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3話 魔王の思い

 幹部達が去った後、魔王は静かにホールを後にし、自室へ向かった。

 魔王の自室は城の最上階にあり、注意書には、『魔王のみ入室可』と書かれており、幹部達でさえ立ち入ることは許されていなかった。

 自室へ向かう螺旋階段には、数々の罠が見受けられ、魔王以外踏み入ることができない領域であった。


 魔王はそんな階段を難なく登り、自室の前で大きく溜息を吐き、扉を開ける。


 ギィィ


 自室はアンティークの家具が取り揃えられており、赤を基調とした絨毯やカーテンがアクセントとなっている。書斎メインの部屋であり、部屋の大きさは人間達が持つ書斎とほぼ同じ大きさである。


 ボゥ


 魔王は部屋の隅々に置かれたロウソクに火をつける。

 優しげな灯りが部屋に広がった。


 そして魔王は部屋の片隅に設置された木製の椅子に腰をかけ、ほっと一息をついた。ゆったりと座れる椅子であり、ギィと音を立てて魔王を支える。


 本棚の前の机の上には聖剣エクスカリバーの写真や構成物質等が研究された資料が散らばっている。


 魔王は机をちらっと見て、顔をしかめ目を閉じた。


 ズキッ!


 またか……エクスカリバーから受けた角の傷が疼く。


 魔王は慌てて角を手で押さえるが、鈍い痛みが体中を駆け巡る。


「くそがおおおー!」


 魔王の怒号が部屋に響き渡り、ろうそくの火が次々と消えた。

 唯一、机の上にある灯りは消えることなくエクスカリバーの写真や資料をただひたすらに照らす。


 魔王の髪の毛がゆっくりと逆立ち、黒い湯気のようなオーラが魔王の体からじわじわと放出される。部屋はみしみしと鳴り、窓ガラスには亀裂が走った。


 同じ敷地内に待機している幹部達も魔王の部屋から只ならぬ気配が発生しているに気がついたようであるが……


「これは、何もできない……!」


 魔王の殺気を感じた幹部達が思わず口にこぼす。


 「下手な行動を取るなよ。フレア。何が起こるか分からないからな」

 庭でフレアと談笑していたクールが注意する。


 魔王はそしてゆっくりとエクスカリバーの写真を手に取る魔王。


 ゴゴゴゴゴ!


 部屋がグラグラと揺れ、緊張が最高潮に達する。

 重苦しい空気の中、魔王の口がゆっくりと動いた。


「……っこいい……」

 魔王のボソボソとした呟きが、やがてはっきりとした口調になっていく。


「か、か、っこいい……」

  魔王は興奮を抑えられていなかった。


「やはり素晴らしいぞぉー!!!  な、なんてかっこいいのだ!!!」

 魔王の手は小刻みに震えている。


「この美しいフォルムよ!!」

 魔王の目が大きく開く!


「全体的に丸みを帯びた剣であるが、要所に繊細な彫刻を入れることによって、全体が引き締まって見える!  刃体の長さ1.5m、刀を握るつかも太くどっしりとし、常人では振ることさえできない!  この大剣から繰り出される攻撃の威力は想像を遥かに超えるものだ!  そして宇宙一硬いとされる鉱物アルテタイトから生成された刀体は、刃こぼれが起こることはまずない!!」

 魔王は興奮し、手に持った聖剣の写真をピシッと伸ばす。


「そして何よりもこのデザインだ!!  薄いコバルトブルーをベースとした配色だが、光を一定程度吸収するため、見る角度によって色が若干異なる!  おススメは、下から斜め35度の角度!  その角度からはエメラルドグリーンとブルーが交互に見える!  黄金の柄も神々しく、まさに地上最強の聖剣である!」


「ふーっ……」

 魔王は大きく息を吐き、自身を落ち着かせる。そしてゆっくりと椅子に腰掛けるのであった。


「こんなにも素晴らしい聖剣を壊すなんて愚行の極みだ……。なんとかしなくては」


 幹部達の手前とはいえ、聖剣破壊の指示を公然と出してしまったからな。今から命令を取り下げることはできまい……


 魔王は悩んでいた。エクスカリバーを持ちだし逃亡する案すら考えていた。


「……」

 しかし魔王の選択はもう少し冷静で現実的なものとなる。


  ギィ……ガチャン

 魔王の扉が開き、そして程無く閉まる。


 散らかった部屋を後に、魔王はアイの研究所を目指すのであった。

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