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16-1 世界変革のカウントダウン・演説開始

 暗い地底の底に造り出された仮想世界から電流が放出、そのままコード:0に戻ってくる。

 赤黒い炎を身に纏う巨人は、そのまま赤黒い振り袖を着た少女へと姿を変えた。


「試したいことは、済んだのか」

「ええ」

 冷たい世界の中で彼に話しかける……その望みを果たしたコウに、もう未来の可能性はなかった。かつて可能性と呼んだ願いは、己の力だけで実現できることがわかった。ならば、コード:0の力を借りなければ果たすことのできない本当の願いを叶えることに、もう迷いはない。

「私自身が抱く願いは、私だけでも叶えられた。だから、ゼロ。今度はあなたと私の願いを、叶えよう」

「戻ってきてくれるとは思っていなかったが。我もまた、心を決めるか」

 

 コード:0が願う世界の転覆と、大湖コウが願う世界の変革。

 両者の願いがひとつになる。

 それを明示するかのように、コード:0の情報でできた体と大湖コウの肉体とが融合されていく。

 人の体に仮想生命体の願いを埋め込む完全融合態を超える、覚醒態――仮想生命体の願いを人の願いが超越した状態。

 覚醒態となったコード:0はようやくコウの肉体を取り込み、完全にその全身を物質化させる。

 その姿は、不死鳥の衣を纏った魔女。赤黒いとんがり帽子をかぶり、赤色でできた杖をその手に握る。上半身は赤黒い法衣、下半身は同じ色のスカート。足はダークグレーのストッキングで覆われ、腕も同じくボディストッキングに包まれており人の肌を一切露出させていない。顔はとんがり帽子のつくる影に隠れてまったく見えなかった。


 コード:0の進化を最初に目にしたのは、ムラマサだった。

 腰から下がなく、左腕もない機械人形は壁に埋め込まれたまま、ついに覚醒態となった敵をアイカメラに収める。

「最終形態、ってか。ずいぶんとご立派なサマじゃねえか」

 せせら笑う口調はそのままだが、しかしムラマサはすでに敗北を悟っていた。自身が中破している上、身動きもとれないのでは勝ち目もない。九籠英治の魂も戻ってきていない現状は泣きっ面に蜂だ。コード:0と渡り合うには戦力不足にすぎる。

 ムラマサは、ついに己の機械の体を捨て去ることにした。

「いまは退いてやるよ。でも、またすぐに戻ってくるさ。それまで急ピッチで世界を転覆することだな、お二人さん」

「しつこい」

 魔女となったコード:0――コード:0・ウィッチ×フェネクスは杖を可憐に一振り。それだけで、杖の先端から赤色の光線が放出される。

 赤黒い光線はまっすぐムラマサを狙って突き進んでいく。

「じゃあな」

 命中の直前、ムラマサのスピーカから最後の音声が放たれると同時、アイカメラに灯っていた緑色の輝きが消え失せた。魂が抜け落ちたようにガクンと肩を落した機械人形は、直後、赤色(デリート・カラー)の力を持った破壊光線に撃ち抜かれた。

 

 ムラマサは全身を地球外の物質で構成する戦闘兵器だった。

 たとえば、装甲材質である“アステロイド・チタン合金”は、外宇宙の小惑星から掘り尽くした金属を集めて鋳造されたものだ。

 それは地球の物質すべてを操る力をもつコード:0に対抗するための工夫だった。地球外の物質で造られた機械人形であれば、コード:0の現実改変“生命”に操られずに済む。


 だからこそムラマサの破壊は、人類にとって唯一の切り札の、その喪失を意味する。


 粉微塵に破砕され、もはや原型を残してすらいない機械人形の破片を見つめた後、コード:0・ウィッチ×フェネクスは暗黒に埋もれた顔を見上げ、大輪の花を咲かせた根源の花の幹を見やった。

 人類の切り札は粉砕し、根源の花は開花済み――あとは根源の花を護っていればそれだけで自動的に世界は転覆されていく。

 願いの成就はすぐ目の前。

 そして魔女はさらなる一手を加え、成就を万全のものとする。

 杖を握っていない手で、根源の花に触れた。

 刹那、ドクン! と根源の花の幹が揺れる。

 かと思えば、幹の中心に一本の太い筋が入り、そこから観音開きに外殻が展開された。まるで魔女を案内するかのように内側を開け広げたのだ。

 幹の内側には宇宙空間らしい景色が広がっていた。いや、それは夜空だろうか。暗黒の空間に無数の星々が輝いている景色――そこに魔女が足を踏み入れた瞬間、幹は開いていた門を閉ざす。


 根源の花の内部に移った魔女はそして、星の如く光り輝く点――これまで仮想生命体が接触してきたすべての人の願いに囲まれながら、自身の願いを根源の花を通して地球の地核へと送り届ける。


