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難病という名の長いトンネル〜幻覚少女のまほろばへ  作者: 今来村主(いまきのすぐり)
難病という名の長いトンネル〜幻覚少女のまほろばを追いかけて
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㉓幻覚少女のまほろばはいずこに~その六

2018年に宇宙船のワープ時に意識を失った難病患者で永遠の39歳、結城内乃介ゆうきないのすけ

彼が目覚めた時には難病を克服し、健常者になっていた。

しかし、時は2038年。20年も未来へ行ってしまっていたのだ。

そばには幻覚少女ホリーとの間に生まれた娘アニーモがいた。

だが、ホリーの行方は分からない。

宇宙船への援助をしていた内乃介の父親も既に他界して、ホリーの存在を知る手掛かりさえなかなか見つからない。

そんな折、主治医のドクター丘乃おかのが自ら不死人間であることを内乃介に告白するのだった。

そして、ドクター丘乃こと丘乃柊音おかのしおんがホリーに関する手掛かりを掴んでいるのではないかと推測する内乃介。

だが、内乃介はドクター丘乃の奢りで飲んだ1億円以上もする超高級赤ワインに酔っ払ってしまい、翌日にドクター丘乃から話しを聞き出そうと大豪邸の自宅に招くのが精いっぱいだった…。

㉓幻覚少女のまほろばはいずこに~その六


【朝十一時~、無限国(∞むげんこく)六麓荘(ろくろくそう)の自宅にて】


 寝室に戻ってフリーランサーのドクター丘乃(おかの)がこの日、勤務しているはずの明神谷(みょうじんだに)病院へ行こうかとも思ったのだが、思っただけで、結局は行かずじまい。

 ボクは満腹感に浸りながら、ベッドの上で静かに横たわって休息(デスカンソ)を取ることにしたのだ。

 今朝、ドミナードン国製のアンティークな木製の本棚からベッドの上に無造作に置いた堅苦しい『()思えば、故に我なし』で有名なフィロゾフの哲学書は閉じられたままで、既に四時間近くも放置状態にあった。

 この哲学書の装丁が飛び出す絵本的要素があり少し気になって、読破したかったのだが、部屋に戻って来てからは睡魔には勝てずに、ウトウトウトウトコックン。

 それからどれくらい時間が経ってしまったのだろうか?

 気付いた時には、

 コンコンコン

 寝室のドアを軽くノックする音が三回ほどしたのだった。

 「ご主人様、ご主人様、いらっしゃいますでしょうか?」

 その繊細なか細い女性の声には聞き覚えがあった。

 「あっ、そうだ。あのメイド……名前が確か神丹冬青(カムタン・ナムソク)だっけ。そうだ。間違いない」

 ボクは眠気まなこの状態ではあったが、脳は冴えていた。

 すぐさま、「はい、冬青(ナムソク)なのか?」とベッドの上から部屋のドアまで聞こえるくらいの声を出す事が出来たようで、直ぐに返事が戻って来たのだった。

 「ご主人様、左様でございます。私が冬青でございます。ご主人様、ご気分はいかがでしょうか?」

 「ボクは大丈夫だ。それより、冬青、先程の話の続きを聞かせてくれないか?」

 「ご主人様、私もその話の続きをさせて頂きたく、こちらに伺ったのでございます」

 「ちょうどよかった。じゃあ、部屋に入りなさい」

 ボクはどうしてなのか分からないが、この時、心拍数が上がったような気がした。

 ドキドキッドキドキッドキドキドキドキ………。

 冬青は部屋へ入って来て、十二畳もある広々とした寝室を何か物珍しげな感じで目をパチクリさせながら眺め回している。

 「これ、ティラノサウルスね。ちょっと触ってよろしいでしょうか?」

 彼女はボクとの話をすっかり忘れたかのように高さがボクの身長ほどある恐竜のレプリカに興味を持ったようだった。

 「あー、いいよ。冬青は恐竜好きなのか?」

 「ハイ! 恐竜はもうこの世には存在しないけれど、こうして中生代という過去に存在していたことを実感できるじゃないの。死から生まれる『生』って感じかなあ」

 そして、冬青はティラノサウルスをぎゅっと抱きしめたのだ。

 まるで愛する人を抱きしめるように。

 その光景を見ていると、何故か懐かしさを感じた。

 どうしてなのだろうか?

 そして、この前は儚げに見えた冬青が今は別人のように光り輝いて見えてくるのだ。

 気のせいなのだろうか?

