8話
むつと京井が中に入ると、冬四郎と西原が怖い顔をして、覆面の男たちと取っ組み合いになっていた。冬四郎と西原とは、一緒に仕事をした事はあっても犯人逮捕をする場面を見た事はない。無理矢理、組伏せて後ろ手で手錠をかける姿は、刑事そのものであり迫力がある。片車輪も冬四郎と西原に負けず、向かってくる男を捕まえると、軽々と持ち上げて壁に叩きつけるようにして投げている。
「…怖っ」
「悪い事は出来ませんね」
大騒ぎになっているせいか、むつと京井には誰も目をくれない。気付かれていないのなら、好都合とばかりにむつはきょろきょろとしている。
「むぅちゃん?」
「まだ部屋があるはず…あたしは地下牢にも居たけど、普通の部屋にも居たの」
「まだ上があるのでしょうか?」
むつと京井は揃って上を見た。ばたばと覆面の男たちと冬四郎たちが、揉み合っている場所は2段ベッドがあるだけの粗末な部屋だった。ドアが2つあるからには1階部分にはまだ、部屋があると考えられる。
「どっちのドアだと思う?」
「面倒ですね。直接、上に行きましょう」
「え?」
京井はむつの後ろに回ると、ぱくっと襟を噛んで持ち上げた。親猫が仔猫を持ち上げるかのような格好になったむつは、何となく怖くなり、京井の方を見ようとした。だが、それよりも先に京井は後ろ足で強く床を蹴った。




