1話
次の日の朝、いつもの時間に出社してきた颯介は、今日は鍵が空いていると分かると、1人で笑みを浮かべた。
「おはようございます」
ドアを開けて、挨拶をしながら入るとすでに、コーヒーとタバコの臭いが漂っていた。来ているんだなと安心した颯介は、だがいつもなら顔だけでも奥から出して挨拶を返す声がない事に首を傾げた。顔を出しにくいとでも思っているのかと、思いながら鞄を机に置いて奥にあるキッチンに向かっていった。
「あっ、何だ…」
「よお、悪いな俺で」
狭いキッチンでパイプ椅子を出して、換気扇の下でタバコを吸っていた山上が苦笑いをしながら颯介に手を上げた。
「あ、すみません。てっきり、むっちゃんが居るものだと思ってたので」
「むつは、まだだ」
「湯野ちゃん、悪いけど電話してやってくれるか?今日も予定ないみたいだけど…流石に今日も来てないってなるとな」
2日続けて来てないとなると、山上も心配になるようだった。だが、だからと言って山上が自ら電話をするとは言わなかった。
「体調でも崩したんでしょうか?」
「かもしれないな」
山上はタバコをくわえて、立ち上がると颯介の分のコーヒーをいれて渡した。受け取った颯介は机に戻ると、鞄から携帯を出してむつにかけ始めた。