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6-4 いじめられっ子と破滅の女神・破砕

[脳接続 開始]

 

 もう選択の余地はない。

 悪いがお前の願いを砕かせてもらう。

 それが俺にできる、お前に対しての精一杯だから。

 俺は信じる。偽りの願いを砕かれてなお、お前が本当の願いを求めることを。


「俺はお前に、どうすれば人生が良くなるかを、教えられない。俺はまだ、未熟だからな」


 俺は傍らですこしびっくりしているような呆けた顔を浮かべる小僧に言い聞かせつつ、右手にムラマサ・グリップを顕現させる。

 ムラマサ・グリップを勢いよく握りこんで空間を薙ぎ払うように一振りすれば、すぐさま金色の光刃――鬼切が噴出した。

 俺は迷うことなくトリガーボタンを一度押す。すぐさまチャージアップが開始され、金色の刃は銀色へと錆び付いた。


「俺は最低な奴だよな。どうすれば良くなるかを教えもしないで、お前の歩む道を、こうして邪魔することしかできない」


 俺は語りながら、なおも信じつづける。

 小僧がいま抱いている願いを成就させてはならない、と。学校という環境を破壊し、己の弱さと向き合えなくなる状況を作ってはならない。

 それは逃げだ。人生を前に押し出す一歩じゃない。


「お兄さん、あなたはいったい……何なの?」

 小僧はそんな問いかけを発することが精一杯のようで、いまにもちびりそうなんだろう。それくらい俺の人格や気配が変わっていた、ということなんだろうが、構っちゃいられなかった。

 敵はすでに、俺を察知している。

 さっきまで無言でいつづけて、まるで小僧の言うことに従う機械のような雰囲気を保っていたコード:ネメシスは、女神像の首をグググ、とおもむろに曲げ、この俺を睥睨する。


「ここにいましたか。“世界でもっとも無意味な情報”……いや、ムラマサよ」


 澄み渡る美しいソプラノ。コード:ネメシスの声はまさしく女神様だった。


「数多の同胞を打ち破ってきたという報は、私を構成する情報にもすでにフィードバック済みです。したがって私は、いま貴方を全力で討ち滅ぼしましょう。すべては私をこの世界に呼んでくれた、この子のために」

 女神像は瞳の部分から赤い輝きをもらし、それで小僧をやさしく見やると、次の瞬間、全身から壮絶な駆動音を響かせる。

 グン、グン! グングングングングングングン!……モーターが互いに連携して回転し、その速度を上げていく。モーター音の轟音が世界を支配する。

 直後、女神像のふくよかな胸から一閃、紫色の輝きが放たれた。


『“消して”』


「危ねえな!」

 脳接続で認識能力を高めていなければ、正直な話ここで即死していた。

 俺は大きく左にジャンプして破壊光線を避ける。俺はちらとさっきまで立っていた場所をみたが、土が奥深くまでえぐられて穴があき、水が細く噴き上がる。水道管を貫いてしまったのか、眠れる水脈を呼び起こしたのか。

 そこまでの威力を持ちながら、地面はなにひとつ震えていなかった。つまり敵の攻撃は衝撃力を一切もちわせていない。攻撃と言うより、世界を操っているといった方が正しいのだ。

 加えて、俺の隣にいたはずの小僧も無傷。

 敵が放ったのは、地図上の一点を正確に射ぬく光の矢。一ミリメートルの誤差もない正確無比な狙いで実現される、針のように繊細で一切の防御を許さない冷酷さを併せ持つ完璧な狙撃。

 半融合態・フェイズ3の特徴である“現実改変”――小僧の口ぶりから、その種別は“消滅”といったところか。


「ほう、消滅の運命から逃れるとは。さすがに同胞たちを滅ぼしてきただけのことはある。ですが、無駄ですよ」

 コード:ネメシスは再びモーターの駆動音を全身から響かせる。エネルギーを充填し発射準備でもしているのか。

 速度もクソない、目の前の物体を瞬時に消滅させる力をもつ敵の攻撃を、はたしていつまで避けられるのか? 俺はそれを考えたくなかった。

 だからこそ、さっさと片付ける!


