SFでヒーローものをあまり見なくなった気がするのでそれっぽいのを書いてみたというだけの話
「あれだ!」
船長席から叫び声があがる。
手狭な操縦室の中でそれは結構響いた。
同じ室内にいる他の者達にも。
「どうします?」
「もちろん接近。
最大船速で!」
「了解!」
威勢良く返事をして操縦士が速度をあげる。
彼らの乗る宇宙船が更に速度をあげていった。
「攻撃用意」
続いて指示が飛ぶ。
宇宙船に搭載してる武装を使用する為に。
それを聞いた火器管制官は、
「もうしてありますよ」
と返した。
こうした場合に何をどうするかは既に分かってる。
先手を打っておくに超した事は無い。
「いつでも撃てるぞ」
「いいぞ、最高だ!」
そんな船長席に向けてレーダー担当者が、
「あと43秒で接触。
周辺に他の船影なし」
と状況を報告。
少なくともこの船に搭載してる探知機で探せる範囲に、他の船はない。
いるのは、襲われてる商船と襲ってる海賊船。
それだけだ。
海賊がこれ以上増える可能性はない。
そして、加勢してくれそうな味方もいない。
それが有利なのか不利なのかは判別しがたい。
だが、それで怯むような船長ではなかった。
この船の搭乗員も。
「通信は?」
「現在確認できません」
鈴を鳴らすような綺麗な声が船内に響く。
操縦室における紅一点、数少ない女性搭乗員が状況を報告する。
「被害者から救難信号が出てますが、それ以外はありません」
「分かった。
被害者に声をかけ続けてくれ。
もう少しだけ粘るように」
「海賊には?」
「必要ない」
船長はきっぱりとい言い切った。
「奴らにかける声も情けもない。
魚雷でもぶつけてやればいい」
かけるだけ無駄というものだった。
降伏勧告を素直に聞くような連中ではない。
それに、通信回線を開けば、見たくも無いむさくるしい野郎共を目にする事になる。
精神的にも非常によろしくない。
何より、
「連中に君の声を聞かせるなんて贅沢、する必要が無い」
「まったくだ」
「違いない」
他の野郎共も船長の意見に同意した。
当の通信担当者は「はあ……」と苦笑するしか無い。
そんな茶番をしてる間にも距離がつまっていく。
砲撃が届く位置になり、
「撃て!」
と船長が命令する。
即座に火器管制官が搭載されてる兵器を動かしていく。
まずは宇宙魚雷。
長射程の誘導兵器であるこれは、砲弾が届かない遠距離からも攻撃が出来る。
しかも追尾性があり、狙った敵はまず外さない。
相手が対抗措置を持ってるならともかく、そうでないなら確実に着弾する。
そして、民間戦を改造した程度の武装船にそんなものがある事はまれだ。
ご多分に漏れず、この宇宙海賊達にもそんなものは用意されてなかった。
そもそも、宇宙警備隊や宇宙軍でもなければそんなもの必要が無い。
宇宙魚雷などという兵器を持ってるこの船の方が特殊なのだ。
その特殊な船は更に接近して砲撃を開始する。
これも探知機と火器完成装置の連動により高い命中率をはじき出す。
放たれた砲弾のほとんどは狙い通りに海賊船へと向かった。
しかし、さすがに海賊もこれらへの対抗手段は持っていたようだ。
まっすぐに飛んだ砲弾を、海賊船の対空機銃が撃墜していく。
それが出来る程度の機能は持ってるようだった。
「なかなかやるな」
「まあ、迎撃装置くらいはつんでるだろ。
今は結構流れてるからな」
「本当は海賊対策だったはずなんだけどな」
「一度売りに出されたら管理は出来ないさ」
「まあ、相手にとって不足なし、ってところだ」
船長は不敵に言い放つ。
「それでもあいつらを沈めればいい。
攻撃の手を緩めるな。
あと、切り込み隊も発進用意」
その指示に格納庫から声があがってくる。
「準備完了、いつでもいけますぜ」
格納庫に搭載してある切り込み用の作業用小型艇。
人型をしたそれに乗り込む者達が威勢の良い声をあげてくる。
「いつまで待たせるんで?」
「俺たち、さっきから待ちっぱなしですよ」
「狭いところに入ってるから息苦しいったら」
「いっそ早く突っ込ませてほしいっすね」
荒くれっぽい事を口にしていく。
ただ、言うほど荒れた連中でもない。
いずれも元軍の人間で、操縦士をしてた者達だ。
相応の教養と知性は備えている。
でなければ、小なりとはいえ宇宙艇の操縦士になれるわけがない。
そんな彼らは、格納庫の中で今か今かと出番を待っている。
「海賊との距離は?」
「もうまもなく接触距離」
「よし。
切り込み隊、出せ!」
「了解!」
その指示と同時に、荷台部分を改造した格納庫が開く。
搭載されていた四機の人型作業用小型艇が放たれていく。
彼らはほとんど目前に迫っていた海賊船に向かっていく。
