8話 銃の修行
「あれ?お兄ちゃんは?」
「父ちゃんならお出かけ中だよ、どこに行ってるのか、は聞いてないなぁ。」
「そっか!」
修行を開始してから三か月、竜太はリリエルに教わった殺しの技を基に、トンファーの修行に励んでおり、蓮は現在、ウォルフから銃の手ほどきを受ける、という所だった。
剣術、については順調極まれりという感覚を皆が持っていて、蓮は異常ともいえる速度で剣術をマスターし、両刃剣を巧みに操っていた。
デインの力を基に動いている、と言っても、デインは剣使い、両刃剣を使ったという記録は残されてない、使えたかもしれないが、使った事はないだろう、と言うのがディンの予測だった。
にもかかわらず、蓮が異常な速度で両刃剣の扱いに習熟している、と言うのは、そもそもの蓮の根源的な素養によるものだろう、と結論をつけていた。
蓮が根源的に持っている、攻撃の素養、格闘の素養、それが両刃剣を扱うのに、適していたのだろう、と。
「蓮よ、銃を撃った経験はあるか?おもちゃのピストルでも構わんが。」
「えーっとね、ない!」
「oh,そいつは頂けないな。」
朝食を食べながら話していると、ウォルフが混ざってくる、今日から射撃の修行だ、という事は聞いていて、蓮に銃を撃った経験があるか、を聞くが、蓮は銃というもの自体、ウォルフが持っていたから知った、程度の認識しかなく、それをどの様に使って、どの様に攻撃をして、という想像が出来ていなかった。
モデルガン、と言うのも、三宅島にはない文化だった、モデルガンを使った遊び、と言うのもした事が無い、正真正銘銃を知らない人間、それが蓮だった。
それだけ世間から隔絶されて育ったのだろう、と想像するのは難しくない、胸を痛めるのは簡単だが、ウォルフはそこは軍人として、頭を切り替えていた。
「竜太、お前さんは銃を扱った事はあるかね?」
「はい、父ちゃんが持ってる銃を、少しだけ使わせて貰った事があります。アサルトライフル、だったかな?そういう種類だ、って父ちゃんは言ってましたよ。」
「アサルトライフル、となるとAK辺りが妥当か。あれは安価な割に良く動くと有名だからな。」
ウォルフのセリフ、に違和感を覚える程賢くない二人は、ウォルフは銃に詳しいのだな、程度に考えていた。
ウォルフは元来、この年輪の世界の外側の人間、AKという銃を知っている事、について、違和感を覚える者は覚えるだろう。
そもそもが、愛銃がマクミランというのも違和感があるだろう、年輪の世界の外側の世界、にセスティアと同じ形式の銃があるとして、同じ名前とは限らない、実際に銃に詳しいディンとしては、同一の別存在、と言うのが正しいだろう、と結論をつけていた、同一の別存在と言うのは、種別としては間違いなくマクミランTACー50だが、その性質はセスティアのものとは違う、という意味合いだ。
ウォルフは、様々な世界を渡り歩く傭兵、英雄と銘打っているが、傭兵の類だ。
その時その時に、必要な知識は何処かから得ている、それが正解なのだろう、とディンは考察をしていた。
「ま、実戦で使えるレベルまで育ててくれ、とも言われていない、ならば、軽く教える程度で良いだろう。竜太、お前さんも銃を触ってみるかね?」
「良いんですか?」
「それ位なら構わんよ。」
ウォルフは、これだけのヒントでその違和感に気づく事が出来るのは、竜神王であるディンだけなのかもしれない、と考えを纏める、年輪の世界の外側に、また別の世界達がある、そして、その世界達で活動している、自分達と同じ「人間」という種族がいる、それに気づくのに、どれだけの思考をすればいいのだろうか、どれだけ考えれば気付くだろうか。
ウォルフの種族である人間は、この世界群の人間とはまた、違う種族であると同時に、同一体でもある、それを知っているのは、ディンとウォルフだけだ。
「さて、行くかね?」
「はーい!」
修錬場に向かいながら、こんな少年達が戦場に向かわなければならない事実、についてウォルフは憂いていた。
と言っても、ウォルフも最初に戦場に出たのは十七歳の頃、年月としては三十年以上前の事だ。
まだ年端もいかない子供が、と憂うのはそれはそれで大切なのだろうが、今はこの二人を鍛える事、蓮を一人前の戦士にする事に集中しなければならないだろう、集中しなければ、間に合わないだろう、と。
蓮が時折見せる深淵の目、それもだいぶん頻度が減ってきた、ここに来た当初は、一日か二日に一度はそう言った目になっていたのが、現在では一週間か二週間に一度程度、になっている、頻度としてはだいぶん減った事になるだろう。
ただ、まだ油断はできない、とウォルフは考えていた、あの深淵をどうにかするには、まだまだ時間も、環境も足りていない、と。
「そうだ、そう握って、セーフティーを外して引き金を引く、それだけだ。だが、間違っても仲間に銃口を向けてくれるなよ?」
「こう?」
「Oh!そうだ、蓮よ。グリップをしっかりと握れ、撃った拍子に手からすっ飛ばない様にな。竜太、お前さんはわかっているな?」
「はい、こうですよね?」
修錬場に出た三人、ウォルフはディンから渡されていた、グロックのハンドガンを二人に渡し、そして使い方をレクチャーしていた。
蓮の手の大きさ的には、もう少し小さな拳銃が良いのかもしれない、とウォルフは考えていたが、現在進行形で蓮が銃をメインウェポンにする予定はない、だから、なんとなく使い方を知っている程度で良いだろう、と認識を改めた。
竜太はハンドガンを使うのは初めてな様子だったが、セーフティーを外して引き金を引く、というのはアサルトライフルと何も変わらない、だから、持ち方さえ覚えてしまえば、後は扱える。
BANG!
