表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/92

17-1 願いを果たす者と砕く者~開戦~

 至近距離で向かい合うコード:0・ウィッチ×フェネクスと、コード:ファースト・ムラマサ×ドラグーン。

 魔女と異形の戦士が互いに見つめ合ったのは、ほんの一秒間だった。


 どこまでも続く闇のなか、星のように輝く人の願いが点々と浮かび上がっている空間で、赤色の光条が二本、発生した。

 一本は破壊光線として、魔女の杖から。

 もう一本は剣として、戦士の腕から。

 赤色(デリート・カラー)に彩られた削除の光が交錯する。


「ひれ伏せ:我が敵よ!」

「もう、その力には縛られない!」

「そう……!」

 コード:0が世界改変“生命”での操作を一応は試みるが、ムラマサの装甲をその身に取り込んだコード:ファーストにはやはり通用しない。

 想定済みの結果を確かめ、万に一つのエラーもないことを検証したコード:0は、さらに破壊光線が赤色の刃――鬼切に防がれてしまったことから、敵の得物の、その出力の高さを判断する。

「ここでは分が悪い。戦場を変えさせてもらう」

 呟き、魔女は垂直に上昇した。

「分が悪い? ここは、いったいどこなんだ!?」

 コード:ファーストは問いかけつつも前進、加えて抜け目なく鬼切を振るってコード:0に対して斬撃を見舞うが、相手はくるりとターン、スレスレでかわされた。

 仕方なくコード:ファーストもまた敵を追って上昇をかけた、その直後。


 両者は突然、外へ。


 永遠の闇から、青色の靄にうっすら覆われた夜空へと舞台は移る。

 横合いから空を渡る風が吹きすさび、空気抵抗に押されそうになったが、コード:ファーストは背中から生えた龍の翼を巨大化させることで空中でのコントロールを取り戻す。

 他方、魔女は高空の風に動じることなく、消えることのない赤黒い炎に燃える衣だけを揺らめかせて、コード:ファースト――九籠英治に再度、問いかけた。


「人は願いを叶えるために生きる、それは違うと、そう言ったな」


 空中に浮かぶ二人の足下には、花弁のちぎれ飛んだ巨大な茎が青白い輝きを発してピンと伸びている。

 英治がコード:ドラグーンの力で根源の花を引っ張ったことで、根元の上端部分が地表に露出していたが、当の英治はまだそれを見ていない。

 英治はただ、目の前に屹立している大湖コウ、いや、コード:0からの問いかけにうなずくのみ。


「はい」

「我はそうは思わん。願いを叶えられない人生など、苦しみがあるだけだ」

「……僕も、そう思います」

「ならばなぜ、我の前に立つ? 願いの何一つ叶わない人生など惨めだと知りながら、その人生を我が救うと言っているのを知りながら、なぜ我が前に立つ!」


 微細な青白い輝きの糸が絡まって構成されている根源の花の根が、人間の心臓のようにドクン! と跳ね上がる。

 瞬間、花弁を失った長大な茎にその力が伝導される。

 英治の肉体に向かって茎がしなだれかかり、鞭のように振り下ろされる。

 英治はそれをわずかに後退しただけで避けると、いつの間にか消えてしまっていた鬼切を再び顕現させた。英治の右手がそのまま赤色の輝きとなり、刃の形に伸びることで武器となる。もはやチャージアップは必要としない。

 

 刃を構えて、そうして英治は言葉を放つ。

「願いが叶えられないのは、苦しい。でも、だからといって……願いが叶えられればそれでいいとも、僕は思えない。僕がそうだから、何をやっても、何も果たせないダメな奴だから。でも、それでも死ぬのは怖くて、死にたくなくて、生きたいんです」


 対して魔女もまた赤黒い杖をゆったりとあげた。ぶらりと伸ばしていた右腕を天に向ける。まるで神に選ばれた巫女が祭具を太陽に掲げるように。

 同時、コード:0がその言葉を放った。


「我が問いに答えろ、クロウ:エイジ。我は貴様さえ救おうと望んでいる。そのためにこの世界を転覆する。この不自由で、すぐに限界の訪れる、のろまで冷酷な世界を覆し、人の思うとおりにできる世界をつくる。そしてそれは、全人類を仮想生命体にすることによってのみ、成し遂げられることだ。何故、その道の前に立ちふさがる」


 コード:0が問いかけた瞬間、赤黒い杖から赤色の光線が放出される。

 それは一本のみかと思われたが、中空で拡散、まさに雨の如く無数の針となって英治に殺到する。

 人間であれば瞬殺。通常の仮想生命体であっても避けきることは不可能。無数の針は放射状に広がり傘のような形を描いて、英治の視界を埋め尽くす。


 他方、英治はそれを一撃のもとに切り捨てた。

 ムラマサを自らの脳に同居させている状態――脳接続を維持している英治は現在、人間はおろか仮想生命体すら超越した脳機能を有する。拡張された脳機能によって動体視力が向上しており、その視覚は光の進行さえも捉える。

 加えて、無数の針のように拡散した破壊光線は、たとえ数百、数千、数万に枝分かれしようとも、行き着く先はただの一点のみ。

 英治は少しずつ後退しながら宙を疾走する赤色の雷撃を引きつけ、ついに命中してしまうかという寸前、刃先を一振り。有象無象に分岐した光線のすべてを、ただの一撃で切り裂いた。


