25話 充実生活
「いやー! 充実した会じゃったのお!」
「なんか体が軽いわ!」
参加者が口々に集会の感想を述べる。
ノゼの武器指導が終わる頃には皆、すっかり『武器をこよなく愛する会』のファンとなっていた。
「今日学んだことを忘れずに、日々練習するんだぞ!」
ノゼは誇らしげに壇上で閉会のスピーチをしていた。
「ノゼ……本当に楽しそうだな」
水を得た魚のように生き生きとしているノゼ。そんなノゼを見たベアは自然と笑顔になっていた。
集会は「ノゼさん、ばんざーい!」という音頭で締めくくられ、参加者の中にはクール程ではないにせよ涙する者もいた。
リピート率90パーセントを超える驚異的なこの集会は、明日もここで開催されるという。
ノゼに握手を求める者も多く、集会の後はちょっとした握手会となっていた。
「お疲れ様……ノゼ」
握手会の最後尾に並んでいたベアが、今日初めて声をかける。
「おお! ベア、来ていたのか! 気付かなかったぞ!」
サッ!
ノゼが驚いた表情で握手を求めるが、ベアは「大丈夫」と苦笑いを浮かべる。
「まったく……何が普通の集会だよ! こんな集会見たことないぞ! やり過ぎだよ!」
「そ、そうか? 参加者が熱心でな……! つい力が入ってしまってな! ははは!」
「はは……一番熱心だったのはノゼだろう」
ベアはまさしく呆れ顔であったが、その表情からはどこか清々しさも感じることができた。
「では、皆の者よ! 気をつけて帰るのだぞ!」
ノゼは帰り始める参加者に向かって大きく手を振る。
「よし! 終わったな! では片付けるとしよう」
そして、すぐに武器こよの会のスタッフとともに片付けを始めるのであった。
「ノゼさんのお陰で、この会も活気づいてきましたね!」
武器こよのメンバーも嬉しそうにしていた。
「いやいや、皆の努力があってこそだぞ! ははは」
「 ……ノゼ、人気者なんだな」
とても魔王が主催したイベントとは思えない情景であった。ベアは黙々とテーブルを片付ける。
「ここの会は巷で話題なんですよ! なんでも参加者が急に元気になったりして……!老人が強盗を捕まえたって話もあるそうですよ!」
「え? 強盗を捕まえた?」
ベアは半信半疑であったが、「まあ、あり得るか」と納得した。
一方、ノゼはさらに歓喜する。
「おお! そうか、そうか! 武器の技能練習の成果だな! あれは私が独自に開発した練習方法だからな! いわゆる魔族の秘伝術だ……! ははは」
「魔族……??」
嬉しさのあまり口を滑らしたノゼ。
「え、どういうことですか……」
メンバー達はぽかんとしており、聞き間違いかと耳を疑っている。
「ノゼ! 違うだろ! 魔族じゃなくてマジックの秘伝術だろ!?」
ベアはなんとかごまかそうとしていた。
「おお! そうだ、そうだ! マジックだな! まるで手品のように体が動くようになるからな! 昔、手品師に教わった秘伝の書を参考にしておるのだ!」
いけるか……? 押し通せるか?
ノゼは冷や汗をかき始めており、寒気を感じていた。
「なーんだ! そう言うことですか! あははは! 確かに。老人が嘘みたいに動くんですもね。手品なみたいなもんですね! ははは」
スタッフは何事もなかったかのように片付けを再開する。
「メンバーが素直で良かったね。ノゼ。」
「ああ」
ノゼとベアは目を合わせて苦笑いを浮かべていた。
「私もこの建物から超元気な老人が出てくるのを見たよ」
ベアは入口で会ったヒデ爺達のことをノゼに話す。ベアは「うーん」と言って腕を組む。
「技能練習はさ、もうちょっと手を抜いた方がいいんじゃない?」
「ああ。そうだな……」
ノゼとベアは反省しながら会場を片付けるのであった。
お読み頂きありがとうございます!
前話のおまけです。
お楽しみ頂けたら幸いです。