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聖獣達の鎮魂歌~Requiem~  作者: 悠介
幕間の物語

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3話 今までとこれからと

「竜太、使う武器は決まったか?」

「えっとね、うん。これにしようかなって。」

 蓮と指南役達が出会った次の日の朝、まだ蓮は起きてきていない、昨日も紹介だけで眠ってしまったから、腹を空かせているんじゃないか、とディン達は考えていて、蓮が起きたら、すぐに食事を取れる様にと厨房で料理をしていた。

 外園は現在麓の村にいる、今日が、二週間に一回の品物の受け取り日だというのがあり、昨晩から出かけている、帰ってくるのは夕方以降だろう、基本的に世間話に華を咲かせて、帰りが遅くなるのが基本だ、と外園自身が言っていて、そう言った場合、外園が料理を作る為にいない時には、厨房に入っても良いと言われていた、基本的に外園は自分のテリトリーに誰かが入るのを許したくない、という気質だったが、不在の折は仕方がないと考えたのだろう。

 そんな中、ディンが竜太に昨晩のうちに渡しておいた、武器の一覧表、ディンが保有している、武器の一覧を眺めていた竜太は、一つの武器に惹かれていた。

「トンファーか、近接型の竜太にとっては相性が良い武器になってくるだろうな。」

「そうなの?確かに、近距離武器だと思ったからこれにしたんだけど……。」

「セレンに頼んで、鋳造を急いでもらおう。それまでは、俺のを代理で使えば良いだろうから。ただ、俺の使う武器は俺の使う武器であって、竜太が使える武器ではない、って言う認識は持っていてほしい。俺の使う武器って言うのが特殊すぎるんだけど、俺の力を少しずつ籠めてる武器だから、そうだな、竜太には扱えない武器になっちまってる可能性が高い。」

 ディンの保有している武器、それは多岐にわたるのだが、基本的には、他世界に赴いた際に受け取った品物が殆どで、それらにディンは、自分が使っても壊れない様に、という意味合いを込めて、力を流し込んでいた。

 そうしなければ、武器の方が耐えられずに壊れてしまう、竜神王が使えるのは竜神剣のみ、と言われている所以は、その有り余る力によって、少しでもそれの制御を間違えると、持っている武器が壊れてしまう、使い物にならなくなってしまう、というある種の制約じみたものがあった。

 竜太が全力を出したところで、竜太は竜神、次期竜神王と言っても、現在はひと柱の竜神なのだから、セレンが鍛造した武器でも問題はないだろう、とディンは踏んでいたが、逆に捉えれば、ディンが使えるレベルまで力を流し込んだ武器、を竜太が使えない可能性がある、と感じていた。

 それは、武器に籠めている力に竜太が酔ってしまい、酩酊状態になる可能性、だった。

 以前、ディンが他世界で力を籠めた後の武器を守護者の仲間に使用させた際、所謂酩酊状態になってしまい、武器を握り続ける事が出来なくなってしまった、という実例があり、それを元に、竜太にもそれが適応される可能性、についてディンは考えていた。

「セレン、トンファーをお願いできるか?俺の持ち込んだ鉱石と貴金属を使ってくれて構わない、急ぎめで頼む。」

「おうよ、トンファーってのも、懐かしいな。何時だったか、オヤジが作ってたぜ?その時のとは少し形状がちげぇけど、大体の雛型は一緒だろ?」

「そうだな、どの世界に行ったとしても、武器の元になる形って言うのは変わらない、細かい差異はあるけど、基本的な部分に関しては一緒だ。」

 ディンはそう言うと、蓮を起こしに部屋に戻る。

 そう言えば、とディンは気にしていなかったが、蓮は基本的に碌に風呂にも入っていない生活を送っていた、食事の前に風呂に入れるべきか、と考える。

「トンファーかぁ、使えるのかなぁ。」

「ディンが言ったって事は、使えるって事じゃねぇか?」

「だと良いんですけどね……。」

 竜太が不安げに話をする、セレンは、ディンの息子である竜太が使えない道理はないだろう、と感じていた、ディンが他の武器を使う際、と言っても演舞程度の話だったが、それらは基本的に、その世界の守護者達を凌駕するだけの実力を持っていた、セレンは、元居た世界で様々な勇者を見ていた、魔王と戦う存在である勇者は、守護者とは厳密には違う存在だ、とディンが言っていたが、鍛冶屋の家系であったセレンが、勇者が父パトロックから受け取った武器を振るっている姿を何度も見た事があったが、ディンの技のキレには届かない、と感じていた。

 そのディンの息子である竜太が、まさか竜神剣以外を使えないとは言うまいな、と感じていたが、竜太からしたら、鍛錬を積んできた竜神剣以外の剣を使う、というのは不安なのだろう。


