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8話 聖剣破壊までの道筋

 その場にいた全員が驚きを隠せなかった。


「おいおい!  あのエクスカリバーを!?  どうやってだよ!?」

 沈黙を破ったのはベアであった。


「魔王様、ここからは……超機密事項と思われますので、これ以上は……」

  クールが気遣うやうに魔王に囁く。


「構わん。何度言わせるのだ!  申せ!  破壊の目処とはどう言うことだ!?」


「は、はい!  かしこまりました!  実は……エクスカリバーの構成物質である、アルテタイトを溶かす液体を発見致しました」


「溶かすだと……?」


 ピリッ!

 魔王から放たれたのはほんの微量の殺気であった。


「え?」

 魔王の本音を知るベア。そのベアが唯一、魔王の殺気に反応していた。


「そんな物資あるのかよ!?  世界最高峰の鉱物だぞ!  アルテタイトは!」

 魔王の殺気を振り払おうとしたのだろう。慌てて声を上げるベアであったが、クールの「静かに!」という注意を受けるだけであった。


 幸い幹部達は魔王の殺気に気付いていないようである。


「ここの城より北に進み、オーガ運河を超え、サクラミ樹林帯にとある湖がございます。周辺住民からは、森の神が住まう湖とされております。その湖の水が聖剣を溶かすと判明しました」


「溶かす……か。その水は何なのだ?」


「はい。その水はその地に住む巫女の特別な方法によって清められております。我々魔族が浴びれば相応のダメージを受ける程でございます。この水は悪を浄化すると考えられておりましたが、正しくは属性を無効化し中性化するのであります」


「属性を無効化?  どういうこと?」

  ベアも初耳らしく、アイの説明を理解していないようだ。


「アルテタイトは聖の属性で構成されており、その守りは鉄壁です。しかし、その属性を無効化することができれば、アルテタイトはただの石と化し、耐久力を大幅に下げることができます。実は、偶然この法則を見つけた次第であり、原理は良く分かっておりません。しかし、実験ではアルテタイトの表面を溶かし、属性を無効化しました」


「そうか。それは幸運だったな。それで……破壊までどれほどの時間が必要だ?」


  魔王が偽りの笑みを浮かべる。世紀の大発見者であるアイは、浮かれた様子であり魔王のとても上手とは言えない作り笑顔をすっかり本物の笑みと信じているようだ。


「はい。属性を無効化するためにはこの水が大量に必要であります。生成方法が分からないため、サクラミ樹林まで兵を遣わす予定でございます。必要な量を運び終わるまでは、約半年程かかると思われます」


「そうか。半年か……」

魔王は、ふーっと一呼吸しアイに指示を出す。

「よし、では大至急軍隊を組み、その水を取りに行かせろ。真央城が手薄になっても構わん。半年後には確実に聖剣を破壊する。」


「御意に!」


 アイとクールがひざまずく。

 

 魔王はきょとんとしているベアをちらっと見て笑みを浮かべた。自分の真意を知っている人間が一人でもいる。少なからず魔王はほっとしていたのである。


「ああ、そうだ。もう一つ私から重大な報告がある」


「は!  なんなりとお申し付けください」

 アイとクールは姿勢を崩さずそのまま聞く。



「私とベアは勇者の街、つまりハンブルブレイブに潜入することにする」



「!!」


 アイは驚きのあまり言葉を失っていた。クールも驚きを隠せなかったが、懸命に魔王の真意を理解しようとしてるらしく、尻込むことなく質問を重ねる。


「魔王様、それは一体……あの地にどのような目的があるのでしょうか」


「噂だが、近いうちに新たな勇者が生まれると言われている。人間と言えど、勇者とは厄介な者だからな。勇者候補を今のうちから観察し、弱点を探そうかと思っている。もちろん現段階での紛争は極力避ける……。ゆえに極秘の調査としたい」


  クールは粘り強く食らいつく。

「ならばその調査、我々幹部達が行います!  魔王様が直々に行く必要はございません……危険過ぎます!」

 クールは魔王の顔を見て懇願する。


「それはダメだ…。わたし自身が行かなくては。お前達幹部を信用していない訳ではない。しかし、この任務は私自身の問題が大きい。この角を貫いた忌まわしき勇者を、必ずやコントロールしてみせる。そして憎っくき聖剣を必ずこの手で……分かってくれるな?」


  何としてでも聖剣をこの手で振り回したい!


