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5-3 英雄の覚醒~悪鬼~

[脳接続 開始]


 俺は開口一番、本音とやらをブチまけてやった。

「ッザけんじゃねえ!」

 いきなりなンもない空き地に呼び出した挙げ句、つまんねえ話をし始めたかと思いきやブン殴り、ついでに青い鎧武者まで呼び出しやがっただと?

「俺に良いこと、ひっとつもねえだろうが!」

 むしろ悪いことばかりじゃねえか。殴られたのも嫌だし、仮想生命体を呼び出されたら俺が倒さなきゃいけない。仕事増やしてんじゃねえ。

 倒さなきゃ、いつぞやのようにココロの姉ちゃんから嫌みを言われるからな。


 俺がそんな最高にイラついた気分でいるってのに、あの武人、――いやもう面倒くさい、タケトの野郎って呼ぶことにしよう――奴はなぜか笑っていやがった。

「いいぜ、英治! そんなお前の声が、俺はずっと聞きたかったんだ!」

 は?

「気持ちわりいんだよ、なんだソレ!」

 タケトの野郎の声と同時に、鎧武者が刀を振るってくる。

 俺は瞬時にムラマサ・グリップを出現させると、装置に穿たれた暗い穴から金色の光刃、鬼切を噴出させる。

 直後、向こうの青い刃に鬼切を思い切りブチ当てた。

 まばゆいばかりのスパークが目の前で爆ぜ、衝撃波が俺を襲う。ただ衝撃波は敵にも吹きすさんでいるはずで、結果としては同じ負荷が俺と敵のどちらにも与えられることになる。

「そんな武器じゃ、この鬼切には勝てねえよ」

「……戯、言」

 鎧武者はぼそりと言い返すが、残念ながら現実は無情だ。

 敵が握っていた刀にはビキビキと亀裂が入り、強烈な衝撃波にいまにも砕けようとしていた。

 当然だ、敵はまだ半融合態・フェイズ1。全身を青い鎧で包んでいるが、それは逆に鎧という容れ物がなければこの現実に顕現できないほどの力しか持たないということだ。

 初期装備の状態でしかない敵に、鬼切の金色に輝く刃はさぞ荷が重いことだろう。


 だが。

 それでも後ろにいるタケトの野郎が、また気持ちの悪い台詞を吐きやがる。

「英治、俺は嬉しい。お前とこうして、サシでやりあえて!」

 正直、怖気がする。

 しかしその声は純粋な喜びの発露。

 戦いのなかで願いを成就させているのだとすれば、敵のレベルが上がる可能性がある。

 戦闘中にレベルアップなんて冗談はなしにしてほしいが、しかし現実は無情だ。

 はたして、鎧武者が握っていたヒビだらけの刀は砕け散り……同時にその姿を変える。

 青い刀は白い輝きに変わり、棍棒と化す。

「お色直し、ってか!」

 俺は刃を押して敵をはね除けると、追撃の斬撃を見舞う。

 瞬間、敵は鎧武者の姿から変化する。

 青い鎧は胸当ての部分を除いてすべてが吹き飛び、それは一種の攻撃ともなる。

 たまらず俺は鬼切を一閃して飛んできた鎧を切り払うが、それで体よく足止めされたことになる。

 だから俺は敵のレベルアップを止めることができなかった。

「倒す、お前を」

 仮想生命体は静かに呟くと、白く輝く透き通った全身を露にした。

 それは半融合態・フェイズ2。

 容れ物である青い鎧なしでも現実に存在することができるようになる。それほどの確固たる力をもつようになった形態ということだが、しかし俺はこの前フェイズ3を倒したばかりだ。

「レベルアップしたからって、まだお前はザコに過ぎねえ」

 俺は断言すると、地面を思い切り蹴り込んだ。

 一瞬で敵との距離を詰めると、俺は鬼切を思い切り振り抜いた。横一閃、左から右へと金色の刃を疾走させる。

 敵はそれを光の棍棒で受け止めた。

「お前、弱い。倒す、お前を!」

 静かに言い放った敵は、そして右手で棍棒をもちつつ、左手をすっと虚空に伸ばす。

 俺にはまるでそれが、何かを掴もうとして伸ばした手のように見えた。悪い予感、という奴だ。

 悪い予感ほどよく当たる。

 

 案の定、次の瞬間には敵は左手に盾を現出させ、掴み取る。俺がムラマサ・グリップを呼び出すのと同じくらいに素早い顕現だ。

 半融合態・フェイズ2の特徴である“物質顕現”という奴で、思い描いた存在を自由自在に出現させることができる。ただし完全な物質の形ではまだ顕現させられないので、それは純白の光で構成されることになる。

 光の盾を握った敵は、なんとそれで俺をブン殴ろうとしてくる!