「残念だったな。お前に次は、ない!」

 俺は豪語すると、右手に握る鬼切の色が銀色(シルバー・チャージ)から赤色(デリート・カラー)へと遷移したのを確認し、ついでグリップのトリガーを二度押した。

 瞬時にグリップから光刃が消失。そうかと思えば各部に規則正しい割れ目が入り、刹那、グリップが崩壊する。

 持ち手、本体、光刃噴出口といった具合に部分ごとにわかれたムラマサ・グリップのパーツたちは互いに回転して組み合わさり、一瞬のうちに変形(モード・チェンジ)を完了させた。

 結果、上を向いていた光刃噴出口が敵に向き……それは銃口そのものになる。

 剣の(モード・ヒルト)から銃形態(バースト・モード)への移行を完了したのも見て、俺はすぐさまトリガーを引き絞る。

 瞬間、銃口が爆裂、血のように赤い光の渦巻きが放出された。

 アオマキグサが発生させる青白い輝きの靄――ラショナル・オーラを消滅させて進むその爆裂の渦はゆったりと大気中を直進していく。

 弾丸というにはおぞましすぎる見た目の超兵器だが、しかし絶えず動き回る仮想生命体を狙い撃つには弾速が遅すぎるのが実情だ。

 とはいえ、今回の敵は巨大な女神像型。それほど俊敏にも動けまい。

 そして俺のこの予想はドンピシャだった。

「消え去れ!」

 俺は渦巻きが女神様を捉えるのをしかと見る。

 だが……。


「言ったはずです、無駄だと」

 ソプラノがまたも響き渡り、そして女神様の周囲に浮かんでいた小鳥型のオブジェたちが一斉に飛び立った。

 それは自らの肉体を捧げて主を守護する、霊鳥たちの群れ。

 光の小鳥たちは次々と渦巻きに激突し、消滅し、また衝突し……渦巻きを女神に到達する寸前のところで押しとどめる。

 渦巻きが自然消滅するのを待たず、女神様は胸部から紫色の光条を射出した。

「!」

 俺は横っ飛びに飛んでまたも消滅の運命から逃れる。

 油断も隙もない。

 俺は再び銃口を天空に向けてトリガーを引く。

 赤い光の渦巻きが放出されるが、今度は小鳥たちがすぐさま激突してきた。渦巻きが周囲のラショナル・オーラを吸い取るより先に小鳥たちが吸引され、おかげで数秒で渦巻きが自然消滅する始末だ。

 これじゃあ本体を撃墜するどころか、アオマキグサをへし折ってラショナル・オーラを消去することさえできない。


「もう、見切りました。貴方のただひとつの、攻撃手段も」

 絶対的な美しさを持つソプラノが俺の耳をくすぐる。

 楽になりなさい……そんな色仕掛けをしてきやがる。

「そうかよ!」

 俺は甘美な死の誘惑を振り払うように再びトリガーを引く。

 と同時に、女神の胸から三度目の光線が放たれる。

 赤い渦巻きと紫色の破壊光線とが宙でぶつかりあう。

 が、渦巻きはいとも簡単に消滅。それに満足せず破壊光線は渦巻きを貫通して俺に殺到する。

 俺は即座に避けるが、しかし右腕を撃たれた。ムラマサ・グリップが狙い撃ちされたのだ。

「ぐ!」

 俺の体は何ともなかった。右手がなくなったわけじゃない。しかしさっきまで握っていたはずの銃形態のグリップが、ない。

 愕然としたが、しかし動かなければただの的だ。

 俺はステップを踏んでその場を離れつつ、敵を見上げた。

 そう、敵は宙に浮かんでいる。跳躍したところでけして届かない遙かな高みに鎮座していやがる。

 だからパンチもキックも届かない。だから銃撃をするしかなかったのだが、周囲をくまなくガードする霊鳥たちに阻まれた。

 どうしようもない。

 小僧の願いを打ち砕くと啖呵を切ってはじめてみたは良かったが、見切り発車にもほどがあったか、すでに俺の手段が打ち砕かれた。

 

 とはいえ、俺は少しも絶望しちゃいない。

 なぜなら俺の手はもう何も握っていないからだ。

 これまで俺は戦闘が終われば必ずムラマサ・グリップを手放すようにしていた。

 戦闘のなかで武器を手放すようなヘマを俺はやらない。

 だが敵に破壊されたら? それは仕方がないことで、緊急事態というやつだ。

 そして緊急事態だからこそ、俺は手を伸ばせる。


 できれば最終回までとっておきたかったが、もう手段は選べない。

 せめて幹部クラスの敵を倒すボス回に使いたかったが、もはやどうでもいいことだ。

 小僧の役に立てるんなら、俺はいまここで全力を出してやる。

 

 俺は己の脳裏にコマンドを刻んだ。


[脳接続 深化展開]……[コンバージョンを開始します――YES or NO]

[YES!]

 

[メッセージを受信しました]……[もう戻れなくなるかも知れない。それでも、いいのか]

[メッセージの破棄を確認]……[コンバージョンを開始します]

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