㉔幻覚少女のまほろばはいずこに~その七
2018年に宇宙船のワープ時に意識を失った難病患者で永遠の39歳、結城内乃介。
彼が目覚めた時には難病を克服し、健常者になっていた。
しかし、時は2038年。20年も未来へ行ってしまっていたのだ。
そばには幻覚少女ホリーとの間に生まれた娘アニーモがいた。
だが、ホリーの行方は分からない。
宇宙船への援助をしていた内乃介の父親も既に他界して、ホリーの存在を知る手掛かりさえなかなか見つからない。
そんな折、主治医のドクター丘乃が自ら不死人間であることを内乃介に告白するのだった。
そして、ドクター丘乃こと丘乃柊音がホリーに関する手掛かりを掴んでいるのではないかと推測する内乃介。
だが、内乃介はドクター丘乃の奢りで飲んだ1億円以上もする超高級赤ワインに酔っ払ってしまい、翌日にドクター丘乃から話しを聞き出そうと大豪邸の自宅に招くのが精いっぱいだった…。
㉔幻覚少女のまほろばはいずこに~その七
【午後一時~、無限国六麓荘の自宅から明神谷病院へ】
「アナタ、アナタ!!!」
キミは身悶えている。
抱きしめ合うことで……。
時間も空間も取り戻せない過去がそこにはあるけれど。
ボクとキミ、結城内乃介と神丹冬青は、こうして満たされぬ過去の溝を埋めているのかもしれない。
お互いが、お互いを求め、そして今こうして愛欲に満たされているのかもしれない。
それがどういうことなのか、はっきりは分からない。
漠然とだが、キミがホリーだと言うことがなんとなく分かった気がする。
時空を超えて、ホリーがキミに憑依しているのかは分からないが、ホリーを体現しているキミに出会えてよかった。感謝している。
キミの言葉が真実ならば……。
まあ、その答えは不死人間であるドクター丘乃に聞けば、分かるだろう。
☆ ☆ ☆
「今から行くところがあるんだ。ついて来てくれるか?」
ボクはそう言いながら彼女の返事を待たずに彼女の手を強引に引っ張って、寝室のドアをバタンと開け、走ってガラス状の透明な階段を降りていった。
一階のフロアには、娘のアニーモやメイドたちが「何があったのだろうか?」と言う心配そうというよりか好奇心旺盛な目線でボクらを凝視しているようだった。
それは、まるで「火事だ! 火事だ! 燃えているぞ~!!!」とはしゃぎまくる火事場の見物人のようでさえあったのだ。
娘のアニーモだけが心配してくれていたのだろうか?
「お父さん! お父さん!!! 大丈夫!?」
という泣き叫ぶような荒々しい声が背後から聞こえてきたが、ボクはそれどころではなかった。
ボクは無我夢中で冬青を連れて行く事だけしか頭にはなく、気づいた時には古き愛車である赤いランボルギーニ・カウンタックに乗って無銭市にある明神谷病院へと向かっていた。
彼女は依然として何も語らない。
ひと言も語ろうともしない。
もしかすると、語ることを恐れているのかもしれない。
恐らく、そうなんだろう。
ボクと彼女の間には、見えない壁があった。
その壁を壊すほど、お互い、強くはない。
その壁とは、彼女には『まほろば』という住みやすい素晴らしい場所が既に存在していることだ。
そのまほろばが、よりによってボクの家にあるのだから。
ですから、わざわざその壁を壊す必然性がどこにあるって言うのだろうか?
そんなものはないのだろう。
彼女がいま幸せで、その安住たるまほろばが現にボクの家にあるのなら、それをぶち壊す必然性はないと考えた方が妥当だと考えるのが当然なのかもしれない。
そうなると、ボクと彼女はこのままの状態で平静を装うしかないってことなのだろうか?
ちょっと待てよ。
それっておかしいでしょ。
それってあまりにも馬鹿げていないだろうか。
ボクは車を運転している長い沈黙の間、頭の中でずっと自問自答し続けていた。
☆ ☆ ☆
自宅から出発して約四十五分後に目的地である明神谷病院へ到着。
ボクの胸の鼓動が激しく高鳴ってくる。
ドクンドクンドクッドクッ……。
ボクは、彼女を車から引きずり下ろし、両手で彼女の身体を包み込むようにして抱き上げた。
周りではスマホでボクらを写真や動画で撮ってやろうとする者もいたが、ボクはそんな事は何も気にも留めなかった。
好きなようにさせればいい。
他人事でムダに時間を労している人たちこそ憐れむべき存在であると、ボクは考える。
☆ ☆ ☆
「やめて、やめて。どうしてこんなことをするのよ!」
彼女は顔を紅潮させながら恥ずかしそうにボクに向かって怒りの声を上げた。
「ボクにも分からない。分かっていることは、ボクが常軌を逸していることだけだ。それは、何なのか? もう直きに分かる。それまで辛抱していてくれ」
彼女は観念したのか、ボクへの配慮なのか、
「分かったわ。もう大丈夫だから」
と言って、ボクの身体を引き離して自分の足で病院の中へとゆっくりと歩き出した……。
◎登場人物
ボク…結城内乃介。無限国六麓荘出身。永遠の39歳。難病患者。車椅子生活。無限国対馬出身の母を21歳の時に亡くし、ヤバーンスキー国出身のサイヤー人である資産家の父はその2年後に愛人と再婚。内乃介は父に1億円の小切手で縁を切られる。豪邸に住む。
ホリー…結城内乃介が飲んでいたクスリの副作用によって生み出された幻覚少女。推定年齢18歳。東洋哲学・脳神経細胞・心理学に造詣が深い。ホリーの名の由来は、映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘプバーンが演じた役名から来ている。2018年のキャラは貧しい舞台女優の卵であり、内乃介宅のメイド。これは内乃介が手がけたアニメ『お願い、ご主人様』から来ている。ナメクジが大の苦手。一方、宇宙船では船長を勤める。大好物はイチゴ大福。
アニーモ…結城内乃介とホリーの愛の結晶。絶対音感の持ち主で、ミュージカルスターに憧れる少女。明るさだけが取り柄。勉強は苦手。幼少時の記憶がない。母親の記憶もない。天真爛漫高校に通う。16歳。
ドクター丘乃…難病に関して一目置かれているフリーランサーのドクター。結城内乃介の主治医でもある。額に斑紋を持っているが、普通は髪の毛で覆い隠している。化石のコレクター。自称48歳。
神丹冬青…内乃介の家のメイド。高麗国平城県出身。親や姉弟がいない。気づいた時には内乃介の家にいた。
スレーニヤヤ・バボーシャ…内乃介の父親の代から数えて40年以上もこの大邸宅に仕えるベテランのメイド。癇癪持ち。その鬱憤を一番下っ端のメイドに晴らすのが生き甲斐。
クラシーバヤ・ウートカ…一番下っ端のメイド。いつもバボーシャにいじめられているが、へこたれない。18歳。メイドの仕事をしながら2037年に無限高校介護福祉科を卒業した。頑張り屋さん。




