表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
難病という名の長いトンネル〜幻覚少女のまほろばへ  作者: 今来村主(いまきのすぐり)
難病という名の長いトンネル〜幻覚少女のまほろばを追いかけて
11/44

⑩ワイワイワッショイわいうえを

29歳で生涯治らないとされる難病にかかり、無気力となった青年、結城内乃介ゆうきないのすけ

ある時、クスリの副作用で幻覚を見るようになった。その幻覚が彼を救うことになるとは? 

その幻覚というのは、知的で天真爛漫な舞台女優の卵だった。その女性の名前はホリー。

ホリーは彼を過去の自分の世界や異世界へと連れ出し、彼を幸せの絶頂へと導くのだった…。

⑩ワイワイワッショイわいうえを


 ボクの寝室スパーリニャにある高性能(ハイスペック)で大型のディスプレイ画像に、お洒落(スタイリッシュ)宇宙服(スペーススーツ)姿の女性が登場した。

 その女性が動き出し、明るい声で話し始めたのだ。

 「(みな)さん、初めまして。♪ ワイワイワッショイわいうえをの脳天気(のうてんき)なソラです。ここ何処(どこ)か分かる人いますか? ホリーを(のぞ)いてね。ウフフッ」

 「………」

 ボクの寝室には十数人いるが、ボクを気遣(きづか)ってかシーンと静まり返っていた。

 それを打ち破るように、ボクは思ったままをホリーにぶつけてみた。

 「ウソだろー、ホリー。ソラってキミと瓜二(うりふた)つじゃないか? コレは偶然(ぐうぜん)と言うべきなのか? それとも、ボクらをいつものように楽しませようとして、キミが事前に収録(しゅうろく)したものなのか?」

 だが、そうは言ってみたものの、何が何だかよく分からなかった。

 このボクの疑問に対してホリーは、ハッキリと正直にこう明言(めいげん)した。

 「コレは録画でもなければ、向こう側に(うつ)っているソラは、ワタシじゃない。まあ、妹みたいなものね。コレがもう一つの()いニュースってわけ。向こう側はM七十八星雲(せいうん)のパンドラ星よ。スゴいでしょう」。

 それに(はん)して、パンドラ星への期待度が高かったボクの寝室にいる隊員(たいいん)たちからは、

 「アア~~。何だよ、コレは……」

 「ウソでしょ。砂漠(さばく)樹々(きぎ)()(しげ)っているだけ…」

 「エエ、コレがパンドラ星なんだ。ハァ」

  何とも言えないどよめきやらため息が……。

 ボクは、このもどかしさをどこにぶつければいいのだろうか?

 結局、ホリーに矛先(ほこさき)を向けるしかなかった。

 ボクってダメなヤツなんだ。こん畜生(ちくしょう)

 「ホリー、一体全体どうなっているんだ。出発は明日のはずじゃなかったのか?」

 そこにモニターのソラがしゃしゃり出てきやがった。

 ソラって一体、何者なんだ?

 「ホリー、ワタシから言わせて。二人に口論(こうろん)してほしくないの。分かって」

 ホリーはソラを信用(しんよう)しているのか、

 「分かったわ。内乃介(うちのすけ)に説明してくれる?」と言っただけだった。

 ソラはまるで夏の太陽に向かって()向日葵(ひまわり)のような屈託(くったく)のない明るい表情で、

 「結城内乃介(ゆうきないのすけ)さん、ワタシの使命(しめい)はあくまでもアナタの(ネクラセブラ・)(マルサーノ)(なお)すことにあるってことよく(おぼ)えておいてね」とさらりと言うのだ。

 「了解(りょうかい)しました」。ボクには、お互いにとって()(さわ)りのないありきたりな言葉しか浮かばなかった。

 「分かってくれてありがとう。それでワタシは先遣隊(せんけんたい)として派遣(はけん)されたの。コレは宇宙船『ヤバンスキーズ』に色んな問題が出て来たためなの。それについては結城さんもご存知(ぞんじ)でしょう?」

 「ええ。宇宙船がポンコツ野郎(やろう)だってことなら……」

 「その通り。だから、未完成(みかんせい)だけれど可能性のある無限国(むげんこく)製小型宇宙船『未来(みらい)』を先遣隊として送り出す必要があったの。でも、この任務(にんむ)()たせる船長がいなかったのよ」

