2話
つられて冬四郎も振り返ると、片車輪の背中から肩にかけて、めらめらと燃える炎が立ち上っている。立ち止まった冬四郎の背中を京井が、どんっと突き飛ばした。それと同時くらいに熱風を感じた。勢いに負けるように目を閉じたが、熱さを感じたのはほんの一瞬に過ぎなかった。
「っ…と、大丈夫ですか?」
ふわっと柔らかい物に頬を撫でられ、冬四郎が目を開けた。すると目の前には、銀色物がゆらゆらとしていた。
「え…きょ、京井さん?」
冬四郎と山上は柔らかい物に引き寄せられるようにして、守られていた。目を開けて身体を引き寄せていた物が何かを見て、冬四郎と山上は揃って上を見た。
「はぁ…びっくりしましたね」
「何か色々こっちがびっくりだよ」
耳の方まで裂けそうなくらいに、にやりと大きな口を持ち上げ笑う京井の顔は人の物ではなかった。銀色の長い毛に、とてつもなく太い前足、それに長い尻尾。その長い尻尾が、からかうように2人の頬をするっと撫でた。
「犬神さんが居て良かった」
「居て良かったじゃないですよ。火事どころか、爆発騒ぎになりかねませんよ」
ぶるっと京井は身体を振るわせた。その身体には、火の粉が飛んでいてぱちぱちと音をさせていた。落とした火の粉を長い尻尾で、叩いて消しながら京井は溜め息を吐いた。
本来の姿になった片車輪は、少し斜めになっている。太い腕で天井に触っており、元の姿になったものの天井が低かったせいかぶつかりそうだったのだろう。




