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8話
落ちてくる男を見ながら、下で呆れたような顔をしている冬四郎が、ふっと顔を上げた。むつは目が合うと、ひらひらと手を振ってみた。冬四郎は溜め息混じりに、軽く手を上げてみせた。
「…これで終わりか?」
「たぶんーっ」
むつは穴を覗いていたが、すっくと立ち上がると、とんっと飛び降りた。
「お、おぉい‼ばかっ‼」
むつはずんっと床に伸びている男たちの上に降りると、下からぐえっと声がしたが気にもとめていない。足場が悪かったからかバランスをくずしてころんっと転がると、片車輪がすくいあげるようにして、むつを起こした。
「ありがと」
「ねぇちゃん、汗凄いやん。臭いし」
「臭い臭い言うな‼下水通ったの‼仕方ないの」
むきになって言い返すむつとにこにこしている片車輪をよそに、冬四郎が額に手を当てて盛大な溜め息をついていた。京井も人の姿に戻ると、穴から飛び降りてきた。むつよりも重たく、下敷きにされた男たちは声もなく、手足をぴんっと持ち上げただけで、すぐにぐったりとした。




