8話
天井にぶつかりそうになり、むつが目を閉じると京井は前足で天井を突き破った。階段も使わずにさらに上に来たむつは、ゆっくりと下ろされた。地に足をつけると、ほっとしたように胸を撫で下ろした。
「見覚えは、ありますか?」
「…ある。ここだ」
部屋を見渡したむつは頷いた。大きく、ふかふかなベッドにローテーブルとソファー。その奥には、大きな風呂場もある。下がどんなに騒がしくても、この部屋はしんと静まり返っている。
むつは、慣れた様子で風呂場やトイレを見に行き何かを探している。むつが使わなくなってから、何日かは経っているが掃除はきちんとされているのか、嫌な臭いもなければ埃1つ落ちてはいない。普通の時であれば、快適な場所でしかないだろう。
「狐さぁーんっ居ないのー?」
「居ない様ですね」
「うん…下であんだけの騒ぎになってれば、普通は気付いて逃げるだろうしね」
それでも諦めきれないのか、むつは部屋を出ようとはしない。そして、ふといつも狐が出入りしていたドアがあるのに気付いた。むつはそのドアを開けた記憶はなかったが、食事の用意をする時などは、そのドアから狐が出ていったりしていたのを思い出した。




