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聖獣達の鎮魂歌~Requiem~  作者: 悠介
零章 邂逅

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1話 集まりし者達

「……。そう言う事だったのか。」

 一人の青年が、誰もいない神殿の最奥部で呟いている。

 青年は、かつては資格がなく入れなかった場所、現在は入る資格を得て、そこに至った場所で、古い書物を読んでいた。

 そこに描かれていたのは、一千万年という、途方もない年月の中に繰り広げられてきた闘争、そして、己の敵の正体。

 それを知らずに戦っていた、ならば、勝ちきれないのも道理だろう、青年はため息をつくと、次の書物に手を伸ばす。

「……。」

 自身の先祖、歴代の長がしてきた功罪、そして、自身の末路だったはずの未来、過去、そして、書き変わった歴史。

 元来、この歴史に存在しないはずの青年の事が書かれているその予言書は、未来を視る事が出来た、という初代の長が書き残した物だ。

 そこには、十代目までの未来が書かれていた、現在以降の事は書かれていない、確か、初代は青年がそうした後の未来が視えなかった、と言っていただろうか、だからそこで止まっているのだろう。

 宿敵との決着が着いたか、着くのか、それとも敗北し、世界が滅ぶのか、それに関しての記述はなかった。

 記述が無い、つまり現在は、初代の予言できた世界の先、誰も視ぬ未来なのだろう、幾人か、高名な予言者には出会ってきたが、青年の未来を予言できた者はいなかった、青年がそれだけ特殊な存在だ、とも言えるのだろうが、予言が出来ない存在がいる、という事に、その予言者達は驚いていた。

「まったく……。」

 予言の先、世界を守るという大業を成す存在ですら、予言予言できなかった未来。

 それを紐解くには、もう少し時間がかかりそうだ。


 竜神歴一万十三年年春、ディセントの小さな島国、ジパングの中央の、紅麗山と呼ばれる、ジパングで最も標高の高い山の麓。

 山の由来は桜、山を覆うように桜の木が自生しており、春になると一斉に咲き乱れる。

 鮮やかな紅色の桜で山が真っ赤になることから、紅麗山、人々が願いを籠めて、数千年前に植えたとされている一本の桜から、いつの日か山を覆う様に咲いていた桜。

 そんな山の中腹に、ジパングでは珍しい格好をした青年と少年がいた。


「いやぁ、春になるとこんなに綺麗に咲くのかぁ。」

「父ちゃん、桜見てるのはいいけど早く行かないと。みなさんより後についたら、カッコつかないよ?」

「わかってるよ、竜太。」

 穏やかな丸みを帯びた琥珀と翡翠のオッドアイが、桜を眺めている。

 桜が咲き乱れている山道を歩きながら、尖り目の茶髪に好みで結んでいる襟足を揺らしている青年、ディン・アストレフは笑う。

 服装は白パーカーにベージュのチノパンと、とても登山者の格好とは言えない。

 そしてその息子である坂崎竜太は、そんな父を見てため息をつきながら、急かす。

 こちらは坊主頭に丸みを帯びた黒い瞳と、ジパングでも通用しそうな見た目はしているが、半袖の黒いタイトなアンダーにウィンドブレーカーと、登山者には見えない。

 そもそも簡素な布の和服が主流のジパングでは、2人はとても目立つ存在だった、ディンの赤茶髪も相まって、花見客からは好奇の目で見られる。

 そんな2人は今、山の七号目当たりに建っている屋敷へと向かっていた。

 屋敷の主は外園という妖精で、ディンがここに来る際協力を頼んだ相手だ。


「ほら、見えてきたぞ。」

「わあ!あんな大きいお屋敷、建てるの大変だったんだろうなぁ。」

「いや、意外と簡単だったかもしれないぞ?」

 1時間ほどしてその屋敷が見えるところまでたどり着いた2人は、特に疲れている様子もなく軽口を言い合いながら足を進める。

 ここに住んでいるという妖精、予言者と言われている存在、遠い昔、フェルンという国で、未来を見る神官として働いていた存在、そんな存在が、どうしてこの島国のジパングの山の中腹部に居を構える結果となったのか、については、竜太は聞かされていなかった。

