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9-6 無限の咆哮・受容

[脳接続 継続]


「ワタシはコード:インフィニティ。この世界の調停者だ」


 俺は鬼切を振るってコード:インフィニティを切り裂く。

 奴はそれを赤黒い鎌で防ぐが、まるで扱い方がなってない。奴が防御姿勢をとっている間にも俺は鬼切を振り上げ、素早く横に振り抜く。

 鎌は長い分、大きく振ることしかできない。俺がひとたび間合いに潜り込んでしまえば圧倒的に優位になる。

 実際、俺は何度赤色の鬼切であいつを捉えたか知れない。


 だが刃は決まって届かない。その刃先が当たる直前、決まって俺は“コード:インフィニティが護れられた世界”に飛ばされる。

 

 俺は何度、学校の窓から飛び降りてその壁の上を駆けたか?

 俺は何度「とうっ!」と着地を決めて鬼切を構えたか?

 いったい何回、あいつをその刃先に捉えたのか……もう、数えたくもなかった。


「仮想生命体を生み現実世界の転覆を謀るコード:ゼロより産み落とされ……仮想生命体でありながら、同胞を削除する力を与えられた。この赤い鎌がその証だ」


 俺はしかし、向き合い続けた。

 何度だっていい、何度でもやり直してやる。

 結果は同じだ。決まって俺は奴をこの鬼切で捉えている。敵が無限に世界を直し続けるのなら、望むだけ敗北を味わわせてやるまでだ。


「コード:ゼロが好き放題に同胞を生み出し続けるものだから、その後始末をしなければならないワタシは少々、大変でね。いくら現実世界を転覆するとはいっても、世界そのものを破壊しかねない願いを持つ同胞はワタシが削除してやらなければならないのだよ」


 いったい何度目からだろう。

 奴は戯れか、世界をやり直す度に異なる内容の身の上話をして、そして俺に斬られる……直前、また世界をやり直す。そんな我が身を犠牲にした問わず語りを披露するようになった。

「ふざけるな。斬ってやる……何度だって!」

 俺は鬼切を振って奴を切り裂く。そのはずなのに、常にその一歩手前で世界が俺を吹き飛ばす。

 リピート再生される世界のなかでは、俺は奴を永遠に切り裂くことができない。

 さすがに対抗手段を考えないとマズいことくらい、俺にだってわかってる。

 だがどうしようもない。

 何度でもやり直しに付き合って、奴の心をへし折ってやるしかないんだ。

 斬って、俺は直後に飛ばされて、また学校の壁を駆け下りて、また奴を切り裂く直前まで進む。


「ワタシには同胞を生み出す権能がない。したがって、世界を転覆するにはどうしてもコード:ゼロが必要になる。そういうわけで、ワタシはこれまでコード:0より与えられた調停者としての使命を果たしてきたのだ。彼のコマのひとつとしての運命を、受けいれてきた」


 俺はやがて、立ち止まっていた。

 学校の壁を垂直に駆け下り、菅田を見つけて……菅田の影から立ち上がるコード:インフィニティを見て、立ち尽くす。

 けして手の届かない死神が、赤黒い鎌を両手に握って俺を待ち構えている。

 俺は鬼切を展開、思い切り振り下ろすが敵はその鎌で平然と受け止めやがる。

 何度やっても同じことだ。まるで敵は機械だ、何度やっても同じように俺の攻撃を無力化してくる。そして無力化できなければ世界をやり直して。

 

