⑬ついに、この時が…めざせパンドラの星~その三
29歳で生涯治らないとされる難病にかかり、無気力となった青年、結城内乃介。
ある時、クスリの副作用で幻覚を見るようになった。その幻覚が彼を救うことになるとは?
その幻覚というのは、知的で天真爛漫な舞台女優の卵だった。その女性の名前はホリー。
ホリーは彼を過去の自分の世界や異世界へと連れ出し、彼を幸せの絶頂へと導くのだった…。
⑬ついに、この時が…めざせパンドラの星~その三
【二〇一八年一月十五日、宇宙船『神聖卑弥呼』内にて】
ロケット発射後、地表から五百キロを超えて大気圏から宇宙空間へと出て、ロケットから早々に宇宙船『神聖卑弥呼』が切り離された。
まずまず順調なスタートといえよう。
だが、これからが大変なのだ。
何しろ人類史上初の試みである『ワープ航法』が待っているのだから……。
ホリー船長は、ボクのところにやって来て、
ボクの固まったアキネジア【無動】の身体を抱きしめようとする。
ボクは心で感じることができた。
神様の気まぐれなのだろうか?
ホリーのドキドキと高鳴る胸の鼓動を感じられるのだ。
なんて神秘的なんだ。
この時、ボクはホリーに言葉でありのままを伝えたんだ。
「ボクの心は、いまキミのすべてを感じている。あの時のように……。そして、いまボクはキミのすべてを身体中で受け止めたから大丈夫だ。さあ、このベッドにいるキミのミニチュアのような笑顔を見せてくれないか?」
ホリーはにこやかに、
「アナタ、ありがとう。必ず成功させるから。アナタとワタシとこれから生まれて来る『アニーモ』のためにも……」。アニーモとは、ホリーとボクとの愛の結晶である胎児の名前だ。エスペラント語で『魂』を意味する。
「ホリー、愛している!!!」
「ワタシも!!!!!」
そう言って、ホリーは元の場所へと戻って行った。
☆ ☆ ☆
ホリー船長は微笑みながら、こう言った。
「皆さん、ワープ始動まで残り三十分となりました。全身全霊でこの前代未聞のワープ航法に挑みましょう。その前にリラックスすることも大切よ。それで、谷垣隊員にはクルミのクッキーにレモンティーを、眠眠隊員にはチョコレートを、御宅隊員にはモカのブラックコーヒーを、野呂医師にはチョコパイを………それぞれご用意しましたので、ワープ始動十分前までごゆるりと。ワタシもハーブティー を飲みますので。それでは……。神のご加護を。アーメン」
この間、船内では、 カフェにでもいるかのようにジャズとボサノヴァのインストが流れ、気持ちを落ち着かせるのに一役買っていた。
☆ ☆ ☆
ホリー船長が時計を見つめ、スクっと席から立ち上がり、右手を頭上に勢いよく伸ばして、
「皆さん、いよいよ待ちに待った時間です。ワープ始動まで残り十分です。さあ、皆さん、準備に入って下さい」
と言った瞬間に、
ブーブー、ブーブーブーブーというエンジンの警告音のようなものが鳴った。
エンジン担当の御宅杉尾が顔から今にも湯気を出しそうなくらい真っ赤になって慌てふためいている。
「ア、ア、アッ、大変です! エンジンのターボに異常が検出されました。ホリー船長、どういたしましょうか?」
◎登場人物
ボク…結城内乃介。39歳。難病患者。車椅子生活。母を21歳の時に亡くし、資産家の父はその2年後に愛人と再婚。内乃介は父から1億円の小切手を渡されて縁を切られる。ひとり豪邸に住む。
ホリー…結城内乃介のクスリの副作用で生み出された幻覚少女。推定年齢18歳。東洋哲学・脳神経細胞・心理学に造詣が深い。ホリーの名の由来は、映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘプバーンが演じた役名から来ている。2018年では宇宙船の船長。
谷垣さん…結城内乃介が幼いころから住んでいた大邸宅の執事。内乃介が難病であることを知って、彼を助けるためにM78星雲のパンドラ星へ行くことに。68歳。
有奈眠眠…ナイスバディな25歳。実のところは取り外しが自由な胸で男心を惑わせるのが快感になっていた。ということもあってなのか、子どもは4人いるが、家にダンナはいない。宇宙船の隊員。
御宅杉雄…IQ200のゲームオタク。幼少時から宇宙人がいることを信じ、NASAに入ろうと面接を受けるが、AI(人工知能)の面接官に履いている靴について質問攻めにあったため、逆ギレして面接官を罵倒してしまい一旦は不採用に。身長157センチ。外出時には必ずシークレットシューズを履く。29歳。宇宙船の隊員(エンジン部門担当)。




