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難病という名の長いトンネル〜幻覚少女のまほろばへ  作者: 今来村主(いまきのすぐり)
難病という名の長いトンネル〜幻覚少女のまほろばを追いかけて
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②柿の木栗の木かきくけこ

29歳で生涯治らないとされる難病にかかり、無気力となった青年、結城内乃介ゆうきないのすけ

ある時、クスリの副作用で幻覚を見るようになった。その幻覚が彼を救うことになるとは? 

その幻覚というのは、知的で天真爛漫な舞台女優の卵だった。その女性の名前はホリー。

ホリーは彼を過去の自分の世界や異世界へと連れ出し、彼を幸せの絶頂へと導くのだった…。

②柿の木栗の木かきくけこ


 ボクの名前は、結城内之介(ゆうきないのすけ)

 ボクには家族はいない。もう二十年も前からだ。

 母親は十七年前に急性(きゅうせい)白血病(はっけつびょう)で、入院してから五日後にこの世を去った。

 喪主であるべき父親は、母親の葬式(そうしき)の途中でいなくなり、その後はボクが喪主の代行を務めた。

 ボクの記憶にある父親は、いつも身勝手(みがって)な人だった。母親が亡くなるかなり前から愛人がいて、母親が亡くなってから二年後には僕より七歳も若いその愛人と再婚(さいこん)した。

 その父親が再婚する少し前に、ボクは父親が住む無限国(むげんこく)精道村(せいどうむら)六麓荘(ろくろくそう)大邸宅(だいていたく)に呼び付けられた。

 父親はボクに向かって非情(ひじょう)にもこう言い放った。

 「二度とこの家の敷居(しきい)をまたぐな」

 これって、一体何なんだよ。ボクは内心、父親に腹を立てていたものの、何も言えなかった。

 ボクは愕然として全身の力が抜け、言葉が出なかったのだ。

 父親はボクの打ちひしがれた姿を見ようともせずに話を続けた。

 「これぐらいあれば、この先生きていけるだろ」と。

 そして、父親は1億円の小切手の入った白い封筒をテーブルに(たた)きつけて、すぐさま大広間から出て行ったのだ。

 それ以来、父親とは会っていない。

 正確には父親に会いに家へ行ったが、門前で使用人に追い払われて会うことができなかったのだ。

 父親はサイヤ人にありがちな冷徹(れいてつ)な資産家で、これまで幾度(いくど)となくカネであらゆることを解決してきた人だ。

 それに比べ、母親は離島の幸福県(しあわせけん)対馬(つしま)で生まれ育ったせいか人情味が厚くボクにとってはかけがえのない存在だった。

 だから、ボクは(おさな)(ころ)から母親の愛情を一身に受けていたが、父親とは遊んだ記憶もなく父親の愛情には全く恵まれていなかったといえる。

 そのことがはっきりと分かったのは、母親が亡くなってからだ。

 1億円の小切手、そして………。

 父方の祖父がそうであったように、ボクの父親も生物学上の存在にしか過ぎなかったのだ。ちなみに、父方の生みの祖父は、有名なお寺の僧侶(そうりょ)であったことと相手の女性が結婚していたことから、ボクの父親とは生涯疎遠だったという。

     ☆    ☆    ☆

 ボクの難病は、母親が亡くなってから7年後には発症(はっしょう)していた。

 しかし、このことは縁を切られたこともあって、父親には内緒にしていた。

 1億円の小切手で縁を切られた父親ではあるが、今はそんな父親に感謝している。

 難病で身体は不自由だけれど、贅沢(ぜいたく)な暮らしが送れているからだ。

 そして、ボクのすぐ隣にはキミがいる。

 今日も美しい声でボクを癒してくれる。

 「♪柿の木栗の木かきくけこ……」

 これもクスリの副作用のお陰だ。

 こうして、ボクにも新しい唯一無二(ゆいいつむに)の家族ができたのであった。

◎登場人物

ボク…結城内乃介ゆうきないのすけ。39歳。難病患者。車椅子生活。母を21歳の時に亡くし、資産家の父はその2年後に愛人と再婚。内乃介は父に1億円の小切手で縁を切られる。そのカネでひとり豪邸に住む。

ホリー…結城内乃介が服用するクスリの副作用によって生み出された幻覚少女。推定年齢18歳。東洋哲学・脳神経細胞・心理学に造詣が深い。ホリーの名の由来は、映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘプバーンが演じた役名から来ている。

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