8話
京井は手を出す気がないようで、狐と一緒にむつを見守っている。むつも、京井に助けを求めるつもりはないようだった。浮かんでくる汗を拭いながら、後退しつつ反撃の機会を伺っていたむつだったが、ぎょっとしたような顔になった。京井が開けた穴に片足が落ちると、そのまま穴から落ちそうになっていたが、かろうじて床にしがみついていた。
「…びびったぁ」
むつは下からナイフを持った男を見上げながら、にやっと笑ってみせた。片手を放して、ジーパンのポケットをまさぐって札を取り出すと、男に向けて投げた。ナイフで弾かれたが、むつはその一瞬の隙に穴から這い上がった。腹這いの格好で、ずりずりと上がる姿は格好悪いものだったが、落ちるよりはましだった。
はぁと息をついたが、休む間もなくむつ目掛けて男がナイフを振り下ろした。転がるようにして、横に避けたむつは足を振り上げて、男の腰に膝裏を引っ掻けるようにして引き倒した。床に倒れた男から、ナイフを奪ったむつは続けざまに男の顎を蹴り上げた。そして、とどめとばかりに腹を蹴って穴から1階に落とした。
他に向かってくる者が居ないと分かると、むつは深いタメ息をついて流れる汗を拭った。そして、穴から1階を覗き込んだ。あらかた終わっているのか、静かになってきている。
「決着、早かったね」
「みなさん、現職ですから」
京井はそう言うと、煤けて動けなくなっている男たちの襟首をくわえて引きずり、穴から次々と落としていく。




