10話 出発まであと一日
「明日か、そうか、明日が皆にとっては出発日になるのか。」
ディンが、聖獣の守り手達の警護を任せてから、丁度一年が経つ頃。
明日、聖獣の守り手達は、この世界ディセントにやってくる、それが宿命であり、定めであり、命運なのだ。
ディン達が関与しなかったとしても、聖獣達によってこの世界に呼ばれていた、聖獣達がディン達にそこを任せているから、ディン達がその役割を担うというだけの話、元来であれば、聖獣達が守り手達を強制的にこちらの世界に連れてくる、強制的という部分は違いはないのだろうが、説明があるかないかの違い程度はあるだろう、セレンやリリエル達がどんな説明をしてこの世界に連れてくるか、については任せてある、だから、ディンはその合図を聞いたら、転移魔法を発動するだけだ。
本来、世界を超える事を許されている存在、それは竜神だけ、のはずだった。
それが、歴史が変わったから、とはいえ千年前にディセントの守護者達がセスティアに飛んでいたり、リリエルやセレンと言った、「世界を超える資格」を持っている存在がいる、と言うのは、ディンにとっても予想外だった。
ウォルフを除けば、皆共通点はある、蓮にも、リリエルにも、セレンにも、そして竜太にも、ディンにも。
そもそも竜神であるディンと竜太は除いたとしても、全員に共通項はある、世界を超え得る存在、と言うのは、限りがある、その素質を持っている存在、の中でも自由に行き来が出来る存在、となってくると、更に限りが出てくる。
例えば、セレンはディンを介して異世界へと転移する、セレン自身はそう言った類の魔力や能力を持っている訳ではない、特殊な出自ではあるが、セレン自身にそう言った能力はない。
別で言うのであれば、リリエルは自分自身の力で異世界転移が出来る、リリエルの持っている星の力、という力が、リリエルに異世界の行き来を出来るだけの権限を与えている、と言うのがディンの認識で、リリエルは自力での異世界転移が出来る、ただ、他人を巻き込んでまでは出来ない、それが現状だろう。
ウォルフは、そもそもがこの世界群の外側の存在である事、竜神の作りし年輪の世界群、の外側の人間だ、同じ人間としての形をとっているが、所謂異星人とでも言えば良いのだろうか、異世界航行を可能とした肉体を持った異世界人、が正解な所があり、その転移に関しては、ウォルフを使役している神、が一任しているという話だ、ウォルフが本人の意思で異世界転移を出来るのか、と問われると出来ないが正解だ、と言っていた。
竜太は、竜神であるのと同時に、魔法を使うのが極端に苦手であり、次元転移を使える程の魔法を扱えない、だからディンの次元転移の力を借りて世界を行き来している、いつかは自力で出来る様になるのかもしれないが、それは今ではないのだろう。
「……。」
蓮は現在、独りで雷咆斬の練習をしている頃だろうか。
そんな事を考えながら、ディンはある世界にやってきていた。
「アリナ……。」
この世界に来るのは何度目か、弔いの言葉を投げかけるのも何度目か、それを数えられない程度には、この世界のこの場所にはやってきていた。
「アリナ、俺は……。」
アリナという少女、アリナという守護者、そしてその仲間達。
皆散っていった、アリナが守ろうとした仲間達は、人間の戦争に先陣を切って進み、世界を守ったアリナの為になると信じて、散っていった。
それがアリナの望んだ未来ではなかったとしても、人間同士の戦争を止めたいから、と願った少年少女達、アリナと共に戦った者達は、その命を代償にして、一次的な平穏を世界に与えた。
しかし、結果としてこの世界は滅びの一途を辿っている、その世界としての終わり、世界に生物がいない、という意味合いでの滅び、人間がいなくなる、統治する存在がいなくなるという意味合いでの滅び、それを迎えようとしていた。
精霊達が何とかしようとしている、それは知っていた、ただ、世界にとっての守護者を世界が失ったきっかけ、に関してもまた、精霊に因がある。
