
「あぁ、君達守護者がこの戦争を止めなければならない、竜神王は最後まで付き合わなければならないと言っていたがね、俺はそこまでする義理も理由もない。」
「そう、ですか……。」
ウォルフ程強い味方が居れば、戦いが楽になると思ったが、どうもそうもいかないようだ。
「とりあえず、それを受け取りたまえよ修平君。」
「あ、はい。」
そういって修平は透き通った黄緑色の中に五芒星の描かれた、勾玉を村長から受け取る。
紐を首にかけてみると、何か暖かい何かが体に伝わってくる。
「なんだか、力が湧いてくるみたいだ……!」
「白虎神の加護、それとこの五芒星は竜神の加護か。恐らくこの世界の守護神の加護だろう。」
「守護神?」
「守護神デインといっただろうか、彼の神も君の味方の様だからな。」
「なる、程……。」
まだ理解できないことが沢山ある、しかし、世界存亡を掛けた戦いがあり、それに自分は含まれている、修平はそれだけを理解し、戦う決意をした。
「さてさて、あの二人はどうなることやら。」
「あの二人って?」
「ウォルフさんと修平君だよ、ウォルフさんがどういう人間なのか俺もわからないから、合うのか合わないのかもわからないんだ。」
「ふーん、そうなんだ!」
蓮とディンは、外園邸の広い風呂に入りながらのんびりしていた。
蓮は出会ったばかりの時のガリガリの体つきとはかけ離れ、筋肉質になっていた。
だいぶん体つきが良くなってきている、ディンにとっては、それは安心材料になる、蓮が健やかに育ってくれている事、それは安心出来る、と。
「ウォルフさん、楽しい人だよ?」
「あれは空気読んでるっていうか、蓮が子供だから可愛いんじゃないか?お子さんいるって言ってたし。」
「ウォルフさんの子供、何歳なんだろ?僕と近いのかな?」
「さあ、な。彼はあまり語りたがらないからな。」
お湯に肩まで浸かり、のんびりとした時間が過ぎていく。
「早く他の人達とも仲良くなりたいなぁ。」
「蓮ならなれるさ、優しい子だからな。」
「そうかなぁ?えへへ。」
ディンに頭を撫でられ、にっこりと笑う蓮、友達のいなかった蓮にとって、同じ目的を持つ「仲間」というのは早く会いたい存在なのだろう。
「早く会いたいなぁ……。」
「まあ気長に待とう、時間はまだあるんだから。」
「そうだね。」
にししと笑い、蓮はディンにお湯をかけて遊び始めた。




