4話 ルミナ&ウィケッド
「お兄ちゃん、これからどうすればいいのぉ?」
「ん、そうだな。蓮には戦う為の準備をしてもらう事になるな、修行をしたり、仲間と一緒に話をしたり、仲良くなったり。そう言う事を、これからはして貰う事になるな。」
「お友達が出来るの!?」
「そうだな、そう言う解釈も出来るか。皆と友達になって、一緒に戦う準備をするんだよ。」
食事を終えて、蓮は改めてディンにこれから何をするべきか、を問う。
ディンの答えは単純明快、だったのだが、蓮にとって、戦うという事がどんな事で、仲間と言うのがどんな存在で、という認識をしなければ、とその言い方をしたのだが、蓮はまず、仲良くなる、という言葉に反応をする。
ずっと、友達が欲しかった、ずっと、テレビで見た関係性に憧れていた、そんな蓮にとっては、仲間、友と言うのは、大切な事柄なのだろう。
友達、それは竜太やディンにとっては当たり前にいる存在、セレンにとっては知らない存在、ウォルフにとっては、明日には敵になっているかもしれない存在、そしてリリエルと外園にとっては、かつて失った存在。
それぞれにとっての、友という言葉の意味がある、しかし、蓮にとってはそれは憧れだったのだろう。
竜太はその意味をわからずにくすくすと笑っていて、ウォルフ達は何かに気づいた様子を見せた、顔を一瞬見合わせ、竜太に合わせて笑う。
「おっともっだち!」
「蓮君、楽しそうだね。」
「うん!お友達、ずっと欲しかったから!」
「そっか。」
竜太はまだ気づかない、蓮がどれだけ友と言う存在に焦がれていて、どれだけ欲していたのか、について、竜太は気付かない。
友と呼べる存在がいなかったのだろう、程度には気付いていたが、それ以上の事、蓮がどれだけの感情を、友という存在に向けていたか、どれだけの感情を、友達という存在に想い馳せていたか、それには気づかなかった。
「それじゃ、修行を始めようか。ああでも、その前に武器が必要だな。」
「武器?」
「戦う為の道具、ある意味、誰かを傷つける為に存在している物、だな。蓮は覚悟してるか?それを握るっていう事は、傷つく覚悟をする事、誰かにとっての敵になる事、痛みを知る事。今まで感じてきた痛みとは、また違う痛みを経験する事になると思う、それを覚悟出来てるか?って言っても、昨日俺が連れてきたばっかりだしな、そこらへんはこれから覚えていけば良いか。」
「……?」
ディンが言っている言葉の意味がわからない、蓮にとって、その言葉は難しすぎた様子だ。
ここにいる、セレン以外の全員が当たり前の様に理解している事、そしてリリエルが、目を背け続けた事、竜太はまだ理解しきっていない事、そして、ウォルフとしてはそれだけは知っておかなければ、戦場に立つ資格はないと思っている事。
それを、蓮はまだ知らない、それは当たり前なのだろう、島の人柱として生きてきた蓮にとって、戦う事の意味など分かるはずがない、武器という存在を知らない以上、それを知っていたら異常だ、と言える事でもある。
戦う事の意味、覚悟、意思、そう言ったものを、蓮はまだ持ち合わせていない、これから知っていく事で、これから知っていかなければならない事、それが、戦う事の意味だろう、とディンは感じていた。
「修行、って何をするの?」
「そうだな……。最初は素振りから始めるのが良いだろうな。剣は……。蓮には二刀流をしてもらうか。両刃剣、それが蓮の武器になると思う。」
「りょうじんけん?」
「見ればわかるかもしれないな。剣って言うのはわかるか?」
「剣は知ってるよ!かっこいい!」
「それの別の形だよ、両刃剣はね。」
「そうなんだ!」
何故両刃剣なのか、に関しては、ディン以外の誰も知らない、聖獣の守り手達の武器を鍛造しているセレンも、蓮の武器に関してはノータッチだった、というよりは、ディン自身がそれを知らなかったから、依頼のしようが無かった、というのが正しいだろう。
両刃剣、二つの刃を持っている、片刃の剣、それを持たせる事、については誰も何も言わない、ディンがそうしようと言った以上、それには意味があるだろう、と感じていたからだ。
ただ、最初から白刃を持たせるのか?という疑問はあった、竜太でさえ、最初の最初は剣道から始まったのだ、リリエルでさえ、最初は模造ナイフでの模擬戦がスタートだった、ウォルフも、最初の最初はモデルガンを撃つ所から始まった記憶が、はるか彼方に残っている、その程度には、最初から白刃を持つ事、というのは危険だ、と考えていた。
ディンがそうすると言ったら、この場での最高権力者はディンなのだから、決定権はディンにあるとしか言い様が無いが、危ういのではないか、と感じていた。
「竜神王サンよ、最初から白刃を持たせるというのは、危ういのではないかね?」
「問題ない、訳でもないけど、それ以上に時間が無い。蓮には半年で戦える様になってもらう必要がある、皆が見ている子達はそもそもがある程度育ってるけど、蓮は最初からスタートなんだ。だから、木刀を持たせて、なんて事をしてたら、時間が足りない。」
「そこまでして蓮君を戦わせる意味って……。」