「盾って、何だっけな!」

 俺は呆れながらも、しかし盾の大きさを見るととてもじゃないが笑うわけにはいかない。それは一メートルほどの巨大な盾で、近距離で振り上げられれば視界のすべてを覆い尽くす。

 さすがの俺も斬撃を中断して一歩、後ろに退いた。

 直後、目の前の地面がめくれ上がった。盛大に振り下ろされた強大な盾の質量が現実世界に干渉し、空き地全体を揺らしていく。

 軽度の地震並の揺れが俺をよろめかせた。

 が、敵は何事もなかったかのように前進してくる。しかも瞬間的に。

「ちっ!」

 またもや目の前の景色すべてが盾に覆われ、その影が俺に被さってくる。

 これを避けること自体は簡単だ。だが、避けてばかりってのも癪だ。

 俺はあえてその盾を受け止めることにする。

「鬼切、行くぜ!」

 俺は全身全霊で鬼切を構え、そして突きを繰り出した。

 巨大な盾の完全な中心点を、ただ的確に突く。

 はたして、鬼切の切っ先が盾のど真ん中を直撃し、次には衝撃波が巻き起こる。盾は大きく跳ね、得物を握ったままの敵は盾と一緒に翻弄されることになる。

 後ろに大きくのけぞった敵は、しかし凄まじい豪腕の持ち主だった。

 奴は冷静沈着にも片手に握っていた棍棒を地面に打ち付けることで強引に衝撃を相殺するとともに足を動かして体勢を立て直し暴れようとする盾を制御する。次には敵は再び盾を正面に構え直しやがる。

「へえ。なかなか、やるじゃねえか」

 言いつつ、俺はムラマサ・グリップのトリガーボタンを一度、押した。瞬時に鬼切の刃が金色から銀色に錆び付いたが、敵はいま盾を制御したばかりで隙を晒している格好になっている。その間にチャージアップが終わればいい。

「英治! あの盾を避けずに、正面から迎え撃つなんて……お前なかなか、いい腕じゃねえか。もっと喧嘩弱えと思ってたぜ。見直した!」


 タケトの野郎が意味不明にも俺を褒め称え、そしてその気持ちの悪い声に連動して敵も動きを変える。

 敵はなんと構え直したばかりの盾を容易く手放すと、棍棒を構えつつ地面を蹴り込んできた。

 まさにロケットスタート。敵は俺の目の前にいる。

「金色から銀色になったってことは、弱くなったんじゃねえか? なあ!」

 タケトの野郎がこっちの事情を見透かしたようなことを言ってくるが、しかし図星なんだから仕方ない。

「うるせえな!」

 俺は叫び返すとともにグリップを強く握り込み、銀の刃をちらと見た。頼むから、もってくれよ!

 ズン、と敵の盾が地面に倒れる轟音が遅れて響くが、その時には棍棒が俺の視界に侵入している。

 敵の動きは速いが、しかしそれ自体どうということはない。

 脳接続によって俺の脳は圧倒的に能力が拡張されている。大幅に高められた反射神経と動体視力によって、いまの俺はピストルから射出された弾丸さえこの目で捉えて避けることが可能だ。

 問題となるのはむしろ、あの棍棒の威力か。

 やってみなければわからない。

 そして次の瞬間、俺は振り下ろされる棍棒に銀の刃を思い切りブチ当てた。

 が、俺は吹き飛ばされていた。

「くっ!」

「お前のこと、分かるよ英治。わかる、わかった!」

 タケトの野郎はそして奇声に近い喜びの台詞をその口から吐き出した。

「喧嘩して、殴り合って、やっと分かるもんだ。やっぱふっかけてみるもんだな!」

 タケトの喜びは最高潮に達している。

 俺は吹き飛ばされた姿勢を空中で一回転することで整え、両足を地面につけた。

 瞬間、慣性と重力の衝撃が俺の両足を貫いたが、しかしそんなことはどうでもいい。

 

 俺の目の前で、敵がまたその姿を変えていたのだ。

 いや、敵にとっては本来の姿を取り戻している、といった方が正しいんだろう。

 あいまいな光の人型にすぎなかった敵の体には、いまや細部の輪郭がはっきりと浮かび上がっている。

 盛り上がる筋肉を示す青い線が全身に刻まれ、胸に装着されていた青い光の胸当ては消滅。代わりに額から青い金属光沢を放つ一本角が生えてくる。

 まさにそれは『鬼』。

 奴は半融合態フェイズ3へと進化を遂げたというわけだ。


「お前、弱い。倒す、お前を!」

 仮想生命体――コード:オーガは着地したばかりの俺に、また近づいてくる。

 だが、その時には鬼切の色は銀から赤に変わっていた。

「逆だよ。お前は俺に、倒される!」

 俺は言い放つと、赤色(デリート・カラー)に遷移した鬼切を思い切り振り下ろした。

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