9話 雷咆斬
「ねぇお兄ちゃん!僕とお兄ちゃんを会わせてくれた、デインさんってどんな人なの?」
「ん?デインはこの世界の神様だよ、この世界の守護神、神が多く残っているこの世界で、一番強い神様だ。」
「神様って、どんな神様がいるのー?」
「そうだな……。簡単な所で話すと、ドラグニートって言う、外園さんが個人的に輸入をしてる国には八柱の竜神、そしてソーラレスって言う仏門の国には仏陀、妖精の国フェルンには神とは少し違うけど精霊、そして今回の問題、蓮達が戦わないといけない存在が、オリュンポスの神々だな。」
修行開始から四か月、蓮は銃の扱いを覚え、いつでも使える状態、にまで持って行った。
となると、残りの修行はとなってくるのだが、ディンはそのあたりプランを考えている様子だ。
現在は入浴中、夕食を終えて入浴をしながら、蓮がディンに質問をしていた。
「オリュンポスの神々、って言う神様が、僕達の敵なの?」
「そうなるな。聖獣の守り手達がこの世界にやってこなければならなくなった理由、それは、千年前に起きた神々の闘争のその続き、が起こりそうになってるから、それを止めてもらう為なんだよ。勿論、止める為に戦わないといけない事もある、戦わなくて良い理由もある。神様って言うのは、この世界においては、普遍的な存在だ。殺す事は出来ず、滅ぼす事は出来ず、死んだとしても、代替わりをして生まれてくる、特に聖獣達はそうだな、彼らは厳密には神じゃない、だから寿命がある、寿命があって、同じ存在がまた生まれてくる。厳密に同じ存在か、と問われると違うけど、神としての資質がある魂が選ばれて、同じ形になる、が正解かな。」
「うーんっと?」
「まあ、そこらへんはこれからゆっくり覚えていけばいいんだ。とにかく、蓮の仲間は俺達以外に四人、東西南北の守護者、北の玄武、西の白虎、東の青龍、南の朱雀、それぞれに選ばれた人間が、蓮の仲間になるんだよ。」
「わかった!」
それぞれの守護者、の名前に関しては、会った時にでも覚えさせようか、とディンは思案する、蓮にとっても、楽しみがあった方が良いだろう、と。
「楽しみ!」
にこにこと笑いながら、蓮はお湯をぱちゃぱちゃとしている。
ディンは、そんな蓮の表情の中に潜む闇を感じていた、まだまだ、蓮の中の闇は残っている、現在で言うのであれば、蓮の心は光が二割、闇が八割、といった所だろう、ここに来た頃に比べれば格段にマシになったが、しかしまだまだ予断を許さない、そんな所なのだろう。
油断ならない現状、蓮の中の闇が暴走をして、周囲を巻き込む可能性、世界を滅ぼしかねない存在へと変貌してしまう可能性、それに関しては、まだ残っている、まだ潜んでいるだけで、あの時は間に合っただけで、これから先、それが通じるとも限らない。
ディンはそう考えていた、蓮と出会ったあの時、蓮はそうなりかけていた、それをディンの助力で何とか脱した、というのが現実で、蓮は自覚をしていないだろうが、蓮は大いなる闇に呑みこまれかけていた。
それをディンの介入という一石を投じる事で、何とかした、現状維持ではあるが、何とかした、と言うのが現状で、蓮の中に大いなる闇が残っている事に変わりはない、他者の闇、という心に負担を強いている現状が変わる訳でもない、それは、ディンだけが知っている、或いは、デインとディンだけが知っている事だ。
ディンとデインの関係、については、竜太以外は知らない、デインが竜神である事、デインがディンにとって兄弟であり、甥である事、については誰にも話をしていない。
竜神には、竜神の掟、と呼ばれる掟がある、それを破ってしまったら、世界が崩壊へと導かれる、という話をディンはきいた事があった。
「……。」
「お兄ちゃん?」
「ん?」
「どうしたのかなーって!」
蓮には伝えても良いのかもしれない、ただ、それが間違いだった場合、世界が崩壊するかもしれない、という言葉、それに対してディンは慎重な姿勢を見せていた。
何処までが話して良い事で、何処からが話してはいけない事なのか、について、慎重にならなければならない、と。
「そろそろ上がろうか。」
