8話
むつは抱いた狐を、西原の目の前に差し出した。西原は、ぼんやりとした顔をしていたが、狐の頭をわしわしと撫でた。
「お前が助けてくれたのか、ありがとうな…それにしても、流石テロリストっすね。自爆も当たり前って事ですか」
西原が立とうとすると、冬四郎が肩を貸すようにして支えている。むつは狐を抱いたまま、立ち上がると辺りを見回した。
2段式の簡易ベッドしかなかった部屋だったが、ベッドは崩れてマットレスや布団が破けている。壁も天井にも穴が開き、悲惨な状況になっている。
「…捕まるより、死を選ぶか…」
「…組織の中でも力のない下っぱは、使い捨ての駒のように扱われますから」
冬四郎が呟くように言うと、狐が答えた。
「自爆、なのか?」
「…呪です。むつ様もかけられてますよね?」
「え、うん…ほとんど消えてるけど」
むつが言うと、狐は驚いたような顔をして、むつの方を向いて、まじまじと顔を見ている。
「…そう、ですか…そうですよね」
「何が、そうなの?何で納得なの?」
「いえ…むつ様は鈴使いの方をご存知ですよね?彼が、むつ様なら自分で呪も消すだろうって…」
「まだ残ってるけど…」
「えぇ。普通は、術者が死ぬか、解くかしないと呪は解けない物です。でも、むつ様は自力で…」
「うん、こんがらがった糸をほどく感じで…本当にイライラするし体力も使うしイライラする」
むつは、イライラするを2回も言った。自覚はしていないのかもしれないが、本当にイライラしたのだろう。