「あるからやるんだよ、竜太。今は言えないけど、デインが力を与えた以上、戦う意味がこの子にはある、理由があるんだ。そうしなければならない理由、そうしなければ生き残れない意義がね。」
反対をしてみても、ディンの中では決定事項な様子だ。
反対意見は聞く事は出来ない、という事を暗に話すディン、ただ、ずぶの素人を半年で戦える場所に持っていく、という急務に関しては、リリエル達も、木刀や木剣を使っている時間はないだろう、とは納得していた。
それに対して反論をしようにも、戦闘に関してまったくの素人を、半年で一人前にする方法、について、誰も知らない、皆鍛錬を続けてきたからこその現在があるのであって、これから指南をする聖獣の守り手達も、ある程度は戦いを知っていたり、武器の使い方を知っている状態から始まる、だから、それすらした事が無い素人を、一人前に半年で持っていく、その方法論を、ここにいる全員が知らないのだ。
だから、ではないが、ディンの決定に従うしかないのだ、とは感じていた、蓮の事を案じて不安があるにはあるが、それ以外に方法論が無い、と。
「蓮、目をつぶって、集中するんだ。剣を出すイメージ、剣を両手で持つイメージをするんだ。」
「うん!」
修行開始、と言っても、まずは武器を渡す所から始めなければならない。
ディンが外園邸の外にある修錬場に蓮を連れ出し、魔法陣の中に蓮を誘導する。
見物人はセレンと竜太、竜太はこれからトンファーを使った修行を始める為に、そしてセレンは、自分が鍛造しないのであれば、どうやって武器を鍛造するのか、それを眺めたい、と願って見物に来ていた。
「……。」
ディンは集中する、それは、ある意味竜神剣と同じ様式の剣を創り出す、その為だった。
デインが力を与えた、という事は、竜神剣を使えてもおかしくはないのだろうが、蓮には蓮の使うべき武器がある、蓮にしか使いこなせない武器があるはずだ、とディンは感じていた、それを生み出す為に、蓮の心の奥底まで確認する必要があった。
竜神剣、竜神王剣は、その竜神が持つ、心の根底にある感情、守るべきものだと認識しているそれを、具現化した剣。
それに似た事を、蓮にしようとしている、その為には、蓮の心の奥底を確認する必要がある、という事だった。
「……。」
「お兄ちゃん?」
「……。そうか、そう言う事だったのか、なら……。」
「……?」
ディンが何かに気づく、それは、デインが蓮に力を託した理由の一部、そして、蓮が抱えている他者の闇、そしてその中で失われなかった、小さい小さな光の意思。
蓮の心の中に光が残っていた意味、その意思、意義、それを感じ取って、デインの意図の一部分を理解する。
そのすべてを理解した訳ではない、デインが蓮にわざわざ力を与えた理由、については熟考するべき事だろう、デイン本人にも聞かなければならない事だ、とは感じていた、ただ、その一部、それを理解したディンは、それを基に、蓮の武器を生成していく。
白と黒の両刃剣、片方の刃は白く、片方の刃は黒い、そんな両刃剣をディンは生み出した、それは、大きすぎる闇と、とても小さな光、の心を表した物であり、今はまだ闇の方が強く残っているから、使いこなす事は難しいかもしれないが、最終的に、蓮の到達点として、光が強くなってきた時、この両刃剣を使いこなす事が出来るだろう、とディンは考えていた。
出来れば光と闇が拮抗したした状態、がこの剣を扱うのには丁度良いバランスだが、それは蓮次第、蓮がどういった道筋を辿って、どの様な終わりを迎えるか、次第な所がある。
ただ、今のままの蓮では、闇に呑まれて死んでしまうだろう、世界を破滅へと導く存在へと変わってしまうだけだろう、という事は予測が出来た。
「ふぅ。」
「お兄ちゃん、これが僕の剣なの?」
「そうだよ、蓮。それが蓮の武器、そうだな……。ルミナ&ウィケッド、とでも名付けようか。」
セレンは、ディンが竜神王剣を出している所を見た事が無かった、だから、どうやってあの武器を創り出したのか、については考察の域を出なかったが、セレンの見立てでは、光と闇を配合した武器、というのが見立てで、それはあながち間違ってはない。
セレンも伊達に武器を作ってきた身ではない、光に属する勇者の武器を沢山見て来た、父パトロックが鍛造した武器を見て来たセレン、そんなセレンの見立て、それは間違いではないのだろう。
「父ちゃん、終わった?」
「ん、そうだな。それじゃあ、修行を始めるか。」
蓮の両手に握られた、ルミナ&ウィケッド、それが、どの様な武器になるのか、どの様な結末を迎えるのか、蓮にとって、どの様な結果をもたらすのか。
それはまだ見ぬ話、まだ見えぬ未来の話、蓮にとっても、ディンにとっても、未来が視えていた外園にとっても、皆にとっても、まだ見えぬ未来の話だ。
蓮は、不思議としっくりくると感じていた、心から生み出された両刃剣、それは、蓮にとっては大事なものなのだろう、と蓮自身が感じていた、蓮は心から生み出された事は自覚していなかったが、蓮にとって大事な武器だ、という認識はしていた。
同時に、蓮以外の人間には、これを使う事は出来ないだろう、どんな達人だったとしても、これは蓮以外には扱えないだろう、と心のどこかで感じていた。
それだけ大事な武器、大切な贈り物、そう蓮は認識していた。