「大いなる闇」が関与していない滅びに関しては、ディンは管轄外だ、それが関わっていない世界の滅び、に関しては、それは人間達の営みであって、滅ぶべくして滅んだ世界だ、としかディンには言いようが無かった。
それが冷たい言葉だと認識されたとしても、いちいち人間同士の争いにまで手を出していたら、いくらディンが数千万年という長い時を生きる存在だったとしても、間に合わない。
そして、ディンはかれこれ一年前、セスティアに戻った際には一か月前か二か月前の事になるが、不完全な竜神王であり、その力を振るうタイミング、と言うのはとてもシビアだった。
「ジン、ソーラ、モート……。」
魔力を持たなかった少年、ウィッチをと呼ばれていた少女、そして、精霊でありながら、人間と共にいる事を選んだ少年。
三人は、アリナの死後、世界に訪れた混沌、人間が統治していた二つの大陸間における戦争、に関与していた、それを止めようと、前線に出た。
結果、両大陸から多数の死者が出た、人間の殆どが滅んだ、魔法による世界の破壊、それぞれの大陸の人間達の長とも言われていた、グランウィザード達の魔法によって、人間が住める場所の殆どが失われた。
そして、それは精霊の湖畔と呼ばれる場所に住んでいた精霊達にとっても、大きな損失を出した、人間ありきで運営していた世界が、人間が殆どいなくなってしまった事で、機能不全を起こしてしまったのだ。
「……。」
その結果、この世界は後は滅びるだけ、という結果をもたらした、その崩壊の前にアリナの魂だけは場所を移そう、とディンは考えていたが、今現在まだ滅びは来ていない、アリナも、世界との別れを惜しむ時間程度は与えられても良いのだろう、とディンは考えていた。
竜炎、それによって焼かれた魂、それは、輪廻転生の輪を外れ、普遍的な魂の循環を外れ、そして竜神の魔力によって加護を与えられる、そんな魔法に焼かれたアリナの魂、それを他の世界に持ち込むのは、ディンの私情であり、ただの感情だ。
それを許す許さないを決める竜神も、殆ど残っていない、殆どはディンの手によって滅んでいる、だから、それを咎める存在、と言ったら、ドラグニートの八柱の竜神か、デインと竜太しかいない。
「また来るよ。世界を守って、次の世界に行って、それはずっと変わらない事だと思うから。」
祈る、アリナの魂に、やすらぎがあるように、と。
そして、戦場で散っていった三人の仲間、彼らの魂が、この世界から外れたとしても、また世界群の輪廻を通して、生まれ変わってくれる事を。
それが、共に戦った、共に過ごした身として、許されている唯一の事だった、守護者を育てるのが竜神の役割、そして、セスティアという軸の世界を守るのが、竜神王の役割。
それを一手に担っている現在、それに文句をいう竜神はいない、残っていない、竜神が千幾ばくか存在していた頃、と現在ではそれは大きく違ってくるだろう。
「……。」
ディセントに戻るべく、魔力を練る。
明日、それぞれの旅が始まる、それぞれの未来があり、現在があり、過去があり、その一枚の頁が刻まれる。
それをどうしていくのか、それとも戦場で散っていくのか、それはディンにもわからない未来だ。
外園が視た未来、通りになるのであれば、それは滅びの未来だが、ディン達が介入した事によって、外園は未来のヴィジョンが視えなくなった、と言っていた。
滅びを司る精霊、ともいえる外園が見ていた未来、その通りにならない未来を、守護者達は勝ち取る事が出来るのだろうか。
それはわからない、ディンは未来を視る事は出来ない、出来得る限りの事をして、その結果を受け入れる、それしか出来ないのだ。
「蓮……。」
そして、本来であれば、無関係だったはずの少年、蓮。
蓮が行きつく未来、それがディンの予想通りであったならば、それは悲しい結末だ。
だから、そうならない様に、その道を歩んでしまわない様に、蓮を育てなければ、ディンは改めてそれを胸に誓い、世界を渡った。




