⑪ついに、この時が…めざせパンドラの星~その一
29歳で生涯治らないとされる難病にかかり、無気力となった青年、結城内乃介。
ある時、クスリの副作用で幻覚を見るようになった。その幻覚が彼を救うことになるとは?
その幻覚というのは、知的で天真爛漫な舞台女優の卵だった。その女性の名前はホリー。
ホリーは彼を過去の自分の世界や異世界へと連れ出し、彼を幸せの絶頂へと導くのだった…。
⑪ついに、この時が…めざせパンドラの星~その一
不思議そうな顔をして、この宇宙船を眺めながらボロカスに言う隊員たち。
「おい。この宇宙船、誤発注かよ。ダメじゃん」
「参ったな。これはどこの宇宙船なんだ???」
「あっ! 谷ジイ、いいところに来られました。この宇宙船はどう見てもヤバンスキーズじゃないですよね。何かの手違いですかね」
御年六十八歳の谷ジイこと谷垣さんは、周囲を飛ぶカラスさえビックリするくらいの大きな声を出して笑い出した。
「ガハハハァー、ガハハハァー。キミたちは、この宇宙船を知らんのか? ガハハハァー。参ったヤツらだな」
そこへ現れたのは少し寝不足気味なのかあまり元気のないホリーだった。
「皆んな、ごめん。本当は前もって言うべきだったんだろうけれど、予定していた『ヤバンスキーズ』が予想以上に欠陥だらけで、どうしようもなかったの。それに昨日の件もあったから……。本当にすみませんでした」と言って、頭を深々と下げていたようだ(このことは後日、谷ジイから聞いた。少し切なくてやりきれなかった)。
隊員のひとりである有奈眠眠は朝から栄養ドリンクかスッポンのスープでも飲んでいるのか、
「ホリー船長、この宇宙船はレンタルなのでしょうか?」
と的外れでとんちんかんな質問をしたものだから、
谷ジイの目はテンになり、「……眠眠、お前、まだ寝惚けているのか? レンタルって、眠眠のその取り外し自由なオッパイのことだろ」といつもの生真面目なキャラはどこへ行ってしまったのか、眠眠のお尻をムギュッ、ムギュッとニ回も揉んじゃったから、さ〜大変。
「谷ジイのド変態。ニ回も触っちゃ、ダメ、ダメ! あたいは、ちゃんと給料が貰えるのか心配になっただけよ。あたい、こう見えてお子ちゃまが四人もいるんですからね」。谷ジイのパワハラにセクハラ。顔はいつもの様に笑ってはいるものの、コレにはかなり腹を立てた様子の眠眠。
「そうか。眠眠は子だくさんなのか? それは知らんかった。すまなかった。これ、孫にやろうと思っていた流行りのゲームソフト『ハムソーセージ』とかいうヤツあげるわ。勘弁な」
「ウフフッ。マジ、貰いましたからね。もう返品は、できまへんよ(笑)。早く家、帰りたいわ」
眠眠は、欲しかったゲームソフトが谷ジイからあっさり貰えたとあって天にも昇る勢いだった。
そこに現れたのは、IQが二百もあるゲーム通の御宅杉雄。
「これって幻の宇宙船『卑弥呼』じゃないですか? ウワサで製造しているとは聞いていたんですが…。まさか……。しかし、どうしてここにあるんですか?」
そこで再び、ホリーの登場。
「さすがは杉君ね。宇宙船『卑弥呼』は五百年以上も前に造られた世界初の宇宙船だったんだけれど……。よりによって当時は戦国時代。群雄割拠の世の中で、無限国がてんでバラバラになっていて、各地で対立しあっていたのよ。それで、背水の陣の武将たちがどういうわけか、宇宙船とともにその姿を晦ましてしまったのよね。この新製卑弥呼は、その名も『神聖卑弥呼』としてワタシたちが、そうなのよ、初陣を飾るのよ」
それを聞いた御宅は感激のあまり谷ジイにまず握手を求め、
「谷ジイ、コレはスゲえですよ。ハートがアツくなってきました。谷ジイ~~」
と雄叫びながら、谷ジイと長々と抱き合っている。
ボクは首から下が麻痺して微塵も動作しない無動の状態でベッドに載せられたまま、神聖卑弥呼に移動する。
その途上で、あろうことか朝っぱらからこの二人のグロい抱擁シーンを見てしまったところだった。
「谷ジイ、お前ら、そんな関係だったのか? ふむふむ。谷ジイはバイセクだったのか? ボクはヒトの趣味嗜好にアレコレ詮索するつもりは毛頭ないが、公の場所では慎んでいただけると有り難い」
谷ジイは大慌てでボクのベッドの横にまで走って来て、
「お坊ちゃん、何かの勘違いでございます。杉様がお喜びになって私に抱き付いただけでございます。私が杉様と…滅相もございません」
「そんな個人的なことはどうでもいい……。それより、アイツは……?」
その刹那、ホリーがボクの方へと駆け寄って来る跫がした。
コッコッコッコッ!
「アナタ、昨日はごめんネ」
「いや、いいんだ。ボクの方がカッとなって悪かった。すまない。いよいよ出発だな。実はキミと初めて出会った日でもあるんだ。一月十五日……。そして、黄色いパンジー……」
「そうだったの? ところで、黄色いパンジーって、何となく記憶にあるんだけど…。一月十五日とどういう関係があるの?」
「いや、別に関係はない。黄色いパンジーって、キミにどことなく似ているなと思って……」
「そうなの~。ワタシってパンジーなんだ。少し残念。バラとか、白ユリとかじゃなくって」
「残念かあ。それなりの理由があるんだけれどな。その理由はさておき、時間だ。そろそろ行こうか?」
「そうね。その理由、少し気になるけれど……」
☆ ☆ ☆
二〇三〇年一月十五日にボクらは出会った。
この時、キミはまだボクの幻覚にすぎなかった………。
ボクは、つつましい幸せを願った。
そして、この日、家の庭にあるプランターに開花したばかりの黄色いパンジーを数輪植えたのだった…。
◎登場人物
ボク…結城内乃介。39歳。難病患者。車椅子生活。母を21歳の時に亡くし、資産家の父はその2年後に愛人と再婚。内乃介は父から1億円の小切手を渡されて縁を切られる。ひとり豪邸に住む。
ホリー…結城内乃介が服用するクスリの副作用によって生み出された幻覚少女。推定年齢18歳。東洋哲学・脳神経細胞・心理学に造詣が深い。ホリーの名の由来は、映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘプバーンが演じた役名から来ている。
谷垣さん…結城内乃介が幼いころから住んでいた大邸宅の執事。内乃介が難病であることを知って、彼を助けるためにM78星雲のパンドラ星へ行くことに。68歳。
有奈眠眠…ナイスバディな永遠の25歳。実のところは取り外しが自由な胸で男心を惑わせるのが快感になっていた。ということもあってなのか、子どもは4人いるが、家にダンナはいない。
御宅杉雄…IQ200のゲームオタク。幼少時から宇宙人がいることを信じ、NASAに入ろうと面接を受けるが、AI(人工知能)の面接官に履いている靴について質問攻めにあったため、逆ギレして面接官を罵倒してしまい一旦は不採用に。身長157センチ。外出時には必ずシークレットシューズを履く。29歳。