 俺は理解した。

 俺は奴の心が折れるのを待っていた、そのつもりだった。

 だが、現実はそうじゃなかった。

 待っていたのは、あくまで敵の方だったんだ。奴こそが俺の心が折れるその瞬間を、こうして待ち構えていたのだ。

 奴のやけに堂々とした構えを見て、俺はそれを確信してしまった。

「ああああああ!」

 叫び、鬼切を振りあげて。

 持ち上げたその手を俺は、止めていた。

 対して敵は、言葉を止めない。

 まるで俺が鬼切を振り下ろそうが、そうしまいがどちらにしてもこの現実は変わらないと、暗にそう主張でもしているかのように、奴は変わらずにしゃべりつづける。

 そうしてコード:インフィニティの肩越しには、俺を嘲弄する菅田の視線がやはり変わらずに向けられていた。俺をあざ笑うようなニヤケ面もそのままに。


「しかしキミはワタシしか持たないはずの削除の権能を、なぜか持っていて……まあ、ワタシが手を下さなくとも邪魔者を削除してくれるのはありがたいのだがね。この世界に調停者は二人も要らない。コード:ゼロ・クリサリスを削除したのが運の尽きだったな。キミはとうとう、ワタシの目の上のたんこぶになってしまった」


 終わりにしよう。

 最後にそう言って、コード:インフィニティは鎌を振り上げる。そして俺の首を刈り取るべく、横なぎに振りぬく。

「やられるわけには!」

 俺は叫び、そして鎌を避ける。赤黒い刃が俺の目の前を通り過ぎて、そして同時に俺は構えていた鬼切で反撃しようとする。


 その時、奴の対句の詠唱が始まった。

 菅田が言う。「“護ってみせる”:“この世界を”!」

 インフィニティが重ねる。「“応えよう”:“その意志に”!」


 俺の目の前に、鎌を振ろうとしているコード:インフィニティが現れる。

 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

 奴はついにやり直しをはじめたのだ。

 俺がトドメを刺せない場面をリピートするのではなく、今度は俺の方が永遠にトドメを刺され続ける場面をリピートしはじめる。

 勝てない絶望を俺に味わわせた次は、敗北の確信を俺に焼き付けようというわけだ。


俺は目の前の刃を避ける。

 奴らの対句の詠唱が始まって、また避ける前からやり直し。

 何度でも、何度だって。

 奴は俺の首をはね飛ばすまで永遠にこの世界を操作し、リピートしつづけるのだろう。

 俺が何度でも繰り返して行ったことを、今度は俺がやられる羽目になろうとは。

 攻守逆転。

 俺は狩人から獲物になって、永遠に刃を向けられつづける立場にたたき落とされた。


 そのリピートが始まった瞬間、俺は口元をニヤと歪めていた。


「おやおや、英治くん。何度も処刑されそうになって、ついに狂ってしまいましたか?」

 菅田は俺のニヤケ面をみて、そう言ってきやがった。

 俺が狂ってしまった、だと?

 逆だ、俺はやっと、正気になったんだ。

 

 思えば、さっきまでの俺はどうかしていた。世界をやり直す力を持つ敵を倒そうなんて、どう考えたって不可能だ。

 どうしてそんな不可能なことに、やっきになって挑戦しつづけていたんだろうか。

 とはいえ攻守が逆転した今、俺はやっと無謀な猪突猛進をそこで捨てることができた。

 幾度となく死の恐怖を突きつけられて……俺はやっと、俺自身の魂の在り方を再確認した。

 何度も何度も攻撃されるこの現状は、俺が圧倒的に不利だ。どう考えたって追い詰められてる。

 でも、同時に。何度も何度も俺が攻撃するよりかは、はるかにこの現状の方が俺らしいとは思わないか?

 

 俺は九籠英治だ。断じていじめっ子じゃない。

 むしろその逆、いじめられっ子で。

 抵抗したくてもできないクソッタレで。

 つまりは人生がクソッタレってわかっているのに手を打てない怠け者で。

 そんな俺が何度も何度も攻撃されるだなんて、なんて俺らしい現状になったもんだ!