「ここに預言者さんが住んでるんだよね?」

「だな。前会った時は山の麓だったからここまでいい屋敷住んでるとは知らなかったけど。」

 目の前には山の中腹にあるとは思えない大きな日本式の屋敷。

 2階建てで高さこそあまりないが、横と奥行が広く、ここに一人で住んでいるとは思えない大きさだ。

「どんな人なの?」

「まず人間じゃねない、確か妖精だった、かな。年齢は確か八百くらいつってたけど、まあ人間とは寿命違うからイギリスとかフランスあたりの二十代って印象だったな。あと口調丁寧だけどたまに煽ってくる。服装的には、スーツの上から白いローブ着てて、出かける時は土色のハットを被ってる感じだな。」

「なんか僕の知ってる誰かにちょっと似てるような……。丁寧じゃないけど煽ってくる千五百歳。」

「ん?誰のことかなぁ?まあその話は後にしてさっさと入ろうか、勝手に入ってこいって言われてっから。」

 げらげらと笑いながら扉を押し明け、中に入っていくディン。

 竜太は若干ためらいを見せつつも、父親の後をついて巨大な屋敷の中へとはいっていった。


「ここが集合場所ね?」

 ディンと竜太の親子が屋敷に入ってか十分後、屋敷の前に美しいシルエットが。

 どこからともなく舞い降りた天使のような魅了の悪魔のような、灰銀色の美しい髪をなびかせ切れ長で美しい青紫の目を細め山を眺める女性、リリエル・A・コースト。

 彼女はとある世界で戦争に巻き込まれ、紆余曲折あり暗殺者として生計を立てていた十九歳の女性だ。

 しかしその服装は紺の肘丈のトレンチコートに灰色のミニスカートと軽装で、人を殺める者として見えるミリタリーブーツに黒タイツの上に刀の柄やら拳銃やらをしまうホルスターと若干マッチしていない。

「はぁ、ここにあの戦争を巻き起こした者が本当にいるというの?」

 彼女がここに来た理由、それは自らが暗殺業を生業とする目的の「ある相手」がこの世界にいるとディンに情報を与えられ、もしも協力すれば更に情報を与える、と言われたからだ。