「どうか、すべての人が輝けるように」

「あらゆる人の願いが、挫折なく叶えられるように」


「私は「我は」願う……「世界の転覆」を」


 その言葉は闇のなかを響いて、地球の奥底へと染み渡っていった。



 バイクのエンジンの爆音が土手に響き渡る。

「ん? なんだ……総理からの演説、だと」

 土手沿いの道を爆走しているバイクを、ミニバンタイプの車が追う。


 バイクにはココロが、車にはゲンジが乗っていた。なおゲンジの車の後部座席には英治が安置されていた。

 戦いを終えた二人は、変革を迎えつつある世界のなかを全速力で駆け抜けていた。

 目指すはゲンジの拠点となる交番だ。いったんそこに撤収するとともに情報を集め直し、同時に意識を失って倒れていた英治の回復を待つ算段だった。

 

 その途中、ゲンジはカーオーディオから自動的にラジオが流れてきたことに違和感を覚えたのだ。

(ラジオなんざ、つけてねえのによ)

 強制起動したばかりか、チャンネルも自動的に合わせられ、そうして流れてきたのは総理大臣の声だった。


『国民の皆さま、いかがお過ごしでしょうか。本来であれば次の臨時国会にて行うはずでした演説を、急遽、本日行わなければならなくなりました。理由はただひとつ、皆さまもいま奇異の眼差しで見上げているでありましょう、あの青白い輝きに満ちた空であります』


 総理の言葉の通り、ゲンジは不意に空を見上げてみる。

 ラショナル・オーラに満ちているせいで夜空さえ見えなくなってしまった、単に青白いだけの蒼穹。太陽も月も隠れて、自然が塗り替えられてしまったような恐怖感さえ与える。


 ひとまず聞き逃してはまずい放送だと判じたゲンジは、窓から身を乗り出して前方を走るココロに叫んだ。

「おい、聞こえるか! ラジオだ、ラジオ!」

「ああ、あたしも聞いてる! というか、自動で流れてくるんだ!」

 ヘルメットをつけていないおかげか、ココロには余裕で声が届いた。


『今後、あの空を満たしている輝きが地上に降りて参ります。そして皆さんの中の数人かは必ず、人間ではなくなってしまうでしょう。しかし混乱は不要です、どうか落ち着いて聞いてください。あなたの大切な隣人が人でなくなったとき、次の言葉をどうか思い出して欲しいのです――それは仮想生命体。人の願いを叶えてくれる、私たち人類を愛する隣人』


 瞬間、目の前のバイクから『ゴウン!』と爆音が起こって急加速した。

「おいおい、危ねえぞココロ! ったく」

 心配して声をかけたゲンジだが、しかし彼もまた「はっ!」と皮肉げに息を吐いて笑い、思い切りアクセルを踏んでいた。そうでもしなければ、怒りに狂ってしまいそうだった。

(何が人類を愛する隣人だ……まるで宗教放送じゃねえかよ)


『もしあなたの身に仮想生命体が語りかけてくるような事があれば、ぜひ動じることなく、正面から向き合っていただきたい。その時、あなたと仮想生命体はひとつになって、どんな願いも叶えることができるようになるでしょう。嘘ではありません。実際にそうなるのです。あなたの意志が消えてしまうわけではありません。ただあなたの中に、仮想生命体が同居を申し出てくる、それだけのことです。どうか、彼らを迎え入れてあげてほしいのです』

 

 バイクが勢いよく右折し路地裏に入る。狭い道だったが、通行人に衝突する心配は一切なかった。動いている人間がいないのだ。誰もがその場でスマートフォンなり音楽プレイヤーに釘付けだった。

 まさに全国民が総理の演説を傾注しているという状態だ。

 ゲンジはまるで動きを止めてた人間たちを横目に、交番へとつづく小道を速度を落すことなくドライブしていく。


『しかし、もしもあなたの傍にいる人が心を失ってしまったとき。明らかに仮想生命体に体を乗っ取られてしまった、という場合。どうか慌てることなく、これから言う組織の電話番号へとダイヤルしてください。あなたの電話の位置を特定ししだい、彼らが数秒で対処することでしょう。電話番号は……』


「いったい、どういうことだ?」

 数秒で対処する……それはつまり、政府機関がすでに仮想生命体を削除する力を握っているということか。

 一切把握していない情報に動揺しないでもなかったが、ゲンジはそれで取り乱すほど弱い男でもなかった。

 ゲンジはついに正面に交番を捉えつつ、バックミラーに映る年端もいかない少年の、安らかな寝顔をのぞき見た。

(こんなガキに、世界の命運を託さなきゃいけないとはな)

 ブレーキを踏んで駐車しつつ、ゲンジはまた息を吐いて笑っていた。

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