90/542
2話
京井を追って出た冬四郎だったが、足の早さが人並みではなく見失い。あとから追い付いてきた片車輪にも、邪魔になると言われ、結局置いていかれ。重い足取りで、よろず屋の事務所に戻って来た頃にはうっすらと空が明るくなってきており、まばらに人通りもあった。
事務所が入っているビルの下にあったはずの、狐の死体も服も血溜まりも綺麗になくなっていた。だが、そこら辺には事故でもあったのではないかと思うように、硝子の破片が落ちているし、砕けたマグカップも落ちていた。それらを見ると、夜の出来事が夢ではないんだと、冬四郎に教えていた。
エレベータで上がり、開きっぱなしのドアをくぐると、山上が机に足を乗せてぼんやりとタバコを吸っていた。ちらっと冬四郎に目を向けたが、すぐに視線をタバコの方に向けた。
「よぉ…下のは片付けといたぞ」
「ありがとうございます」
「京井さんと片車輪は?」
「…見失いました」
悔しそうに唇を噛む冬四郎を見て、山上は苦々しく笑った。そして机の上のビニール袋から缶ビールを出すと、ぽんっと投げた。
「休憩だ」
「片付けは?」




