8話
むつに背中を押されると、京井は残り少ない階段を駆け上がり、ドアを蹴破った。どおんっと大きな音と共に、木で出来ていたドアは割れて、ぱらぱらと破片が散らばった。とんとんとんっと小走りに階段を上がったむつは、手のひらに炎を出現させて中を照した。
「檻はただの鉄ですね」
早くも京井はめきめきと鉄を左右に押しやり、隙間を作って中から妖を出してやっている。
「…手枷はどうしよ」
檻を壊すのは京井に任せ、むつはきょろきょろと辺りを見回した。
「鍵が…型は同じはず」
「あ、そうなんだ?どこ、鍵?」
「牢番の男が」
檻の中、外から声がかけられ、むつはいちいち声のする方を振り返っていた。
「牢番の男って誰?」
「あんたを運んでた役の大きなのと狐だよ」
「ふーん…どこにっ…と」
返事をしながら、むつは背後から伸びてきた腕に抱きすくめられそうになり、素早しゃがんで避けた。
「お前、死んだんじゃなかったのか?犬神に噛み砕かれたと報告で」
「うん、ダミーがね」
「…妖を逃がしに来たのか?わざわざ?」
「そう。物好きだから」
「呪も自分で解いたのか?解いた…とあうより、無理矢理焼いたな?」
「………」
「まだ残ってるようだから、無理に動くのはよくない。お前もまた牢に戻れ」
「…うるさい、やだし」
むつは手のひらをかざして男を見た。顔を見せる気はないらしく、覆面で隠されている。だが、むつが確認したかったのは顔なんかではなく、男が腰にぶら下げている鍵の束だった。




