8話
「…自分の事で精一杯って事か。鎖も抜けねぇし、何か嫌な感じだわ」
じっと鎖を睨んでいたむつは、鎖から手を放してぎゅっと台の足を掴んだ。もくもくと煙が上がって、あっという間に焦げ臭いにおいが立ち込めてきた。台の部分が炭になってしまうと、むつは鎖を引っ張った。ぱきっと簡単に折れると、むつは狐を脇に抱えて京井が開けた穴から出た。
「むつ様、臭いですよ?」
「うるさい。下水を通ってきたんだから」
「…そこまでして、ここに来たのは?」
「うーん…ムカつくから?こっちに来るしか、無いのかなって思ったんだけどさ。本当はね。けど、ほら犬神が監視として来ちゃってさ。帰ってきなさいって」
むつは狐を下におろした。狐は大きな身体の犬神である京井とむつを交互に見て、驚いたような顔をしている。
「下で暴れてる人間たちも…」
「兄と元彼。あたしは、こっちには来れない。みんなと居る方が楽しいから…それに、妖を殺すのは嫌。悪いのばっかりじゃないのを知ってるから。それはあたしの倫理に反する。ね、ここに居るのが嫌ならあたしと一緒に出ない?うちに来てたら良いんだし」
膝をついて、むつが狐の顔を覗き込むようにしながら、手を差し出した。だが、狐は迷うような素振りを見せている。




