8話
「そんな事より、行きますよ?山上さんとの約束、守って貰わないといけませんから」
「ふーん?」
何か言いたげな雰囲気のむつだったが、何も言わずにさっと室内を見渡した。ドアがあるのを見付けると、近寄っていきそっとドアノブを回した。きいっと軋む音がし、むつはドアを動かさずにしばらく待った。気付かれたのではないかと振り向いてみると、京井は誰も近くに居ないと、首を振って見せた。
「危ないですからね…先に行きますよ」
京井は慎重にドアを開けると、目の前にある階段を静かに上がっていく。むつはかかとを下ろす事なく、忍び足でこそこそとついていく。京井が急に立ち止まると、広い背中にぶつかったむつはぐらっと階段から落ちそうになったが、寸前の所で京井が腕を掴んでくれていた。
「不注意すぎます…本当に大丈夫ですか?」
「…帰ったら大人しく寝ます。ご飯も頑張って食べます。お風呂は…入らせてください」
「熱振り返してるみたいですね。あまり私から離れないでくださいよ?一刻も早く帰りましょう」
こそこそと話ながら、京井はむつを引き寄せた。狭い階段で、京井は横向きになりむつの腰に腕を回したまま、数段上にあるドアに顎をしゃくってみせた。
「うん…あの向こう側から妖気配がある」
「こそこそ行きますか?それとも派手に飛び込んで行きますか?」
「派手に行こうか。混乱に乗じて、上からもやって貰おう」
むつは京井の腕に掴まるようにしていたが、ぱっと手を放すしてとんっと背中を押した。




