〜目的地まで〜
翌日明朝、俺達は行きがけに車を入手し、目的地に向かうことにした。
我々自衛官はともかく、民間人に隠密行動は難しいとの判断だ。
目的地までは距離もある上、緊張を保って体力を考えつつ、休憩を取りながら行軍することは、不可能に近い。
路上には放置車両や事故車で溢れているのは、これまでの道中でも分かり切っていた。
そこで、堅山3佐の命令により、近場の工事資機材リース(レンタル)ショップに寄り
ブルドーザー二台、大型ダンプ二台、箱型の大型車一台を拝借。
ブルドーザーで放置車両を押し除けながら進む強行軍作戦を行う運びとなった。
何故バスではなく、貨物車なのかって?
それは簡単だ。
単純に戦闘シーンを見せたくなかったと言うこと。
それから、防御力の問題だ。
窓ガラスばかりで、いかにも人が乗っていればグール共の標的になるだろう。
後は車高の問題だ。
日本ではノンステップバスが主流だ。
乗降しやすいが、それは障害物があったら引っかかり易いと言う事でもあるのだ。
大型車なら、車高が高いため、ある程度の障害物は気にならないはずだ。
俺達は隠密行動で、車両類と、民間人用の毛布類を掻き集め、最低限の怪我をしないための備品を回収し、目的地へと向かっている。
相沢「しかし、あっけないもんっすねぇ。
まさか市街地に入ってグール5匹しか遭遇しないとは…」
大須「しかも、4匹は鬼忍が秒殺でしたし。残りの1匹も相沢が串刺しにしてましたもんねぇ。
小声でリア充滅ぶべしっ!って聞こえました笑」
相沢「なんで聞こえてるんっすかっ!だってあのグール自分の周りに女の子しかいなかったじゃないですか!」
いや、グールに女も男もないんじゃ…
遊佐「あのーそれってめっちゃ私怨入ってません?」
クスリとしながら遊佐さんが言う。
片桐「ほぅ…相沢3曹?ボーナスは覚悟しとけよ?」
俺なりの超絶スマイルで相沢3曹を見つめる。
相沢「嘘ですからぁぁあぁ!嘘ですよぅぅう?
大須!お前見てろよ!駐屯地にあるお前のロッカーの中身、嫁さんに送りつけてやるからなっ!」
大須「馬鹿やめろっ!あれは処分するよう遺書にも書いてるんだからなっ!」
まぁ確かに、片桐家にある秘蔵PCも水没処分するよう、俺も遺書に書いてある笑
周囲に若干の笑いが広がる。
萩月さん達、女子高生組は若干引いている。
うん。空気読もうか君達。
片桐「その辺にしとけ。お前等が馬鹿やるからお客さん寄って来たじゃねぇか!」
現在、俺達はブルドーザー、大型ダンプ、民間人が詰め込まれた大型車、大型ダンプの縦隊陣形で目的地に向かっている。
ガッシャンガッシャン言わせながら、進んでいるもんだから、グールが散髪的に襲ってくる。
しかし、ダンプにはあおりがついており、登ろうとしてきたグールを落とすだけで良い。
今も2匹ほど飛びついて来たが、小銃の銃床で叩き落とした。
緊張感がないと言えばそれまでだが、走り続けている分、追っかけてくるやつ等だけ始末したら良いだけなので、楽なもんだった。
それに、相沢と大須のやり取りはわざとだ。
あれでいて、気を使っているのである。
なんで女の子2人がこっちに乗っているのかと言うと
大型一台では民間人は収容しきれなかったので、ダンプにも何人かずつ分譲しなくてはならなかった。
萩月さん当たりは、俺から離れようとしないので、一緒に乗っていた。
男性恐怖症なのに、頑張っている。
なぜか知らんけど俺と一緒の場合は大丈夫なのだそう。
さて、もうそろそろ目的地に近づいてきたころだ。
片桐「さぁ、これからが問題だな。」
萩月「何か問題なんですか?順調に行ってるように見えますけど。」
相沢「あぁそれはですね、移動間は大丈夫なんですが、これが止まったらまずいんすよ。」
大須「まぁこんだけうるさければなぁ。
止まった瞬間からわらわらグール共が飛び出てくるかもしれないって事なんだよね。」
萩月さんが顔を青くして身震いする。
片桐「まぁ大丈夫だろう。人里までは距離があるし。直前に広めの駐車場があって、そこで防御陣形を取るから。」
