3話
颯介と山上に追い出されるようにして、事務所を出た冬四郎は家に帰るのも億劫なくらい疲れきっていた。妖を襲っているであろう者が現れ、その中にはむつが居た。そして、仲間にあっさりと殺されるのを冬四郎は目の前で見ていた。殺されたのは、むつ本人ではなくむつに化けていた狐だったわけだが、むつの姿をした者が刺されて、窓から突き落とされた事は、かなりの衝撃だった。むつ本人ではない事は、自身の目で確認している。だが、どうしても見ていた光景が頭から離れてはくれなかった。
ぼぅっとしている頭で、夜の出来事をあれもこれもと思い出し、考えていたせいか足は自然と帰るべき方向とは違う場所に向いていた。
改札をくぐり、電車に乗ると単調な揺れと車内の暖かさで眠気が急激に襲ってきていた。それでも冬四郎は居眠りをせずに、足が向いた駅で降りると、重い足取りでその場所に向かっていた。
住宅街を通り、冬四郎がやってきたのは、むつのマンションだった。むつが居ない事も、手掛かりがない事も分かっているが、どうしても足が向いていた。エレベータに乗り込み、部屋の前まで行くと冬四郎は鍵を開けた。そして、真っ暗で静まり返っている室内に足を踏み入れた。