「はーい!」
ディンの子供達はそれを知っている、ディンが他の世界に行っている事、守護者と呼ばれる人間達がいる事、そして自分達が特別な役割を持った守護者である事、については、子供達は知っていた。
知っていなければ出来ない事が前提にあった、と言うのがあるが、それがまた、竜神の掟というのが、何処までが話して良くて、何処からが話してはいけないのか、を混乱させる原因になっていた。
「さて蓮、後覚える事は、属性剣だな。基礎的な攻撃の方法、に関しては、蓮は筋が良い、だから今の所教える事はない。となってくると、後はデインが使っていた魔法剣を扱える様になる、って言うのが目標だな。」
「はーい!それで、魔法剣ってどんな攻撃なの?」
「そうだな……。まずは雷咆斬を覚えるところから始めようか。雷咆斬、雷を纏った剣を繰り出して、その雷を遠距離攻撃に用いる、そう言う魔法剣だ。」
まずは自分が使ってみるのが良いか、とディンは考えるが、安易に竜神王剣を出すのも違うか、と考え、素手で雷咆斬を発動する。
「こうして、雷の魔力を、蓮の場合は両方の剣に宿してだな?」
「わぁ!」
「それを勢いよく撃ち出す、それが雷咆斬の基本的な攻撃方法だ。応用編もあるけど、まずは基本形からだな。」
「はーい!」
蓮の中にある雛型とでも言えば良いのだろうか、雷咆斬を使うだけの魔力と、それを可能にするだけの能力、に関しては、蓮は持っているとディンは感じていた。
元来竜神術は竜神にしか使えない、それを基に発動する魔法剣である雷咆斬も、元来であれば竜神にしか使えないのが道理だ。
ただ、デインがその権限を蓮に渡していた場合、話が変わってくる、竜神剣でしか発動が出来ないはずの魔法剣、それは、竜神剣と同じ理論で生み出された蓮の両刃剣でなら、発動が出来るかもしれない、デインが何処まで権利関係を蓮に渡しているか、によるところがあるのだろうが、戦闘面に関して全面的に蓮に力を譲渡していた、と仮定するのであれば、魔法剣である雷咆斬は使えるはずだ、とディンは考えた。
「えーっと、どうすればいいんだろう?」
「魔法剣はイメージが大切だからな、まずは剣に雷をつける、そのイメージをするのが一番だろうな。」
「雷……。」
蓮が雷咆斬を覚えるのは難しくはない事だろう、とディンは感じていた、蓮にとって、それは難しい事ではない、難易度としては中程度、竜太が魔法剣を覚えるのが困難な程度、と考えた時、蓮が魔法剣を覚えるのは中程度の難易度だろう、と。
それだけ簡単な事、竜神にとって、竜神術やそれに付随する魔法剣とは、それだけ当たり前に発動できるものなのだ、逆に、竜太が魔法を清風と簡単な結界術を除いて使えない、という事の方が例外的だ。
竜太が竜神術を殆ど使えない理由、に関しては、その出生に起因する所があるのだろうが、しかしそれでも納得出来ない部分がある程度には、不透明で不確定だった。
「雷って、どうすればいいんだろう?」
「それを考えるのは、蓮の役割だろうな。イメージが大切だから、発動する為にはそれを頭の中で理解していないといけないんだ。だから、蓮がどれだけ正確に雷をイメージ出来るか、によって技の攻撃力も範囲も変わってくるだろうな。」
後は修行あるのみ、とディンは蓮に任せる姿勢をとった、蓮は、ディンの期待に応えるべく、修行に励む、いきなり雷咆斬を撃てる程ではないが、剣に雷を流すイメージ、というのを頭が疲れるまで続ける、それが一番の道だと気付いていたのだろう。
「蓮君、お疲れ様。」
「あ、竜太君!お疲れ様!あ!竜太君って雷咆斬って使えるの?僕、お兄ちゃんに使える様になりなさい!って言われてるだけど、全然出来ないの!」
「うーん……、僕は魔法剣の類はからっきしだからなぁ。蓮君の方がそこらへんは上達が速いと思うよ?僕、本当に魔法が苦手だから。」
夜、大地の警護から戻ってきていた竜太が、大地の様子をディンに報告してから、蓮のいた食堂にやってきた。
腹が減っている、と外園に夕食を頼んでいたのだが、蓮がそれを口にした事、について驚いていた。