「ただし、同時に目標も制圧し、安全を確保する部隊も出さなきゃならない。昨日から今日に掛けて、生存している味方部隊もこっちに向かってるって話しだから、そっちも当てに出来るしね。」
そう、俺達はいくつかの部隊と連絡が付いていた。
大きいのは、福島駐屯地にいる残留部隊と連絡が付いた事だ。
あの駐屯地は背後は山で正面のみを守れば良いので、防衛は容易い。
ただ、正面の向こうが市街地なのが問題なのだが…
僅かばかりだが、テント類、給水車や、炊事車両などの補給部隊を送ってくれる手筈になっていた。
向こうでも多数の民間人を保護しているだろうに、ありがたい。
事実として、気は抜けない。だが、絶望的ではないって説明しているのだが
この少女2人はまだ不安そうな表情をしている。
萩月さんが、無自覚に俺の裾を掴んで震えている。
もう少しこうしていて欲しい。
あ、いや安心させてあげないと…
片桐「大丈夫だよ!こんな馬鹿共だが、こいつらは腕は一流なんだ。全員レンジャー記章持ちだしね。」
俺はそう言って頭を撫でてやる。
また、あの時みたいに、生気のない目をしていたが、撫でてやると、少し顔を赤らめて、光が戻って来た。
ふにゃぁっとした、二ヘラ顔である。
相沢「遊佐ちゃんも撫でてあげようか?」
遊佐「…大須さん、その鉄砲借りていいですか?」
うん、遊佐さんむっちゃいい笑顔だなぁ…
相沢「ちょっ!待った!それは洒落にならないっす!おいっ!大須、安全装置の解除なんて教えてんじゃないっす!やめてええぇ。」
まぁ相沢は撃たれても死なんだろう。
萩月「あのー、一つ聞いてもいいですか?」
片桐「うん?どうしたんだい?」
萩月「福島の基地までそんなに離れていないなら、どうして福島まで行かないんです?」
そう、目標から福島駐屯地まで、そこまで離れていないのだ。
片桐「それはね。福島駐屯地の正面が市街地なんだ。ずーっと何10キロもね。そこの人達全てが福島駐屯地には入りきらないし、グールが大軍で襲い掛かってこられたら、流石に持たないからだよ。対して今から向かう所は敵が来る方向が制限出来るから、小部隊でも守り易いんだ。」
片桐「まだそこまで、話しは進んでいないけど、これから、城壁都市を作るみたいな感覚でいてくれたらいいよ。」
萩月「城壁都市ですかっ?イタリアみたいな?」
片桐「そうそう、そんな感じ!それから猪苗代湖が近いから、水に困らないし、電気だって使える。少しは希望が持てるだろう?」
萩月「電気が使えるんですかっ?嬉しいです!それならお風呂にも入れますし。」
そう、発電所は必要不可欠なのだ。
人として最低限生きるために、また、グールや中国軍から街を守るために…
先日、連絡が付いた第22普通科連隊の生存者の部隊が、堅山3佐の指示で、発電所の確保に向かってるはずだ。
なんでも堅山3佐の同期の中隊長がまだ生き残っていたらしい。
本当に朗報だった。
片桐「さて、そろそろ到着するぞ。小隊!
降車後展開し、周辺の安全を確保せよ!第2小隊は左舷側を確保する!」
『了解!』
片桐率いる第2小隊は、15名まで増員されていた。
下川3尉以下第1小隊15名
本部管理小隊10名
その他、今までに合流した、自衛第の生き残りが8名、この8名はまだ編成されていないが、本部管理小隊と随伴する。
これが俺達が使える全戦力だった。
俺達は降車後、銃を構えながら扇型に展開する。
静寂、風の音、草や木々の揺れる音がする。
うむ、変わった様子はない。
片桐「第2小隊クリア!」
下川「第1小隊クリア!」
堅山「よし、小隊長は集合せよ!」
それから、俺達は軍議を行なった。
堅山「では予定通り、目標の制圧を行う。第1小隊は南側から、第2小隊は北川から、東へ向け移動。敵情を得つつ東の合流点より、制圧作戦を実施せよ!」
「本部管理小隊から5名が、西側にて警戒に当たる。同士撃ちに留意せよ!」
下川「第1小隊了解。」
片桐「第2小隊了解。」
堅山「では現在時1115時、1200より作戦を開始する!」