「世界を覆したって、僕は、変われない」


 破壊光線を霧散させた次。

 英治は、いや、コード:ファースト・ムラマサ×ドラグーンはぶるりと全身を武者の如く震わせるや、背中に伸ばした一対の翼を一度だけ、はためかせる。

 刹那、コード:ファーストの背後の空気が爆発。そのまま加速のエネルギーを得て突撃。鬼切を前へと突き出して進むその姿はさながら神話の戦馬車(チャリオット)

 

 しかし、コード:ファーストが破壊光線に対処している間、対するコード:0は無論、呆然と待っていたわけではなかった。


「変われない、だと?」


 コード:0は片手にしか握っていなかったはずの杖を、すでに六つに増やしていた。まるでコピーアンドペーストを繰り返すような無機質さ、かつ手軽さで赤黒い杖が無遠慮に増えていく。

 コード:0自身がその手に握る杖は一本のみだが、あとの五本はドローンさながら空中に浮かんでいた。

 そしてコード:ファーストが突撃を開始したのと同時、それらの杖は個々に移動する。うち二本は上方に、もう二本は下方に、そして最後の一本は向かって右側に――ちょうど、敵の向かって左側を残して全周囲を包囲するような陣形を構築する。

 

 宙に浮かぶ杖は、ドローンなどという生やさしいものではなかった。それは虚空を駆け巡る自律・自動砲台。威力もオリジナルからまったく劣化していない、そのままの出力を誇る。


「当然のこと。人は、決して変われない。いくら努力しようと息巻いたところで、三日と続くまい。いくらひと月、一年と努力を積み重ねたところで、がんばれない時もある。いくらがんばったところで運が向かない時もある。心が、くじけてしまう時がある」


 猪突猛進するコード:ファーストに向かって、球状に陣形を展開した杖たちが一斉射撃を開始。赤色の破壊光線が天馬の戦馬車さながら猛進するコード:ファーストの、文字通りその全身に降りかかる。


 はたして、コード:ファーストはそれらすべてを避けていた。


 最初の二本を横方向に回転して避け、続く二本を上昇して避け、最後の一本を速度を上げてやり過ごす。

 自動砲台の一斉射撃を突破したコード:ファーストに、しかし無情にも本命となる一撃が放たれた。

 コード:0がオリジナルの杖を振り、破壊光線を一射。それはまたも無数に拡散し、巨大な悪魔の手の如くコード:ファーストを握りつぶそうと迫る。


「自分自身を変えるより、世界を変える方がよほど簡単だ。学校でくじければ転校すればいい。職場で打ちのめされれば転職すればいい。同じことだ。貴様がこの世界で苦しみつづけるのであれば、世界のすべてを我が変えよう。我の手を、この救いの手を、受けよ!」


 言葉の通り、手の形に差し向けられた破壊光線の束を、しかしコード:ファーストは思い切りはね除ける。

 戦馬車のように剣を前に突き出したその威容を崩すことなく、臆することもなく。ただ突撃することで一点突破、拡散した赤色の雷撃をまたも切り伏せて。天馬の如く進む異形の戦士は止まらない。


「世界を変えたところで、本当に救われるんですか。どんな世界にだって、苦しみがあるに決まってる。苦しみがない世界なんて、僕は信じられない。願いが叶ったって、その先に苦しみがあることも、ある。実際、僕はいじめられなくなっても、それでもみんなから笑われた。人間なんて、いつだって誰かを傷つける。学校だってそうで、大人だって、職場で自殺したり……人は、動物で。必ず誰かを傷つける」


 翼をはためかせて突撃姿勢を解除したコード:ファーストは、その速度を維持したまま鬼切を振り抜いた。


「僕はいつも傷つける側じゃなくて、傷つけられる側で。きっとそれは、僕の一生で。これからも僕はずっと、いつも動物みたいな誰かに傷つけられつづけるんだと思う。世界がどんなに覆ったとしても、きっと僕は、そんなダメな僕を変えられないと思うけど!」


 突きの姿勢を解除したかと思った矢先の袈裟斬り。

 コード:0はしかし、渾身の一撃を容易くその杖で防いだ。

 万物を削除する赤色(デリート・カラー)の武器同士、互いに拮抗した出力の装備が火花を散らしてぶつかりあって。

 

 両者の衝突は実に、一瞬に過ぎなかった。

 加速を活かしたまま攻撃を繰り出したコード:ファーストは斬撃を繰り出したと同時に、その速度による圧を相手にぶつけていた。

 コード:0は超速のタックルを喰らわせられたに等しく、斬撃そのものを防御できたとしても相手の質量による圧を減殺しきることまではできなかった。

 結果、コード:0は鬼切の一撃を防いだその姿勢のまま一気に後方に飛ばされることになる。

 そして異形の戦士――コード:ファーストはまだ、鬼切を収めてはいない。

 逃がさない、そう豪語するが如く、背中の翼をはためかせて急加速。空の彼方へ吹き飛ばされる魔女を追う。


「世界が変わる前に、僕は、たとえダメな僕だとしても、幸せに生きられるようになりたい! 世界が変わったって、僕が今のままだったら、意味なんてない……世界を変えただけで人を救えるなんて、そんな都合のいい話、信じられないって。僕はそう、言ってるんです!」


 コード:ファースト――九籠英治は、すべての信念を込めて鬼切を構える。

 空中を衝撃のままに漂うしかない魔女の、その背後をとった英治は直後、鬼切を思い切り振り下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