 ボクはどうしても気になっていたので冬青に尋ねた。

 「どんな気持ち?」

 「う~ん、安らぎを感じるっていうの。()()()を思い出すの」

 「……」

     ☆    ☆     ☆

 アナタを思い出すってどういうこと!?

 アナタってボクのことでしょ。

 冬青には全く見覚えがないんだけどなあ。

 冬青って一体、何者なんだろう!?

 様々な思いがボクの脳裏を駆け巡っていく。

 毅然とした態度を取ろうとしたが、無理だ。

 ボクは冬青の言葉に動揺を隠し切れなかった。

 ベッドに放置されていたフィロゾフの哲学書が目に入り、コレだ思った。

 この書物を読むふりが出来るではありませんか?

 早速、この哲学書を手に取ったまではよかったのだが、あろうことかページをめくるたびに紙でできた人間の両手やプラスチックでできた人間の目玉などいろんなものが飛び出て来たのだった。

 「……」

 コレには、もうビックリ。冷や汗モノ。

 冬青は笑いをこらえるのに必死の形相だったようだ。

 ボクはすぐさまその哲学書をベッドの元の位置に戻して、何もなかったかのように振る舞ったが、もう手遅れ。

 冬青は、ただただ笑っているように、ボクには見えた。

 過ぎ去ったことだ。悔やんでも仕方があるまい。

 しばらくして落ち着きを取り戻したボクは、冬青に尋ねることにした。

 「冬青、少し前だけど『アナタを思い出す』って言っていたよね。それってどういう意味?」

 「そうよ、言ったとおりよ。アナタは覚えていないの?」

 逆に、冬青に訊き返されてしまった。

 「悪いけど、全くキミの顔には見覚えがないんだ」

 「そ、そうなの。おかしい。それってありえない。ねえ、何かの間違いじゃないの。じゃあ、私は何なの? 私の存在理由は?」

 今まで穏やかだったはずの冬青がどうしたことか激昂したのだ。

 「……」

 ボクはおっかなびっくりで何も語ることも出来ず、ベッドの端に腰掛けながらその様子を見ているしかなかった。

 すると、冬青はティラノサウルスのレプリカをドアの方へと勢いよく放り投げたと思ったら、今度はボクの方に向かって突っ走って来て、ボクの隣に腰掛けたのだ。

 冬青は儚げな表情をボクに見せて、

 「私を忘れないで……」

 と囁いて、泣きながらボクを抱きしめたのだった。

 その刹那、ボクは感じてしまう……。



◎登場人物

ボク…結城内乃介ゆうきないのすけ無限国六麓荘むげんこくろくろくそう出身。永遠の39歳。難病患者。車椅子生活。無限国対馬つしま出身の母を21歳の時に亡くし、ヤバーンスキー国出身のサイヤー人である資産家の父はその2年後に愛人と再婚。内乃介は父に1億円の小切手で縁を切られる。豪邸に住む。

ホリー…結城内乃介が飲んでいたクスリの副作用によって生み出された幻覚少女。推定年齢18歳。東洋哲学・脳神経細胞・心理学に造詣が深い。ホリーの名の由来は、映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘプバーンが演じた役名から来ている。2018年のキャラは貧しい舞台女優の卵であり、内乃介宅のメイド。これは内乃介が手がけたアニメ『お願い、ご主人様』から来ている。ナメクジが大の苦手。一方、宇宙船では船長を勤める。大好物はイチゴ大福。

アニーモ…結城内乃介とホリーの愛の結晶。絶対音感の持ち主で、ミュージカルスターに憧れる少女。明るさだけが取り柄。勉強は苦手。幼少時の記憶がない。母親の記憶もない。天真爛漫高校に通う。16歳。

ドクター丘乃おかの…難病に関して一目置かれているフリーランサーのドクター。結城内乃介の主治医でもある。額に斑紋を持っているが、普通は髪の毛で覆い隠している。化石のコレクター。自称48歳。

神丹冬青カムタン・ナムソク…内乃介の家のメイド。高麗国(こまのくに)平城(なら)県出身。親や姉弟がいない。気づいた時には内乃介の家にいた。

スレーニヤヤ・バボーシャ…内乃介の父親の代から数えて40年以上もこの大邸宅に仕えるベテランのメイド。癇癪持ち。その鬱憤を一番下っ端のメイドに晴らすのが生き甲斐。

クラシーバヤ・ウートカ…一番下っ端のメイド。いつもバボーシャにいじめられているが、へこたれない。18歳。メイドの仕事をしながら2037年に無限高校介護福祉科を卒業した。頑張り屋さん。

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