2話
しばらく、じっと待っていると廊下をひたひたと歩いてくる足音に変わった。それも1人分ではない。京井は上体を起こして、だが目は開けずにうつ向いた姿勢のままだった。片車輪は何も気付いていないのか、窓の側に立っている。
きぃっとドアノブがゆっくりと回された。京井は明らかに、冬四郎ではないと確信していた。まさか、本当に今日こんな風に何者かがやってこようとは思っていなかっただけに、緊張した。だが、そこは人よりも長く長く生きている京井は、慌てる事はなかった。事務所には、電気がついているし片車輪も山上も居るのだ。相手が2人居ようと、簡単にやられる事はないだろう。
そっとドアが開いた。だが、本当に少しの隙間程度で、廊下からのひんやりとした風が吹いてきた。その風には片車輪も気付いたのか、ぱっとドアの方を振り返った。それと同時くらいに、ばんっとドアが開いたが電気もばちんっと全てが消えた。
体当たりを食らわせるように、突っ込んできた何者かが京井に向かってきた。窓からのわずかな光の下で、その手には刃物が握られているのが見えた。人ではない京井は、勢いよく立ち上がり振り向くと椅子を蹴った。膝に椅子が当たったのか、がくっと床に手をついた何者かだったが、痛みに呻く事もなかった。
京井に襲いかかってきた者と一緒に踏み込んで来たもう1人は、片車輪に向かっていた。身のこなしは軽く、しなやかだった。ぶんっと光る物が片車輪の顔面すれすれを横切った。




