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8-4 心意気~本音の接続~

【脳接続:反転を検知:調整接続 開始】


「ほう。反転の力を察知して、それに対応して神経分泌の活性と非活性とを自動調節するなんて。ココロ、君はとんでもないものをつくったな」

「黙れ!」

 俺は人形に向かって叫んだ。

 おしゃべりな人形だ。知ったような口を叩く。

「斬ってやる!」

 この世界から有限性を取り除く? 略奪や競争の必要性をなくす? 妄言だ。

 仮に奴の言うとおりに世界が改変されて、たとえ資源が尽きなくなってしまっても、一日は二四時間しかない。人の心臓の心拍数にも限界がある。そうでなくとも、あの太陽だって核融合反応を繰り返す物質に過ぎず、いずれはその化学反応も止まると言われている。

 世界を転覆させるだ何だとほざいたところで、この世界から有限性を取り除くことは不可能だ。

 そんな妄言を吐くくらいなら、人間全員を宗教施設に叩き込んだ方が現実的だろう。


「君と戦うのは初めてだが、すでに見切られているとなれば間違いない。この星の地核情報から僕の力についての知識を取得したな? だとすれば君はあのムラマサ……。一度壊しても飽き足りないなんて、学習能力の劣ったAIだ!」

「俺は俺だ! ムラマサ? 知らねえよ!」

 俺は九籠英治だ。他の奴になったことはいままで一度もない。

 そのはずだ。

 右手に握ったムラマサ・グリップをすがるように握り込み、空中に浮かぶガラスの破片を思い切り踏んづけた。作用・反作用の法則のとおり、俺はガラス破片を蹴って大気中を前進する。

「あくまで突っ込むことしか知らないところも含めて、何も学んでいない。AIとしての自覚を少しはもったらどうなんだ?」

「俺はAIじゃねえ!」

 奴は俺を嘲笑すると、その右手をさっと振るだけ。

 瞬間、俺の前進が“反転”、すぐさま後退した。

「ツ!」

 凄まじい勢いで後退した俺は、壁に背中をぶつける。逆再生動画よろしく、もはやギャグのような現象だがいまは殺しあいだ。

 この滅茶苦茶な敵を攻略しなくちゃ、俺に明日はこない。

 俺は同時に理解する。奴は機械の姿をしてはいるが、完全融合態だ。怪物の状態にならなくてもここまで自在に力を使えるとなれば間違いない。

「またしても、めんどくせえ奴を相手にしなくちゃいけないなんてな」

 バイトにしたって効率が良い仕事じゃない。レベルマックスの奴を相手にするのはどう考えても骨が折れる。それを無報酬でやるなんて、俺はどうかしてる。

 だがやらなきゃ、()られる。理由なんてそれだけだ。

 俺は舌なめずりすると、背後の灰色の壁を蹴った。

 再び前に進んで、鬼切を構える!


「また突進? また同じ事を繰り返す? すでにその行為による結果は試行済み。実証された実験を幾度繰り返したところで、出力される結果は変わらない。君はそれほど馬鹿でもあるまいに」

 コード:0は、しかしそう言いながらもさっきと同じことをしなかった。

「無論、僕も馬鹿じゃない。さあ、“反転”せよ、ムラマサ!」

 奴はその両手を前に突き出し、指を開いて花の形を真似た。

 機械人形のそれぞれ三本しかない指で形作られた花から、青白い輝きが放出される。

 それが俺の視界を埋め尽くして……。


【###脳接続 ###継続】


 僕は前に進みながら、鬼切を振るう。

 けど、びっくりした。刃の色がいつの間にか変わっていたんだ。

 赤色から、黒一色になっていた。

 赤は人の血潮の色。くだらない仮想の青を反転させた、夢想を断ち切るための色。

 それが変色したということに、いったい何の意味があるんだろう。

 

 まあいいや。

 さっきから憎くて憎くてしょうがない。だから許してあげたい。

 僕はけして、許さない、なんて小さなことは言わない。そんなこと、弱い人しか言わないから。

 強い人なら、あらゆるものを許せる。許して、そうして自分のものにしてしまう。

 だから僕は許そう、この世界のすべてを!


 僕は黒い刃を振った。

 その軌跡が青白い輝きになって、虹になる。

 虹はコード:0にむかってゆっくりと空間上を広がっていく。

 それに触れれば、コード:0は僕のものになる。


「これは黒一色(ディンジィ・ネクロマンス)。しかし、この状況下ではありえないはずだ。英治くんはまだ、仮想生命体には成り果てていないんだぞ……その、はずだ」


 後ろでココロさんが何やらびっくりしているようだけど、まああとでゆっくり話をきけばいいよね。

 いま僕は目の前のあいつを許してあげることに夢中なんだ。誰にも邪魔はさせない。

 敵はさすがに僕の虹を受ける気はないらしい。宙に浮かんでいる体をひょいとターンさせて虹をやり過ごす。

 でも虹は代わりに反対の壁にあたって吸収される。

 僕は思わず笑った。にやり、って顔してるんだろうな。

 瞬間、黒い刃から虹色の光線が反対の壁に向かって放出される。まさに虹の架け橋だ。

 そして僕は黒い刃を振ってみせた。

 すぐに壁は崩れて破片となって、僕の奴隷になってくれる。

「押しつぶしてよ、あいつを!」

 僕は笑いながら叫んだ。そして右手に握ったムラマサ・グリップのトリガーボタンを一度、押す。

 奴隷はすぐに言うとおりにしてくれる。コンクリートの破片は寄り集まって積み重なって、一体の石人形をかたちづくる。急造のゴーレムだ。

 まるで女性のような細身のゴーレムが両手を広げてコード:0に近づいてくれる。求愛して抱きしめて動けなくするんだ!