 暗殺家業に生きる人間として、そして復讐に生きる者として最大のギブアンドテイク。

 自分に似た力の持ち主をそもそも見たことがないリリエルにとっては、存在しないかのように思われた情報提供者、という訳だった。

「まあいなかったら嘘の情報で私を誘い出したということだから、彼にはその報いを受けてもらわないといけないわね。」

 太もものホルスターに手をかけ不敵に笑って見せるリリエル。

 柄しかない刀が一瞬紫色のモヤに包まれ、消えた。

「さて、ご対面と行こうかしらね。」

 リリエルは警戒を怠らず気を張り詰めながら、ゆっくりと木製の大きな扉を開き中へと消えていった。


「おお、これは大きい。」

 リリエルが扉の内に消えた直後、本日四人目の来客が屋敷の前に現れた。

 空色のダッフルコートに濃い目の迷彩柄のカーゴ、ピアノブラックのタクティカルブーツを履いた、またまたこの場所には似つかわしくない黒人、フォルカシュ・ジグモンドだ。

 背中には大型のケースを背負っており、軍人か何かだろうか、であろうということが伺える。

「さてさて、この世界では俺はどういう英雄になればいいんだい?世界よ。」

鍛え上げられ古傷が残る厳しい顔からは想像もつかない程おどけた声を出してみせるジグモンド。

「お?この屋敷には何人か俺と同じ、それ以上の力を持ってる奴がいるようだな?今回はいつもと違う、この世界はどうなっているんだ?」

 屋敷を眺めていると強大な気配を感じ、細縁のメガネの下の目を細めて白髪まじりの髭を撫で回す。

「中にいる奴に聞けばわかることさ、子供たちにいいお見上げ話ができそうだ。」

 中に入ればいいのだろうと自然と悟ったジグモンドは不敵な笑みを浮かべ、しかし敵だった場合を考慮し気配を鋭くしながら屋敷の大きな扉を開け中へと入っていった。

「why?子供ばかりじゃないか!」

 というおどけた声を響かせながら。


「さて、全員揃ったかな?外園さん、今何人来た?」

「お二人を含め5名ですが、最初に来た彼がどこかに行ってしまったようですよ?」

「最初……?あぁ、ルベライト君か。」

「確かそういったお名前でしたね?ふらりとどこかに行ってしまわれるのは何とも言えないものですねぇ。彼は貴方のような力は持っていないのでしょう?」

「まあな。でもあいつにしか出来ない事があるから呼んだんだ、それにあいつ面白そうだし。」

「ほぅ……?」

 明確な回答はせずに不敵に笑みを浮かべるディンを興味深げに眺める外園だったが、食事の支度をしなければと一人厨房に引っ込んでしまった。

「さあてルベ君、どこに行ったのかな?」

 ひとり残されたディンはふらりと玄関から外に出て、山の綺麗な空気を吸いながらどこかへと行ってしまった。


「あれ……、ここ何処だ?」

 外園邸から少し離れた山の中腹、結局山には似つかわしくない黒の半袖作業着を着た髪を片方刈り上げている青年、ルベライト・セレン・カイルの姿があった。

 彼はディンに導かれ外園邸に一足先に到着していたのだが、何かに呼ばれるようにフラフラと出てきてしまい、そして迷子になっていた。

「ここらへんから鉱石の声が聞こえたから来たけど、なんやらしらん鉱石だらけだし、ここってほんとにテレビでやってた異世界なんだもんなぁ?」

 青いメッシュの前髪から覗くつり目の赤い瞳を困ったように潤ませる。

 山道から外れてしまっているため人もおらず、あたりには紅く咲き誇る桜の木々。

「どうすっかなぁ……。」

 元々引っ込み思案な性格だからなのか、快活そうな見た目とは裏腹に声が小さくしぼんでいく。

 見知らぬ鉱石を袋に詰め途方にくれていた、その時。


「おーい!セレンー!」

「あれ、誰だ?なんで俺の名前呼んでんだ?」

「あ、みっけ。」

「あ!ディンか!?」

 どこからか声が聞こえたと思いきや、突然目の前に現れたディン。

 顔を合わせたことはあったが1度きりだったため、セレンはディンの顔と声を覚えていなかったようだ。

「顔と名前位覚えてもらわないと困るな……。自分をここまで連れてきたやつの声忘れるもんか?」

「あれ、お前そんなにガキだったっけ?」

「ガキ……。フラフラ出て行って迷子になるお子チャマに言われたかねえな。」

「ち、ちげえんだよ!」

「いいからさっさともどるぞ?もう全員集まってっから。」

 ディンは呆れ顔でさっさとセレンの足元にあった袋を担ぐと、スタスタと山を上っていってしまう。

「ま、まってくれよぉ!」

 セレンは持っている袋を担ぎ直し、慌ててディンを追いかけていった。


 ……。

 …………。

 ………………。

 なぜこの儂がこのような場所に閉じ込められなければならないのだ……。

 儂は豊穣の神……、崇められ恵みを与えていたというのに……。


 貴様は世界が憎いか?

 貴様は全てが憎いか?


 貴様は誰だ……?

 我は……。

 貴様と同じ名を冠する神……、そして貴様より遥か高次元に存在する者……。

 貴様に力を与えてやろう……、さあ世界を恨め豊穣の神……よ……!


 儂は……!

 儂は全てがニクイ!

 ワシをコノヨウなバショにユウヘイしおったヤツラがニクイ!

 ワシノチカラヲフウジコメタリュウノカミガニクイ!

 ワシハメグミヲアタエテイタニモカカワラズウラギリオッタニンゲンガニクイ!

 ニクイ!ニクイ!

 ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイスベテガ!


 それで良い……。

 我は混沌を望む神……。

 同じ名を冠する貴様もそうでなければなぁ……?


「デイン様、異世界から干渉してくる力を感じるヨ?」

 ……。

「デイン様はまだ眠っているのよランド、起こしてしまっては可愛そうだわ?」

 ……、起きているよ?

「何が眠ってるだよルミナ、デイン様はとっくに目覚めてるじゃないカ。」

 ……異世界からの干渉、それはディンかな?

「いいえ、違いますわデイン様。何か邪悪な、それでいて異質な力ですの。」

 世界に混乱を引き起こすような存在なんだね?

「そうだよデイン様!」

 ……きっと、ディンが来てくれるはずだよ

「でもディン様がいらっしゃるという確証はございますの?」

「そうだゾ!千年年前には来なかったじゃないカ!」

 来てくれるよ、だってディンは……。


 全ての世界を護る守護者で、ボクの誇りに思える大事な甥っ子なんだから……。

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