 俺は嗤わずにはいられなかった。この現状になってやっと俺は認めることができた。俺自身の救われない魂の在り方ってやつを。

 俺はニヤケ面を、俺自身に対して向けた。

 俺は菅田とは違う。そのニヤケ面で世界のすべてをあざ笑うあいつとは違う。

 俺は常に、不甲斐ない俺自身をあざ笑ってきた。

 俺をブン殴ってきた不良たちに抵抗しなかった代わりに、俺は自己嫌悪という形で俺自身を責めていた。

 世界がどう変わろうが、俺は俺を笑い続ける。悔やみ続ける、嫌悪しつづける、俺自身を。

 俺のなかには俺しかいない。ヘマをする俺と、俺自身を嘲弄する俺と。

 そんな俺に、しかし委員長のリンは話しかけてきてくれて、独りにさせてくれなくて。

 そんな俺を、あのコウは抱きしめてくれた。


 あの二人は、俺を認めてくれた。このクソッタレな世界のなかで、俺は俺のままでいていいんだって、そう認めてくれてたんだ。


 俺はずっと自分が嫌で、変わらないといけないと思っていた。

 でも変わろうとして、変われるもんじゃない。

 脳接続して俺の能力を極限に高めたって、結局は自己嫌悪の連続。その末路として、いまや何度避けようが、避けたこと自体をなかったことにされる極限の絶望的現実にたたき落とされて。

 あの不良どもにいいように殴られ続けていた状況と、いまの現状は何も変わりはしない。

 

 結局、人は変われない。脳をいじくって、能力を高めたって無駄だ。

 なら俺は、きっと俺のままでいるしかないんだ。

 何もできなくて、無力でクソッタレな俺のまま、この現実を打ち破るしかないんだ。


[脳接続 深部展開]



「さあ。今度こそ、食らいなさい!」

 菅田が高笑いを浮かべて勝利を確信し、コード:インフィニティはまったく同じ動作で俺の首を狙ってくる。

 俺は今度こそ、その一撃を避けなかった。


 避ければまたループが起こる。

 だから避けず、ムラマサ・グリップで受け止める。

 光の刃で受けようとしたが間に合わず、剣の柄でギリギリ防いだ。

 しかし敵の刃は赤色(デリート・カラー)。グリップは一瞬しかもたない。

 

 一瞬でも稼いでくれれば、充分だ。


「なぜ、抵抗するんです? キミの未来は、もう決まっています。私がそう決めた未来になるまで、永遠に繰り返すんですから!」

「うるさい!」


 俺は叫んで、そうしてコード・インフィニティの腹にキックをぶち入れた。

 つま先から衝撃波が発生し、束の間、敵を翻弄する。とはいえコード:インフィニティは上位の仮想生命体、たかが衝撃波程度ではその全身を構成する情報に何ら干渉できない。

 俺は一度だけ後ろに飛びすさり、距離をとる。

 当然、敵は追撃するべく前進するかと思えば……そうするまでもない、か。

 

 菅田の言葉に、コード:インフィニティが応える。

「“護ってみせる”:“この世界を”!」

「“応えよう”:“その意志に”!」

 直後、俺は目を開いた瞬間、赤黒い刃が向かってくるのを見る。

 またやり直し。また俺の回避がなかったことにされて、もう一度避けなくちゃいけなくなる。

 受ければループはすぐには発生しないが、しかし結局たどる結果は同じか。

 もううんざりだ。

 だが俺は、うんざりだがそれを受けてやろうとは断じて思わない。

 俺は必ず、このクソッタレな現実を突破してやる。


 突破した先に、あの二人がいてくれるんだから。


[脳接続 覚醒展開]


 俺は、違う、僕は幸せを掴むためにこの現実を打ち破る。

 そんなわけで、僕は目の前の刃にむかって手を伸ばした。

 これが普通の刃だったら、当たり前だけど僕の指はすべて切断されて終わり。

 だけどいまはすこし違う。確かに目の前の赤色の刃はあらゆる情報を削除するから、僕の肉体を構成する情報も削除してしまうだろう。

 結果として、僕の指は切られてしまう。

 それでも僕が手を伸ばしたのは、素肌そのままの手でその刃先を掴むためで。

 

 僕は“許したい”、目の前の刃を。

 許して奴隷にしてやるよ。


 次の瞬間、刃は僕の指先に当たった。

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