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異世界化したこの世界で、君を護りたい  作者: まう
第一章 君を守るための場所
3/4

〜合流、再開〜

「あのー、片桐さん?これから私達はどうするんですか?」


食事を終え、コーヒーを飲みながら、萩月さんが訊ねる。


「そうさなぁ。猪苗代って知ってるかい?猪苗代から東に行くと、熱海中山って場所があるんだ。そこはざっくり4本の道路があって、その4本の道路さえ守れれば、中にある集落を守るだけで済むんだ。きっと、俺の中隊の生き残りがいたら、そこに向かうだろうから、そこに行こうと思う。」


日本は当時、広大な海岸線を自衛隊だけで守備することは不可能とし、急遽赤紙を発行。


元自衛官を始め、銃器を扱う訓練を受けた経験がある者と、西部方面隊を中心に九州地方へ兵力を集中した。


それでも、海岸線をカバーは出来なかった。


そこで、グール共を海上で攻撃、誘導することで、部隊が展開する海岸におびき出す作戦が取られた。


北方地方の最終防衛線として、石川県東部海域、佐渡市の内海に、敵を誘う作戦が取られ、我々東北方面隊は、新潟県西部に部隊を展開した。


「すっごい遠いんだけど、残念ながら市街地戦で人々を守りながら戦えるだけの兵力がないんだ。」


「もう日本列島の中央の山脈にあるいくつかの守りやすい地点で、決死の防衛線を展開するしかない。」


「連隊本部からの最後の通信で、第3中隊が向かってるはずだ。」


萩月さんは、一生懸命考えている。


あれだよね、女の子が一生懸命うなって考えてるのってなん癒されるよね←失礼


「あの、ニュースでやってた化け物が、もう来てるって事ですか?」


あぁ、そうか…もう中国軍のせいで混乱状況にあったから、状況を知らないんだな。


「そうだね。ただでさえ、ギリギリの戦いだったのに、俺んとこから、二個中隊も持ってかれちゃってな、防衛ラインはもう突破されてしまった。」


「そんなっ!じゃぁ、戦えない一般市民は…」


「各自治体が避難命令を出してるかもしれんけど…前線にいた俺はそこまで分からない。」


「ごめんな…弾も後350発切った。全力戦闘だと30分も持たない位しかない。ここからは全力で戦闘と市街地を避けながら、猪苗代方面を目指す。」


彼女はまたも一生懸命考えている。


うむ。天使だ。ずっと見てられる。


「分かりました。疲れているところ、すいません。」


「構わないさ。不安になるのは当然だしね。さぁさぁ。明日は日の出前に出るからね。少しでも寝ときなさい。」


俺は彼女をベッドに横たえ、布団を掛けてやる。


「片桐さんは、眠らないんですか?」


「いや、もう俺も限界…何かあってもすぐ動けるように窓辺で寝てるよ。」


「分かりました。お休みなさい。」


萩月さんは、ニコッと笑ってから、目蓋を閉じた。


ちょっとぎこちない笑顔だった。


「うん。お休み。」


今思えば、年頃の女の子、そもまだ子供じゃないか…


一生癒えない心の傷を負ったと言っても過言じゃない。


無理してる。分かってる。


でも、敢えて普通に接してあげるのが、彼女には一番いいはずだ。


女の子の足で、ここから猪苗代までかぁ…


キツイよなぁ。やっぱ何処かで車かバイクを手に入れにゃならんね。


あぁ、そうだ。窓を開けて寝らんと。


ブービートラップがあるとはいえ、接近に気づけるもんなら、それに越したことはない。


窓を開けようと立ち上がったら、400m程先に僅かに動く影が見えた。


向こうは、俺達が来た方向?

敵が追って来たのか?


まずい!


俺は乾きつつあった戦闘服に急いで着替え、様子を伺う。


敵の気配はまだ感じない。

訓練された軍人と見て良いだろう。


相当練度が高い。


さて、どうする?


先に逃げるか?


それとも、隠れるか?


いや…ダメだ。俺はともかく、この子は限界だ。これ以上は動けないだろう。


無事に逃げ出せても、必ず敵に捕捉される。


覚悟を決めなくてはならない。



敵の動向を掴め!音を拾え!