  魔王の心の声であった。


「御意に。であれば、勇者候補で目ぼしい者がおりましたら、我々幹部がその者を抹殺するというのは如何でしょうか。魔王様は勇者候補を見つけ、我々が攻撃役を担います。それならば隠密行動も可能かと……。魔王様に万が一のことがあっては悔やみ切れません」

  クールが落とし所を見つけようとするが、


「いいや。ダメだ。たとえ暗殺でもやがて騒ぎになる。それに私は勇者候補を殺すつもりはない。勇者といえど、それは職業の一種と私は考える。多様性を軽視した組織は必ず滅びる。ゆえに勇者自体は認めるが、反乱は許さないという体制でいたい。規制すべきは勇者ではなく、脅威となりうる武器エクスカリバーである!」

  魔王が持論を述べ、クールの提案を拒否する。


「深淵なるお考え、感無量でございます」


 クールが頭を下げる。

 クールはもう何も言えない様子であった。アイが選手交代し、魔王へ質問する。


「魔王様のご意見、誠にその通りだと存じ上げます。しかし、ハンブルブレイブへ潜入となるとそれなりの準備が必要でございます。潜入捜査ということであれば、隠密が絶対であります。恐れながらも魔王様は庶民の生活に慣れておりません。住民に違和感を与えしまう恐れがございます」


 アイが冷静に課題を述べた。


「それは、このベアが私の生活指導者となってくれる予定だ。ベアはレジスタンスでも末端の人間だ。庶民の意識は持ち合わせている。また魔王軍、人間側どちらでもなく両者にとって中立な立場である。偏見から生じるトラブルは起こさないであろう」


「こ、この者をそのように信用してよろしいのでしょうか!?  確かに中立ではありますが、言葉を返せばそれは、両者の敵にもなり得ます。そもそもテロリストのような者達です!」

 クールが咄嗟に声を上げた。


「あ?  何だよそれ!  私達のことを知りもせずに!侵略国家は魔王軍だろうが!」

 

 重い空気が庭を覆い尽くす。魔王とベアの関係は悪くないが、通常、魔王軍とレジスタンスが相対した場合、このような口論や紛争が発生するのは明らかであった。


「おい、二人ともやめなされ。魔王様の前であるぞ」

 アイが二人を止める。


 しんとした空気の中、魔王が口を開く。

「クールよ、お主の気持ちも分かるが、レジスタンスの末端は、少なくともベアは我々が考えるようは過激な人間ではないようだ。上層部はどう考えているか分からないが、ベアのような立場の人間は、ただ訓練中心の生活を送っており、命令があれば動くだけだ。忠誠心もさほど強くなく、マインドコントロールを受けているとは思えない。そのベアが約束したのだ。私は信用に値すると考える」


「分かりました……」

 クールは小声で返答した。アイも異論はなさそうである。


「ではこれにて解散とする。今後の予定は随時報告するとしよう」


 魔王の号令とともにクール、アイが持ち場に戻っていく。


「いいのかよ、なんか幹部達と不仲になってないか?」

 ベアも少なからず、魔王と幹部の関係を心配しているようだ。


「ああ、問題ない。クール達が熱くなるのは私の身を案じるがゆえであるからな。私がしっかりとした計画を示せば問題はない」


「ふーん、大変だな。大好きなエクスカリバーが半年後には壊されちゃうのに、色々悩み事があって」


「なんだ、心配してくれるのか?  それは珍しいな。ははっ」


「う、うるせぇ!  私は別にお前達のことなんて何とも思ってないからな!  タダで生活させてもらってる身としてだなぁ、それくらいのことを思うのは普通だろ??」


「その割には顔が真っ赤だぞ。はっはっ。お互い悩み事は沢山ありそうだな」


 ベアはうつむき、顔を見られないようにした。魔王城での生活を通して、ベアと魔王は思ったことを言い合える友達のような仲になりつつあった。


「まあそういう成り行きだ。すぐにハンブルブレイブに出発するぞ。魔王城にいつ戻るか分からないからな。生活用品、戦闘品も含めきちんと準備しておくことだ」


「分かりましたよー」

 そう言ってベアは城の自室へ戻っていった。


いよいよか


  魔王は高鳴る鼓動を抑え、秋風を感じながらベアの後をゆっくりと歩いていった。

お読み頂きありがとうございます。

お楽しみ頂けたら幸いです。

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