そして、切り込み隊の名が示すように、海賊船にとりついていった。
海賊船に張り付いた切り込み隊は、それぞれが手にした工具で海賊船の外殻を破壊していく。
レーザー切断/溶接機や大型杭打ち機などで。
それらは基本的には商船構造・一般的な宇宙船である海賊船の船体を簡単に破壊していった。
そして開けた穴から内部に突入していく。
切り込み隊の文字通りに。
内部に突入してからも猛威を振るっていく。
手当たり次第に内部を荒し、破壊していく。
内部に鎮座していた小型艇を。
通路にするために壁を。
機関部まで一気に進み、エンジンを。
当然ながら、その時点で船は動きを止める。
慣性に従って移動は続けるが、それを制御する事も難しくなった。
そうなったのを確かめてから、折り返して操縦室に向かう。
その途中、中に居た者達の抵抗はあった。
だが、向けられる銃器で切り込み隊を止める事は出来ない。
彼らが着込んでる船外作業服。
それは宇宙における様々な障害を遮る能力を持つ。
太陽戦や放射線、減速すること無く飛ぶ小さな隕石など。
そういった者から着用者を守るべく、こういった作業服はとてつもなく頑丈に作られtいる。
それこそ、生半可な装甲などよりよっぽど頑丈だ。
それらに人が持つ銃器などで対抗できるわけがない。
撃破するならより大きな火力が必要になる。
だが、そんなもの用いれば、船を破壊してしまう。
船内に入り込まれた時点で、海賊に勝ち目はなくなっていた。
「いったい、どうなってる?!」
操縦室で海賊の親玉が吠える。
彼からすればいきなりの出来事だった。
何かが接近してるというのは探知機の情報で分かっていたが。
そこから宇宙魚雷が飛んでくるとは思わなかった。
更に近づいたところで砲撃。
留めに、人型作業小型艇での突撃。
全てが想定外の出来事だった。
宇宙海賊として荒事をそれなりにこなしてきたが、こんな事は始めてである。
「誰だ、いったい」
こんな事をしでかす輩。
どこの誰なのかと思った。
だが、それを確かめる術もない。
そうしてるうちに、操縦室が揺れる。
「どうした?!」
何事かと声をあげる。
その答えは彼の見てる先にあった。
操縦室の前、外に向かって開いた窓。
そこに作業服を着込んだ何者かが張り付いている。
船外作業着に宇宙空間作業用の噴射推進器を装着している。
体を覆う鎧、あるいは外骨格といったそれは、軽装での船外作業の為の最低限の装備だった。
だが、海賊の親玉が気になったのは、そいつの宇宙服に描かれた紋章。
稲妻をかたどったそれは、彼に一つの噂話を思い出させた。
「キャプテン・キッドマン…………」
「おや、知ってるとは思わなかった」
親玉の声に誰かが反応する。
それが、窓の外に居る者からだとすぐに察する。
「てめえか、このあたりで同業者を潰してるってのは」
「そうなるかな。
まあ、あんたらみたいなのがいると邪魔だからね」
そう言って窓の外の男────キャプテン・キッドマンなる者は、手にした無反動砲を構える。
「それじゃ、さようなら」
そう言うと同時に、キャプテン・キッドマンは無反動砲を発射した。
それがこの海賊達の最後になった。
その後、操縦席を失った海賊船は、キャプテン・キッドマンの船によって曳航されていく事になった。
中にいた海賊は既に大半が吹き飛ばされている。
残った連中は無事だった部屋に閉じ込められている。
宇宙用装備は全て取り外されて。
そして、部屋の外は宇宙空間と変わらない状態。
船の外殻を壊されてるのだから当然だ。
これにより、下手に脱出する事が出来なくなっている。
そうして宇宙警備隊まで曳航してして引き渡す予定だ。
ただ、キャプテン・キッドマン自体は途中で消えるつもりでいた。
あとを襲われていた商船にたくして。
「災難だったな」
無線で相手に通信をいれる。
ねぎらいの言葉に相手も、
「まったくだ。
でも、おかげで助かったよ」
と返してくる
彼らからすれば、危険なところを助けてくれた恩人である。
「たいした礼も出来ずに申し訳ないが」
「気にしないでくれ。
こっちはこっちの都合で助けただけだしな」
「そう言ってもらえると助かる」
そう言う商船の船長は、窓の外に見える、平行して飛ぶ宇宙船に目を向ける。
商船と同じような一般的な宇宙船。
それを改造した武装船がそこにあった。
ただ、改造の度合いはかなりのもので、その戦闘力は並の海賊より上だろう。
何より目を引くのは、その船体に描かれた、稲妻をもとにした紋章。
それに乗って活動してる者の存在は、彼の耳にも入ってきている。
「もしかして、あんたがキャプテン・キッドマンか?」
「ああ、そうだ」
「やっぱりそうか!