しばらくすると、僅かに足音が聞こえてくる。銃器が揺れる時に出るガチャガチャという金属音も…


100m以内に入った!


通り過ぎろ!通り過ぎろ!



しかし、敵は甘くはなかった。


一階玄関前に、数人陣取る。

深夜でよく姿は見えない。


だが、ブービートラップに気がついたようだ。


さて、どう出る?



唐突に空き缶が落ちる音がした。


くそっ!背後の窓を外して来やがった。



俺は急ぎ二階の踊り場から、一階の侵入者に銃を向ける。


侵入者も急いでこちらに、銃口を向けた。


ほぼ同時だった。


「動くなっ!」



一瞬の沈黙が支配する。


空気の流れが気持ち悪い。


全ての挙動と音に緊張が走る…





「もしかして、片桐3尉ですか?」


日本語⁈

窓辺から月明かりが差し込む…


彼等は自衛隊だった。



ほっとして、崩れ落ちる…


「片桐さんっ!」


この騒動で起きたのだろう。


萩月さんが、後ろから駆け出して、抱きついてくる。


???「合言葉を…」


「YESロリ!」


「NOたぁぁっち!って、それ合言葉じゃねーからな相沢っ!」


「あぁ良かったぁ。このノリの良さは小隊長ですね。」


「相沢3曹以下5名!無事合流致しました!これより、片桐3尉の指揮下に入ります!」


見惚れるような敬礼をしてくる。


俺も立ち上がり、敬礼を返す。


「相沢3曹以下5名の指揮下に復帰を認むる!それから現状の説明をせよ!」


「はっ!」


うん、YESロリの当たりからさ、萩月ちゃん、引かないで!


これは俺のじゃなくて相沢の趣味だからっ!


それと、そこぎゅってしてるのおもくそ傷口だからっ!


開いちゃうから傷口っ!痛い!痛いからっ!


なんていう、くだらないやり取りをしていたら、バラバラと隊員が入ってくる。


大須3曹、紺野士長、水鳥2士、柿崎士長。


皆、俺の部下だった。


しかし、萩月さんがビクっと震えて後ずさる


呼吸も荒くなって来ている。


ハァーハァー…


やっぱり、男性恐怖症になっていたか…


無理もない…


多数の男に囲まれるなんて、あの事件がなくても恐怖だろう。


俺は彼女をベッドに連れて行き、毛布で包んでやる。


「大丈夫。あいつらは何もしないよ?」


「若干1名ロリコンだけど、対象年齢は15歳以下だから、大丈夫 笑。」


必要以上に重くしないこと。


安心させてやるにはいつも通り。


彼女は苦笑?僅かに笑った気がした。



「俺は彼等と情報交換してくる。このまま、ここで待ってて?この部屋には俺しか入らないから。」


「はい…ありがとう。」


小さいながらも、萩月さんは答えてくれた。


俺は、微笑みながらうなずき、部下の元に向かった。





片桐「すまなかったな。彼女はちょっと事情があってな。」


「それで?貴官等だけか?他に生存者は?」


相沢「いえ、第2小隊の生存者は我々だけです。ほとんどがグールに背中を討たれました。」


大須「他に中隊本部に向かった第1小隊長と、堅山中隊長。他40名。民間人50名程が後方地域で待機しております。」


片桐「中隊長が無事だったか!

