㉒幻覚少女のまほろばはいずこに~その五
2018年に宇宙船のワープ時に意識を失った難病患者で永遠の39歳、結城内乃介。
彼が目覚めた時には難病を克服し、健常者になっていた。
しかし、時は2038年。20年も未来へ行ってしまっていたのだ。
そばには幻覚少女ホリーとの間に生まれた娘アニーモがいた。
だが、ホリーの行方は分からない。
宇宙船への援助をしていた内乃介の父親も既に他界して、ホリーの存在を知る手掛かりさえなかなか見つからない。
そんな折、主治医のドクター丘乃が自ら不死人間であることを内乃介に告白するのだった。
そして、ドクター丘乃こと丘乃柊音がホリーに関する手掛かりを掴んでいるのではないかと推測する内乃介。
だが、内乃介はドクター丘乃の奢りで飲んだ1億円以上もする超高級赤ワインに酔っ払ってしまい、翌日にドクター丘乃から話しを聞き出そうと大豪邸の自宅に招くのが精いっぱいだった…。
㉒幻覚少女のまほろばはいずこに~その五
【朝九時~、無限国六麓荘にある自宅にて】
♪キンコンカンコン~キンコンカンコン~
ドミナードン国の象徴的存在であった由緒ある鐘の音が鳴り響いている。
これは、父親が二〇一八年、財政難に陥りましたドミナードン国のエリザベート女王様より購入したというビッグジョンの鐘の音なのだ。
ボクはこのことは鮮明に覚えていた。
ちょうどベッドの上にずっと寝た切りのアキネジア(無動)状態の頃だったから……。
このニュースは、その日、全世界のマスメディアがトップ扱いで報じた。
父親は威風堂々として「わがサイヤー人はドミナードン国の王室に勝ったのだ。お前も誇り高きサイヤー人のマインドを忘るでないぞ」とこのボクに熱く語っていたのを今でも思い出す。
この父親の意に反して、金満人に根刮ぎ乗っ取られた世界中のマスメディアは、こぞって心ない事を書き立てた。
「ドミナードン病の再来を隠してきた王室を廃止に」
「金満国にも見捨てられて、結局サイヤ人ーに助けを求めたのか。恥を知らぬ王室」
「暗く沈んだ小さな孤島に明日はない」…………。
この時ほど、マスメディアを陳腐で低俗な大衆媒体だと思った事はなかった。
☆ ☆ ☆
ボクは、朝から娘のお陰でたらふく食べた。
「ごちそうさまでした。アニーモ、おいしかったよ」
アニーモは大はしゃぎで椅子から立ち上がり、
「お父さん、完食だね。完食、完食!!! スパシーバ! グラッツェ!」
娘は、大袈裟にも大きく両手を広げて拍手をしたのだ。
その光景を見ていたメイドたちも約一名を除いてパチパチパチパチパチパチパチパチ。
約一名とは言わずもがなベテランのあのお方、スレーニヤヤ・バボーシャだ。
面白くはなかったのだろう。
料理のできないアニーモに料理をさせる手伝いをドジでのろまなウートカにさせれば、まともな料理など短時間でできるはずがないと悪知恵を働かせたバボーシャ。
これで、ウートカを思う存分叱責できる、ウッシッシーと思った浅はかなバボーシャの心は天もきっとお見通しだったのだろう。
ボクは美味しそうにアニーモが作った料理を食べるわ、食べる。ついぞや平らげてしまったのだ。
このボクの姿を苦虫を噛み潰したような険しい顔で見ていたバボーシャ。
千載一遇の機会を逃してしまったバボーシャは、知らぬ間に居間からいなくなっていたのだった。
ウートカはバボーシャがいなくなったことを知ってホッとすると共に嬉しい気持ちでいっぱいだったようだ。
ウートカはアニーモと飛び上がって抱き合っているではないか。
いつものバボーシャの叱責を受けなくて済むのだから当前といえば当然のこと。
☆ ☆ ☆
満腹中枢がイカれそうなくらいに朝から夕食並みに食べてしまい、何もしたくなくなっていたボク。
この時、すっかり神丹冬青というメイドの存在を忘れていたのだった。
◎登場人物
ボク…結城内乃介。無限国六麓荘出身。永遠の39歳。難病患者。車椅子生活。無限国対馬出身の母を21歳の時に亡くし、ヤバーンスキー国出身のサイヤー人である資産家の父はその2年後に愛人と再婚。内乃介は父に1億円の小切手で縁を切られる。豪邸に住む。
ホリー…結城内乃介が飲んでいたクスリの副作用によって生み出された幻覚少女。推定年齢18歳。東洋哲学・脳神経細胞・心理学に造詣が深い。ホリーの名の由来は、映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘプバーンが演じた役名から来ている。2018年のキャラは貧しい舞台女優の卵であり、内乃介宅のメイド。これは内乃介が手がけたアニメ『お願い、ご主人様』から来ている。ナメクジが大の苦手。一方、宇宙船では船長を勤める。大好物はイチゴ大福。
アニーモ…結城内乃介とホリーの愛の結晶。絶対音感の持ち主で、ミュージカルスターに憧れる少女。明るさだけが取り柄。勉強は苦手。幼少時の記憶がない。母親の記憶もない。天真爛漫高校に通う。16歳。
ドクター丘乃…難病に関して一目置かれているフリーランサーのドクター。結城内乃介の主治医でもある。額に斑紋を持っているが、普通は髪の毛で覆い隠している。化石のコレクター。自称48歳。
神丹冬青…内乃介の家のメイド。高麗国平城県出身。親や姉弟がいない。気づいた時には内乃介の家にいた。
スレーニヤヤ・バボーシャ…内乃介の父親の代から数えて40年以上もこの大邸宅に仕えるベテランのメイド。癇癪持ち。その鬱憤を一番下っ端のメイドに晴らすのが生き甲斐。
クラシーバヤ・ウートカ…一番下っ端のメイド。いつもバボーシャにいじめられているが、へこたれない。18歳。メイドの仕事をしながら2037年に無限高校介護福祉科を卒業した。頑張り屋さん。