 「まさか。ソラはホリーのアレなのか?」

 「まあ、普通の人間であれば……(倫理上(りんりじょう)の問題にもなるけれど……)」

 ソラの言葉を(さえぎ)るように、ボクは大声で叫んだ。

 「みんな、悪い! 体調が良くないんだ。ちょっと席を(はず)してくれないか」

 人生経験豊富で(かん)(するど)い谷ジイは、

 「お坊ちゃん、大丈夫ですか? 困った時はお互い様。自然に身を(まか)せれば何とかなりますからな。では、みんな、退散(たいさん)するぞ」と寝室にいる人たちを一斉(いっせい)に外に出させた。

 そして、ホリーとボク以外はこの寝室からいなくなった。

 「何をしてくれたんだい? ボクはそこまでして健常者(けんじょうしゃ)に戻りたくない。これは、もしかしてオヤジの()(がね)なのか? それなら、まっぴらごめんだ。なんてことだ。これじゃ、金満国(きんまんこく)がやっていることと大差(たいさ)ないのではないか? 昨今(さっこん)の金満国では、カニクイザルをクローン化させ、その中脳(ちゅうのう)の一部を移植(いしょく)させることによって、コミューン党幹部たちの難病を治そうと躍起(やっき)になっているだろう……。今回の件では、キミたちに本当に迷惑(めいわく)をかけてしまった。すまない。ごめん」。ボクは目を(つむ)り、謝罪した。

 「アナタ、そんなに自分を責めなくていいのよ。私たちはあなたに治ってほしいだけなの。ただそれだけなの。わかって。わかってほしい……」。ホリーは目に涙を(うる)ませていた。

 「お二人さん、聞いてください。聞こえていますか? 大事な話です。この星に来てわかったことがあります。この星の(かぐわ)しい(かお)りです。コーヒーの香りに似ています。そして、この難病とコーヒーとの(かか)わりについて以前から指摘されてきました。実際、この難病が人口比(じんこうひ)で一番少ない国はニーグラカーホ国です。ニーグラカーホ国は、世界有数のコーヒー生産国です。しかし、この研究はどうしてなのかは分かりませんが、無限国で百年以上もほぼ継続して研究されていて、研究者はこれまで七人いるのですが生存者(せいぞんしゃ)は一人だけです。コレには何か()()がありそうですが、いま私たちが直接的に関与(かんよ)する問題ではないと思われます。それよりも、アナタがここに来ることによってその成果(せいか)証明(しょうめい)されるものと実感しております。ここに来てからワタシなりに確証(かくしょう)を得たのです。具体的(ぐたいてき)な話は合流(ごうりゅう)してからということで……以上です」。

 ディスプレイの画面がプツっと消え、真っ暗になった。

 ソラが宇宙船に戻る時間上の関係のようだった。

 「アナタは今のソラの話を聞いてどう感じたの?」

 「キミたち二人の倫理上の問題を除けば、()いことづくめだから、何も言うことはない」

 「アナタ、まだ(おこ)っているのね。ワタシはアナタの創造物(クレオ)に過ぎないのよ。それが、この時代では、奇跡的(きせきてき)にワタシは人間(ホーマ)となり得ただけなの。もちろん、アナタには感謝しているわ。お(なか)の中にはアナタの子どもも(さず)かったのよ。だから、アナタをどうしても助けたいの。倫理(りんり)が何だって言うの。そんなことより、この宇宙上でアナタが、アナタが一番大切なの。分かって……」。ホリーは、涙ながらにボクに切実に訴えた。

 「……………」

 ボクは、言葉が出なかった。

◎登場人物

ボク…結城内乃介ゆうきないのすけ。39歳。難病患者。車椅子生活。母を21歳の時に亡くし、資産家の父はその2年後に愛人と再婚。内乃介は父から1億円の小切手を渡されて縁を切られる。ひとり豪邸に住む。

ホリー…結城内乃介のクスリの副作用で生み出された幻覚少女。推定年齢18歳。東洋哲学・脳神経細胞・心理学に造詣が深い。ホリーの名の由来は、映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘプバーンが演じた役名から来ている。

谷垣さん…結城内乃介が幼いころから住んでいた大邸宅の執事。内乃介が難病であることを知って、彼を助けるためにM78星雲のパンドラ星へ行くことに。68歳。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