安全の確保はこの建物から周辺50mは確認した。」


「本部に、一時的にこの建物に来るよう、要請してくれ。」


柿崎「了解です!」


「0200、0200送れ!」


無線機「送れ!」


柿崎「目標はクリア!目標地点で片桐3尉と民間人1名と合流!本隊を前進されたし!」


無線機「おおっ第2小隊長が無事だったか。それは朗報だな!了解した!これより前進する。第2小隊は目標地点を確保!援護されたし。」


柿崎「02了!通信終わり。」


片桐「お前ら聞いたなっ!周辺確保だ!」


一同『了解!周辺を確保します!』


部下達が四散する。


さぁ軍議だな。


あぁもう、早く寝とくべきだったぁぁぁあ


また寝られないぃいぃぃい…





しばらくして、堅山3佐や第1小隊長の下川3尉、民間人が建物に入って来た。


俺は敬礼して出迎える。


片桐「中隊長!ご無事で何よりです!これより、指揮下に復帰します!」


堅山「片桐3尉、無事で何よりだった。しかし、ここでは民間人を収容しきれまい。

下川!第一小隊と20名を率いて周辺の建物を確保せよ!」


下川「はっ!了解しました!」


片桐「下川、ここの周辺地形は三角州型に建物が密集している。8棟の建物を確保すればなんとかなるだろう。」


下川「あぁ、了解だ!良く無事だったな!会えて嬉しいぜ!それでは第1小隊、周辺確保に向かいます!」


下川は俺と防衛大の同期だ。一応、俺が主席、下川が次席だった。


ライバルであり、良き友人で腐れ縁だ。



???「たいちょーさんっ!ここで休んでいいの?」


年頃の女の子が、堅山3佐に抱きついて聞く。


おぉぉう堅山3佐は30代後半だ。

倍くらいの違いがある。


おじさん好きかぁ。


片桐「中隊長、犯罪ですよ 笑」


堅山「言うな。俺も頭を抱えてるんだ。」


堅山3佐は、実際に頭を抱えて、この世の終わりのような表情でそう言った。


んん?それよりも、その制服…


片桐「君は関根高校の生徒さんか?」


???「はいっ!関根高校3年の遊佐 朱美ですぅ。」


片桐「そうか!萩月さんって知ってるかな?彼女を保護出来たんだ。」


遊佐さんは、一瞬キョトンとしたが、心底嬉しそう綻んだ笑顔を見せた。


遊佐「えっ!つっきーがここにいるんですかっ?会わせて下さい!」


片桐「わかった。案内しよう。ただ…」


俺は彼女や中隊長にことの経緯を説明した。


もちろん、オブラートに包んで…



彼女が悲惨な目に合ったこと…


高野曹長達がその時戦死したこと…


彼女が男性恐怖症になっており、留意しなければならないことなど…


片桐「出来れば、俺は任務があるから、可能な限りで良い…萩月さんを見てやってくれないか?」


この遊佐という少女は信用出来るのだろうか?


同じ学校だったからと言って、信用してよいのか分からない。


高野曹長を始めとする犠牲を出して救出したんだ。


下手な人間に任せたくない…

というのが本音だった。


しかし、彼女は俺の話しを聞いた途端、ただただ涙を流した。


遊佐「そ…ん…な… なんでつっきーがそんな酷い目に… 片桐さんっ!つっきーは!つっきーは大丈夫なんですかっ!会わせて下さい!」


うん。人のために涙を流せる。この子なら大丈夫だろう。






どうして?どうして、つっきーがそんな酷い目に合わなきゃいけなかったの?


悲しい…それに辛い…


この片桐って人は、ずっとつっきーを守りながら、ここまで来たんだそうだ。


見たら、所々、包帯に血が滲んでる。


とても優しそうな、穏やかな表情を見せてくれる。


あぁ、この人が守ってくれてたなら大丈夫かもしれない。


つっきーが心を壊さないでいられたのかも知れない。


つっきーは、私にとって恩人だ。


大好きな友人だ。


早く会って抱きしめてあげたい。



片桐「よし、じゃぁついて来てくれ。堅山3佐、10分下さい!」


堅山「許す、連れて行ってあげなさい。」


堅山3佐も、目尻一杯に涙を溜めている。


あぁ、やっぱたいちょーさんは、むっちゃ優しい。


大人なのに、立派な隊長さんなのに、何処か子供っぽい。





私は、2階の部屋の前に来ていた。


片桐「ここだ。ちょっと待っててくれ、起こしてく……」


バタンっ!


私は勢い良く扉を開けて飛び出した。


つっきーがベッドに腰掛けていた。


萩月「えっ!朱美ちゃんっ?」


困惑してるけど、そんな事は関係ない。


私は彼女に抱きついた。


後から、片桐が、あの時の遊佐さんは、グールより早かったとぼやくスピードで、抱きついた。


萩月「うぎゅっ!ごほっ!」


片桐(あぁむせてる、むせてる)


遊佐「つっきー…良かったよぉ…良かったよぉ。」


萩月「もう朱美ちゃん、苦しいよ。でもありがとう。私も嬉しい。」


2人して泣いている。


片桐は、そっと微笑み、ゆっくりドアを閉じるのであった。

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