「蓮、おはよう。」

「んー……。お兄ちゃん、おはよう!」

「お風呂入ろうか、蓮。」

「うん!」

 外園に与えられた自室に戻ってきていたディンは、蓮を起こして浴場へと向かう。

 五右衛門風呂、と呼ばれる形式の風呂釜が主であるジパングの中で、珍しくというべきか、唯一というべきか、シャワー付きの浴場である外園邸、数人が一気に入っても問題が無い程度の広さの風呂場に、二人は足を運ぶ。

「お兄ちゃん、体……。」

「ん?ああ、そうか。蓮は自分の体で慣れてるかもしれないけど、切り傷って言うのは見慣れてないのか。」

「お傷、どうしたの?お兄ちゃん、昨日は僕が刺しちゃった傷、治ってたよね?」

「そうだな、この傷は、そうなる前の傷だからな。俺がまだ人間と一緒の肉体を共有してた頃、その頃に殺されかけた事があってな、その時の傷なんだよ。」

 そう言えば、とディンは額にも傷がある、蓮は自身がつけた傷が完治していた事から、それを不思議がる、蓮がつけた傷が治っていて、額や体中の傷が治っていない理由はなんだ?と。

 その答えに関しては単純だったが、蓮には理解出来なかった、今のディンとは違う時、というニュアンスは理解したが、人間と肉体を共有、という部分が理解できていなかった。

「蓮、髪の毛も整えようか。」

「お兄ちゃん、お髪切れるの?」

「それなりにはな。」

「やったー!」

 風呂場の椅子に座って、まずはシャワーで軽く髪の毛を洗っていく、のだが、何年間風呂に入っていなかったか分からなかった蓮の頭皮は、黒い水が流れ落ちる程に汚れていて、フケや頭皮脂、などが凝固したのであろう層が出来てしまっている程、だった。

 ディンは、丹念にその汚れを落としていく、魔力でシャワーを固定して、左手を使って、蓮の頭をごしごしと洗っていく。

「くすぐったーい!」

「ごめんな、蓮。ただ、ちゃんと洗っておかないと、切る時が大変なんだよ。」

「はーい!あははは!」

 念入に、丹念に、汚れを落としていく。

 ねばついた髪の毛がサラサラになるまで、何度も何度も、外園お手製の薬草のシャンプーを使い、傷ついた頭皮を綺麗にしていく。

 蓮は、久しく洗っていなかった頭皮への刺激に笑っていて、染みるという事はなかった様子だが、くすぐったいと笑っていた。


「良し、これで髪の毛が切れるな。」

「お兄ちゃん、僕笑いすぎて疲れちゃったよー!」

「あはは、ごめんな、蓮。」

 三十分、蓮の頭皮汚れを落とすのに、三十分の時間がかかった。

 ねばついていた髪の毛も、指通りが良くなっており、頭皮から匂っていた腐臭の様な匂いも消えていた、外園のシャンプーが優秀なのもあるだろうが、それだけ丁寧にディンが洗った、という結果だろう。

「さて、切るか。」

「お願いします!」

 右腕が無いディンは、魔力を使って櫛を扱い、そして左手にハサミをもって、蓮の髪の毛を整えていく。

 ざんばらに切られている部分、焼け焦げている部分、そう言った部分を切っていき、蓮の顔立ちに似合う様に、とハサミを通していく。

 蓮は、普段ならハサミを怖がるのだが、ディンがやっている、というそれだけで安心しているのか、黙って髪の毛を切られていた。


「良し、これで良いだろう。」

「終わったのー?」

「そうだな、中々似合ってるぞ?」

「見たい!」

 二十分程度で髪の毛を切り終えたディンが、鏡を転移で出現させて、蓮に渡す。

 灰色である事に変わりはない、それは変えられない事だから、という理由でそのままだったが、短髪で少し毛が立っている程度、に整えられていて、今までの自分とは大違いだ、と蓮は喜んでいた。

「かっこいい!」

「そうか、それは良かった。竜太みたく坊主にするのも考えたんだけどな、蓮はこっちの方が似合う。」

「うん!」

「それじゃ、体洗って湯船浸かって、ご飯食べようか。」

「うん!」

 体も丹念に洗わないと、匂いが取れないだろう。

 そう感じていたディンは、外園お手製の薬草のボディーソープを使い、蓮の体を洗っていく。

 蓮は、それがくすぐったいと笑いながら、しかしそれを享受していた。

 湯船に浸かるのは少し怖い、湯船は、顔を沈められて、窒息させられる場所だったから、と蓮は一瞬考えたが、ディンがそんな事をするわけがない、と心を落ち着かせて、湯船に浸かって体を温めた。


