⑳幻覚少女のまほろばはいずこに~その三
2018年に宇宙船のワープ時に意識を失った難病患者で永遠の39歳、結城内乃介。
彼が目覚めた時には難病を克服し、健常者になっていた。
しかし、時は2038年。20年も未来へ行ってしまっていたのだ。
そばには幻覚少女ホリーとの間に生まれた娘アニーモがいた。
だが、ホリーの行方は分からない。
宇宙船への援助をしていた内乃介の父親も既に他界して、ホリーの存在を知る手掛かりさえなかなか見つからない。
そんな折、主治医のドクター丘乃が自ら不死人間であることを内乃介に告白するのだった。
そして、ドクター丘乃こと丘乃柊音がホリーに関する手掛かりを掴んでいるのではないかと推測する内乃介。
だが、内乃介はドクター丘乃の奢りで飲んだ1億円以上もする超高級赤ワインに酔っ払ってしまい、翌日にドクター丘乃から話しを聞き出そうと大豪邸の自宅に招くのが精いっぱいだった…。
⑳幻覚少女のまほろばはいずこに~その三
【朝七時三十分~、無限国六麓荘にある自宅にて】
コンコンコン。
ボクがいる寝室のドアをさり気なく三回ノックしてから、
「ご主人様、お食事の用意が出来上がりました。 どうぞ、一階のリビングルームまでお越し下さいませ。メイド一同、ご主人様のお越しをお待ちしております」
という透き通るような若々しい女性の声が聞こえてきた。
このボクがご主人様だって。笑わせるなよ。
ボクをご主人様って呼んだのは一体、誰だ?
一番下のクラシーバヤ・ウートカなのか?
いや、そうじゃないなあ。
もしかして、ベテランのあのスレニーヤヤ・バボーシャなのか?
そうだったとしたら、ある意味、化け物より恐ろしいや。
エゴエゴアザラシ。
ジコジコゲンジボタル。
何かをきっと企んでいるのに違いあるまい。
あー、恐ろしや。
寿限無、寿限無、ゴボウの擦り切れ。
とオモシロ半分にダジャレ念仏などを唱えて、
ボクはベッドからムクムクと起き上がったのだった。
陽射しがちょうど身体中に突き刺さるように差し込んで気分爽快。
こんな気分を味わったのは、どれくらいぶりだろうか?
それまでは、毎日が閉ざされた暗くて長いトンネルの中にいたんだと思うと不思議な気がする。
もう、そんなことさえ忘れてしまうくらい陽射しは煌々として眩しいのだ。
ただ、ホリーという名の一点を除いて………。
☆ ☆ ☆
ボクは、これまでの不遇だった三十余年分を取り戻すかのような走りっぷりで一気に階段を駆け下りて一階のリビングルームへと向かった。
その階段を下り切ったところで、メイドの一人に遭遇!!!
そのメイドは、そこはかとなく儚げで今にも散りゆく桜の花のように俯いていたのだ。
彼女に一体、何があったというのだろうか?
いずれにせよ、これは放ってはおけないだろう。
しかし、初対面で一体、何を言えば良いのだろうか?
ホリー、教えてくれないか?
ホリー! 君だけが頼りなんだ。
次のほんの一瞬、ホリーの声が聞こえてきたような気がした。
「声をかければ、分かるわ」
彼女に声をかければ分かるんだね。
☆ ☆ ☆
「あっ、もしかして、先ほどボクの寝室の前でボクを呼んでくれた人ですか?」
「ご主人様、左様でございます。恐縮でございますが、少し伺いたいことがございます。失礼とは存じますが、のちほど、ご主人様のお部屋にお伺いしてもよろしいでしょうか?」
初対面なのに、これほどまでの大胆不敵さ。あまりにも目に余る行為。
許すべきか? 許さざるべきか?
ただ、ホリーの言葉が引っかかる。
「声をかければ、分かるわ」
名前さえ知らない女性とボクの間に何があるっていうのだろうか!?
◎登場人物
ボク…結城内乃介。無限国六麓荘出身。永遠の39歳。難病患者。車椅子生活。無限国対馬出身の母を21歳の時に亡くし、ヤバーンスキー国出身のサイヤー人である資産家の父はその2年後に愛人と再婚。内乃介は父に1億円の小切手で縁を切られる。豪邸に住む。
ホリー…結城内乃介が飲んでいたクスリの副作用によって生み出された幻覚少女。推定年齢18歳。東洋哲学・脳神経細胞・心理学に造詣が深い。ホリーの名の由来は、映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘプバーンが演じた役名から来ている。2018年のキャラは貧しい舞台女優の卵であり、内乃介宅のメイド。これは内乃介が手がけたアニメ『お願い、ご主人様』から来ている。ナメクジが大の苦手。一方、宇宙船では船長を勤める。大好物はイチゴ大福。
アニーモ…結城内乃介とホリーの愛の結晶。絶対音感の持ち主で、ミュージカルスターに憧れる少女。明るさだけが取り柄。勉強は苦手。幼少時の記憶がない。母親の記憶もない。天真爛漫高校に通う。16歳。
ドクター丘乃…難病に関して一目置かれているフリーランサーのドクター。結城内乃介の主治医でもある。額に斑紋を持っているが、普通は髪の毛で覆い隠している。化石のコレクター。自称48歳。
神丹冬青…内乃介の家のメイド。高麗国平城県出身。親や姉弟がいない。気づいた時には内乃介の家にいた。
スレーニヤヤ・バボーシャ…内乃介の父親の代から数えて40年以上もこの大邸宅に仕えるベテランのメイド。癇癪持ち。その鬱憤を一番下っ端のメイドに晴らすのが生き甲斐。
クラシーバヤ・ウートカ…一番下っ端のメイド。いつもバボーシャにいじめられているが、へこたれない。18歳。メイドの仕事をしながら2037年に無限高校介護福祉科を卒業した。頑張り屋さん。