一発撃って、感触を確かめる、アサルトライフルは肩に反動軽減の装置が着いているのだから、それとハンドガンとでは感触が違うのだろう、と竜太は考えた。
「こう?」
「そうだ、その調子だ。」
蓮は、初めての射撃とは思えない程、正確に的へと射撃をする、的の端に当たればいいだろう、と考えていたウォルフとしては、最初から的の中心付近を撃たれる、というのは少々予想外だ。
ハンドガンという扱い易い銃だったとしても、それを的確に的に当てられる様になるまで、少しでも時間はかかるものだ、竜太の様にそもそもが違う存在であれ場、的に当てるのも当たり前なのだろうが、蓮の様にただの少年だった子供、がいきなり的に弾を当てる、と言うのは、中々にお目にかかれない光景だ。
ウォルフは、英雄稼業をしている中で、数多の弟子達がいた事があった、銃に慣れている弟子、触った事すら無い弟子、触った事はあっても、人を撃った事が無い弟子、様々いたが、ここまで最初から的確な射撃をする弟子、と言うのはなかなかいなかった。
「ウォルフさん、薬莢?が落ちてこないのって、なんでなんですか?」
「ふむ、説明を忘れていたか。その銃は竜神王サンから預かった銃なんだがな、魔力を弾丸に置換する、そんなハンドガンだ、と言っていたな。人間には扱えない、人間が扱った所で殺傷能力を持ちえない、そんな銃だと言っていたか。」
「薬莢、ってなあに?」
「要するに、弾を撃った後の残骸だ、蓮よ。弾丸を撃った後に残る、砲身の跡とでも言えば良いだろう。」
「砲身?わかんない!」
「hahaha!お前さんのそう言う素直な所は嫌いじゃないが、思考を止めるのは関心せんな。お前さん達はまだまだ若い、若者らしく、様々な事を質問する、そして覚えていく、それが若者の役割だと思うがね。」
竜太が、銃を撃っても薬莢が落ちてこない事に気づいて質問をする、蓮は薬莢という言葉の意味が分かっていない様子だった、ウォルフが説明をしようにも、前提知識の差がありすぎて、どう説明をしたら良いものか、といった風だ。
砲身を知らない、薬莢を知らない、という事は、銃に関する知識が一切合切ない、そして、蓮は島を出てから直接この世界にやってきた、常識的と呼ばれる知識も、現在身に着けている最中だ。
例えば食事、最初は手づかみで食べていた食事を、現在ではナイフとフォーク、スプーンと箸を使って、行儀よく食べている、そう言った知識の類、というのを、蓮は身に着けている途中なのだ。
わからなくて当たり前、知らなくて当然、知っている前提で話をする方が間違っている、ウォルフは、それを改めて認識した。
「砲身の残骸、それはな、銃を撃つにあたって、こうした弾丸を使う、この部分を薬莢という。銃の弾丸の中で、攻撃に用いない部分とでも言えば良いだろうかな。これに弾丸を入れて、ここにインパクトを加えて、銃弾を撃ち出す、するとどうなるか、薬莢はこのサイドにある排出機構から吐き出される、それが無い、と竜太はいった訳だな。そして、それに対する俺の回答が、お前さん達の魔力を基に弾丸を生成しているから、薬莢が生まれない、という答えなわけだ。」
「これは弾丸って言うの?」
「そうだ、俺が使うのは実弾だからな。お前さん達と同じで、魔力を弾丸の形に生成して撃ち出す事も出来るが、それは俺の美学に反する。美学って言うのはそうさな、プライド、意地に通ずる事柄だな。蓮にとっても、プライドと呼べる事柄が、そのうち出来るだろう。男ってのは、プライド無くして生きてはいけない人種だからな。竜太、お前さんにとってのプライドってのは、なんだ?」
「僕ですか?うーん……。プライド、って言う程の事じゃないかもしれませんけど……。でも、皆を守る事、かなぁ。」
「ふむ、では蓮よ、それを聞いてどう思う?お前さんは、それをプライド、意地と認識するか?」
「うーんと、えーっと……。」
「難しい話だったのかもしれんな。ただ蓮よ、男は、守るべきものの為に立ち上がる事を美学とする、それはどの世界でも変わりはしない。俺のいた世界、蓮達の住んでいた世界、そして数多ある年輪の世界、そのどこに行ったとて、男って言うのは、そう言うもんだ。それをゆめゆめ忘れるなよ?でなければ、お前さんは化け物になっちまうだろうからな。お前さんだけじゃない、竜太も、俺も、あの竜神王サンでさえも、守るべきものを失ったら、化け物になり果てて、怪物になり果てるしか道は残されない。それが力を持った者の定め、力ある者の宿業だ。竜神王サンは語りたがらんだろうからな、俺からこの話をする為に、あえて銃撃の訓練なんてのをさせたんだろう。」
ウォルフは、苦々し気に笑いながら、そう言った。
竜太と蓮は、わからないなりに理解しよう、と眉を寄せている、それはどの世界でも変わらない、ウォルフがいた世界達、ウォルフが英雄として赴いた世界達の若者も、こうして悩んでいた。
ウォルフがロートルと言うのもあるが、ルーキーに何かを教えると言うのあは、使命であり宿命であり、趣味なのだろう。
ディンが話したがらない事、ディンが伝えたくても、伝えきれない事、それをウォルフは話している、少なくとも、竜太はそう感じていた。