「ほれ、蓮、洋服だ。」

「ありがとう!お兄ちゃん!」

 昨晩はディンのパーカーを肌着の上から着ていた蓮だったが、蓮が寝ている間にディンが蓮の洋服を用意していた。

 ディンが守護の魔力を籠めた洋服、水色のデニムシャツに、白いTシャツ、そして半丈のチノパンを渡す。

 下着は別段こだわりはないかもしれない、とディンが履いているのと同じボクサーパンツを用意していて、シャツとチノパンには魔力が籠められていた。

 守護の魔力、と一口に言えば簡単だが、それは闇に対する特殊防御、ディンが守護する対象である光を守り、闇を打ち倒す為に編み出された、そんな魔力だ。

「かっこいいかなぁ!」

「似合ってるよ。」

 よくよく見ると、蓮の瞳は水色がかった灰色で、ぱっちりとしたその瞳は、時折深淵を思わせる深さを見せる。

 昨晩ウォルフが感じた闇、それの正体とでも言えば良いのだろうか、蓮の持つ他者の闇と言うのが、瞳の中に現れている、それが、蓮の瞳の中に介在する深淵、の正体だ。

「お腹すいたか?」

「うん!」

 着替えを終え、食堂に向かう二人。

 竜太達も、蓮が起きて来るまでは朝食を待っている、と言っていた、蓮と食事を取るのを楽しみにしているから、と。


「わぁ!食べていいのぉ!?」

「そうだよ、蓮。」

「いただきます!」

 朝食のバゲットとベーコン、目玉焼きを蓮はきらきらとした目で見た、と思ったら、手づかみで食べ始める。

 ディンはデインから蓮の育児環境を聞いていた為驚かなかったが、セレンとウォルフ、竜太とリリエルは、子供ながらにここまで食事が汚いとは、と少し衝撃を受けていて、もう少し行儀よく食事を取れる環境ではなかったのか、と疑問を持った。

 ディンから掻い摘んで、蓮の育児環境については聞いていた、恐らく、食事の際もマナーもへったくれもないだろう、とは聞いていた、ただ、現実にそれを見てしまうと、胸が痛む。

 蓮が十一歳だというのであれば、ある程度分別がついている年齢だろう、リリエルは、もう少し幼い頃に両親を亡くし、戦争孤児となったが、それでも最低限のテーブルマナーは勉強をしていた、格式ばった場所で食事が出来る程か、と問われると、両親の教育次第なところはあるが、手づかみで食事を食べる、という様な事をする程、無知ではなかった。

 バゲットならわかる、ただ、ナイフとフォークを用意されているのにもかかわらず、目玉焼きとベーコンを手づかみで食べる、という行為に対して、衝撃を受けていた。

「蓮君、ナイフとフォークは使わないのかしら?」

「え?えーっと、ないふとふぉーく、ってどう使うの?」

「oh!こいつは笑えてくるな。蓮よ、食事のマナーってのを教えてやらんといけんな、これは。竜神王サン、そこら辺は織り込み済みか?」

「そうだな、なんとなくデインから聞いてたから、こうなるとは思ってた、ただ、実際に見てみないとわからない事が多いから、ひとまずって感じだな。さて、蓮。食事を手づかみで食べるのは、お行儀が悪い、っていう風に言われてしまうんだ。ナイフとフォーク、スプーン、箸の使い方はこれから教えていこうか。」

「はーい!」

 蓮は、自分にとっての当たり前が皆にとっては異常、という事に心を痛めたが、それはここから一緒になっていけば良い、とディンが言って、その悲しみを心の中で消化する。

 学校でも言われた事はあった、手づかみでご飯を食べる事、についても、虐めの理由の一つとして言われていた覚えがあった、ただ、その頃には感覚がマヒしていた蓮は、それを直すという手段を取れなかった、そして、治したとて両親の暴力の一因になっただけだろう、と心のどこかで思っていた、だから、治す事をしなかった。

 しかし、今は違う、ここにいる皆は、蓮に暴力を振るったりはしない、蓮を罵倒したり煙草の火を押し付けてきたり、無理やり吸わせたり、何か気に食わない事があるから、と乱暴をしてくる事はない、そう蓮は信じていた。

「蓮、煙草は怖いか?」

「たばこ?うーんとね、えーっとね、怖いけど、お兄ちゃん達は僕にジューってしてこないでしょ?だから大丈夫!」

「Umm,蓮の環境ってのは、興味深いがね。お前さんが語りたがらない事、に関しては俺達も聞くのをやめておこう。それで良いな?リリエルちゃん、セレン、竜太。」

「そだな、無理して聞くってのも、なんかちげぇし、傷つけるってのも、嫌だしな。」

「そうね、それが良いのでしょう。私は私の目的がある、それだけの事だもの。」

「分かりました。蓮君、辛かったら、何時でも言ってね?」

「うん!」

 蓮はきょとんとしながら、竜太の言葉を受け取った。

 指南役達は、これから蓮はいろいろな経験をしていくのだろう、と予感がしていた、テーブルマナーもそうだが、一般社会としての常識や、あれこれをこれから覚えていくのだろう、と。

 今までとこれから、それは変えられる未来だ、そう信じていた。

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