 

「想像以上のパワー……やはり君は、ココロのそばにいる資格をもった人間、ということだ」


 コード:0は余裕ぶってそういう。でも後ろには僕のゴーレムがいて、前には僕自身がいる。いまはまさに挟み撃ち。

「うるさいな。さっさと、潰れてよ!」

 僕の言葉にしたがってゴーレムがコード:0を抱きしめようとする。

 でもあいつは野暮ったい人なのか、あるいは婚約者のココロさんを前にして浮気をみせるわけにもいかないのか。ゴーレムの腕をくぐりぬけて背後に回り、その背中に肘鉄をくらわせた。

 その一発で僕のゴーレムは木っ端微塵。せめてもっと役に立って欲しかったんだけどな、まあ許すけど。


「ならば、せめてココロの間違いを指摘してほしいものだ。この世界をよりよくするためには、この社会に囚われたままでは不可能だ。この世界のすべてを転覆することが唯一の解だということを、君の口からココロに言ってくれないか?」


 ゴーレムの残骸が低重力のせいでふわふわと浮かんでいるなか、コード:0は全身からラショナル・オーラを放出させて語る。

 普通、ラショナル・オーラはアオマキグサからしか出てこないのに。

 まさに目の前のコード:0は、そこらへんの仮想生命体とは違うみたいだ。

 それなら僕の奴隷にする価値もある。

 僕はあいつを憎んでいるし、ちょうどいい。


「ふざけないでよ。僕の口からココロさんに言う? 社会をよりよくするなんて、どっちみち無理でしょ。たくさん群れれば群れるほど、人間は腐っていくんだから!」


 いじめをする奴は、だいたい群れてる。悪口いう奴もだいたい群れてる。

 群れれば群れるほど、人は腐っていく。孤独になればなるほど、人は気高くなっていく。その反比例の双曲線を描き続けることが人間の習性だ。

 それを僕は学校で見てきた。

 どんな世界になっても、いかなる社会になっても、ぜんぶ水の泡。人間の習性が変わらない限り、反比例の双曲線が交わることは二度とない。

 転覆するべきなのは世界でもなければ、社会でもない。

 僕たち自身、人間たち自身、そのあまねく一人ひとりなんだ。


「腐らせない容れ物をつくればいい。そのために僕は、仮想生命体として再び生をうけた。腐った社会に殺され、社会を転覆するべく転生した。人は社会のなかで変わる。変われる。命題は、そんな社会をいかに作り出すかだ」

「一度死んだ人間に、いまをがんばって生きてる僕たちの気持ちなんてわからないでしょ」


 コード:0は両手を頭の上で組み合わせた。

 瞬間、空気中の酸素が“反転”した。呼吸によって僕たちに活力を与える酸素の性質が反転したことで、僕とココロさんは息ができなくなる。

 そのなかで生き残ることができるのは、呼吸しなくてすむ機械人形の体を持つあいつだけ。

 でも数えてみて欲しい。僕がこの戦闘で何回、この服従の黒剣を振ったか。いったいいくつの酸素分子にふれあって、その奴隷にする準備をしたかを。

 息もできないなか、僕はムラマサ・グリップのトリガーを一度押す。

 すぐに黒剣は虹色に輝いて、空間中に存在する僕の奴隷となった酸素たちに“反転”を克服するよう命じた。

 僕とココロさんはすぐさま息を吹き返して、一安心。

「ぷはっ」

「ふう」


「わかるとも。僕もそれで、苦しんだ者のひとりだ」


 目の前にコード:0が迫る。機械の体をもつだけあって、速い。

 文字通りの鉄拳が僕の腹に当たる。

「っ!」

 僕はさっき吸ったばかりの息を全部吐き出した。

 でもやられてばかりじゃ、許せない。

 僕は敵を許したいんだ。だから、お返しさせてもらう。

 また僕はムラマサ・グリップのトリガーを押す。

 黒剣はまた虹色に輝いて、僕のイメージを下僕となった酸素たちに伝える。

 瞬時、コード:0の周囲にあった酸素たちが爆発した。

 これで木っ端微塵になってほしくない。それじゃあ許せないから。

 そして僕の期待どおり、コード:0は爆煙の立ちのぼる火球のなかなのにもかかわらず、一切ダメージがないというように、つづいて僕にキックをぶつけてくる。

 機械人形の脚力は思ったより強くてびっくりした。

 おかげで僕は笑いながら空中を跳ね飛ぶことになった。


 やっぱり戦いって楽しいな。

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