まさかディンが蓮に魔法剣を使える可能性、について教えているとは思わなかった、基礎的な修行は今までもずっとしてきていたが、ここにきて魔法剣の修行に入る、とは思っていなかったのだろう。
「そう言えば竜太君が魔法使ってる所って、見た事ない!苦手なの?」
「うん、壊滅的に苦手だよ。清風は使えるけど、それ以外の魔法は使えないんだ。後、ちょっとだけ結界術が使える程度だよ?僕には才能がないから。」
「うーん……。じゃあ、竜太君は本当に戦う事が得意なんだね!」
「え?あー、そう言う考え方も出来ると言えば出来る、のかな?僕は近接戦闘が基本だから、そのあたりを父ちゃんに重点的に教わってたんだ。魔法が使えない事は仕方がない、だから、出来る事をして欲しい、って。」
「そうなんだ!」
外園が夕食のシチューを運んでくる、パンはフランスパンの様なバゲットだ。
竜太は日本人、米が普段食べている食事だったが、こうして他の文化に触れる事、については肯定的だった。
そもそもが、戦いが終わったら世界を見て回りたい、と願っていた竜太なのだから、そう言った文化の違いに触れられる機会、と言うのは、有難い話なのだろう。
「いただきます。」
「美味しいねぇ!」
「うん、外園さんってお料理上手だから、どんな料理でも美味しい。」
外園が甲斐甲斐しく世話を焼く理由、については、自分のテリトリーに入られたくないという感情もあるのだろうが、元来の外園の性格として、世話焼きなのだろう、という事が伺える。
「食べたらもうちょっと修行しないと!」
「頑張ってね、蓮君。」
食事を終えた後、一人で修行をしようという心積もりの蓮は、急いで食事を食べ終え、食堂から出ていった。
「おやおや、若い子供が元気なのはよろしいですがね、蓮君は元気が過ぎる程度には元気な様子ですね。」
「外園さん……。きっと、蓮君が望んでた未来なんだろう、って父ちゃんがいってましたし、蓮君の境遇を考えると、今のはじけ方はおかしくないんじゃないじゃないですか?」
「そうですねぇ、私もいつだったか、フェルンを出た時には、年甲斐もなく心が躍ったものですよ。」
そう言うと、外園は蓮の食べていた食器を下げて、竜太は独りで食事を続ける。
探知を使ってみる限り、ディンはここにはいない、ウォルフとセレンは自室、リリエルはそもそも気配を探知出来た事が無い、だから探す事をしなかった。
「ふー……。」
次代の竜神王として、この世界に連れてこられた意味、自分達が住んでいる世界の裏側、ディセントに連れてこられた意味、それを考えても、答えは出ない。
デインがいる、という話だけは聞いていた、いつか会いたいと願っていた、デインは竜太を覚えていてくれているだろうか、ディンの言葉が正しければ、デインを一万年前、この世界群が出来た時期にこの世界に送った、という話だ、それから一万年と少し、わずか半年しか関わっていなかった自分の事を覚えてくれているだろうか、竜太はそれを不安がっていた。
もしかしたら、世界の守護神と呼ばれるに値するだけの性格になっていて、竜太を叱るかもしれない、など、不安に思う事は多々あるのだ。
ただ、それを周囲には話していない、竜神の掟、に関しては竜太も聞きかじっていた、聞きかじっていた程度の知識しか持っていなかったが、それでもデインの事を話してはいけない、程度の認識は出来ていた。
「皆はどうしてるかなぁ。」
皆、家族はどうしているだろうか。
最終的に、事が全てて終わってからセスティアに戻る際、の事を鑑みて、セスティアの人間と接触する事を禁じられていた竜太は、寂しがっていた。
ただ、これがディンにとっては当たり前、ディンの日常であり、常識なのだ、それを知っていたから、弱音を吐いてはいけない、と己を鼓舞していた。
「蓮君、雷咆斬使える様になるのかな?」
デインが何処まで権限を渡していて、という話は竜太は知り得ない、デインが力を与えた、程度の認識しかしていなかった竜太に、その話をしても意味がないだろう。
ただ、デインが得意としていた技、ディンが最も得意な属性、それを扱える様になる未来、それを見て少し微笑んだ。