話は聞いてるよ。
このあたりの海賊を相手にしてるんだってな」
そう叫ぶ船長の声は、そうと分かるほど明るく弾んでいた。
宇宙海賊の出没地域。
危険極まりないこの場所に、ある時期から一つの目撃情報が流れ始めた。
それは、この付近に出回ってる海賊を倒してまわってる者達の事。
彼らは稲妻の紋章を描いた青い船で活躍しているという。
その船の名は、ライトニング・バード。
率いるのは、キャプテン・キッドマン。
そいつらが商船を襲ってる海賊を撃退し。
いくつかの海賊の基地を壊滅させてるという。
誰もがまさかと思った。
そんな事を好んで行う者がいるとは思えなかったから。
しかし、実際に助けられた者は口を揃えて言う。
あいつらは本当にいた、俺たちを助けてくれたと。
そして噂は事実となり、事実は伝説になろうとしていた。
それが今、商船の船長達の前にいる。
「本当だったんだな、噂は」
「どんな噂なのかは知らないが、俺たちはここにいるぞ」
「ああ、俺たちの前にいる。
海賊退治のキャプテン・キッドマンが!」
年甲斐も無いと思いつつも、船長は興奮していた。
海賊に挑むという無茶をする奴が本当にいる。
それもすぐ前に。
しかも、海賊を倒した直後だ。
気持ちがたかぶるのも無理は無い。
そんな商船の船長に、
「そんなたいしたもんじゃないさ」
キャプテン・キッドマンは控えめに応える。
「出来ることをやってるだけだ。
残念ながら、海賊全部を倒してるわけじゃない」
「なに、それでもたいしたもんだよ。
おかげで俺たちは助かってる」
それは確かな事実だ。
だから彼は自信をもって言える。
「あんたは間違いなく俺たちを助けてくれた。
それだけで十分だ」
「そう言ってもらえるとありがたいね」
そんな商船に、曳航している海賊船を任せる。
油断は出来ないが、あとは宇宙警備隊と合流するまで監視してればいい。
それだけならさほど難しい事は無い。
「じゃあ、頼むよ」
「ああ、任せてくれ。
でも、本当にいいのか?」
「もちろん。
海賊を引き渡してくれればそれでいい」
「そりゃやるけどさ。
こいつらにかかってる賞金。
それまで俺たちがもらっていいのか?」
「構わないさ。
今回の損害の補填にでも使ってくれ」
「そう言ってくれるのはありがたいが。
なんか悪いな」
「なに、それならいつか俺たちを助けてくれ。
それでいい」
「そういう事なら。
きっといつか、あんたらを助ける事にするよ」
「頼むよ。
それじゃ、またいつか」
それを最後に青い武装船ライトニング・バードは離れていく。
その姿を、手の空いてる商船の船員達は見えなくなるまで見つめていた。
宇宙海賊が猛威を振るっていた時代。
そんな時代であっても、いや、そんな時代だからこそ立ち上がる者もいた。
そうした英雄達は、この時代を彩る正義の象徴として後の時代まで語り継がれていく。
キャプテン・キッドマンとその船ライトニング・バードも、そんな伝説の一つとなっていく。
巨大な悪に立ち向かっていった英雄の一人として。
本当に、こういうのでいいんだよ。
もっと簡単で、気楽で、何も考えずに楽しめるような。
そういうSFがたくさんあったように思えるんだけど。
重厚長大な大作だけでなく、こういう話ももっと増えないかなと思ってる。